過去何も生んでこなかったマスコミの少子化対策政府批判:2022年年間出生数80万人割れ警鐘の人口動態統計

社会政策

少しずつ、よくなる社会に・・・

6月3日に厚生労働省から、2021年の人口動態統計のまとめ(総覧)が公開されました。
その中から、出生数・出生率に関する数値を抽出して、昨日当サイトに投稿したのが、以下の記事。

2021年出生数81万人、出生率1.30。過去最低2005年1.26に迫る:2021年人口動態統計より(2021/6/5)

こうした統計が発表されるたびに、少子化問題についての批判が、新聞各社から行われるのが恒例になっています。
それらの基調は、ずっと何も変わることなく、目新しさもなく、それで政府や行政が、政策の大転換を行うわけでもなく、また当然、できるはずもなく。
今回も、期待せずに、いくつかの記事をチェックしてみます。

まずはじめに、6月4日付け日経1面の記事にあった、過去の少子化対策、他国の対策紹介。
⇒ 出生率6年連続低下 昨年1.30、最低に迫る  少子化対策、空回り 出生数最少 :日本経済新聞 (nikkei.com)
から。

コロナ下でも回復する欧米諸国の出生数・出生率紹介

出生数に直結する婚姻数は、2021年50万1116組の戦後最少でコロナ禍前の19年比で10万組近く減った。
コロナ下で出生数が減る現象は各国共通だが、欧米の一部は回復に向かっているとし、
・米国の約366万人出生数の7年ぶりの増加、出生率1.66(前年1.64)への上昇
・フランス出生率1.83(前年1.82)
・ドイツ出生数増加見通し と紹介。

例によって、欧米各国成功事例と日本の実情紹介

手厚い少子化対策が素早い回復を促したとするが、その具体的例が、仏英などの不妊治療費用全額助成。対する日本はようやく今年4月から不妊治療が保険適用になったが、治療しやすい環境が伴わなければ、保険適用の効果は限定的になる、と。
そして育休制度の違い。
両親で合計480日間の育休を取得でき、それぞれに90日割り当てられ、相互に譲渡できず、取得しないと給付金を受け取る権利を失うというスウェーデン。
対して日本は、制度を整えるだけで、2020年度の男性育休取得率が12.7%にとどまる、と。
遡って、多くは子どもを産んだ後の支援だった1994年の「エンゼルプラン」を持ち出し、前段階となる婚姻を促す若年層への経済支援は限定的だったと。
今頃言っても、言われても・・・。

「若い世代の雇用対策と経済支援が必要」

ある研究者の言として、結婚に至らない理由に経済的な不安定さがあるといい、「正規雇用でも賃金が不十分な人が多い。若い世代のキャリア形成支援が結婚、出産に結びつく」という意見を添えている。
そして、最後も、こういう警鐘も定番。

予想を上回る速さで進む出生減により、出生から死亡を引いた自然減は62万8205人と過去最大に。
想定以上の少子高齢化が進めば日本の社会基盤が揺らぎ、世界の経済成長に取り残されていく。

社会基盤が揺らぐとか、世界経済に取り残されるとか、こりゃ大変だ!?

経済基盤の安定化が不可欠の少子化対策(日経社説から)

次に、「少子化の厳しい現実に目を背けるな」と題した同日の社説から
⇒ (社説)少子化の厳しい現実に目を背けるな  :日本経済新聞 (nikkei.com)

少子化は、若い世代が未来に明るい展望が持てない表れ。
社会や経済の活力を奪い、社会保障制度などを危うくする。
政府、自治体、経済界は人口危機に向き合い、産み育てやすい環境づくりに全力を尽くすべきだ。

変わらず大げさですが、そのために不可欠なのが若者の経済基盤の安定、と少し従来よりも論調が変わった感がしないでもありません。
コロナにより雇用環境は悪化し、非正規雇用の不安定さが増した社会経済の正常化を急ぐべきとし、
中途など採用機会の拡大、非正規から正社員への転換、職業訓練などを掲げる。
非正規雇用の拡大を過去推し進める片棒を担いできた日経には、発想の大転換と言ってもよいか?
そして、時流の働き方改革の看板下の共働き支援の、家事・育児分担や、イクメンの当たり前化などは、企業経営者の責務とする。
やはり日経の常道発言です。

少子化要因の晩婚化・晩産化

次に、婚姻数の減少を取り上げ、晩婚化と晩産化が少子化要因と。
もっとこの面を早期から日経は取り上げるべきだった。
しかし、取り上げるだけではほとんど意味はない。
コロナで出会いや交流の機会が減っていると付け加えているが、それが真因ではない。
家族を持つことへの期待や意欲自体が、減退しかねず、この面でも正常化と日常の回復が不可欠、というが、今に始まったことではなく、先の非正規雇用の拡大など雇用環境と安定所得機会の喪失など、問題は長期的に存在し続けてきた。
政治・行政の不作為に原因がある。
そうした経済システムの後押しの一端を担ってきたのが日経、という自覚・反省は見られない。
「若者が希望を持って人生を切り開けるよう、社会をあげて後押ししたい。」などと他人事のように言われても、情緒論では道を拓くことはできない。

