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立憲民主党に政権交代戦略はあるか:『日本の分断』「日本人価値観調査」から-3

 三浦瑠麗氏著『日本の分断 私たちの民主主義の未来について (文春新書)』(2021/2/20刊)を参考に
<『日本の分断』「日本人価値観調査」から>シリーズを始めています。

日本人はどこに向かうのか:「日本人価値観調査」から、コロナ後、望ましい2050年への政治を考える(2021/7/1)
あなたは経済的・社会的価値観分類「保守、介入的保守、リベラル、自由主義」どれ?:『日本の分断』「日本人価値観調査」から-2(2021/7/9)

今回3回目は、<第2章 野党の政権交代戦略>を参考にして考えます。

第2章 野党の政権交代戦略 から

 本章の課題は、前章で提示された「日本人価値観調査」結果をもとに、現状の野党の政権交代戦略に不備はないかを考えるというもの。
 昨日のニュースで、立憲民主党枝野代表が、コロナ対策や東京オリンピック・パラリンピック対策をめぐる菅政権の失政に対して、今秋の衆院選について、自党の体制自体がまだ十分ではないが、当然政権交代をめざして戦う、みたいなことを言っていました。
 なんとも心もとない発言で、がっかりすると同時に、正直だな、と変に納得もした具合で、いかに日常において、政党内での政権交代と政権に着いた後の政策に関しての議論、コミュニケーションが不足しているかを自ら露呈したものと言えます。
 コロナ禍での貴重な、ゆえに、長期を要する改革諸課題がしっかり議論・集約され、公約として掲げる準備をしておくべきだったのですが、それだけの機能が党及び党を支える政策起案グループ組織などが整っていないわけです。

 まあ、そういう現状はここでは置いておき、本書の論述に従って、三浦氏が提起する政権交代戦略について追ってみましょう。

「政治不信」だけでは勝てない

「日本人価値観調査」で最大野党立憲民主党を評価した層は、全体の4分の1弱にとどまり、同党が支持を拡大しようと思うなら、すでに自党を評価してくれている少数の層に訴える政策だけを訴え続けても意味がない。

調査では、同党を評価しないと回答した過半数のが外交安保政策に関わる価値観の平均値はリアリズム寄りであり、その層にも訴求力を持たない限り、政権交代は起きない。

自民党は「票を掘り起こせ」戦略で十分勝てるが、野党は、「新たな票を開拓しに行く」態度が必要になるが、現状、野党は「自民党嫌いな人々」にばかり訴えかけようとしているように見える。いわゆるスキャンダルや政治不信を利用した戦い方がそれに当たる。

これはよく指摘されているところで、野党もしっかり認識はしているはず。
しかし、国民から見ると、相変わらずそれが繰り返されているようにしか思えない。
そう思われることを、絶対多数を占めていた自公政権は十分承知した上で、やりたい放題を繰り返していた完全な確信犯内閣・政党であるのわけですね。
国民をなめており、野党もなすすべがない酷い状況、低レベルの政治状況が続いている。

政権交代を可能にする野党をつくるためには、政治不信を煽るよりも、マイルドな自民党評価層を一部取り込んだうえで、彼らの価値観を代表する中道保守・リアリズムの政党になるしかない。


要するに、敵失頼みなど政治で期待してはいけないわけです。
政治は、政策勝負ということ。
コロナ対策は喫緊の課題ではあるけれど、そのためだけに政治があるわけでも、政治家・国会議員がいるわけでもない。
年度予算をめぐってどうこう議論しているだけでもない。
今生きている国民、これから生まれてくる国民の今と将来に必要な望ましい政治・行政を考え、望ましい法律を導入し、必要があれば改正する取り組みを持続させていく。
そのために政権を担当する必要があり、政権交代を目指すのです。
そのために日々の議員活動生活を送っているか。
政党活動が進められているか。
そのためのヒントとして、この「日本人価値観調査」を活かしていくべきなのです。
もちろん鵜呑みにするだけでは能がないことも当然です。

