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就学前保育支出の重要性を示すも命題には応えず:「子ども庁、何を優先すべきか」よりー3

 日経<経済教室>で6月1日から3回にわたって「子ども庁、何を優先すべきか」というテーマで、3人の研究者に拠る小論が掲載されました。
 このところ少子化対策に焦点を当てて、継続して投稿してきていることもあり、そのシリーズを一つずつ取り上げ、その内容について考察。
(記事の最後に、最近の少子化対策関連での投稿記事リストを掲載しています。)

 第1回は、中室牧子・慶応義塾大学教授による
子ども庁、何を優先すべきか(上) 縦割りの排除、自治体でも」を基に
貧困世帯の子どもたちへの教育投資をどう優先させるか:「こども庁、何を優先すべきか」より-1
第2回は、山口慎太郎・東京大学教授の小論
子ども庁、何を優先すべきか(中) 未就学児への支援、重点的に」を参考に、
5歳児幼児義務教育化と0~2歳乳幼児への幼児教育化を:「子ども庁、何を優先すべきか」より-2
と進めてきました。

今回3回目が最終回。
柴田悠・京都大学准教授による
子ども庁、何を優先すべきか(下) 保育の効果 まず現状分析」
という小論を取り上げます。


「すべての子どもが安全に育ち健康的に能力を発揮できる社会」の実現に寄与するか

 当然のことだが、子ども庁による子ども支援政策が、「すべての子どもが安全に育ち健康的に能力を発揮できる社会」の実現に寄与するかが課題と認識しての小論展開となっている。
 そこで必要なのが、その政策は子どもたちや社会にもたらしている効果を把握すること。
 その効果に関するエビデンス(根拠)と論点が、まず課題となる。

子ども支援政策、現物給付と現金給付

内閣府「選択する未来2.0中間報告」による「子ども支援政策」(減税を除く)を分類すると以下のようになる。

1.現物給付
1)就学前教育・保育(2020年支出額は国内総生産=GDP=比0.7%)
2)ホームヘルプ・施設(児童福祉施設など、0.1%)
3)その他の現物給付(児童相談所など、0.5%)
2.現金給付
1)家族手当児童手当など、0.5%)
2)出産・育児休業給付(0.1%)
3)その他の現金給付給付型奨学金など、0.1%未満)

結果的に、この分類を示した意味は、本小論ではほとんど意味がありませんでしたが。

子ども支援政策2020年支出GDP比1.9%、OECD平均2.1%を子ども庁創設で3%台へ?


子どもの自殺率が上昇し、少子化が加速する日本における「子ども支援政策」の2020年支出額はGDP比1.9%。
ちなみに、2017年のスウェーデン3.4%、英国3.2%と大きく差があり、OECD平均2.1%にも及ばない。
児童相談所や保育所などの支援現場の処遇改善・人手増員など、求められる財政的政策は明確である。
こども庁創設提唱議員らの提言書では「GDP比3%台半ばまで引き上げる」とあるが、子ども庁創設で果たして実現できるか。
これが、最優先課題となるだろう。
但し、金額だけの問題ではなく、質が問われることは言うまでもない。

就学前教育・保育支出の重要性とその効果

 先述した「子ども支援政策」の中で支出規模が最大なのは「就学前教育・保育」(保育所・幼稚園などへの支出)で、約4割を占める。
 その中で「保育所への支出」は、女性の就業率の上昇や保育の無償化に伴い拡大している。
 その「保育」は、子どもたちや日本社会に、短期・中期・長期的にどのような効果をもたらしているのか、筆者提示内容の概略をメモします。

1)短期効果
 ・国際比較時系列データの分析(16年)によれば、数年以内に労働力女性比率と出生率の上昇、子ども貧困率の低下がみられた
 ・山口慎太郎・東大教授らによる全国の親子の追跡データで実施した因果推論(18年)でも同様で、2歳半時に保育所に通っていると、1年以内に、子どもの言語発達の向上や、母親が高卒未満の家庭での子どもの攻撃性・多動性の減少や親の育児ストレス・不適切養育行動の減少がみられた。
 特に社会経済的に不利な家庭で、無通園よりも保育所通園の方が発達を促すとされる。
 (当然でしょう。)

2)中期効果
 ・赤林英夫・慶大教授らによる全都道府県の時系列データで実施した因果推論(13年)で、1957~87年の保育所通園率と幼稚園通園率の上昇は、その後の高校進学率と大学進学率の上昇に寄与し、保育所通園率の上昇の方がより大きく寄与した。
 ・三村国雄・一橋大研究員(当時)が全国の親子の追跡データで行った因果推論(17年)では、3~5歳時に継続して母親が週20時間以上就業していて通園の時間・期間が一定以上の子どもたちに限ると、保育所通園群と幼稚園通園群の間で、小1~中1での学校適応や問題行動に有意な差は認められなかった。
 ・従い、保育所通園が幼稚園通園よりも子どもの発達を促すとすれば、教育保育の「質」の違いよりも、通園の「量」(時間・期間)の違いに起因している可能性がある。
 ・以上から、保育所や幼稚園に通うことは成育環境の改善につながり、子どもの社会情動的発達や認知的発達を促す可能性がある。
 特に社会経済的に不利な家庭出身の子どもが、さらに2歳ごろから長期的に保育所に通った場合には、発達促進効果が大きい。
 (これも言わずもがなのこと。)

3)長期効果
・保育所通園が子どもの成人後の状態にいかなる影響をもたらすかについては日本ではいまだ不明。

短期も中期も、ざっと読んでみて、そりゃそんなもんだろうね、という感覚的に受け止めうるレベルで、子ども庁ができたらどうこう、というような問題でもないような気がし、不明の長期効果も、その延長線上の同様なものになるのでは、と思うのですが。


