1. HOME
  2. NOTES
  3. Onologue
  4. 高齢者適用年齢の引き上げで問題は解決するのか:八代尚宏氏の「全世代型社会保障会議」中間整理評価と課題
Onologue

高齢者適用年齢の引き上げで問題は解決するのか:八代尚宏氏の「全世代型社会保障会議」中間整理評価と課題

少しずつ、よくなる社会に・・・

2022年7月20日から22日までの3日間、日経<経済教室>で「参院選後の岸田政権の課題」いうテーマで3人の学者の小論が掲載された。
このところ、先般の2021年人口動態統計結果を踏まえて、出生率低下・少子化対策について、やはり日経<経済教室>掲載小論等を用いて、以下、シリーズ記事を投稿しました。

<第1回>:究極の少子化対策、総域的支援の意味と現金給付の適正額は?:日経経済教室「少子化に打つ手はないか」から考える-1(2022/7/14)
<第2回>:こどもは公共財か、社会の覚悟で少子化は改善できるか:日経経済教室「少子化に打つ手はないか」から考える-2(2022/7/17)
<第3回>:実らぬ少子化対策総動員。働き方改革策の限界は明らか:日経経済教室「少子化に打つ手はないか」から考える-3(2022/7/20)
<第4回>:共働き世帯を基準とした少子化対策の限界:日経経済教室「少子化に打つ手はないか」から考える-番外編(2022/7/23)
<第5回>:ぶれる育児支援政策、10月支給分から児童手当61万人対象外に:日経経済教室「少子化に打つ手はないか」から考える-番外編その2(2022/7/25)


今回は、その流れを受けて、今後の岸田内閣の責務として、少子化問題なども含む全世代型社会保障制度への取り組みを取り上げている、八代尚宏昭和女子大学特命教授の以下の小論
(経済教室)参院選後の岸田政権の課題(下) 高齢化社会の不安払拭 急げ  八代尚宏・昭和女子大学特命教授 :日本経済新聞 (nikkei.com) (2022/7/22)
で、一部少子化問題も含めて考えてみたいと思います。

全世代型社会保障会議2022年中間整理、最大の課題

岸田政権の参院選公約の基盤となったとする、5月公開の<全世代型社会保障構築会議>の中間整理。
その主眼は、
「高齢者中心の給付を見直し、子育て・若者世代への支援を「未来への投資」と位置づけ、高齢者人口がピークとなる2040年を目指した社会保障ビジョンを描く」ことにあるとしています。
(参考)⇒ 全世代型社会保障会議2022年中間整理

「全世代型社会保障構築会議」議論中間整理の構成

1.全世代型社会保障の構築に向けて
2.男女が希望どおり働ける社会づくり・子育て支援
3.勤労者皆保険の実現・女性就労の制約となっている制度の見直し
4.家庭における介護の負担軽減
5.「地域共生社会」づくり
6.医療・介護・福祉サービス

この構成から分かるように、<1.全世代型社会保障の構築に向けて>で同会議の意義・目的を示しています。その部分を以下にコピペしました。

まあ、要は、経済成長(歳入増)がないゼロサム社会では、各世代への所得の再分配や公平な財政運営を適切に行うには、世代間の不公平を調整しつつ、相互に耐えるべきところは耐える社会保障制度にしていく必要がある、ということになるでしょうか。

その方針を明確にすると、高齢者が耐えるべき課題についてより具体化すべきというのが筆者の考え。
そのため、のっけから、

主要な柱として仕事と子育ての両立、働き方に中立な勤労者皆保険、かかりつけ医などの地域医療構想を挙げる。
いずれも重要だが、年金に加えて医療・介護費用の膨張にどう対応するかという肝心の負担の議論が完全に抜け落ちている。

という指摘がなされています。
そして、

高齢化社会での人々の最大の不安は、社会保障制度が今後も維持可能かどうかにある。
負担の配分を議論しないことは、社会保障費用の後世代への負担の先送りという「未来への負債」を放置するに等しい。
これでは全世代型社会保障の看板と完全に矛盾している。


となるわけです。
その背景は、2060年には「高齢者の高齢化」の進展で、65歳以上人口が全体の4割弱となり、その中で75歳以上が過半を占めることになることへの危機感です。
まあいきなりそうなるわけではなく、徐々に進行するわけで、それを想定した政策に取り組むだけなのですが。

