国内アパレルは国内生産体制回帰と天然素材国内栽培支援に尽力を

経済・経営・労働政策

コロナを契機として、21世紀半ばまでに20世紀産業モデルの大転換を

2021/12/15付日経1面に
「アパレル大手、日本国内に生産回帰 コロナで物流混乱 ワールドやTSI」と題した記事が載った。

日本のアパレルは、1970年代から生産基地を中国や東南アジア諸国に移転。
その理由が、大量生産と格安な人件費によりコスト低減を図るためであったことは知るところである。

しかし、その後こうした国々の人件費も上がり、絶対的な優位性を保つことが困難に。
円安傾向も海外生産製品の輸入にはデメリット。
一方、日本は長期化する低成長・デフレ経済に伴い実質賃金が上がらない状況。
加えて、コロナ禍の長期化は、物流リスクをも顕在化させ、いわゆるサプライチェーンの見直しも必要になってきたていた。

今回の記事で取り上げられた企業は、大手のワールドとTSI。
TSIとは耳慣れない企業と思い調べて見ると、東京スタイルとサンエー・インターナショナルの2011年合併会社。
ワールドは数年前からブランドの整理を進めてきているが、高価格帯商品約6割の海外生産のほとんどを3~5年内に国内に移管。
とは言っても、全体の国内生産比率は足元で2割から3割以上に高まる見通しというから、まだまだ低価格品は海外に依存することになる。
TSIは米沢市や都城市等国内自社工場で生産拡大。
現状1割程度の国内比率を、将来は3~5割レベルにとする。

当然まだまだ国内生産の方がコストは高いが、リードタイム短縮や、廃棄ロス・機会損失削減などにより、トータルでコストを吸収しようというもの。

日本の繊維産業は1970年代から生産の海外移転が進み、日本で販売される衣類は金額ベースで79%、数量ベースで98%が海外製。
いかに海外依存度が高いか。
これが普通になっているのがグローバル社会の姿なのだが、それが果たして究極の理想型なのか。

コロナを契機としてサプライチェーンの見直しが、アパレル産業以外でも課題となっている。
そこに、生活基礎品・必需品に関しては、自給自足、国内での需給調整が可能な社会経済システムの整備という総合的な政策を、国策として加えることを提起したいと思っての本稿です。

(最近の関連参考記事)
現在食料自給率38%、2035年の衝撃的予測と必要対策 :鈴木宣弘氏著『農業消滅』から-1
(2021/12/11)

広まるニアショアリング

グローバルレベルで「ニアショアリング」と呼ばれる消費地に近い場所での生産が海外アパレル企業の間で広がっており、ある調査では、40近い国際的ブランドと7割の小売業者がニアショアリングを増やすとしています。

環境・エネルギー対策としての石油製品依存度引き下げと天然繊維素材依存度向上への取り組みを

当サイトでは、2050年の望ましい日本社会の構築を目標としています。
その中の軸となる戦略目標として、基礎的な生活に必要な食料・衣料・日用品、そしてエネルギー・半導体・医療分野の自給自足社会経済システムの確立を掲げています。

従い、衣料品分野もそこに入るため、製品生産はもちろんのこと、石油製品への依存度を極小化すべく、綿を軸とした天然繊維素材の栽培の国内復興も長期政策に組み入れるべきと考えています。
原材料栽培を含めたニアショアリングというわけです。

ポリエステルを原材料としていることで、現状相当の高い比率で衣料品が石油製品とされることは明らかです。
この視点から、アパレル企業のほとんどが、環境・エネルギー問題を抱え、カーボンニュートラル、CO2排出削減かへの取り組みと貢献が当然求められる状況にあり、その責任は今後ますます重くなっていきます。

もちろん、双方のニアショアリングが、新たな雇用増・雇用創出にも繋がり、経済効果を産み出すことは言うまでもありません。

中国・新疆における人権問題と新疆綿栽培及び製造工場労働問題

安い人件費を求めての海外進出自体、広義では人権問題の要素を持ちます。
これに、ここ数年で大きな問題となっている中国・新疆における新疆綿栽培とアパレル製造工場における新疆ウィグル民族への抑圧・虐待があります。
中国政府は否定しますが、中国をアパレル生産基地とする欧米各国は、スポールアパレルも含め、雪崩をうって中国での生産から撤退し、日本のメーカーも追随。
唯一煮え切らないのがユニクロです。

