
小麦生産復活を国を挙げて:コロナ禍、ウクライナ侵攻等外的要因による物価上昇・インフレ抑止対策は、長期的自給自足社会経済システム整備で
少しずつ、よくなる社会に・・・

2022/9/26日経夕刊に、以下の記事が掲載された。
◆ コメから小麦、転作を支援 食糧安保で重要性増す 新潟県、栽培法研究し助言 三重県は販路開拓へ麺開発 :日本経済新聞 (nikkei.com)
一見ローカルな記事だが、重要な問題提起を含むこの記事を読みつつ、コロナ禍とウクライナ侵攻対策を投影させ、これに国葬をも重ね合わせてみた。
横道にそれるが。

値上げの秋を迎える日本の社会経済状況に、国葬を受けた故人は、どんな貢献をしたのか
反対が過半の中で行われた安倍元首相の国葬。
彼の政権下で設定された異次元の金融政策とインフレターゲット政策は、長期の政権下ではまったく成果をもたらすことはなかった。
すなわち、この結果からはアベノミクスは失敗だったことは自明である。
アベノミクスの成果を主張するグループが存在するが、極めてうがった見方である。
安倍政権の時期とは重ならないが、コロナ禍におけるグローバル社会でのサプライチェーンリスクの顕在化と、ロシアのウクライナ侵攻による、エネルギー資源と小麦等食料資源のサプライチェーンリスクの現実的拡大が、いとも簡単に、波状的な物価上昇を招くに至った。
こうした事象が予測不能のやむなきものとして扱われ、小手先の支援策に終始するのが、政府・政治の役割のようになってしまっている。
これは、安倍内閣時にもいえることで、故人のこの領域における国家への貢献度や政策の持続性などを考えると、国葬などに現を抜かしていることなどできないはずだ。
東日本大震災での民主党政権は、失政・失態で墓穴を掘り、その後立ち直れないほどのダメージを受けた。
その後を継いだのが安倍内閣であり、コロナ禍の最初の年には、2度めの健康上の都合による総理の座からの逃避は、困難時の責任からの逃避と軌を一にしている。
そして、ロシアによるウクライナ侵攻によるグローバル社会経済の混乱時における参院選の選挙応援中に命を落とし、有効な対策を講じる政権政党としての役割を果たすことなく、政治の舞台から姿を消した。
仮に生きていたとしても、都合のいい民主主義を前面に打ち出しつつ、国家の安全保障体制を強化する彼の生涯目標である自衛隊の国軍化を軸とする憲法改正への道をひた走るしかなかったであろう。
自給自足社会経済国家の創造という発想を抱くことなく。

米減反政策転換の有力選択肢、コメから小麦への転作を10年・20年計画で
話を本題に戻そう。
長くとられてきている、米の減反政策。
農政の癌ともいえるこの問題が、いつになったら大転換されるのか。
エネルギー政策の方は、EUの現実路線への転換を真似ればよく、先行例があるから、原発再稼働や小型の新たな原発建設など、しれっと転換してしまうだろう。
しかし、農政はどうもそう簡単にはいきそうにない。
従来からの課題として、日経は、「需要が減少傾向にあるコメからの転作を促し、農家の経営安定を目指す」べきとして、先述記事を位置づける。
そこに加えて、「ロシアによるウクライナ侵攻で小麦の国際価格が高騰し、食糧安全保障や価格安定の両面で国産の重要性が高まっていることにも対応する」として、一応はノーマルな見方を提起している。
ただ、エネルギー問題にしても、食料問題にしても、その産業構造と基盤となる資源の制約を考えると、数年後には大きな、根本的な変化をもたらしうる政策としては、この記事レベルで済ますことができるはずはない。
単純に食料や再生エネの自給自足度を、1年で1ポイント、2年で数ポイントと議論するレベルでは、行きつ戻りつの繰り返しに戻り、小手先の対策に終始してしまうだろう。
この記事では、道県レベルでの以下の取り組み例が紹介されているが、自治体に、5年、10年、20年後の目指すあり方は描けているのだろうか。
とてもとても期待はできまい。

道県自治体の小麦増産、取り組み事例
<新潟県>
今年2022年9月から県内数カ所で実証実験用の圃場を整備。
県農業普及指導センターが圃場で生育状況や収穫量を調査し、指導も。
小麦生産に初めて取り組む農家もあり、品質や管理方法等栽培のポイントをまとめた動画も制作・公開し、生産拡大に役立てる。
過去には作付けがほぼゼロの時期もあったが、今年6月時点での同県内の小麦の作付面積は100ヘクタール超で、前年産収穫時比で5割増に。
<福島県>
今年2022年、米作から小麦・大豆への切り替え時に給付する政府補助金に自治体支援金を加え、拡充。従来は、転作しやすい飼料用米への切り替えが多かったが、小麦等他作物生産への切り替えを重点化。
<三重県>
今年度2022年度は、生産から加工、販売までのルート構築強化。
もちもちした食感を特徴とする県産品種「あやひかり」を原料として、製麺業界と共同で新製品開発。
<北海道>
国産小麦の6割を占めるが、今年2022年、道・製粉会社・JAホクレン等で形成の「北海道産麦コンソーシアム」において、菓子用品種「北見95号」の普及を目指す。
同品種を含め、来期23年産小麦を前期比1割増産。
2021年産小麦の作付け約110万トンで、前年比16%増
これが、日経記事が紹介したローカル農政の1、2年の成果である。
小麦の年間作付けは、約110万トンで、これでも前年比で16%増加してのことである。
この記事を、今月5日に農林水産省が発表した、ほんとに大雑把な食料自給率の改善成果とし、あたかもこの政策が功をなしたかのように、以下のように示している。
2021年食料自給率前年比1ポイント増38%の要因は、小麦・大豆の生産量増加等
「小麦や大豆の生産が拡大したほか、新型コロナウイルス禍で低迷していた外食需要の持ち直しで、自給率の高いコメの消費がその分回復したことが寄与した」と。
よく読めば、政策の貢献でなく、コロナ禍の影響の弱まりがもたらした自給率改善に過ぎないわけだ。

