昨日、2021年5月31日付、日経に
「出生の反転増加へ若者らを全力で支えよ」
と題した社説が掲載されました。
こうした社会問題に対する日経社説の総論的な提起の内容の薄さについて、これまでも批判的に見てきています。
この社説は、2021年5月26日日経朝夕刊掲載の、以下の記事を受けてのものです。
⇒ 「少子化、コロナで加速 昨年度出生数4.7%減、婚姻・出産控え響く」(2021/5/26朝刊)
⇒ 「妊娠届、昨年4.8%減 87万件、1月は7.1%マイナス コロナ響く」(2021/5/26夕刊)
また、上記2記事は、2021年4月10日に掲載された以下の記事の続報にあたるものと言えます。
⇒ 「出生数、世界で急減、コロナ禍日米欧1~2割減、1月」(2021/4/10)
この4月の記事を受けて、当サイトでは、
◆ コロナ禍1月出生数世界で急減、2021年日本の出生数80万人割れ(2021/4/10)
5月の2記事を受けて、一昨日、
◆ コロナ感染拡大・長期化で届数大幅減少、出生数80万人割れ、少子化・人口減少加速(2021/5/29)
というブログを当サイトに投稿しています。
そこで、今日は、最近の日経での少子化対策関連記事を上記を含むいくつかを題材にして、経済紙日経のスタンスなどについて考えることにしました。
以下、順番は一部前後しますが、紹介と考えを。

6月1日社説「出生の反転増加へ若者らを全力で支えよ」から考える
この社説の中から、一部気になったところを紹介し、思うところを述べたいと思います。
出産適齢の女性が減り続けていたところにコロナ禍が重なり、結婚や妊娠を控えたり先送りしたりする人が増えたことを主因とする出生数の激減により、今年2021年の出生数は80万を下回る恐れが濃厚に。
社人研の将来推計人口よりも、10年ほど前倒しで少子化の進行は。もう一つの緊急事態。
そして、こう言います。
「出生激減は長期的に国力を衰えさせ国・地方財政や年金・医療・介護の持続性を危うくする。」
こういう見方・論点からの社説。
「だからそれを抑止するために、結婚をして子どもを持つべき」ということを言わんとしているわけです。
「国を衰えさせる」とはどういう意味?
「国・地方財政、年金・介護の持続性を危うくさせ」ないために、結婚し、子どもを持てというのか?
だから、
「政府・自治体と経済界は当事者意識を強くもって子供を産みたいと願う若者らを全力で支え、出生数を反転増加へ導くときだ。」
とも。
「当事者意識」とは、どういう意識のことを言うのか?
「全力で支える」とは、どういうことをもってすれば、「全力」なのか?
もちろん、社説ゆえ、文字数に制約があるのは重々承知しているので、機会を改めて、ぜひ突っ込んだ、具体的な提案・提起を示してほしい。
度重なる緊急事態宣言により、主に対人サービス業で働く多くの若者が、失業や休業を余儀なくされ、収入の途絶・急減に見舞われた。
若者らの就労や収入が改善しなければ家族形成への意欲はわきにくい。
それまでの間、政府は真に困窮した人への迅速で効率的な現金給付に工夫を凝らしてほしい。」
「安倍政権は待機児対策として保育所増加に力を注いだが、近い将来に供給過剰になる。厚労省と内閣府は施設の量拡大から質向上へカジを切るときだ。」
いきなり唐突に、待機児童対策としての保育所増加策を批判し、量から質へとの提案。
論説氏の支離滅裂性が、最後に暴発!
情けない、紙面の無駄遣い社説。
しかも、以下に紹介する過去の社説とかぶりつつ、内容が劣化。
ガックリ!

3月7日社説「出生激減に対策総動員急げ」からも考える
実は、今回の社説は、3月7日掲載の社説「出生激減に対策総動員急げ」と同次元、同一視野・論点でのもの。
その時の主張のポイントを、以下に抽出してみました。
出生数が100万人を下回った2016年からわずか4年で86万人にまで減った。
出産適齢の女性が年々減っている要因に加え、コロナ禍が重なり、減少ペースに加速度がつき、80万人割れが予想されている。
昨年来の急速な景気悪化で、飲食・観光・小売りなど主にサービス業で働く非正規社員の若者を中心に所得環境がより厳しくなったのが主因。
(略)
父親が気兼ねなく育児休業を取れる環境づくりも急務。
不妊治療費の補助などを打ち出したが、もう一段の重層的な対策が欠かせない。
としつつ、こう提案している。
・「効果と効率性が高い経済支援を通じ、若い層の将来不安をやわらげる必要がある。」
・「出生数の激減は国力をそぎ、年金など社会保障制度の持続性を危うくする。経済界も当事者意識を強め、子供をもちたいと願う若者らを「全力で支援する」とき。」
・「政府と自治体、また経済界は出生数の激減を重大な国の危機と受け止めるべきだ。減少に歯止めをかけ、さらに反転させるための対策を総動員する必要がある。」
・「所得制限を前提に、財源を確保したうえで2人、3人目を出産した世帯への現金給付の拡充を期待したい。」
ということで、一昨日の社説は、この3月の社説内容とほぼ同じことを繰り返しつつ、内容的には、さらっと流しただけ。
政府が従来の少子化対策を総動員しても、どうにもならなかったことは、コロナ以前の取り組みが証明しているところ。
再三再四紹介している、2020年公表の<少子化社会対策大綱>の内容を見れば分かるものです。