この視点による小論なので、自ずと、
2.男女が希望どおり働ける社会づくり・子育て支援
3.勤労者皆保険の実現・女性就労の制約となっている制度の見直し
4.家庭における介護の負担軽減
5.「地域共生社会」づくり
6.医療・介護・福祉サービス
で構成される中間整理項目についての当小論での指摘は、高齢者政策に関する課題に集中しています。
その中から、いくつか重点をピックアップしていきます。

年金制度をめぐる課題

社会保障制度の持続性のカギとなるのは、最大の支出項目の年金財政の透明化。
として、いくつかの問題を提示します。
・20年前作成の長期の経済前提は、長期停滞と低金利政策の下で大きく狂い
・が、非現実的に大きな積立金の運用益の想定のままで「100年安心年金」の看板は降ろさず
・加えて、マクロ経済スライドにより年金受給額を少しずつ減額
・故に、受給者からみれば年金財政が盤石なのに、なぜ減額されるのかと不満が

そしてこう言います。

年金制度が自らの老後に備える積み立て方式を堅持していれば、少子高齢化の影響は受けなかった
しかし「給付は多く負担は少なく」という政治の介入の結果、巨額の積み立て不足が生じている。
これを解消しなければ子供や孫世代の負担増となるだけだ

こう言うからには、思い切って現行の賦課方式の年金制度を積立方式に大変革する提案をしてくれればいいのにと思うのですが、そうはなりません。
こんなボヤキというか、ブツブツが続きます。

年金の支給開始年齢引き上げは政治的にタブーとされるが、平均寿命伸長により自動的に伸びる受給期間を固定しなければ、保険財政が維持できないのは自明だ。
主要先進国の受給開始年齢67~68歳に対し、平均寿命トップクラスの日本は65歳で放置されたまま。
個人にとって望ましい長生きが年金財政を危機に陥れるという矛盾は、年金保険の基本を国民に説明しない政治の怠慢の結果だ。


政治の怠慢に違いはないが、元を正せば、望ましい選択・判断をする政権政党が存在しないことが問題の根源。
八代氏もそうした政府の種々の諮問委員会や審査会議などの役職やメンバーを歴任してきた方。
八代氏の財政規律主義に諸手を挙げて賛成するわけではないのですが、そうした政治体制を変えない以外、改革はなかなか困難ではないかと。

高齢者定義の変更と高齢者間の支え合いシステム構築へ

そして奥の手を出してきます。
高齢者の適用年齢基準を、定義変更により変えてしまい、保険料負担者を増やし、受益者数を減らそうという手です。

高齢者の定義を75歳以上とし、元気な高齢者が税金や保険料を負担して、弱った高齢者を支える側に回ることが、活力ある高齢化社会の基本となる。

しかし、こういう事情もある。

他方、国民年金の未納比率は免除者も含め5割を超しており将来の無年金者を増やし、厚生年金などの被保険者の負担肩代わりを招く。

そこで

1)基礎年金の保険料を廃止し、高齢者も負担する年金目的消費税(3.5%)に代替する、2008年の社会保障国民会議の構想の再検討も選択肢に。
 但し、逆進的な消費税は低年金の高齢者の負担が大きくなる問題が残る。
2)豊かな高齢者から貧しい高齢者への同一世代内の所得再分配を強化し、後世代の負担を減らす。


意地悪くいえば、高齢者間の分断を画策しようということかもしれませんが、すべての高齢者個々人が自立して、あるいは単身で暮らしているわけではなく、それぞれの家族事情や健康事情もあるわけで、言うほど簡単に済む話ではないと思うのですが。

次に医療制度を巡る課題を、やはり高齢者医療の視点から指摘していますが、ここでは省略して、次に介護制度に関する指摘です。

介護保険制度を巡る課題

介護を担う人材不足の中で、今後の要介護高齢者の急増にどう対応すべきか。
この視点から以下提起しています。

・民間企業を全面的に活用し、創意工夫を生かした健全な介護サービス産業の育成を目指した2000年の介護保険創設時の原点に戻るべき
・限られた財源の下で介護人材に報いるにはサービスの付加価値を高めるべき
・介護保険と保険外サービスの自由な組み合わせを規制する行政指導により質の高い介護サービスが阻害されるなど、老人福祉への先祖返りの規制が横行
特別養護老人ホームなどの施設介護には住居費のコストが大きく、各家庭を回る訪問介護には時間コストがかかる。
・自宅の延長で高齢者が集住するサービス付き高齢者向け住宅は、在宅介護の生産性を高める切り札だが、介護報酬減額などの抑制策に苦しんでいる

