2022年施行改正育児・介護休業法は、少子化対策に寄与するか

介護制度、高齢化社会

 先月5月下旬から、「少子化対策」問題にはまり込んで、以下投稿し続けてきています。
 まず、以下のように、少子化対策としてのベーシック・ペンション(日本独自のベーシックインカム)導入と結びつけて、他サイト http://basicpension.jp でシリーズを展開。

結婚・子育ての経済的側面タブー化が少子化対策失敗理由:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-1(2021/5/24)
夫婦・親子をめぐる欧米中心主義的発想が失敗の理由?:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-2(2021/5/26)
少子化の主因、リスク回避と世間体意識変革は可能か:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-3(2021/5/27)
山田昌弘氏提案の少子化対策とは?:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-4(2021/5/28)

 これを受けつつ、コロナの影響で出生数が大きく減少する問題も取り上げ、かつ少子化の要因の一つでもある非婚問題もからめて、当サイトで以下を。

コロナ感染拡大・長期化で妊娠届数大幅減少、出生数80万人割れ、少子化・人口減少加速(2021/5/29)
『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』シリーズを終え、結婚・非婚・単身をめぐる検討・考察へ(2021/5/30)
日経提案の少子化対策社説と記事から考える(2021/6/1)
結婚不要社会と結婚困難社会の大きな違い:『結婚不要社会』から考える(2021/6/3)
エマニュエル・トッド氏が見る日本の少子化対策問題(2021/6/5)
少子化対策総動員、全力で支え、あらゆる対策を:少子化対策連呼の日経社説の意識は高いのか低いのか(2021/6/7)
少子化を援護する?一人で生きるのが当たり前の独身大国ニッポン(2021/6/9)


 その間、6月3日に、2022年から施行される「改正育児・介護休業法」が成立しました。
 今回はこれを取り上げ、そのあと、創設が予定されている「こども庁」について関連させて考え、6月20日頃までには、現時点での少子化問題への私の認識のまとめを行いたいと考えています。

 少子化の現状については、
コロナ感染拡大・長期化で妊娠届数大幅減少、出生数80万人割れ、少子化・人口減少加速(2021/5/29)
で確認頂ければと思います。

「育児・介護休業法」は、正式名称
「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」
という長い法律名を略して用いるものです。
⇒ 現行「育児・介護休業法

改正育児・介護休業法の要点

 では今回成立した改正育児・介護休業法の要点を。

1. 2022年4月施行内容:産休・育休の取得意向の確認を企業義務化等

・「男性版産休」と位置づけられ、男性が子どもの生後8週間以内に最大4週間の育児休業をとれるようになる
・これまで原則1回だけだった育休を、出生時に取得がしやすいように、男女とも2回まで分割可能になる
 繁忙期に妻が子育てを夫に任せて復職した後、夫とバトンタッチし再び育休に入る、という運用が可能になる。
・通常の育児休業申請期限の1か月前ではなく、2週間前の申請で取得できるよう短縮
・まとまった休みを取得しづらい労働者の状況を考慮し、出生時育児休業取得中のスポット勤務を認められるよう労使合意により可能なように配慮
・育児休業給付金や社会保険料の支払免除により、通常の育児休業制度と同様に実質通常賃金の約8割を保証
・有期雇用労働者の1年以上勤務継続していることを求める取得要件を撤廃し、非正規雇用労働者も取得しやすく

2.2022年10月施行想定内容:出生時育児休業

・企業から労働者に対して産休や育休の取得の意向を確認することを義務化
 現行法では制度等の周知は努力義務のみだったが、「制度を知らなかった」「自分が取得できると思わなかった」という知らないことによる取得機会損失を防止

3.2023年4月施行内容:従業員1,000人超の企業において、育休取得率の公表義務

・従業員1000人超の企業には育休取得状況の公表を課す。2022年度中の施行も目標に。

現状の男性の休業取得状況とパタハラ、性別役割分業意識、隠れ男性育休の実態

 現状、現行法下で男性の育児休業取得率は、2019年度時点で、女性の83%に対して7.48%に留まり、国の掲げる2020年度時点で13%、2025年時点で30%という目標と大きく隔たっている。
 男性の育休は7割が2週間未満に対し、女性は9割が6カ月以上。

 また、2020年厚労省調査では、育児に関する制度を利用しようとした男性の4人に1人が、「パタニティーハラスメント(パタハラ)」と呼ぶ嫌がらせを受けたことがあることが分かった。
 こうした上司による妨害行為により、パタハラ経験者の43%が育休取得をあきらめたという。

 法制度に限れば、日本は世界でも男性の育休が充実している国。
 ユニセフの2019年報告書では、収入の保障付きで休める長さはOECD加盟国など41カ国中1位だが、取得率は7.48%。
 背景にあるのは「男性は仕事、女性は家庭」との根強い性別役割分担の意識とされている。

 加えて、2018年厚労省報告書によると、妻の出産後に年次有給休暇や配偶者出産休暇などを取得した男性は48%。
 雇用保険の給付金を受け取る育休ではなく、男性が年休を取得して短期間休む「隠れ男性育休」とい現実がある。

