
女性と若者の価値観がこれからの日本社会をどう変えるか:『日本の分断』「日本人価値観調査」から-6
三浦瑠麗氏著『日本の分断 私たちの民主主義の未来について (文春新書)』(2021/2/20刊)を参考に
しての<『日本の分断』「日本人価値観調査」から>シリーズ。
◆ 日本人はどこに向かうのか:「日本人価値観調査」から、コロナ後、望ましい2050年への政治を考える(2021/7/1)
◆ あなたは経済的・社会的価値観分類「保守、介入的保守、リベラル、自由主義」どれ?:『日本の分断』「日本人価値観調査」から-2(2021/7/9)
◆ 立憲民主党に政権交代戦略はあるか:『日本の分断』「日本人価値観調査」から-3(2021/7/11)
◆ 自助努力は歴史が作り上げた伝統的価値観か?:『日本の分断』「日本人価値観調査」から-4(2021/7/12)
◆ 政党・政権選択では建前と本音が違うのか:『日本の分断』「日本人価値観調査」から-5(2021/7/13)
このシリーズに当たって念頭に置いているのが、既に終えている『枝野ビジョン 支え合う日本 (文春新書)』(2021/5/20刊)を紹介しつつ考察した、以下の<『枝野ビジョン』を読む>シリーズです。
◆ リベラルな日本を保守するという意味不明:『枝野ビジョン』を読むー1(2021/7/3)
◆ コロナ禍による日本の課題認識と新自由主義批判は自分に還る:『枝野ビジョン』を読むー2(2021/7/4)
◆ 未だ不明の支え合い、社会、政治と行政の正体:『枝野ビジョン』を読むー3(2021/7/5)
◆ 漢方薬的薬効に頼る政策は政策にあらず:『枝野ビジョン』を読むー4(2021/7/6)
◆ リスクとコストにも支え合いを求めるリベラル保守の正体:『枝野ビジョン』を読むー5(2021/7/7)
今回は、価値観診断シリーズ、第6回で、<第5章 日本社会の価値観はどのように変わるか>から考えます。
第5章 日本社会の価値観はどのように変わるか から
この章の課題は、これまでと趣が異なります。
将来の日本政治がどのように変化していくか。
その可能性を握るのが「女性」と「若者」。
前者は、今後政治参加が拡大する余地が大きく残されており、後者は、これからの社会を形つくっていく人たち。
両者を取り上げようというもので、私自身強い関心を持つものです。
これまで同様、この章の各節の展開に従って見ていきます。
社会的な価値観が変わる条件(特に女性問題について)
日本では社会的価値観は党派対立にはなっておらず、党派よりも世代間対立として理解できる要素のほうが多い、とします。
これは社会保障制度における高齢者優遇感、現役世代の負担感などの対立・不満感などに見て取れることからわかりますし、雇用状況をめぐる現役世代の所得が上がらないことなど、その要因を挙げることは容易です。
そして、社会的価値観が党派対立の対象では必ずしもないからこそ可塑性が大きく、世代や時代の趨勢によって変わりうるとも言える、とも。
これも実際のところ、同性婚やLGBTQなどに対する意識・認識において見られることでしょう。
以降本節途中から、社会的価値間の核といえる女性問題、ジェンダー問題に話は移り、こう整理しています。
日本のジェンダー・ギャップが開いてしまっている理由の一つは、
・長く専業主婦とサラリーマンのライフスタイルを政府や企業が支援してきたことであり、もう一つが、
・民間企業の意識の低さ、次いでそれとつながる形で、
・女性活躍のために官が介入できる領域やポストが限られていること、そして日本では
・政治の側にクオーター制を導入したり、候補者として沢山の女性を立てるような動機が欠けていること。
若干唐突な提示の仕方と考えつつ、そういう括りもあるか、というレベルに止め、先に進めます。

(ジェンダー問題)この30年で変わったこと、変わらなかったこと
次に、2019年9月に行なわれた「男女共同参画社会に関する世論調査」結果を用いて、27年前実施の「男女平等に関する世論調査」と比較しています。
これに、2018年の社人研の「第6回全国家庭動向調査」の妻の家事分担割合項目などの結果を加味することで、次のように提起します。
「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」といった質問への回答では見事にこの間で意識は変わっている。