人口減少は、労働力人口の減少

ここまでは、今までと少しニュアンスを変えた論述を進めてきたのですが、後半は、従来の本音が出てきます。

注意すべきは、今後、出生率が回復しても少子化はすぐに止まらないこと。
少子化で親になる世代がすでに減少し、2017年推計では、2045年出生数は出生率が1.44まで上がっても70万人まで減る。
その2017年推計よりも、2021年出生数81万人は、7年速い減少ペースなのですぞ。

一方、高齢化で死亡数は増える。そう簡単には人口を反転増加させられない
最も深刻なのは、生産活動の中心を担う20~64歳の減少で、2040年まで毎年平均約73万人が失われる。

ここに持ってきたかったわけです。
そこで必要なのは、テクノロジー等による生産性向上と労働者の処遇改善であり、国民生活に必要なサービスをどう維持するかや、地方の持続可能性対策と併せての人材移転・活用、外国人就労希望者から選ばれる国となるべきことなど盛りだくさんの総花的課題を列記し、官民が危機感を高め対策を練るべき、となります。

そして、いつものようなまとめに行き着きます。

子どもは日本の未来だ。掛け声ばかりの少子化対策は、「まだ間に合う」という過度な楽観論を生み、足元の深刻さから目をそらさせてしまう。
いまこそ出生率を引き上げる対策を強化すると同時に、当面の人口減少を前提とした社会づくりも急ピッチで進めるべきだ。
社会保障の面では、負荷を現役世代だけに負わせてはならない
年齢で線引きする現在のあり方を見直し、一定以上の所得や資産がある高齢者に支える側に回ってもらう必要がある。
改革徹底には、マイナンバーに所得・資産の情報をひも付ける措置が不可欠だ。
社会保障の効率化を急ぎ、子どもに財源を振り向ける工夫も要る。


これがいつもの日経のスタンス、本音であり、税と社会保障の一体化のゼロサムゲーム、財政規律主義に基づく、限られた財源内における所得再分配綱引きゲームの似非持続可能な政策繰り返し手法です。
むしろこう言ってくれたほうが、日経らしくて、安心感さえ感じてしまいます。


少子化非常事態宣言を出して、どうするの? どうなるの? 

この恒例の社説の感覚に、更に大上段振りかぶった主張が、他の編集委員から提示されました。
大林 尚氏が「政府は少子化非常事態宣言を!」と叫んだ、以下の記事です。
⇒ 出生率1.30、政府は少子化非常事態宣言を 若者支援急務: 日本経済新聞 (nikkei.com)

この社説の拡大バージョン的な小論をピックアップして見ていきます。


結構言いたいことを自由気ままに、の感の、非常事態宣言?

政府が「少子化非常事態」を宣言すべき局面ではないか。
いきなり、気が狂ったか、こんなことを言い出して始めたこの記事。

出産適齢の女性数の減少を出生率の持ち直し傾向がある程度カバーする構図が崩れ、適齢女性の減少と出生率の不振がダブルで出生数を大きく落ち込ませるサイクルに入った可能性を示唆する。若者が子供を生みにくい国に未来はない。

こうして、危機意識をもって「真によく効く少子化対策を立案・実行するとき」と、岸田政権と自治体・経済界への激が飛ぶことになる。
曰く、「2021年は結婚・出産減少傾向に歯止めがかかる期待があったが、裏切られた。」と。
どこからそんな期待を持つに至ったのか、摩訶不思議である。

「国力を衰退させる人口減少のピッチ緩和を最優先の政治課題にすべきである。」
労働力人口減少は、労働生産性の向上、イノベーションでカバーを、と過去は言っていたような気がするのだが。
加えて、恐らく日経が主張する最優先課題は、人口減少対策以外にもたくさんあるだろう。

若い世代が結婚・出産を手控える傾向はコロナ前から広がりつつあった。」
広がりつつあったのではなく、既に手遅れなくらいに広がっていたのだ。

「法律婚を経なくとも子供を生みやすくするとともに、結婚したいと思っている若い世代が二の足を踏まなくてすむよう、この世代の就労・収入環境を改善する対策を長期思考で重層的に実行するときだ。
少しは殊勝なことを言い出したかと思ったが、「長期思考で重層的に実行」とは、言い訳・言い逃れの匂いがする表現で、極めて感覚・観念的。

こんな感覚で、いろいろ話が飛びながら進められる。
連合の3月実施のインターネット調査では、正社員と非正規社員間に、配偶者の有無・子どもの有無の顕著な違いがみられたという。
当然のことだろう。

非婚化の要因は経済力だけではないが、就労・収入環境の悪化を理由に結婚をためらう若い世代が増えたのは構造的な問題であり、政府や経済界はとくに若い世代の就労・収入環境をよくすることに心血を注ぐ必要がある
そして、いきなり波長が変わり、出生数を極力減らさないという観点から、若いうちに結婚・出産をしやすくする工夫がいるとし、学生のための夫婦寮を設置や既婚学生への奨学金の充実などに大学・文科省が取り組むことなど唐突に言い出しもする。

そしてそろそろ本丸に。
「一番の問題は、子供を生みにくい国にしてしまったことへの反省が政府に希薄なこと。
岸田政権は・・・。(略)結果責任を負うのは政権である。

2003~05年の3年間、出生率が1.3に満たない超少子化国だった日本。
このときは官民に危機意識が広がり、少子化対策の優先度を高めた効果が出たというが、保育サービスや法制が当時は相当未整備だったためでもある。

新たな局面に入った少子化?

