岸田政権による介護士・保育士の賃金引上げをめぐる課題

介護制度、高齢化社会

岸田新政権が優先課題として取り組む、経済対策としての介護職・保育職の賃上げ

 岸田政権下、11月9日初会合が開催された「全世代型社会保障構築会議」とその下部会議「公的価格評価検討委員会」の合同会議。
これは、安倍・菅政権時の「全世代型社会保障検討会議」の後継組織という。
「成長と分配」戦略における「分配」の柱の一つとされる介護・保育・看護職等福祉関係職の賃上げ。

政府構想の賃上げ方法

政府の考えでは、
1)まず、(早ければ)来年2月から一定期間の賃上げ分を交付金として一括支給する。
  申請手続きを必要とするため、実際に本人に支給されるのは来年春以降になる見通し。
2)2022年度後半からは、介護事業所などが受け取るサービスの対価に加算する方法に切り替える
この方向で検討されているという。

公定価格システムとしての介護報酬制自体の低賃金構造

厚労省統計に基づけば、2020年の平均月収(役職者以外で賞与など含む)は、介護職員が29万3000円、女性保育士30万2000円と全産業平均(35万2000円)を下回る。(看護師は39万4000円)

介護職の低賃金の要因の一つは、事業者に支払われる介護報酬が、介護保険制度で規定されたいわゆる公定価格により設定されていることにある。
そのため、これまでも3年に1回改定される同保険制度において報酬上乗せのための基準改定を行なってきたが、都度微々たるものであり、実際に賃上げに結びつくレベルには至っていない。
また、交付金支給による処遇改善策を取り、2009年以降では合計で月額7万5000円分を上乗せしているとはいうが、やはり直接賃上げに、どれだけ寄与したか検証はされていない。
保育の分野も、経験年数や技能に応じ賃金を上乗せする仕組みを導入してきたが、これもその成果のレベルは明確ではない。
こうした状況でも、介護や・保育職の平均月収は全産業平均に比べ約5万~6万円低い。

賃金構造、厳しい労働環境が、介護職・保育職人材不足を常態化している

賃金水準が低く、厳しい労働環境・勤務条件もあり、この業種は人手不足が常態化している。
2025年には、団塊の世代すべてが後期高齢者になるなど、加速する高齢化社会により、介護職は2025年度に2019年度比32万人、2040年度に69万人不足する見通し。
一方保育職は、女性の就業率の向上、共働き世帯の常態化により、2024年度末までに2.5万人不足する見通し。

コロナ禍で、エセンシャル・ワークの必要性と合わせて、過酷な就労状況も取り上げられたが、そのことが一層人手不足に拍車を掛けている。
コロナが収束することで景気が回復、雇用状況も上向きとなった場合、介護・保育職のこうした状況により、人手不足がより加速化する可能性も高くなるだろう。

総論賛成だが、難問山積の賃上げ課題


介護職・保育職の処遇改善に反対を唱える人々は少ないだろう。
その実現に向けての課題例を上げると、賃上げの財源問題とその持続性の問題がある。
紋切り型に、財源不足、財政規律が壁になり、議論が発展することが拒まれ、政策は単発、いわゆるバラマキに終わる。
国民からの介護保険料が原資となる介護分野の場合、処遇改善のためには保険料の引き上げが避けられず、国民の負担増もまたぞろの手法となる。
「全世代型社会保障制度改革」の起点であり、同時に終点となるお話だ。


労働生産性の向上を求めることが困難な仕事の性質

そしてこうした議論においた必ず聞こえてくる声がある。
その一つが、事業者サイドに求める、生産性向上という、極めて第三者的なイージーな発想・発言である。
対人ケアサービス業務において可能な効率的な作業の進め方や生産性を高める仕事の仕方。
まったく不可能ということはないが、口で求めるほど簡単なことではない。
IT化によりどれほどの人に対する直接的なケアサービスの合理化・省力化ができるか、現場・現業を見れば相当ハードルが高いことは明らかである。
可能なのは、事務作業など間接業務の効率化であり、実はこれは介護行政システムと直結しているので、厚労省が共通システムを開発し、全事業所に無償で提供すれば相当改善可能なはずだ。
個々の事業所、特に中小・零細事業者にはムリな要求だ。

本質的に公的サービス事業である介護と保育


そしてこうした議論の原点に立ち戻ると、なによりも、介護・保育そして障害者福祉に関するサービス事業は、本質的に公的サービス事業の範疇に入る。
言うならば、公営事業とすることを基本とすべきなのだ。
小中校の義務教育が基本的に公営サービス事業であり、公務員教員により運営されることに何の疑問・疑念がないように、基本的なレベル、基準となるサービスの質における保育・介護も同質のものと考えることが適切である。