 

保育所への長期通園がもたらす影響に関する独自調査結果

 そこで筆者は、
・社会情動能力などに影響があるなら、34歳以下非婚者の8割以上が望む結婚や、生活の基盤となる所得にどう影響するかは検証に値する。
少子化の主因は20~34歳女性有配偶率の低下なので、これらは希望出生率実現や生産性向上という日本の課題にも直結する。
 という認識から、保育所への長期通園が将来の結婚や所得にどう影響するかを2021年2月にインターネットで、全国の20~69歳の男女2万人への独自調査を実施。
 保育の効果をとらえるため、出身家庭の同世代内での社会経済的有利さや、両親学歴・出生時両親年齢・出身世帯構成・出身地域などの変数を用いて傾向スコアを推定し揃えることで、保育所通園の背景要因を統制する因果推論を実施。
 その暫定的結果として
不利家庭出身の男性では、長期の保育所通園は将来の有配偶確率には影響しなかったが、個人年収を上昇させた
不利家庭出身の女性では、長期の保育所通園は有配偶確率を上昇させ、さらに個人年収を低下させた。
・個人年収の低下は、主に結婚・出産に伴う就業抑制によるもの。
長期の保育所通園が成育環境の改善をもたらし社会情動能力などの発達を助けたとしてもその成果は男性では所得で、女性では結婚で表れた

これも、それで子ども庁の政策に何どう反映させるべき、とするのか、イメージできないのですが。

ジェンダー格差がもたらす・・・

 しかし、筆者はこの結果をこう受け止めます。

 保育は希望出生率の実現に向けて既に貢献し、男性の不利連鎖からの脱却や生産性向上にも貢献している、と認めつつ、その長期効果調査分析から推論されるこうした状況には、いまだ根強い日本のジェンダー(社会的性別)構造が反映されている。
 実際に、女性を経済的に脆弱にしやすいこの構造では、有配偶女性はもし離婚すれば貧困に陥りやすく、保育所通園が不利家庭の女児の発達を助けるとしても、女児の将来の「結婚希望の実現」、「不利連鎖からの脱却」につなげるには「女性が就業能力を発揮しにくい日本のジェンダー格差」の縮小が必要だ。

 ここまで分析を進められても、そのサンプル数と推論に結びつけた実際の数値・数量にどれほどの有意性があるのか、なんとも言い難いのではと思うのですが。


 

子ども庁に何を求めるのか、子ども庁は何をすべきか

 柴田氏の本小論は、正直、簡単に整理することができなくて、そのまま転載する部分がついつい多くなってしまいました。
 加えて、同氏は先に紹介したように、こう言っているのです。

 今回の分析結果によれば、保育は希望出生率の実現に向けて既に貢献し、男性の不利連鎖からの脱却や生産性向上にも貢献している。

 「保育が希望出生数の実現に既に貢献している」のなら、少子化及び人口減少対策は必要ないか、何かやっても成果は期待できないと言っているようなものなのですが。
 続けてこの文で小論を終えています。

保育が女性の不利連鎖からの脱却にも貢献するには、社会のジェンダー格差の縮小が必要だ。
「すべての子どもが安全に育ち健康的に能力を発揮できる社会」を実現すべく、新省庁創設によりジェンダー格差をどう縮小できるか。そうした論点も提示したい。

 「女性が就業能力を発揮しにくい日本のジェンダー格差」を縮小・解消するために、子ども庁がなにをすべきか、子ども庁に何ができるのか。
 あるいは、それは子ども庁のやるべきことなのか。
 よく読むと、長期保育の必要性・有用性を示すというよりも、「希望結婚」「結婚希望」を実現させることの方が重要であるかのようにも思えることもあります。
 これで一層少子化対策と離れてしまうような気がします。
 また、続編があるかのような締め方になっているのもなんとも不自然。

 全体を通して、業界学者間の研究結果の共有を図りつつ、自分の研究を組み入れてはいるものの、「子ども庁、何を優先すべきか」という命題からは乖離してしまっている。
 具体的な提言としては、単に「就学前教育・保育支出」政策にのみ絞っただけ。

 残念ながら、3回シリーズのトリを務めるには、不十分過ぎると感じた次第です。
 それが私の読解力のなさゆえのこととすれば、本稿そのものの質が問われることになるのですが。

 ということをご容赦頂いた上で、次回、3回分の総括を兼ねて、現状の自民党の子ども庁に対するスタンスと、私の考えをまとめることにします。


(参考)少子化対策関連の2021年5月下旬~6月上旬投稿記事リスト

結婚・子育ての経済的側面タブー化が少子化対策失敗理由:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-1(2021/5/24)
夫婦・親子をめぐる欧米中心主義的発想が失敗の理由?:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-2(2021/5/26)
少子化の主因、リスク回避と世間体意識変革は可能か:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-3(2021/5/27)
山田昌弘氏提案の少子化対策とは?:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-4(2021/5/28)

コロナ感染拡大・長期化で妊娠届数大幅減少、出生数80万人割れ、少子化・人口減少加速(2021/5/29)
『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』シリーズを終え、結婚・非婚・単身をめぐる検討・考察へ(2021/5/30)
日経提案の少子化対策社説と記事から考える(2021/6/1)
結婚不要社会と結婚困難社会の大きな違い:『結婚不要社会』から考える(2021/6/3)
エマニュエル・トッド氏が見る日本の少子化対策問題(2021/6/5)
少子化対策総動員、全力で支え、あらゆる対策を:少子化対策連呼の日経社説の意識は高いのか低いのか(2021/6/7)
少子化を援護する?一人で生きるのが当たり前の独身大国ニッポン(2021/6/9)
2022年施行改正育児・介護休業法は、少子化対策に寄与するか(2021/6/11)

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