しかし、こうした質問以外の多くは、むしろ誘導に近いポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)度の高いものになっており、当初の男女平等をめぐる「本音」をあぶり出すことをやめ、世論調査で実態をはかるのではなく、理想を提示した時にどれだけの人がなびいてくるかを調査する「建前」をめぐる調査に舵を切ったといえる。
要するに、家庭、夫婦における意識調査に関しては、本音よりも建前が回答される方向への誘導が意図されており、過去とさほど実際の行動、そしてその前提の意識には大きな変化は見られないのではないか、というのです。
まあ、自社が行った「日本人価値観調査」には、そうした意図的なものはないことを暗に主張したいがためなのかどうか分かりませんが。
女性問題に関わる価値観にギャップは少ない
ということで、次に、「日本人価値観調査」の女性問題に関する以下の6調査項目を紹介します。
但し、その問いは、米国の「ボーター・サーベイ」の設問を踏襲し、日本語として理解できる表現に変えたといいます。
そのせいか、2)特別扱い、4)もっと大きな問題、6)生活の質など、直感的に理解しにくい設問と感じられます。
各項目の後の数字が、ハイ及びイイエの回答比率であり、保守度の高い主張を行っているのが1)2)4)5)の4項目、リベラル度の高い設問が3)6)の2項目。
1)女性は家事など家の中の仕事に向いている 30.7% 54.2%
2)女性が権利拡大を主張するときはだいたい特別扱いを要求している 34.2% 53.9%
3)女性は社会に差別があるために良い仕事やポジションを得られない傾向にある 64.2% 28.3%
4)女性がハラスメントを訴えると大抵はもっと大きな問題を引き起こす 43.2% 41.7%
5)職場におけるセクハラ問題はもう日本では解決した 5.1% 89.5%
6)女性が社会進出したことで、人々の生活の質はむしろ向上した 54.4% 31.7%
この結果から、女性問題については、全体的には意外にも世代間でほとんど価値観分布に差がなく、リベラル寄りの価値観が多数を占めているとしてはいます。
しかし、この調査には、表面的には政治的に正しい言説に同意する人の中から、隠された本音をあぶり出す設問を混在させているとして、次の節に導きます。

女性がハラスメントを訴えるともっと大きな問題を引き起こす?
その項目が4)。
4)女性がハラスメントを訴えると大抵はもっと大きな問題を引き起こす 43.2% 41.7%
ここでは、その設問に対する回答結果を、2019年参院選比例代表投票先と、立憲民主党に対する評価ごとに隠れ差別の有無の割合として以下を示しています。賛成が前、反対が後の数字です。
1)立憲民主高評価層 44.1% 45.3%
2)立憲民主低評価層 44.8% 42.9%
3)参院比例立憲民主投票者 41.5% 44.3%
4)参院比例自民投票者 50.8% 37.9%
この分析結果から、要するに、立憲民主党を評価しているかいないかは、ほとんどこうして示される本音の有と無に影響しない、と言いたいわけです。
大きな問題とは、例えば#MeToo運動などのことらしいです。
しかし、元々の設問がアメリカでの調査項目であり、この文章表現自体が曖昧さがあり、回答する上で迷いを生じる問いかけでもあることが、大きな違いを生じさせていない要因であると私は思います。
「問題を引き起こす」ではなく、「問題が生じる」という表現の方が適切だったでしょう。
他の5項目は、賛否の判断は、しやすい内容・表現であり、賛否の数字の違いはストレートに価値観の違いとみなすことができるのです。
まあ、こうした部分的な、ある意味意図的な問題を引き合いにだし、以下のように女性問題に関する総括を行っています。
調査結果は、深刻なジェンダー・ギャップを抱えつつも、戸惑う日本社会を象徴している。
果たしてこの社会の何が間違っていたのか。自分が過去にさんざん我慢して自らを律し、研鑽を積んできた意味は何だったのか。そうしたことが分からなくなった男女が、確実に人口の半分を占めている。
(略)
日本における女性問題は党派性で語ることができない。日本における保革対立は女性問題をはじめとする社会的価値観に強い関心を持たずに展開してきたからだ。
