エネルギー自給自足国家創りの基盤として、送電網国有化を:21世紀第2四半期の安保政策シリーズー2=エネルギー安保ー2

経済政策

少しずつ、よくなる社会に・・・

ここ数年来の、新型コロナウィルス感染パンデミック及びロシアによるウクライナ侵攻、そして中国・北朝鮮の武力行動拡大傾向などを受けて、各種方面での「安保」強化に関する議論と国政への反映への関心が高まっています。
こうした状況を受けて、今月初め、以下の記事を投稿しました。

体系的課題別「安心安全安定・保有保持確保」の安保政策の長期的政策合意形成と取り組みを:21世紀前半の安保政策シリーズ-1(2022/12/2)

そこで再定義した「安心・安全・安定」の保有・保持・確保を意味する「安保」政策の個別課題として同記事内で以下を例示。

1.エネルギーの安心安全安定・保持保有確保課題=エネルギー安保
2.食料の安心安全安定・保持保有確保課題=食料安保
3.半導体の安心安全安定・保持保有確保課題=半導体安保
4.国民生活の安心安全安定・保持保有確保課題=生活安保
5.社会構成人口の安心安全安定・保持保有確保課題=人口安保
6.地域社会生活社会資本の安心安全安定・保持保有確保課題=地方行政安保
7.国家防衛の安心安全安定・保持保有確保課題=防衛安保
8.国家財政・地方財政の安心安全安定・保持保有確保課題=財政安保
※9.インターネット及びサイバー空間の安心安全安定・保持保有確保課題=サイバー安保(2022/12/22追記)

上記の個別安保課題を特定の順序で取り上げるわけではありませんが、今後タイムリーに関連情報を用いながら追いかけていきます。
前回は、「エネルギー安保」シリーズの序論的位置付けで、以下を投稿。

2022年12月のエネルギー動向から考える、グリーン水素エネ自給自足理想社会構築:21世紀第2四半期の安保政策シリーズ-2=エネルギー安保ー1(2022/12/7)

その基本方針を次のようにしました。

究極のエネルギー安保政策基本方針:「エネルギー自国自給自足最高度化」合意形成と長期実現政策・戦略構築合意形成

そして、12月第1週のエネルギー関連記事を整理して、以下の5項目を設定。

週間エネルギー関連記事動向から読む<エネルギー安保政策課題>
1.大手電力各社カルテル課徴金問題及び新電力企業の事業廃止にみる電力自由化政策失敗と再構築戦略化
2.再生エネルギー構成比推移から考慮すべき電源構成見直し及び原発政策再構築
3.グリーン水素エネルギー社会、エネルギー自国自給自足社会創造への戦略合意形成
4.エネルギー関連技術開発戦略及び研究開発投資政策構築
5.送電網国有化政策検討合意形成

今回は、この中の最後、5項目目に関する政策について取り上げます。
この課題については、後述する「Ⅰ 国土・資源政策 2050年長期ビジョン及び長期重点戦略課題」の<2.電力・エネルギー安全保障・維持開発管理 >と繋がります。


21世紀第2四半期の安保政策シリーズ2=エネルギー安保ー2


2022/12/7付日経で、前日12月6日に経産省が、2050年に温暖化ガス排出量を実質ゼロにする目標に向けた送電線整備計画の素案を発表したことを報じました。

⇒ 送電線整備に6兆円超  50年までの計画素案 再エネ拡大に向け :日本経済新聞 (nikkei.com)(2022/12/7)

送電線網とは

送電線網とは、各地の大手電力会社が管轄するエリアをまたいで電気を融通するための地域間連系線ネットワーク。
旧来は、大手電力が自地域のエリアの電力需要を満たすように発電所や送電網を構築してきたため、連系線を通じて電気を大量に送り合う体制は整っていなかった。
しかし、電力自由化は、こうした独占・占有を戒めるはずのものだったが、実態として大手電力が地域ブロックごとに事業をほぼ独占。
またこれまでも、需要と供給のアンマッチにより、余剰太陽光電力の他地域への送電不能による大手電力の送電拒否とそれに伴っての太陽光発電出力抑制、あるいは大都市圏の夏冬の電力不足なども発生。
こうした送電網問題は、再生可能エネルギー市場を軸とした電力開発・拡大・自由競争に寄与すべく推進された新電力事業の創出等による電力自由化を有名無実にする要因の一つであった。
根本要因は、送電網の脆弱性にあるのだが、限られたネットワークを理由に、大手電力の地域・自社電力エゴがまかり通っていたわけだ。
加えて、今後2040年迄に最大4500万kwレベルの発電量を見込む洋上風力発電が東北地方沿岸が軸となり、電力需要の大きい首都圏や関西圏まで送るための連系線の増強が求められていた。