そうした認識はないがゆえに、「少子化は新たな局面に入った」と、のたまう。
これまでの対策は、子どもはほしいが育児環境の不備をみて出産を躊躇する夫婦への支援が中心。
だが足元で急増しているのは、自らの経済環境を鑑みて産みたいという意欲そのものを減退させた若い世代である、と。

実は、この問題は、コロナ禍で急増・急拡大したわけではない。
非正規雇用経済システムが急拡大し、伴って非正規雇用者が急増し、結婚適齢期にある世代や、子育て世代の多くが現在と将来の生活に不安を募らせてきていたことを、日経は看過してきた、あるいは意図的に無視してきたのである。
コロナが、これまでも不安を抱きながらの生活であったことを再確認させたためであり、ためらいや諦めの行動を選択せざるを得なかったのだ。

すべてに先行すべき政治改革

そして、この最後の言には、幻滅である。

「参院選が近づいてきた。
どの政党がこの問題に真剣に取り組もうとしているのか、若い世代が目を光らせている。

再び超少子化国への坂を転がり落ちつつある。」「若い世代が目を光らせている。」「心血を注ぐ必要がある。」
このようなかなり情緒的、感覚的な、不適切なワード・表現がふんだんに盛り込まれた論述は日経の特徴である。
非常事態宣言を出して、一体どうしよう、どうしろというのか、ほとんど具体的で、効果が期待できそうな内容の提案は、期待もしていないが、当然なされていない。
「漫然と対策を並べているだけでは駄目だ。」と指摘もしているが、この小文自体が漫然としていることを自覚しているのかどうか。

無用・無意味な反省・責任論

「生みにくい国」への反省を、と言うが、反省を要するのは、岸田現政権だけでは無論ない。
というか、「結果責任を負うのは政権である。」といったところで、これまでどの政権もそのような責任を取ってきていないし、今後も取らないことは明らかだ。
確かに過去の不作為の政治と行政を担ってきた政権・政治家・官僚すべての責任だが、日経もその責の一端を負うべき自覚はあろうはずもないだろう。
責任論など不要である。

こども政策 不発の30年(2022/6/3付中日新聞より)

最後に、少し異なる感覚での、中日新聞1面掲載記事から、ポイントを引用しておきたい。

少子化対策は、歴代政権が数々の政策を打ち出してきた。
これまで出生数の改善はみられず、事実上「不発」の歴史となっている。

(以下、岸田政権の取り組みについて、及び、約30年前からの政府の取り組みについて、略)

政策実現には裏付けとなる財源が必要だ。
国内総生産(GDP)に対する子育て関連支出は、(略)日本は2%に満たない・
子ども家庭庁創設に向け議論した政府の有識者会議は、昨年11月まとめた報告書で子ども関連政策について「思い切った財源投入」を求めた。
首相は「倍増する」と繰り返すばかり。
政府関係者は「出生数が過去最少になっても、官邸から特に対策を指示されていない」と漏らした。


政府に厳しい姿勢を示している中日新聞(=東京新聞)の主張の感じである。
やはり財源問題が立ちはだかることを示しつつ、政府の、財政規律主義の基本スタンスがそこに示されている。
そしてそこでは、高齢者負担の増加をイメージさせる政策への踏み込みは、参院選前には(選後も変わることはないと思うが)タブーとしていることを暗に感じさせている。
新たな段階というべきであろうが、どうであろうが、為政者と官僚に、長期的な視点で少子化対策に取り組むべき使命感・責任感などあろうはずはないだろう。

問題は、今から、10年、20年、30年を要する少子化対策に、具体的に何が必要で、どんな手順で、どういう工程・スケジュールで、どれだけの費用・労力をかけて取り組むか。
その議論と計画策定にどう取り組むかが真っ先の課題である。
ということは、政治改革が先行する必要がある。
こども家庭庁自体の方針・構想自体が曖昧であり、今夏の参院選ばかりに意識が行っている状況下で何をいってもムダであろう。

当サイトと日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンション生活基礎年金専門サイトhttp://basicpension.jp において行う諸提案は、政治改革なしでは実現不可能という認識でのものであることを申し上げておきたいと思います。
無論、その政治改革の方法・目的を含めて。

                       少しずつ、よくなる社会に・・・

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