いうならば、女性は革新勢力にずっと期待を裏切られてきた。対米従属を論難する左派論客が、女性問題についても同じように情熱を込めて発言してきただろうか。そこにダブルスタンダードはなかっただろうか。
(略)
そして、女性自身もそれに加担してきたというのが不都合な真実である。
リベラルへ檄を飛ばしてくれました。
さあリベラルはどう対応するでしょうか。
保守との明確な対立軸を、大義をもって示すことができるでしょうか。
それとも保守本流を宣言したことで、自らの変革を停止させてしまうのでしょうか。
倍返し、百倍返しを期待したいところですが、どうでしょう。

若者の選考を正しく理解する
よく、若者は自民党の支持が高く、全体として保守化していると言われるが、実際には日本の若者は保守化してはいない。
その根拠として、価値観調査における自民党評価度の年代構成を紹介し、若者は消極的選択にとどまるとします。
また、外交安保・経済政策・社会政策の3つの価値観においても、若者が上の年代よりも保守に振れている領域は存在しないとします。
しかし筆者も指摘するように、「どちらともいえない」「どちらと決めて答えにくい」設問が多いことも、中道よりのスコアが出やすくなることも一因と、私は思います。
ただ、この節でいうところの「若者」世代が、何歳から何歳の年代を言っているのか、意図的なためかどうか分かりませんが、明確ではないのが気になります。
例示している価値観グラフでは、18ー19歳のみを示しており、この2歳グループだけを「若者」とするのも不自然・不可解というか、さほど意味がある分析とは言えません。
一応、用いている年代区分は、18~19歳、20歳代、30歳代、40歳代、50歳代、60歳代、70歳代以上という区分。
人数調整を行っているとのことですが、かなりアバウト、感覚的分析にとどまっている感が否めません。
さらっと流し読む程度とし、実際の価値観判定は、選挙での投票率と支持政党分布が、最も公正な尺度になるのではと思います。
ただ、一応、若者の方が、外交安保問題については中道・宥和的傾向、社会問題・経済問題についてはリベラル寄り。
そんな傾向にあることは認めてよいのではと思いますし、ある意味、救いであるような気がし、希望・可能性をもたせるものと私は考えています。
しかし、国政レベルでの選挙への投票行動はぜひ望みたいですね。

女性問題を掲げながら、男女別価値観分析を行なわない致命的欠陥
これからの日本社会の価値観を変化する大きな要素を握るとする女性と若者。
そう位置づけながら、「女性問題」に関する価値観分析を行う一方、女性がどんな価値観を持つのか、という分析を、この章でも、これまで見た各章でも行っていないのです。
女性を対象・客体としか見ずに、主体としてみていない。
本来、男性と女性の価値観の違い・類似などを課題とすべきなのですが、おかしなものです。
筆者が女性だけに、一層その思いを強く持ちます。
なにか、意図があってのことか。
『女性のいない民主主義 』(前田健太郎氏著:2019/9/20)という書があり、以前取り上げたこともあるのですが、「私たちの民主主義の未来について」という副題が付けられた本書『日本の分断』では、女性にとっての民主主義も、男性と女性の分断なども眼中にないということでしょうか。
⇒ 女性のいない民主主義社会の改革を:女性国会議員の一挙増員への途(2020/6/16)
リベラルは、「女性」と「若者」を惹きつける政策・戦略を構築・提示できるか
政党間での対立軸にはしにくいという女性問題。
ですが、当の女性にとっての生き方・働き方すべてが、女性問題という切り口で政治・行政の在り方と直接つながっています。
そしてその女性は、実は、すべての世代・年代をカバーするもの。
意外に、この視点・論点で、政治イシュー化が図られ、議論されることも少ないのです。
その視点も、本書で欠落しているのです。
元々、私自身には、このシリーズも、先の『枝野ビジョン』シリーズも、当初から念頭にあった考え・構想を起点としてのものです。
そして今回の本章の課題が、そのものでもあるのです。
もちろん、若者も対象とすべきですが、先に、その若者の半分が女性であることに意義を持たせて「女性」グループとして考えていきます。