長期広域送電網長期整備計画原案概要

上記報道のあと、日経が2022/12/27に以下のテーマで続報を掲載しています。

送電網、10年で1000万キロワット増 政府計画  再生エネを広域融通 北海道―本州で海底線新設、九州―本州は2倍 :日本経済新聞 (nikkei.com) (2022/12/19)

今後10年間で過去10年の8倍以上のペースで原子力発電所10基の容量にあたる約1000万kw分の広域送電網の整備を含め、2050年までの長期整備計画「マスタープラン」も当22年度内にまとめるというもの。
広域送電網の整備計画の原案は、次のようになっている。
1)北海道・本州間日本海ルート海底送電線200万kw。投資規模1兆円レベル。2030年度利用開始目標
2)北海道・東北間送電容量:30万kw増120万kwに
※1)2)投資額:道内1兆1000億円、東北内6500億円、東京エリア内6700億円
3)東北・東京エリア地域間連係線送電容量:455万kw増1028万kwに。投資約2000億円
4)周波数の異なる東日本・西日本間東西連系線増強:2027年度までに90万kw増300万kwに。
 以降も570万kwへ増強。投資約4000億~4300億円
5)九州・本州間送電容量:278万kw増強し556万kwに。投資約4200億円

財源・費用政策

こうした膨大な費用を要する計画だが、その投資資金を政府はどのように考えているのか。
現状制度では、送電線整備費用は電力料金から回収するとしており、投資先行、回収後回しで、大手電力も簡単に着手というわけにいかない。
その電力大手の及び腰を解消するために政府が考えるのが、投資費用の回収を着工時点から電力料金に加算できるように法改正を行なうこと。
2023年の通常国会への関連法案の提出をめざすという。
これで、初期費用の借入及び事業費の圧縮が可能というわけだ。
要するに、魅力に欠けた電力自由化の失政・遅れに加えて、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰に伴う電力料金の引き上げ、そして電力生活のインフラである送電線網の拡充整備コストの上乗せによる一段の電力料金引き上げを容認しようというのが政府・経産省・財務省の目論見。
当然、政府財政から、大手電力への膨大な補助金が拠出されるであろう。
知恵がないというか、相変わらずの大手電力ファースト政策になる。
現状、送電網の運営管理は、地域各大手の独占ではなく、大手合弁による共業に切り替えられてはいるが、合理化が進められ、電力料金の引き下げに結びつくことなどは期待できるはずもない。

送電網の国有化を

こうした状況を鑑み、当サイトでは、後述のようにかねてから送電網の国有化を提案してきました。
今回の経産省及び政府の送電網拡充のための投資政策は、当然不可欠のものだが、国有化するという考え方はまったくありません。
今回のように、広域送電網整備計画を機に、人と社会の生活・活動に絶対的に不可欠であり、公共機能・公共施設の代表であるエネルギー・電力に関するインフラストラクチャーは、国有とすることが望ましいと一層強く考えます。
それは、長期的に、エネルギーの自給自足国家を創造・構築する上で、安心・安全・安定を、保持・保有・確保する上での必須条件であるためでもあります。
そして、こうしたインフラの財源は、特別国債で調達するとともに、エネルギー・電力特別財務会計制度を整備し、投資額を資産計上し、稼働後は減価償却の対象とするのです。
当然、こうしたインフラの利用料金は、個人生活及び事業活動における消費料金・利用料金に組み入れますが、個人世帯レベルでは、極力低費用に抑制し、長期的には、電力使用基本料金を無料化をめざすものとします。
通常の電力料金は、再生可能エネルギー拡充とエネルギーコスト低減活動を含め、真に電力自由化と企業間競争の推進、個人世帯・企業の電力自給自足及び省エネ活動の拡充等総合的な取り組みで、極力抑制するようにと考えます。

当面の間は、電力料金の引き上げ圧力が高まる環境、諸条件が継続するのは、資源のない国ゆえやむを得ませんが、中長期的には、それが改善・解消できる国策が不可欠であることは明らかです。
次回は、後述の長期ビジョンに組み入れた水素社会とGX実現に関連する最近の情報を取り上げ、考えることにします。


(以下、参考)