自民党の弱点

上の分布図からも分かることですが、自民党にはもともと弱点がある。
その指摘を抜粋しました。

自民党を嫌う層にアピールするのではなく、自民党と野党、どちらもフェアに評価してくれる有権者にアピールする必要がある。
ただし、最大野党が政権交代を目指すために訴求しなければならない、外交安保で現実路線を取り、経済政策では成長を重視する層は、必ずしも「保守」ではない。
実際に自民党に投票ている人の中に多くの「社会リベラル」が含まれており、立民が、リベラルな社会政策を打ち出しても「社会リベラル」を取りこぼしている。
その理由は、有権者が社会政策における価値観の不一致よりも、外交安保や経済政策で同じリアリズムを取る政党を選ぶことを重視したから。

だが、これからの時代、こうした力学がそのまま維持されるとは限らず、外部環境の変化によって、次第に社会政策が重要な判断基準に加わり始める可能性がある。

自民党の弱点は「社会保守」のイメージがついてまわることである。

自民党を高く評価する層は1割を切っているが、これをやや評価する層まで広げると、やはり外交安保リアリズムが主体だが、社会的にリベラルな人が半数を超え、先の調査で全回答者の54%に及んだ。
普通に考えれば、野党の戦略は外交安保で自ら中道リアリズムに舵を切ることで自民党の利点を奪い、社会保守政党に追いやることであるはずだ。
自民党議員の一部はすでに自らの弱点に気づいており、社会的中道やリベラルも包摂しようとして接近を図っているが、歴史のある巨大組織であるゆえ、それほど短期間に変わることはできない。

2020年9月の野党の合流は、旧立憲民主党にとっては戦略的に正しい判断であった。
旧国民民主党を取り込み、政権交代可能な野党を作るブランディングの観点からは、中道に翼を広げることができる合流は純粋にプラスである。
野党合流で曲がりなりにも最大野党としてのハコは出来上がった。従って今後のさらなる転機があるとすれば、最大野党である立憲民主党が外交安保で中道リアリズムに舵を切るときしかない。

 件の『枝野ビジョン』で明らかなように、保守本流と称して、安保外交政策での現実的柔軟化の方向を示そうとしている立憲民主党。
 これは、本章で三浦氏が提起する方向・方策と重なります。
 しかし、そのことが、逆に、安保外交リベラルの離反を招く可能性があることを、三浦氏はここで触れてはないことに留意しておく必要があるでしょう。
 そう単純なものではない、戦略上のジレンマを招くことも認識しておくべきです。
 従い、一口で「中道リアリズム」というものが、現実的な政策としてどんなものとなるのか、広い範囲で支持を得ることができる内容が必要なのです。
 果たしてそれが可能か。
 決して簡単なものではないと考えます。

(参考)
<外交安保リアリズム>
憲法改正や日米同盟強化、自衛隊の役割拡大などに賛同する立場であり、現実主義に基づいて一定の軍備を必要とする考え方。
<外交安保リベラリズム>
憲法改正や日米同盟強化に反対し、自衛隊の役割の拡大にもくみしない立場で、より限定された軍備を望む考え方。

過去の政権交代はなぜ起きたのか?

 私は、本章、いや本書の全体を通して、もっとも著者の発言で共感を感じ、強く同意するのは、以下の言葉です。

日本人の変化を望む気持ちを吸収するためには、虎視眈々と政権を窺う政策集団としてのたわめられた力やエネルギー、そして時代がその人たちとともにある、という大義が必要である。

 この根源的な発言の後、こんな自問自答を行っています。

 有権者は一体どのようにして、単なる政局と政権選択を左右する論点とを区別するのだろうか。
と問い、参考例として、1)2005年の郵政選挙、2)2009年民主党政権誕生、3)日本維新の会の大阪土着化をあげます。
 共通しているのは、国民に改革の負担を強いる要素と、夢と希望を与える要素との配分が優れていたこととします。
 多くは省略しますが、それぞれは、その後の配分を失敗することで、持続性が絶えてしまったわけです。

