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漢方薬的薬効に頼る政策は政策にあらず:『枝野ビジョン』を読むー4

 立憲民主党代表枝野氏自身が、満を持して、今秋ある衆議院議員選挙前に向けて自ら著わし、刊行した『枝野ビジョン 支え合う日本 (文春新書)』(2021/5/20刊)。
 その内容を読み、考えるところを述べていくシリーズを進めています。

◆ <プロローグ>:日本人はどこに向かうのか:「日本人価値観調査」から、コロナ後、望ましい2050年への政治を考える(2021/7/1)  
◆ <第1回>:リベラルな日本を保守するという意味不明:『枝野ビジョン』を読むー1(2021/7/3)
◆ <第2回>:コロナ禍による日本の課題認識と新自由主義批判は自分に還る:『枝野ビジョン』を読むー2(2021/7/4)
◆ <第3回>:未だ不明の支え合い、社会、政治と行政の正体:『枝野ビジョン』を読むー3(2021/7/5)
と続き、今回第4回は、<第7章 「支え合い」の社会における経済>と、<第8章 これからの成長の芽はどこにあるか?>がテーマです。

第7章 「支え合い」の社会における経済

1.内需拡大こそが経済政策の柱
・消費拡大のための新しいアプローチ
低所得者層を下支えして消費拡大
2.賃金の底上げと雇用の安定
・段階的に進める人件費の引き上げ
・公的サービスと労働法制
・安定的雇用と労働生産性
・「生産性」の意味
3.「安心」と再分配による消費の拡大
・老後の「安心」が消費拡大を生む
・自己責任論と少子高齢化社会の経済
・潜在的需要を掘り起こす
4.未来を支え合うための投資
・生産性向上と未来への投資
・公教育の立て直し
・失われた教育機会の確保を
・給付型奨学金の大幅拡大
5.漢方薬の役割

 以上が、第7章の構成です。
 支え合い社会を形成するための経済に焦点を当てた考察。

 初めの内需拡大を軸とする考え方には、本来供給をどうするかも一体化して政策化する必要があります。
 コロナ禍で経済活動で問題となったのが、サプライチェーン問題。
 長引くデフレ経済の活性化の必要性が、コロナでより大きく叫ばれるようになったのですが、人流・物流等の停止により最低限での自給自足経済確立の必要性も認識されることになったはず。
 一面的には、次章で経済対策として提案する少量多品種生産も関係しているかのようですが、狙いは「国際競争」に勝ち国際収支に貢献する狙いがあるもので、結びつけて考えたものではありません。

 2の<賃金の底上げと雇用の安定>に関する提起は、ほぼ同意できるものです。
 まずまずの提案内容ですので、以下に引用します。

 まずは、公的サービスに従事する比較的低賃金の皆さんの賃金を引き上げていく。
「支え合い」のために求められるサービスの多くが、重労働なのに低賃金、不安定雇用も多く、結果的に人手不足が慢性化している。看護師や保育士、介護職員、学童保育の指導員、さらには非正規が圧倒的に多いハローワークの職員や消費生活相談員、人手不足によって救うべき国民を救えない状況に追い込まれている児童相談所や労働基準監督署の職員などの賃金を底上げし、正規雇用を原則とする。最近は、自治体職員や教員まで無理に非正規化しているが、恒常的業務に就いているなら正規化する。
 そのためには、公的な財政支出を増やす必要があるが、最優先で財源を振り向けていく。
(略)
 純粋な民間については、最低賃金制度や労働者派遣法など労働法制の整備や、労働運動への間接的な支援といった、全体的なハンドリングの中で、誘導するのが基本だ。
(略)

 この内容と関連する記事を過去以下で投稿しています。
(参考)
准公務員制度導入で潜在的労働力の発掘と活躍へ:専門職体系化による行政システム改革-3(2020/3/21)
◆ 自立・人権・尊厳、労働生産性:介護行政システム改革の視点-1(2020/5/12)
◆ 介護士不足、介護離職、重い家族負担、中小介護事業倒産:介護行政システム改革の視点-2(2020/5/14)
介護の本質を冷静に考え、世代継承可能な制度改革へ:介護行政システム改革の視点-3(2020/5/27)
エセンシャルワーカー介護職、コロナ禍でも変わらぬ人材不足(2020/9/19)
ベーシック・ペンションによる雇用保険制度改革・労働政策改革:安心と希望を持って働くことができる就労保険制度と労働法制を(2021/2/13)

 次の<「安心」と再分配による消費の拡大>は、高齢者の老後の生活の安心と、子育て支援による安心の提供を図ることで、消費増に結びつけようというもの。
 そのための基本的政策は、医療や介護、保育などの給付サービスを手厚く給付することで、消費に回る金額を増やそうというものです。
 インパクトが弱い政策で、前項の<賃金の底上げと雇用の安定>と結びつけられ、給付サービスが安定的に提供できる基盤ができていることも必要です。
 相互の「支え合い」構造を形成するための経済を課題としての提起ですが、結局、鶏が先か玉子が先かの議論と同様で、消費が先にあって、その後所得増、税収増と続き、そこで初めて再分配が可能になり、支え合いが実現する。
 この連鎖・循環を、個別の経済的課題で切り取って、支え合い社会化とその経済基盤を確認しようというわけです。

 次の<未来を支え合うための投資>は、社会的共通資本の一つである「教育」への種々の投資提案です。
 これも、将来の所得増・税収増に直結する教育への投資を提案するもので、特効薬ではありません。
 そこでこの章の性格を確認することも兼ねて、<漢方薬の役割>を付け加えてこう結んでいます。