コロナ禍の影響とその要因に焦点を絞れば、経済対策・雇用対策に踏み込まない限り、プラスの影響は考えられないのは自明のこと。
漫然と「全力で支援」すればするほど、成果・効果は期待できなくなることくらい、もうそろそろ日経氏は、気づくべきでしょう。

3月22日社記事「コロナ人口減くい止めよ 結婚の意識改革を促そう」からも考える
加えると、2021年3月22日付日経で、上記のテーマで、論説委員が少子化を未婚・非婚化問題と絡み合わせて述べている記事があります。
「コロナ人口減くい止めよ 結婚の意識改革を促そう」と題した<核心>欄の記事。
これも要約します。
超高齢化による多死社会の進展に、コロナ禍要因も加えて出生数及び人口減少を加速化している。
コロナパンデミックによる出生抑制のリバウンドとしての補償的増加を期待する向きがある。
補償的増加につなげるには
・経済活動が復調し、若い世代の就労状況や収入が改善するか
・結婚・出産など家族形成への価値観と意欲に衰えはないか
・在宅勤務が出会いの機会を奪うなど障害にならないか
の不確実要素が、プラスに作用することが必要で、これも難しい話。
また仮に、合計特殊出生率が上向いたとしても、出産適齢の女性がすでに減少局面に入っているため、出生数の増え方は緩やかにとどまるか、下手をすれば減りつづける。
流れに任せていては、年金をはじめとする社会保障は制度破綻の危機にひんし、自治体の消滅が続出しよう。国の根幹が立ちゆかなくなるのは明らかだ。その阻止が私たち現世代の責務である。
すぐに実現すべきは、出産を望む人への経済支援だ。とくにコロナで打撃を受けた女性を中心に、国庫から現金の直接給付を急ぐ必要がある。
「自治体が消滅する」などと大げさで無責任なことをいうものだ。
「財政破綻」などとも、随分簡単に、今までも事あるごとに繰り返しているが、本当にそうなると考えているのか。
財政破綻と言いつつも、「国庫からの現金の直接給付が必要」と、矛盾したことをシラッと言っている。
パート女性らのうち勤務シフトが5割以上減り、かつ休業手当を手にしていない「実質的失業者」は、昨年末の90万人から今年2月には103万人に増えたという。
その5割強の世帯年収は400万円に届かず、4割は配偶者がいない。
出産をあきらめたり先送りしたりする人々がこの層に多いのではないか。
人工妊娠中絶は2019年度15万6400件だが、2016年調査によると、その理由に母体保護法が認める「経済的余裕がない」をあげた人が4人に1人。
このことから、
経済支援の正当性・必要性を示す数字と言える。
負の所得税を含めた給付つき税額控除の制度化も、喫緊の政治課題とすべきだ。
ようやく、「負の所得税方式による給付付き税額控除制度」を提起するに至っている。
それも選択肢だろうが、そもそもそこでは所得がまったくない人は対象にならないことが問題の一つ。
それはそれとして、次の提起に着目しておこう。
時間をかけて推し進めるべきは、結婚の意識改革だ。
日本の婚外子比率は2%と、英国43%、フランス49%、スウェーデン55%にくらべ格段に低い(15年版厚労白書)。
子供は法律婚を経た夫婦から生まれるものという固定観念を解きほぐすときだ。
大学への保育所設置や奨学制度の一段の充実で学業と子育ての両立を手助けするのもよかろう。
結婚の意識改革が、どうすれば早く進むか。
欧米と比べても意味はない。
この考え方が少子化対策の失敗理由としていることを取り上げたの、以下のブログ。
◆ 夫婦・親子をめぐる欧米中心主義的発想が失敗の理由?:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-2(2021/5/26)
加えて、いきなり「学業と子育ての両立」が出てきたのも、突飛すぎる。
ただし出産を国家が督励する時代への逆戻りはありえない。望んでも子供をもてない人への配慮は当然である。
真の意味で私たちはコロナに打ち勝てるのか。それは、出産を望む自然な心にどこまで親身になって伴走できるかにかかっている。
折角、結婚の経済的要素に視点を当てて、結婚対策から少子化対策に遡る提案をしかかったのに、最後に、「自然な心にどこまで親身になって伴走できるかにかかっている」などという、情緒的な表現で終わっているのは、やはり残念なこと。
しかし、先日の2つの社説で紙面を無駄に使っていることと比べると、多少は建設的な提案が示されていることには、少しは好感が持てる。
それでは、最後にもう一つ、もっと遡っての記事を見てみます。