つまり、野党に大義があるとみなされなければ、政権選択選挙には結びつきにくい。
今の自民党は下野の失敗に学んで、この点に自覚的であるように見える。
(そして)大義は、対立軸と深く関係している。

この延長線上での例え話として、1998年に大嶽秀夫氏により対立軸として取り上げられ、当時話題になり、これが現在、多く取り上げられてもいる「新自由主義」についての話が興味深かったので引用します。

日本で「新自由主義」を自ら標榜する政治家の名前を挙げてくれと言っても、おそらく一人も挙がらないだろう。日本には極端な思想をとる政治家はほとんどいないからである。
反・自由主義とは至上競争の行き過ぎやグローバル化に対する抵抗、平等を求める価値観の総体に過ぎない。
とすればそれは従来の経済的な左右の対立軸で説明できるだろう。
しかも、日本では自由貿易や外国人労働者の受け入れに対する支持は党派を超えて高く、反グローバリズム感情は強くない。
そのうえ、今後経済的な価値観の対立が政党を分極化させるとしても、リベラルが社会的価値観の異なる改革保守を味方につけられるかどうかは、かなり微妙だ。

 確かに、コロナ禍がもたらしたさまざまな問題の原因や、ベーシックインカムの導入を提起する論者の発言には、行き過ぎた資本主義批判とセットでの反自由主義、反グローバリズムが、必ずと言ってよいほど付けられています。
 しかし、こうした表現をストレートに受け止め、理解するのは、そういた表現や関連する課題に日頃から関心を持ってる人々に限られるでしょう。
 多くの人々にとっては、感覚的にもつ価値観に包含され、生活観として実感できる範囲でのものであり、新自由主義がどう、グローバリズムがどう、と論じる姿勢や気持ちはさほどないでしょう。
 それは、『枝野ビジョン』シリーズで指摘した、「近代社会」という歴史論で政策や政治課題を語ることへの違和感、ズレと重なることでもあります。
※本稿最後尾添付の当該記事リスト参照

ポピュリズムの結集は起きるのか

政治変動を呼び起こす一つの方向性は、自国の伝統文化の保護や民族主義などに訴えかけることで排外的な気分を利用する右派ポピュリズムの道。
もう一方は、半資本主義的な気分やポピュリズムを通じて支持を獲得する左派ポピュリズムの道。
前者は、自民党勢力の中に十分吸収されており、既得権打破などの改革保守的気分は日本維新の会に向かっている。
もしも強い不満を抱えた層が結集するとすれば、もう一極である左派ポピュリズムだろう。
2019年参院選の比例代表で2議席獲得した(経済ポピュリズムの)れいわ新選組が例である。

ここでその時の成功要因分析は省略しますが、その後れいわ支持が広がらなかったことを添え、こう断定します。

(れいわは)共産党や立民から一部の票を奪ったところで、彼らよりもさらに小さな勢力にしかならない。
左派ポピュリズムの一般的なストーリーとしては、上の世代より貧しくなり割を食った若者が結集しそうなものであるが、現実には大きな不満票がどこかに集まるとすれば、若者ではなく変革期待や強い不満を持つ高齢者だろう。
とはいえ、不満を抱えた高齢者を中心とした有権者が一つの政党を支持するような、ポピュリスム結集の可能性は実際には低い。
日本の分断が憲法と同盟に規定されている以上、左派と右派のポピュリズムが協力ることは考えにくい。

野党が政権奪取を目指すならば、有権者に鋭明確に伝わる形での抜本的な改革の覚悟と、社会問題と組み合わさった成長戦略が必要となる。

2009年の民主党には安保思想、社会思想において、保守から革新まで多様な政治家が同居していた。

結局のところ、日本の選挙で勝とうと思うのならば、価値観を外交安保で中道リアリズム寄りに振ったうえで使える戦略をすべて動員するしかない。


ここでのポピュリズムの議論は、以上の引用にとどめておきたいと思います。

私自身は、政治はある意味本質的にはポピュリズムと考えています。
但し、真のポピュリズムには、右も左もない。
より多くを包摂するのが究極のポピュリズムという考え方です。
望ましいポピュリズムが、民主主義のモデルと言えるのでは、とも。


保守本流を名乗る枝野立民に政権交代は可能か?