以前は二毛作で米の裏作だった麦は、減反政策・兼業農業で大きく衰退
自給率をめぐる課題について考えるのは別の機会にと思うが、少なくとも、わが国の小麦の流通は、輸入への依存度が著しく高く、かつ市場価格は、政府の管理下にあることを知っておく必要がある。
すなわち、小麦価格の高騰が、食品の値上げの要因の最たるものだが、小麦を必要とする個々の国内事業者が輸入価格の高騰をもろに受けているのではなく、輸入の総元締め役の政府が、その調達価格の高騰を、政府から購入する食品製造業などに上乗せしているわけだ。
それも一つの流通システムの選択肢ではあるが、望ましいのは、輸入に頼らずに、適正な価格で、国内で生産・流通可能とすることだ。
山下一仁氏著『国民のための「食と農」の授業』(2022/3/16刊・日本経済新聞出版)には、こうある。
水田での米の裏作に麦を作る二毛作を行えば、農地を2倍に利用できるだけでなく、光合成による酸素の生産量は熱帯雨林に迫る。しかし、兼業化で田植時期が早まり裏作の麦は消えた。
二毛作を行えば、耕地利用率は100%を超える。
しかし、耕地利用率は兼業化により、1960年134%から1970年109%に大幅に低下。
減反開始の1970年以降さらに減少し、2020年91%に低下。
100%を切るということは利用していない農地があるということだ。
要するに、個々の個別の自治体の取り組みに終えることなく、日本全体で小麦栽培の復活を方針として掲げ、小麦栽培可能な土地の調査と確保を2~3年内に実施。
並行して5年、10年単位での小麦生産目標の策定と、都道府県個々の自治体単位での取り組み計画の立案と集計などを農水省主管で、国土交通省のバックアップを活用して推し進める必要がある。
当然その計画は公開し、進捗状況の把握・報告も定期的に実施する。

麦作振興を農業政策の柱に
今回の日経記事掲載から3ヶ月半ほど遡る、2022/6/16付日経に、
◆(私見卓見)麦作振興を農業政策の柱に Bakery&Cafe TSUMUGI 竹谷光司 :日本経済新聞 (nikkei.com)
という投稿記事があった。
製粉会社退職後、千葉県内でパン屋を経営する竹谷光司氏が、ウクライナ侵攻後の小麦価格の高騰を受けての投稿だった。
我が国の小麦自給率は約14%、パン用小麦に至っては3%にすぎず、その一方で42万ヘクタールを超す耕作放棄地が存在する。
5月半ば、インドが熱波による小麦生産への悪影響を懸念し、国内供給を優先し小麦輸出を停止。
約15年前、100年に1度とされる干ばつがオーストラリアで2年連続発生の影響で、小麦生産国の多くが輸出禁止。
国民の食料確保に責任を持つ農林水産省が当時、世界の小麦輸出可能国の小麦品質(農薬基準や日本の小麦使用製品に対する品質適性)を幅広く検査。
その検査に携わった同氏は、国産小麦の品質が、国産のパン用小麦のデータと比較しても劣らず、高品質に改善が見られたという。
この後、国産のパン用小麦のパン用原料としての適性である製パン性の向上を実現している、北海道の「春よ恋」「ゆめちから」、関東の「ゆめかおり」などが、世界の代表的パン用小麦であるカナダの「1CW」、米国の「DNS」と比べても遜色のないことを提示。
一方、小麦の品質を無視した補助金交付等を含め、実需者のニーズに対応した生産システムになっていないことを指摘し、農業政策における麦作振興を稲作並みに重視すべきと主張している。
その取り組みは、耕作放棄地の活用、農業人口の減少対策(麦作は稲作より労働投入量が少ない)、食料自給率の向上など、日本の農業の抱える問題点の改善につながると、広い視野からの提案となっており、多くの賛同を得る提案と高く評価したい。
最後のこの言葉も沁み入る。
日本のパン屋は、稲穂の国のコメ余りの中、外国産小麦でパンを作ることに「何となくの罪悪感」を持っている。国産小麦を使い、何の憂いもなくパンを焼ける日が来ることを夢見ている。


少しずつ、よくなる社会に・・・
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