まあこのように問題を提示しただけで済ませています。
結局、限られた財源を前提とした問題の羅列で終わり、かつ昔の制度は良かったの懐古主義で納める。
昔の制度が、先を的確に見据えた設計になっていなかったがために現状の諸問題が発生している。
そういう視点・反省がない中での、読みようによっては行政が悪い、行政が変わらなければ制度の改善・改革はムリ、みたいな突き放した指摘ではないかと。
自分は、正しいことを都度提案してきた。
だが、政府も官僚も聞く耳を持たなかった。
そういう感覚なのでしょうが、元々政府の諮問機関等は、ポーズとして設置し、その経過などを公開しつつ、「貴重な意見はお窺いしました」とし、できない言い訳の口実の一つにしているわけで。

ただ、正義・真理を語る専門家・見識者の方々も、富裕層の負担を大きくした上での税と社会保障の一体改革、財政規律主義の実現を提起しているわけではないのが、実は、別の視点での根本的な問題の一つなのです。

出生率低下対策、少子化対策を巡る課題

では最後に、少しだけ、出生率低下問題、少子化対策問題についての提起を。

持続的な出生率の低下に対する政権の危機感は乏しい。
と始まって、以下、続きます。

・2023年発足のこども家庭庁は事実上、虐待防止などの執行機関にとどまる。
・少子化対策の総合調整を担う本丸となるには、子育て支援のための独自財源をもつ必要がある
・現行の育児休業給付は雇用保険制度に間借りしており、失業給付と同様に親が働かないことが条件の現金給付で、対象者は主に正規社員で、支給期間も限定される。
・学童保育も含めた長期間、すべての国民を対象とした子育て支援の仕組みが必要だ。

「こども保険」創設は、「介護保険」をモデルとしてはいけない

そしてこう提案します。

このモデルとなるのが、高齢者介護を家族だけでなく社会全体で負担するために創設された介護保険
利用者が介護事業者のサービスを選択でき、家族の就業の有無にかかわらず現物給付として支給され、
育児休業給付と異なり、女性の就業を妨げない。
この仕組みを保育にも活用すれば、全国民を対象とした「子ども保険」となる。
介護保険被保険者は40歳以上だが、20~39歳も被保険者に加え、両者を合わせて「家族保険」とする。
現行の40~64歳の2.8兆円に比例した保険料収入があれば、小学生の学童保育や専業主婦の預かり保育をカバーし幼児保育も充実できる。
利用者がこの子ども保険を活用するほど、何よりの少子化対策となる。


介護保険創設に八代氏が関わったのかどうか調べていませんが、導入時の介護保険制度を評価する人は多数いるように見かけます。
しかし、実際には、毎年毎年制度改悪が持続的?に行われています。
介護士不足対策として、低賃金底上げにために相当の補助金が投入されていますが、その一部は介護職に行き渡らずに事業者の判断で別に使われてしまうことも野放し。
要支援・要介護度の認定基準や自己負担の改悪、介護保険料の持続的増額等々、それをモデルとするなどもってのほかと思うのです。

まあ「子ども保険」の発想は良いと思いますが、それが現金給付ではなく、現物給付の領域だけの保険制度となるならば、恐らく、利用度の高まりで、いずれ自己負担額の引き上げや、適用基準の厳格化などで、制度改革に向かうことは、介護保険制度で先行して悪しき例を見ています。

子ども保険を活用するほど、何よりの少子化対策となる。」という断言も、ずいぶん無責任なもの。
抽象的・感覚的・願望的な想いに過ぎません。

現金給付をめぐる課題

最後に、現金給付に関する指摘がなされていたので、紹介します。

コロナ下での全国民を対象とした約13兆円の定額給付金は、真に支援を求める貧困層の把握に時間がかかるとの理由で緊急措置とされた。
その後、貧困者統計の整備が進められているとはいえず、一律給付の政治的な効用だけが残された。
マイナンバーを米国の社会保障番号のように活用し、貧困対策として効果的な「給付付き税額控除」を実現させる必要がある。
次回の国政選挙までの黄金の3年間は社会保障改革実現の最後の機会となる。