国内アパレルダントツの最大手、グローバル大手のユニクロへの期待を込めた過去記事

以上のようなトレンドは、ファッションのトレンドとはまったく性質を異にした、経済のみならず、社会問題及び環境問題の様相を非常に濃くしたものです。
従い、グローバルレベルで経済活動を推進する企業ほど、そこでの対し方が注目されます。
あまりアパレル企業について当サイトが取り上げることはないのですが、唯一これまでユニクロ、ファストリについては、以下の記事を投稿してきました。

値下げ敢行ユニクロの今後に期待すること:国内生産拠点作りと天然素材開発を(2021/3/13)
ファストリは日本国内にも生産拠点を(2021/3/19)
 以上2記事が、今回のテーマと重なるものです。

 以下の2つは、過去チェーンストア企業に勤務し、チェーンストア企業のコンサルティングに携わってきた経験からのものです。
ユニクロ日経全面広告、現状消費税別価格をそのままで税込価格に!実質値下げへ (2021/3/4)
ユニクロ実質的値下げの必然性とチェーンストア経営戦略 (2021/3/25)

 ダウンの再利用など、一応種々の環境やエネルギーをめぐる対策を企業戦略に取り込んできていますが、本稿の内容との関連での取り組みには、非常に物足りなさを感じています。
 柳井ジュニアがそろそろ経営の前面・前線に出つつありますが、世代交代で、こうしたグローバル社会経済におけるリーダーシップを発揮できる時代になっていくか。
 希望と期待をもって注目していきたいものです。

参考-1:<2050年経済政策長期ビジョン>及び<2050年経済政策長期政治行政重点政策課題>

 行き過ぎた資本主義の弊害、それと関連するグローバル経済がもたらす地球温暖化・環境破壊問題などへの抜本的な取り組みを必須課題とし、それと並行して進める望ましい経済活動のモデルを、経済の安全保障の観点から確立すること目標とし、そのモデルのグローバル社会への移転・移管と支援に結びつけることと併せて2050年長期ビジョンとしてその実現を図ります。

1.需要供給経済政策
2.雇用政策・労働政策
3.経営革新・事業開発支援政策、労働生産性・付加価値創造支援政策
4.イノベーション・技術開発・IT基盤整備拡充支援政策
5.成長・脱成長、緊縮・反緊縮多様性モデル対応政策
6.グローバル経済政策

参考-2:1.(適正)需要供給経済政策

(基本方針)
 コロナパンデミックで経験した物流・人流の停止等の経験、また国家間の力学的な問題等から想定すべき、経済の安全保障ニーズに基づき、社会活動における需要供給バランスの適正化に基づく国内における自給自足経済の確立と維持システム構築を目標とし、2050年までの実現を図ります。

(個別重点政策)
1-1 食料自給自足経済確立(5年単位の中期計画管理に基づく)
1)第6次産業化含む包括的総合的食料・飲料国内自給方針及び中長期目標策定、ベーシック・ペンション導入時利用構成比率シミュレーション及び対策
2)品種・品目別原材料依存率・国内対応率等実態調査及び方針策定
3)品種・品目別国内自給率目標設定と必要財政政策・計画立案
4)農業・畜産業・水産業自給自足産業構造構築(全国及び地域別、緊急時供給体制等含む)
「国土・資源政策」 3.食料・農林水産業安全保障・維持・開発管理 と連携
1-2 生活基礎消費財自給自足経済化 (5年単位の中期計画管理に基づく)
1)業種別必要品種・品目調査分析(対外依存状況、国内対応状況等含む)
2)業種別必要品種・品目別国内自給方針及び中長期目標策定、ベーシック・ペンション導入時利用構成比率シミュレーション及び対策
3)地域別・地域間サプライチェーン整備、緊急時体制整備
4)緊急時海外供給体制整備
1-3 全産業分野基礎物品自給自足経済化(サプライチェーン構築) (5年単位の中期計画管理に基づく)
1)緊急事態想定時全産業分野におけるリスク調査・分析(2年毎の見直し)
2)同調査・分析に基づく総合的短中長期対策立案(~2030年)、進捗・評価管理(~2031年)
3)同調査・分析に基づく産業別・品種品目別国内対策立案 (~2030年) 、進捗・評価管理 (~2031年)
4)「国土・資源政策」 6.産業資源自給自足基盤の拡充による安全保障・維持・開発管理 と連携

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