東京商工リサーチ調査:2019年老人福祉・介護事業倒産報告から
毎年定期的に報告されている東京商工リサーチによる同調査。
今年も厳しい結果が出た。
⇒ 2019年「老人福祉・介護事業」倒産状況
昨年の倒産件数は、4年連続ので100件台、2017年と同数の最多の111件。
特徴は、訪問介護58件、通所・短期入所介護32件で、資本金1千万円未満の小・零細規模事業者の倒産が合計98件と大半を占めていること。
(上記を含め本稿のグラフ・図表は、同社のHPから転用掲載させて頂いた。)
加えて、当然だが、従業員数が5人以下の零細事業が大半だ。
詳細は、リンクしたサイト記事で見て頂けるが、簡単に介護業界と介護サービス制度をめぐる大きな問題点を再確認しておきたい。
在宅介護政策と介護保険法の根本的な誤り
2000年に導入された介護保険法。
最大の特徴は、官から民への介護サービス事業の移行と手厚い介護サービス提供制度。
開始時には、中長期的な介護対象高齢者、必要な介護人材、そして介護コスト財源へ増加に対する危機感への認識が極めて薄かったのです。
そして、介護保険制度に保証された(ように見えた)介護事業収益システムや社会保障事業という心地よい響きを持った介護事業に参加しやすい小規模事業への参入をしやすくした政策。
その要素の決め手は、住み慣れた地域と自宅で介護を受けることができるという「在宅介護」を強く推進する政策だった。
そこでの介護サービスは、理想的とも言える「訪問介護」。
介護を家族に委ね、少しは、たまには負担を減らすために考えたのが、デイサービスという通所・短期入所事業。
小規模・少人数介護職員型施設で、補助金も出て、小資本で開業できる。
全国各地に雨後の筍のように、デイサービス施設が生まれた。
そして2010年代以降、予想を上回る介護人材不足。
劣悪な労働環境と待遇の改善に取り組む機運が高まってきてはいるが、この業界では、種々の対策が可能な大手企業と、一層厳しい経営環境にさらされる小規模・零細事業者との格差が 拡大する一方。
増加する一方の要支援・要介護高齢者。
にも拘らず、介護人材を確保できず、経営ノウハウの蓄積・活用も不可能。
甘かったといえばそうなのですが、もとを正せば介護行政の失敗に原因があると考えている。
働く介護職の方々のことを考えない「訪問介護」という仕事とサービス
自宅で介護してもらえる方としては安心で、便利。
しかし、もし自分が個々の家を訪ねて介護という仕事に携わるとしたら・・・。
どうだろう。
勝手知ったる家というわけではありませんし、家族・家庭の状況、家や部屋の状況もさまざま。
介護を必要とするレベルも内容も、本人の性格もさまざま。
働く人に合わせてもらえるのではなく、介護を受ける人に合わせた介護・介助サービスを、決められた時間内に行う必要がある。
個々の自宅を、ほとんど自分で車を運転して訪問しなければならない。
雨の日も、風が吹いても、雪が降っても・・・。
決してきれいごとでは済まない訪問介護という仕事。
その厳しさ、事によっては異常とも言える仕事について、
『介護ヘルパーはデリヘルじゃない 在宅の実態とハラスメント (幻冬舎新書)』という書で知ることができる。
こういう仕事をやりがいがある仕事として、介護職を選択し、従事する介護スタッフが果たして増える可能性があるか、応募する人がいるかどうか・・・。
制度設計し運用・監督する人、事業を始めてスタッフを募集する人。
あなたがこの仕事を積極的に選ぶだろうか?
在宅介護主義を体現したデイサービス(通所)介護事業への勘違い
介護保険制度で、収益が保証されているという勘違い。
事業規模が小さいから経営が比較的簡単では、という勘違い。
介護職も簡単に集まり、簡単にはやめないだろうという勘違い。
確かに社会貢献ができる事業には違いないし、需要も多いのも確かだ。
しかし経営はそう簡単なものではない、介護という仕事はなかなか長続きする仕事ではない。
そのうち、競合する事業所が近くに増え、資本力がある大手事業所には勝てなくなる。
倒産としてカウントされる以外に、現状も厳しい経営状態であり、倒産予備軍か、M&A予備軍と呼べる通所・短期入所介護事業所が、相当あるだろう。
いろいろ勘違いさせた介護保険制度、介護行政に責任あり。
在宅介護主義を掲げたゆえの介護保険制度が推進した、訪問介護と通所介護サービス。
問題課題が拡大するばかりの介護制度・行政、介護事業、介護という仕事・・・。
これから、継続して着目し、考えていきたいと思う。
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