立憲民主党は、「虎視眈々と政権を窺う政策集団」か?
望ましい変化・変革を具体化する政策集団として、現在を生きる人々にエネルギーを与え、時代を共にする大義を明確に提示し続ける政党か?
保守やリベラルという対立軸をも必要とせず、安保外交領域の対立軸をも、現実的に可能な選択肢を広く提示・共有・認識することで対応可能とする。
その一致点の多様性を広く包摂する広い概念でのニュートラルを確立した政党は存在しうるか。
否、存在すべき。
果たしてそれが立憲民主党が適切・適任なのかどうかは、今後にかかっていると考えます。

その想いをもって、本書を読み続けていきます。
次回は、<第3章 「分を知る」をとるか「進歩」をとるか>を課題に。

(参考):価値観診断アンケート構成と回答項目・診断方法

◆外交及び安全保障について

日米同盟をもっと強化すべきだ
・今後、日本の防衛予算はもっと増やすべきだ
・中国は領土的野心を持っていると思う
・日本は将来的に、核保有を目指すべきだ
・韓国に対しては歴史的問題で妥協すべきではない
・憲法九条一項二項は維持したうえで自衛隊を明記する憲法改正案に賛成だ
集団的自衛権の行使が一部容認されたことに賛成だ
・国際社会での活動のために自衛隊を積極的に活用すべきだ
テロ対策の強化のために国による監視を強めるべきだ
⇒ あなたの外交・安保に関する価値観は     点

◆ 経済問題について

・多少の格差を生んでも、経済成長は大事だ
・公共事業はもっと減らすべきだ
・株価が上がることはいいことだ
・民間にできることは民間に任せていくべきだ
・これ以上高額所得者の所得税の税率をあげるべきではない
・福祉をこれ以上充実させるなら増税すべきだ
・法人税をこれ以上上げるべきではない
・自由貿易には賛成だ
・生活保護等の貧困対策にこれ以上予算を使うべきでない
⇒ あなたの経済的価値観は    点

◆ 社会問題について

・夫婦別姓に反対だ
・同性愛者を特別扱いすべきではない
・日本の伝統行事をもっと大事にすべきだ
・外国人労働者の受け入れ拡大には反対だ
・外国人観光客はこれ以上増やすべきではない
・国会議員の一定割合を女性とする制度の導入には反対だ
・親のしつけの一環として多少の体罰はやむを得ない
⇒ あなたの社会的価値観は  

<回答選択肢>
1.とてもそう思う
2.まあそう思う
3.あまりそう思わない
4.まったくそう思わない
5.どちらともいえない/わからない
<採点方法>
各設問で、1を選んだ場合は2点、2を選んだ場合は1点、3を選んだ場合はマイナス1点、4を選んだ場合はマイナス2点、5を選んだ場合は0点とし、すべての点を合計したものを設問数で割る。

(参考)<『枝野ビジョン』を読む>シリーズ

◆ <第1回>:リベラルな日本を保守するという意味不明:『枝野ビジョン』を読むー1(2021/7/3)
◆ <第2回>:コロナ禍による日本の課題認識と新自由主義批判は自分に還る:『枝野ビジョン』を読むー2(2021/7/4)
◆ <第3回>:未だ不明の支え合い、社会、政治と行政の正体:『枝野ビジョン』を読むー3(2021/7/5)
◆ <第4回>:漢方薬的薬効に頼る政策は政策にあらず:『枝野ビジョン』を読むー4(2021/7/6)
◆ <第5回>:リスクとコストにも支え合いを求めるリベラル保守の正体:『枝野ビジョン』を読むー5(2021/7/7)

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