2020年11月9日記事「少子化対策、何が有効なの?「不妊」支援も決定打欠く」に遡る
2020/11/9付の記事に「少子化対策、何が有効なの?「不妊」支援も決定打欠く」というのがありました。
当時、菅首相の肝いりで高額な費用負担を必要とする「不妊治療」への保険適用を法制化することが話題に。
それが少子化対策に寄与するのかどうか、という率直な疑問からの記事。
そこで日経氏が言うには、
保険適用を少子化対策に位置づけることには違和感がある。
不妊が増えていることには、長時間労働を前提とした働き方の問題も見過ごせない。
妊娠しやすい20代に職場はハードワークを求められ、仕事中心の生活に陥り、気付けば妊娠しにくい年齢に。働き方の見直しを同時に進めないと不妊の悩みは減らず、少子化に歯止めがかからない。
ん~。
影響がないことはないけど、事例とすれば限定的でしょう。
多少、こじつけのような気が。
2020年10月中旬の全世代型社会保障検討会議で、少子化対策が集中討議された。
このとき不妊治療の保険適用に加えて、待機児童の解消と男性の育児休業取得促進が議題に上った。
共働き世帯は1200万世帯を超え、働きながら子育てするには保育所など公的保育サービスは不可欠。
待機児童解消は少子化対策に有効。
「待機児童ゼロ作戦を01年に小泉純一郎内閣が掲げて以来、安倍前政権を含む歴代内閣は、一度も待機児童ゼロを達成できていません。実効性ある計画を今度こそ示せるのか。政府の本気が問われます。」
「男性の育休取得促進も有効。出産直後に家事・育児にかかわった父親はその後も習慣づけられるといわれています。父親が家事・育児にかかわる時間が長くなるほど第2子の出生が増えるという統計データもある。」
既に生まれ、保育の時期にある子どもへの政策としての「待機児童ゼロ政策」。
その対策で、待機児童ゼロが実現しても、出生数の増加にはほとんど結びつかないだろう。
最後の<統計データ>も日本の調査かどうか・・・。
仮に日本の調査としても、調査サンプル数と抽出方法に偏りがあると想像。
「○○と言われている」という理由付けも、どこまで信頼度があるものか。
「最も大切なのは雇用対策。仕事を失う可能性があったり収入が伸びそうになかったりすると、若年層は結婚や出産を先送りする。将来も安心して働き続けられると思ってもらえることが、少子化を克服するカギ。」
そうそう、それです。
失う可能性も当然のことながら、既に失っている、既に困窮状態にある人たちが、コロナで増えているのです。
で、「将来も安心して働き続けられると思ってもらえる」ためには、どういう政策をとるべきか。
日経は、その具体的な対策を提案すべきです。
経済紙であるからには、その役割からも、具体的に踏み込んで提案すべきでですが、いつもここまでです。
結局、その根本的な限界要因の一つは、「財政健全化」「税と社会保障の一体改革」という方針、スローガンへのこだわりというか、そこから脱することができない思考回路、方法論にあるわけです。
そして、政府・内閣府・厚生労働省による、責任回避政治・行政に帰するわけです。
財政的には「ゼロサム」におけるパイの分配方法に留まる状況から、人口減少、労働力人口の減少による、財源減少による、「マイナスサム」における自己及び世代間負担システム改悪に至るしか、道筋を描けない。
経済紙ならば、その罠に最も早く気づき、指摘し、それを打破する具体的な方策、イノベーションを提案すべきなのですが、恐らく、ムリでしょう、御用マスコミ、主張している感のマスコミでは。
そうしたいかんともし難い状況を打破すべく、一昨日
■ 『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』シリーズを終え、結婚・非婚・単身をめぐる検討・考察へ(2021/5/30)
というブログを投稿しています。
その中で示した「少子化と関連する未婚・非婚・結婚問題」を取り上げる以下の展開に関心を持って頂ければと考えています。
1)山田昌弘氏による著『結婚不要社会』(2019/5/30刊)を題材にした考察
2)『パンデミック以後 米中激突と日本の最終選択 (朝日新書)』(エマニュエル・トッド氏著:2021/2/28刊)による家族・結婚論の紹介と考察
3)単身での生き方に関する荒川和久氏に拠る2冊『超ソロ社会 「独身大国・日本」の衝撃 (PHP新書)』(2017/1/27刊)『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(中野信子氏共著・2020/12/20刊)等の紹介と考察
4)私自身の少子化、結婚・非婚、少子化対策等についての考察と提案総括

なお、以下も既に、少子化対策の一つに間違いなくなりうるものとして提案している「ベーシック・ペンション」と、専門学者の著書とのからみでのシリーズとして展開済みです。
参考にして頂ければと思います。
<『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論>シリーズ
◆ 結婚・子育ての経済的側面タブー化が少子化対策失敗理由:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-1(2021/5/24)
◆ 夫婦・親子をめぐる欧米中心主義的発想が失敗の理由?:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-2(2021/5/26)
◆ 少子化の主因、リスク回避と世間体意識変革は可能か:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-3(2021/5/27)
◆ 山田昌弘氏提案の少子化対策とは?:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-4(2021/5/28)

コメント