介護職・保育職は公務員に準じる公的資格職であり、准公務員制度化が望ましい


そう考えると、実は、介護職も保育職も公務員に準じた専門資格職務とすることが望ましいとも言えよう。
准公務員という職能・職責を新たに設定し、公務員試験の受験と合格を、それらの仕事への従事の要件とすることが考えられる。

もちろん、理想は、准公務員ではなく、純粋な公務員とすることだ。
それは、現在のこの業界は多くの民間企業に委ねられていることから、その転換は非現実的だから。
ならば、准公務員制度で、民と官の双方の性質を持つ公的ケアサービス事業分野を確立することをめざすわけだ。

こう言うとまたぞろ、横から「大きな政府」批判の合唱が聞こえて来そうだが、別に政府が大きいわけではなく、国民・住民のための公的サービス事業が拡充され、安心して暮らすことができる社会が整備・創造されることになるわけだ。
現状の民間企業に希望があれば、公営事業に転換する制度を確立すればよい(簡単ではないが)。

現状の介護・保育事業における介護・保育職の公的支援による賃上げ処理方法


これまでの政府による賃上げ支援策が、実際に、どの職種に、どれだけの金額が反映されたかは、恐らく把握することは不可能であろう。
仮に調査しても、調査しきれず、ウヤムヤな結果になるに違いない。
そのことに時間と労力をかけるより、今から実施する支援策において、一人ひとりの職員の賃金にいくら上乗せされたか、確実に記録し、集計できるシステムを構築し、そのルールに従って賃金管理、経理会計管理を行うことを義務付ければ済む話だ。

介護職・保育職に支給の交付金・補助金は、公的職務手当(公務手当)の性質。給与明細に明記すべき

具体的には、政府の支援による賃上げ分は、先の「准公務員職」としての処遇として給与明細上別途(仮称)<公的職務手当(公務手当)>と明示して、そこに計上・表示する。
過去行なった分、あるいは現状も継続して補助を行なっている部分についても、これからはそこに一括して計上する。

政府からの賃上げ用の交付金・補助金は、事業所は受け取った際、一端政府からの預り金(または仮受金)として処理し、実際に賃金として支給したら、それを相殺処理することになる。
こうすれば、しっかり、補助・支援の記録が残され、受け取った方も、准公務員としての自覚とその手当額を都度確認できる。

理想は、こうした賃金管理や経理会計管理のソフトウェアも、政府が業界共通のシステムとして開発し、事業所に提供することだ。
これが業務の効率化、労働生産性の向上に資する支援であり、行政システム改革の具体的な取り組みともなるわけだ。

小手先の対策ではなく、制度根本からの見直しと改革に取り組むべき

これまでのさまざまな議論は、すべて小手先の、短期的な措置・対応に過ぎず、専門家が集まる会議も、マスコミの常套句「〇〇が喫緊の課題だ」的主張も、なんら効力を発揮することはなかった。
また当然のことながら、既成政党もとてもとても改革レベルの発想もアイディアも、企画も法案も持つことも提示することもなかった。

「全世代型社会保障制度改革」という看板も陳腐化するばかりであり、真の改革を議論し、考察し、提示する新しい動きをどう創出していくか。
そこから始めるべきではないかとずーっと考え続けており、今回の記事に至っています。

上記のアイディアや考察については、稚拙ながら、当サイトで昨年、以下の記事で触れてきています。
参考までに確認頂ければ幸いです。

准公務員制度導入で潜在的労働力の発掘と活躍へ:専門職体系化による行政システム改革-3 (2020/3/21)
介護職の皆さんに関心を持って頂きたい日本型ベーシックインカム(2020/10/26)
保育士の皆さんに関心を持って頂きたい日本型ベーシックインカム(2020/10/26)

今回の記事も、当初提起・提示したかった事柄の多くをカットしました。
また、小手先の改善ではなく、経済対策としての介護職・保育職の処遇改善ではなく、本来は、社会保障制度政策の一つとして位置付けるべきこの課題への抜本的な提案として、当サイト及び関連サイトhttp://basicpension.jp では、日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンションの導入を掲げています。
それらを含めて、政治上の取り組み等も注視しながら、<社会政策2050年長期ビジョン>に位置づけて、考察を続けていきます。

こちらの記事も
⇒ 介護士・保育士賃金に支給の交付金の委託費問題改善の決め手、給与明細への公務手当明記(2021/11/14)

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