 ここまで挙げてきた政策は、即効性に乏しく、政策と効果との間の直接の因果関係が見えにくい。
 いわば漢方薬のような効果をもたらす政策である。
(略)
 日本経済を立て直すためにも、時間はかかるが、日本社会の根本に立ち返った漢方薬的な本質的治療を、粘り強く進めていきたい。


 がっかりしますね。
 自ら、歴史と伝統を重視しつつ「リベラル」を「保守」し、近代からの脱却を図ると公言した枝野氏。
 特段の劇薬は期待していませんが、端から漢方薬として、いつまでに、という目標期間・期限も示さない政策は、政策とは呼べないものです。
 これが、問題先送り、責任回避を旨とする、保守本流のもつ本質的な手法であり、スタンスです。
 そして現状の行政主体である諸官庁と官僚のスタンスでもあります。
 政治と行政を変えるのも、漢方薬の薬効待ち。
 それこそ、薬効も人によりけり、病によりけりで、その効果が保証・確約されているものでは決してない。

 まあ、ここで終わっては基も子もありませんから、一応最後まで伴走しましょう。
 
 

第8章 これからの成長の芽はどこにあるか?

1.国際競争に打ち勝つ少量多品種生産
・国際収支の黒字を保つ
・大量生産から少量多品種生産へ
・中小企業・小規模事業者こそが成長の中心
・中小企業・小規模事業者を守らないと・・・
2.自然エネルギー・環境立国への挑戦
・一極集中を転換するエネルギーシステム
・システムの力で高付加価値を生み出す
・電力は足りている
・政府のすべきこと
・断熱化を進める

 これが、第8章の構成です。

 まず、「少量多品種生産」ですが、大量とか少量の基準は、品種・品目ごとに基準に違いがあるわけで、明確に規定できないことを上げたいと思います。
 単純に少量多品種であるべきとは断定できない。
 国内需要を満たすことを基準に置く場合と、国際収支黒字を主張するならば、輸出部門についての生産・製造の質と規模が関係するわけで、そこでも競争を考えると大量・少量の基準を一律に決めることはできない。
 いわば、適量適品種生産であることが望ましい。

 また「中小企業・小規模事業者の成長」が重要なのは分かるが、それも業種業態で違いがあり、中小・小規模という括り方は、ベースの規模を考えると、ひとまとめにして規定することにムリがある。
 そう思います。
 ステレオタイプ過ぎる発想であり、大企業のベンチャー事業開発や、中小企業への投資なども融合する形で、経済全体と個々の業種を考慮する必要があります。
 枝野氏の主張は、中小・小規模事業も国際競争に勝てるよう育成・成長することを目指すべきというもの。
 私は、国内需要を質・量、価格的に安定的に満たす供給力をもつ中小・小規模事業の育成・成長も非常に重要と考えており、枝野氏はどうなのか、気になるところです。
 その目的を実現する上で、提案している「ベーシック・ペンション生活基礎年金」の導入が有効と考えています。
 詳しくは、http://basicpension.jp

 また、環境・エネルギー問題は、すでに「カーボンゼロ」政策・戦略が菅内閣により示されたこともあり、とりわけ差別化できる政策ではありません。
 その中で最大の問題は、原発政策。
 稼働原発が殆どない状態でも電力不足はない、という認識には同意できません。
 その理由は、再生可能エネルギーのコストが高く、消費者は高い料金を支払ってることです。
 高くても間に合っているということには矛盾があります。
 一方賛同できる提案もあり、新たに設置する送電網は国が担当し、管理するというもの。
 敢えて加えるなら現状の送配電網もすべて国有化し、民間企業の裁量に委ねない、真の電力自由化の基盤とすべきと私は考えています。
 エネルギーミックスのあり方はここで触れる必要はないでしょうし、もう一つ提案している省エネ、断熱化への支援も驚くような提案ではないので、取り上げません。


成長前提の経済政策の反リベラル性をどう自ら評価しているのか

 この章についてまとめると、エネルギー・環境政策について必要な紙面数には少なすぎて、深く考察するレベルになく、産業経済政策については、漠然とした、焦点の定まらない、ビジョンや提案と呼ぶには程遠いもので、読みどころはほとんどありませんでした。 
 それよりも、最近のリベラルの主張の根源・根幹は、脱成長および反緊縮政策に特徴が見られるのですが、枝野ビジョン論では、成長を当然の課題とした経済政策をイメージしていると見て良いでしょう。
 ということは、反リベラル、緊縮政策をとるのか、と見ることができるのです。
 これでは、自らリベラル保守の看板自体を下ろすかのようなもの。
 ここまでのインパクトのなさと合わせて、経済に弱いリベラルの本質そのものから脱却できない様相をみせられた気がしてなりません。

 守らんとする「リベラル」が「リベラル」としての価値を明確に持っているものか否か。
 そこに、漸進的とは言え、確実に従来とは異なる、しかも現実に機能すれば非常に望ましいと想像、イメージできる新しい政策があるかどうか。
 
 ここまでの保守的な考察、提案を根本から覆し、実現すべき、変化すべきリベラルとみなされる政策を果たして見いだすことができるか。

 次回は、<第9章 「機能する政府」へのアプローチ>と、<第10章 支え合う社会のためのいくつかの視点>がテーマとなります。
 いよいよ、ビジョンが提示されることに。
 楽しみにしたいと思います。

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