Ⅰ 国土・資源政策 2050年長期ビジョン及び長期重点戦略課題

2.電力・エネルギー安全保障・維持開発管理

(基本方針)
気候温暖化・自然環境破壊などがもたらす国民生活、各種事業活動上の不安・悪影響を抑止し、将来に向けて持続可能な電力・エネルギー自給自足体制の整備、安心・安全を保障する同システムの構築を推進し、2050年までに※グリーン水素エネルギーを軸とした100%再生可能エネルギー国家と水素社会を実現する。 ※2022/12/22追記
(個別重点政策)
2-1 100%再生可能エネルギー及び水素社会の実現
1)各再生エネルギー別現状及び長期問題点・リスクなど調査及び分析( ~2030年 )
2)個人住宅及び事業所建物再生エネ発電・電源利用義務化及び支援法制化・施行(~2030年)
3)長期電源構成ビジョン及び長期計画策定(~2025年)、エネルギー危機管理システム策定 ( ~2030年)、進捗・評価管理 (2031年~) 、100%エネルギー自給自足国家化(~2050年)
4)水素エネルギー社会化技術開発調査及び長期計画・予算策定( ~2030年) 、プロジェクト進捗・評価管理 (2031年~) 、(100%再生可能エネによる)水素社会実現( ~2050年)

2-2 電力送配電網の国有化と家庭用電力基本料金の無料化
1)現状電力送配電網問題点調査及び方針立案(~2025年)
2)送配電網国有化法制化及び予算化、移行・実行計画立案(~2030年)
3)電力会社等電力事業システム再構築(国・地方自治体・民間企業及び個人・一般企業)
4)家庭用電力基本料金無料化(2050年~)

2-3 GXグリーン・トランスフォーメーション推進、原子力発電の停廃止と完全安全技術転用
1)産業別・企業別GX推進計画策定 (~2030年) 、進捗・評価管理 (2031年~)
2)国家主導・支援GX推進計画・支援計画策定 (~2030年) 、進捗・評価管理 (2031年~)
(1)2)参考)
3)必要原子力発電関連技術活用政策、長期計画策定 (~2030年)
4)原発停止方針確定、福島原発処理他廃棄物処理長期計画策定・予算化 (~2030年)

少しずつ、よくなる社会に・・・

関連記事

特集記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


年間記事ランキング

  1. 1

    2020年人口動態調査に見る、少子高齢化・人口減少社会:日本の人口1億2427万1318人

  2. 2

    水素利用の燃料電池トラクター、クボタ2025年世界初導入へ

  3. 3

    ローカル・フードシステム、オルタナティブ・フードシステム、CSA実践・実現のための課題:『日本の食と農の未来』から考える-3

  4. 4

    日本在住移民・外国人へのベーシックインカムをどうするか:BI導入シアン-19

  5. 5

    みずほ銀行岡崎支店が名古屋駅前支店内に移転?

2023年6月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930 
おすすめ記事1 おすすめ記事2 特集記事
  1. 「男性ばかりの政治」の実態と要因を確認する:三浦まり氏著『さらば、男性政治』から考える-1

  2. 女性主体政党はジェンダー平等時代に逆行しているか:三浦まり氏著『さらば、男性政治』から考える(序)

  3. 女子会のノリで女性主体政治グループ、女性政党創設・活動はムリですか

  1. 有事を支えるのは平時の農業生産。逆行する米の減反政策:『日本が飢える!』から考える食料安保と農業政策-2

  2. 元農水省官僚山下一仁氏の農政トライアングル批判の思いを知る:『日本が飢える!』から考える食料安保と農業政策-1

  3. 山下一仁氏著『日本が飢える!』から考える食料安保と農業政策(序)

  1. 有事を支えるのは平時の農業生産。逆行する米の減反政策:『日本が飢える!』から考える食料安保と農業政策-2

  2. 「男性ばかりの政治」の実態と要因を確認する:三浦まり氏著『さらば、男性政治』から考える-1

  3. 女性主体政党はジェンダー平等時代に逆行しているか:三浦まり氏著『さらば、男性政治』から考える(序)

記事アーカイブ

過去記事ランキング

  1. 1

    グリーントランスフォーメーション(GX)とカーボンゼロ・イノベーション

  2. 2

    2020年人口動態調査に見る、少子高齢化・人口減少社会:日本の人口1億2427万1318人

  3. 3

    日本在住移民・外国人へのベーシックインカムをどうするか:BI導入シアン-19

  4. 4

    帝国的生活様式、グリーン・ニューディール、気候ケインズとは:『人新世の「資本論」 』が描く気候変動・環境危機と政治と経済-1

  5. 5

    みずほ銀行岡崎支店が名古屋駅前支店内に移転?

  6. 6

    ベーシックインカム導入で健康保険・介護保険統合、健保財政改善へ

  7. 7

    高校教育の多様化を教育の水平的多様性実現の起点に:『教育は何を評価してきたのか』から考える

  8. 8

    同一労働同一賃金制の本質-2:総合職・一般職コース制復活と専門・専任職制との統合

  9. 9

    ベーシックインカム生活基礎年金15万円で社会保障制度改革・行政改革

  10. 10

    明治安田生命、契約社員の7割女性1900人を正社員に。その背景と目的

TOP