加えて、ジェンダー問題は、LGBTQをも包摂・包含して考えるべきことも前提としています。
次回、本書の残り、<第6章 保守と革新の分断を探る>と<第7章 日本の分断>を取り上げ、一旦総括することにします。


「日本人価値観調査」による<社会・経済面タイプ分類>
1.<保守>
⇒ 従来からある社会秩序を維持することを望み、伝統的な文化や価値を守るために国家の役割を期待する傾向にある。
他方、経済分野における政府の役割や民間企業への介入についてはより懐疑的で、民間主導の経済成長を重視し、税制も成長に資するものを支持する傾向にある。
2.<介入的保守>
⇒ 従来からある社会秩序を維持することを望み、伝統的な文化や価値を守るための国家の役割を期待するとともに、経済においても国家主導の産業政策や再分配を望む傾向にある。
経済と社会の両面において、政府に大きな役割を期待することで、国家としての一体性や秩序を保ちながら不平等を減らすことを望む勢力であると自らを定義しているが、成長への関心は二次的。
3.<リベラル>
⇒ ライフスタイルに関する個人の選択を尊重し、多様性と少数者の権利を信じている。
社会正義のための国家による介入には肯定的で、格差是正や少数者の権利保護のために積極的な国家の役割を期待する。
成長への関心は二次的で、資本主義の行き過ぎを是正する最適な政治体制を望む傾向にある。
自由を信じている一方で、社会的な価値観は収斂すべきだと見なす傾向にある。
4.<自由(至上)主義>
⇒ 自由を基調に物事を捉えており、経済と社会の両面において国家の介入に警戒的である。
国家主導の経済政策や国としての一体性の保持よりも個々の企業体や個人による選択の自由を重視している。
多様性や少数者の権利を信じているが、国家による介入に警戒心を持っていることから、自発的な選択こそが最適な秩序を生むと考えている。
「日本人価値観調査」による<外交安保タイプ分類>
5.<外交安保リアリズム>
⇒ 憲法改正や日米同盟強化、自衛隊の役割拡大などに賛同する立場であり、現実主義に基づいて一定の軍備を必要とする考え方。
6.<外交安保リベラリズム>
⇒ 憲法改正や日米同盟強化に反対し、自衛隊の役割の拡大にもくみしない立場で、より限定された軍備を望む考え方。
(参考):価値観診断アンケート構成と回答項目・診断方法
◆外交及び安全保障について
・日米同盟をもっと強化すべきだ
・今後、日本の防衛予算はもっと増やすべきだ
・中国は領土的野心を持っていると思う
・日本は将来的に、核保有を目指すべきだ
・韓国に対しては歴史的問題で妥協すべきではない
・憲法九条一項二項は維持したうえで自衛隊を明記する憲法改正案に賛成だ
・集団的自衛権の行使が一部容認されたことに賛成だ
・国際社会での活動のために自衛隊を積極的に活用すべきだ
・テロ対策の強化のために国による監視を強めるべきだ
⇒ あなたの外交・安保に関する価値観は 点
◆ 経済問題について
・多少の格差を生んでも、経済成長は大事だ
・公共事業はもっと減らすべきだ
・株価が上がることはいいことだ
・民間にできることは民間に任せていくべきだ
・これ以上高額所得者の所得税の税率をあげるべきではない
・福祉をこれ以上充実させるなら増税すべきだ
・法人税をこれ以上上げるべきではない
・自由貿易には賛成だ
・生活保護等の貧困対策にこれ以上予算を使うべきでない
⇒ あなたの経済的価値観は 点
◆ 社会問題について
・夫婦別姓に反対だ
・同性愛者を特別扱いすべきではない
・日本の伝統行事をもっと大事にすべきだ
・外国人労働者の受け入れ拡大には反対だ
・外国人観光客はこれ以上増やすべきではない
・国会議員の一定割合を女性とする制度の導入には反対だ
・親のしつけの一環として多少の体罰はやむを得ない
⇒ あなたの社会的価値観は
<回答選択肢>
1.とてもそう思う
2.まあそう思う
3.あまりそう思わない
4.まったくそう思わない
5.どちらともいえない/わからない
<採点方法>
各設問で、1を選んだ場合は2点、2を選んだ場合は1点、3を選んだ場合はマイナス1点、4を選んだ場合はマイナス2点、5を選んだ場合は0点とし、すべての点を合計したものを設問数で割る。
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