ここでも、真剣味・喫緊度を表現した「最後の機会」説で締めくくられていますが、何度目の最後でしょうか。
やりますやりますの見せかけのポーズも、繰り越し繰り越しの連続化での期限なく空公約も、政治・行政の、財源不足を最大要因としての常道・常態であることなど、八代氏にとってもミエミエのことでしょう。



冒頭述べたように、八代氏の小論は、日経<経済教室>での「参院選後の岸田政権の課題」というテーマでの3回シリーズの最後の小論を用いたものです。
他の2つの小論のテーマ・視点は、異なっていますが、それぞれ、1ヶ所だけ、少しは関連していると思われる部分のみ、以下に引用しました。

まず、谷口将紀東京大学教授による
参院選後の岸田政権の課題(上) 財政・国土の持続性 再構築を(2022/7/20)と題した小論から。

現代貨幣理論(MMT)のような少数説を採るなら別だが、国内総生産(GDP)比200%超にのぼる政府債務は座視してよいものではない。
特に医療費をはじめとする社会保障における「中福祉・低負担」の解消は不可避の難題だ。
少子高齢化に伴い、長期的な人口減少は避けられない。
ならば各自治体が椅子取りゲームのように減りゆく住民を奪い合うのではなく、人口減を所与の前提としたうえでの国土・地域の持続可能性を考えねばなるまい。


膨大な政府債務を問題視するところで、それを問題としない「少数派のMMT」を引き合いに出していることに目が向きます。
またこの文では<地域>間の問題を取り上げていますが、「人口減」を前提とした持続可能性の必要性を指摘。
MMT的な発想と政治・財政理論の新たな構築。
こちらに発想と焦点を転換して、全世代型社会保障制度、財政規律制度についての全く新しい社会経済システムを検討・構築することが、中長期的に必要と考えています。

もう一つは、村田啓子立正大学教授による
参院選後の岸田政権の課題(中) 政策運営、危機対応から脱却(2022/7/21)と題した小論からです。

経済ショック時に困窮世帯を救済するセーフティーネット(安全網)を提供するのは政府の役割だ。
だがコロナ期の特別給付金施策は、所得減に直面していない世帯も含め、すべての世帯の一時所得を引き上げる形で実施された。
緊急避難的な対応とはいえ、一律の現金給付が必要だったかは再検討が必要だろう。
子育て世帯の支援も意義は否定しないが、児童手当など恒常的な分配政策を基本とすべきではなかったか。


一時的な対策ではなく、児童手当を引き合いに出して、恒常的な分配政策を基本とすべき、というのが強い印象を残しています。

もうこれまでの<全世代型社会保障会議>その他、超高齢化社会、少子化・出生率低下社会化対策を議論する際の、財政ゼロサムを前提とする考え方は、堂々巡りするしかなく、すべての世代が何とか合意可能な制度改定には、社会経済システムにおいてイノベーション、大変革が必要でしょう。
喫緊の課題と称して小手先に対策・政策を加えても、瞬間・刹那のことで、根本的な改善・改革に至ることはない。

5年も、10年も根本的には変わりそうもない社会保障制度。
上記のような少数派MMTのように、従来にない考え方・手法・方策で、国家・自治体の社会保障政策、社会経済システム等の改革どうに取り組んでいけるか。
短・中・長期並行しての総合的・専門的政策と予算化の仕組み創りをと、継続的に課題としていきます。

既に何度もお伝えしていますが、社会保障制度全体を改革することを想定して、日本独自のベーシック・インカム、ベーシック・ペンション生活基礎年金の導入を提案しています。
基本的な社会経済システムの基軸として位置づけているべーシンク・ペンション生活基礎年金制度が、全世代型社会保障制度を具現化するものであり、税と社会保障制度の一体化というある意味ムリな、ある意味不毛な議論を不要とし、財政規律主義をまったく新たな視点・議論で具体化することになる。
この認識で、取り組んでいきます。

少しずつ、よくなる社会に・・・

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


写真素材素材【写真AC】
2022年11月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  
無料イラスト素材【イラストAC】

おすすめ記事






















ピックアップ記事