改正の背景

 出生数の減少が続き、2019年の86万人台を経て、2050年には人口が1億人割れも想定されることを
2050年、人口2500万人減少で1億人割れ。超絶人口減少社会へ(2021/5/29)
で話題としました。
 その傾向は、コロナ禍で加速したことを
コロナ感染拡大・長期化で妊娠届数大幅減少、出生数80万人割れ、少子化・人口減少加速(2021/5/29)
で確認。

 コロナ禍で将来的に持ちたい子どもの数が減った40歳以下の回答者が挙げた理由で最も多かったのは「子育てへの経済的な不安」であったことは、簡単に想像できることでした。
 やはりそのことは、少子化対策としては、今回の育児休業法改正による子育て環境の支援では限界があることは明白で、出産や結婚を躊躇わせる、あるいは断念さえもさせる経済不安を解消することも欠かせないことを暗示しています。
 そのあたりの事情を前提として、改正法について、検討を加えます。

男性の育児参加は、女性就労継続支援対策か少子化対策か

 少子化と合わせて問題となっている高齢化により、労働人口は減少。
 高年齢雇用継続制度とその法律なども拡充されるなか、それと共に女性の就労継続支援として不可欠なのが、男性の育児参加というわけです。

 6歳未満の子どものいる日本人男性の育児時間の平均は1時間程度と国際的に見てかなり低い実態。
 2021年世界経済フォーラムのレポートで公表されたジェンダーギャップ指数(経済・教育・健康等4分野データから男女間の平等性を数値化)で日本は、156か国中120位。
 出産をきっかけに育児と仕事の両立ができず離職してしまう女性がまだまだ多いのが現実です。

 こうしたことを考えると、女性労働者が産休や育休を安心して制度利用し、短時間勤務など柔軟な働き方を叶えられつつ、マミートラックなどに陥ることのなく、育児とキャリア形成を両立できるような組織なジェンダーギャップのないダイバーシティ企業を実現するために必要なのが、夫、男性の育児参加、と指定されるのも、想定内のことになります。

 少子化対策の前に、女性就労継続支援策としての意味合い・目的、そして期待効果が大きい。

企業間格差が広がる改正育児休業法導入見通し

 
 こうした意図・目的をもった今回の改正法により、企業の対応も当然不可欠。
 これまで努力義務だったものが、実行責任を問われる義務となった大手企業においては、その流れは想定内のことであり、コロナ禍で、テレワークが充分これからの働き方として認識・確認できた企業と社員においては、改正法もさほど抵抗なく受け止め、受け入れることができるでしょう。

 しかし、従業員規模が小さい中小企業や、顧客と直接接する必要がある事業においては、難関・難題です。
 雇用者数の比重が高い大企業で、改正法が遵守されれば、労働者全体に占める比率は高くなりますが、企業規模や業種間における制度導入度・利用度格差は、一層広がることになるんではと想像します。

米国バイデン政権の少子化対策「米国家族計画」


 新型コロナウイルスパンデミックが出生数の減少を加速しているのは、日本に限ったことではありません。
 バイデン政権となったアメリカでは、10年間で約198兆円規模を投じて、少子化対策「米国家族計画」等幅広い対策を打ち出した。
 例えば、
・子育て世帯の生活を支援するため、最長で12週間取れる有給の家族・医療休暇などを提供
・低中所得層の家庭へのチャイルドケアの公的支援を拡大
・子育て世帯への税額控除を使った実質手当の給付も拡大
・2021年限定としていた、子ども1人につき年最大3000ドル(6~17歳の場合)給付を、5年間延長へ
・すべての3.4歳児への無償の幼児教育の提供
・2年間のコミュニティーカレッジの無償化
・中低所得者向けの児童保育の補助
・マイノリティー向け奨学金の拡大
など多角的・多様な対策を用意した。

対する日本は・・・。
お寒い限りである。



改正育児・介護休業法を評価する


 例によって、これまで再三再四評価してきている、「やっている感」の小手先対策。
 まして少子化対策なのか、女性活躍支援という表看板を維持させるための男性育児参画支援バージョンなのか、どっちつかずの企業頼みの、企業押し付け政策。

 まず、そのとおり実行できる企業は、大企業やテレワーク可能業種など限定的。
 かつ、比較的給与所得レベルが高い層にのみ適用しやすく、喜ばれる格差拡大政策。
 非正規雇用者やエッセンシャルワークの人々、夫婦が恩恵を受ける比率は低いのも想像できること。
 まあ、ないよりマシですが、これは、中小・零細企業をいじめ、退出を間接的に迫る要因とさえなる可能性も孕んでいるかもしれません。

 根本的な問題は、長く賃金が上がらない、むしろ可処分所得レベルを低下させてきた経営・経済状況と、それを看過してきた労働政策にあることは自明です。
 その問題は、一時金レベルで改善・解消できるものではまったくありません。
 先の労働政策・労働関連法の転換、改定も不可欠であり、ベーシックインカム、ベーシック・ペンションの導入も現実的に考えるべき状況にあるのです。

子育て関連支出の現状と子ども庁設置

 政府の子育て関連支出を国内総生産(GDP)比でみると欧州諸国の3%台に対して、日本は1%台。
 省庁横断で取り組む「子ども庁」創設論議がこれから本格化するでしょうが、多分、前項のレベルでの改革の必要性を認識し、長期的な構想と計画を立案する政治家・官僚は存在しないのではないかと、始まる前から懸念しています。
 
 次回、「子ども庁」設置問題と関係づけて、少子化対策をもう少し継続することにします。

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