変わらぬ「仕事と介護の両立」の困難さ。増える男性社員の介護離職

介護制度、高齢化社会


介護事業倒産と並行して拡大する「介護離職」問題

前回、小規模介護事業所の経営の困難さを、東京商工リサーチの2019年の倒産件数調査から見た。
⇒ 厳しさが拡大する介護小規模事業所経営。2019年倒産件数過去最多

そこで指摘した、在宅介護政策は、介護事業者に影響するだけでなく、施設不足・介護人材不足など同じ要因から、介護者をもつ家族、とりわけ仕事に従事する人にも大きな影響を与える。

一応少しずつ整備されつつある介護休業制度だが、大企業などの一部に限定され、やはり継続して「介護離職」が本人にとっても企業にとっても大きな問題になっている。


「介護離職者」発生企業は1割


介護事業所倒産調査を行っている東京商工リサーチが、介護離職に関する企業調査をインターネットで2019年9月に実施。
(有効回答6,545社。資本金1億円以上大企業、同未満中小企業・個人企業)
⇒ 第2回「介護離職」に関するアンケート調査

※以下、本稿掲載のグラフは、上記記事から借用転載している。

過去1年間(2018年9月~2019年8月)に介護離職者が「あった」企業が666社で構成比10.1%。
資本金1億円以上の大企業では、159社で同12.8%、1億円未満の中小企業では、507社同9.5%。

大企業の方が介護休業制度が整備拡充されていて、介護離職が少ないかな、と想像したのだが、逆の結果。
これは、雇用保険の受給と、中小企業よりも手厚い退職金で多少は離職後もしのげるのではという思惑が働いているから、と推察できるだろうか?

介護離職1

増える男性社員の介護離職


それは、これまでは一般的に女性の方が介護離職をする比率が高いとされていたものが、最近では、男性の方の離職者が増える傾向にあること、なかでも大企業にその傾向が強いことにも表れている気がする。

総務省2017年就業構造基本調査では、介護・看護のために過去1年間での前職離職者は、男性が2万4,000人で2012年比4,100人の増加。
女性は7万5,100人で6,100人減。

今回の同社の調査でも、資本金1億円以上大企業では、男性が約6割の77社(59.2%)。
1億円未満企業の、男性224社(同49.0%)とは10ポイントもの差。
大企業ほど男性の介護離職が多い結果となった。

介護離職2
介護離職2


介護離職防止への取り組みの現状と今後のあり方


働き方改革の課題の一つともされる「仕事と介護の両立」。
そのための介護休業支援制度法制の整備拡充が一応進められてはいる。

各社の取り組みで多かったのは、
◆「就業規則や介護休業・休暇利用をマニュアルなどで明文化」44,7%
◆「介護休業や介護休暇の周知、奨励」17.7%
◆ 「従業員の介護実態の把握」14.7%
◆「介護に関する悩みなどを相談できる体制」13.0%


法律に対応した取り組み自体、まだ不十分だから、企業独自に進める制度としては、「在宅勤務制度の採用」「介護休業時の賃金の補填・補給」などは、ごく一部の大企業や先進的な企業に見られる程度。
人事労務面での人員体制の整備、そしてシステム作りなどは、まだまだこれからの課題とされている。
 
ということは、企業における介護離職防止対策でも、「特にない」企業が2,013社と約3割にのぼり、確実な手立てが見いだせない現状を示しているといえる。

介護離職3


進む社員の高齢化で危惧される介護離職増大リスク


当調査では、介護離職者の離職時の家族の状況、家族間・親子間の自身の立場、介護すべき家族の住居・資産・要介護状況などについての結果は示されていません。

例えば、企業に勤務する非婚・未婚単身中高年男性が、親を介護しなければならない状況に至った場合の介護離職も、今回の事例の中にもあるのではと推測できます。


こうした介護離職から、いずれ、親の年金と資産だけが生活資金になってしまった場合、いわゆる「8050問題」につながるわけだ。

企業が、社員の家族構成・事情をベースとして、短期・中期的に介護離職を想定すべきこととして、どのように介護離職対策をこれから打つべきか。

個人が、自身の家族構成・関係から、発生しうる介護離職リスクにどう備えるか。

そして、こうした拡大する介護離職問題の改善・解決のために、根本的にどのように介護政策・介護制度を転換・改革すべきか。

機会を改めて、考え、論じていきたい。

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