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グローバル経済

新味に欠く、繰り返されるケインズ学派の退屈な一般論:日経<経済教室>「財政政策と国債増発の行方」から-1

20年、30年後の社会を生きるすべての世代へ

日経<経済教室>が、2022年2月6日から「財政政策と国債増発の行方」と題して3人の経済学者による小論を3回にわたって連載した。
それぞれを当サイトで順に取り上げ、感じたところをメモしていきたい。
先日シリーズを終了した、中野剛志氏著『世界インフレと戦争 恒久戦時経済への道』で展開された財政政策やインフレ論に対する関心が、こうした論述への関心を高めることになったためでもある。

1回目は、福田慎一東京大学教授により「日銀依存の債務拡大 転機も」と題した小論。
ごくごくオーソドックスな論述ゆえに、面白くもないし、参考にもならないし、何より、政府も財務省も、この類の主張提案を目にしても何とも思わないことは想像がつく。
なにより、執筆依頼して掲載した日経が、どう思うか、尋ねてみたいところだ。
本論に入り、重点と気になる点を取り上げ、思うところを気ままに、思うままに・・・。

導入部は、以下である。

2023年度政府一般会計予算114兆円中、新規国債歳入35兆円超、依存度31.1%の変わらぬ国債依存度

こうした財政を受けて、「限られた予算をどのように配分していくか、これまで以上に難しい局面に入ったといえる」と筆者。

これまで以上に、とした理由が、次に展開されている。
が、実際は、去年・今年に始まったことではなく、長く続いていることなのだが。

政府債務残高GDP比率の異常値が示す財政危機

よく他の先進国と比較されて、わが国の財務状況の酷さを表すのが「政府債務」に関するデータ。
一般政府(中央政府・地方政府・社会保障基金)の債務残高の国内総生産(GDP)比率がそれだが、
・政府が保有する資産を考慮しないグロス(総額)での比率 
・資産を差し引いたネット(純額)での比率
2種類が用いられるが、前者が約250%、後者が約140%で、財政事情が危機的なギリシャやイタリアの危機的状況と同程度の深刻さであると。
これも指摘され続けていること。
以下のグラフの右肩上がりは、今に始まったことではなく、40年間以上にわたる推移である。

出典:https://ecodb.net/exec/trans_country.php?type=WEO&d=GGXWDG&c1=JP&s=&e=
出典:https://ecodb.net/exec/trans_country.php?type=WEO&d=GGXWDG_NGDP&c1=JP&s=&e=
出典:https://ecodb.net/exec/trans_country.php?type=WEO&d=GGXWDN&c1=JP&s=&e=
出典:https://ecodb.net/exec/trans_country.php?type=WEO&d=GGXWDN_NGDP&c1=JP&s=&e=

巨額な政府債務は、経済成長の低迷をもたらす傾向がある

というのが筆者の主張の第1弾だが、元はと言えば、経済成長を実現するための財政政策ではなかったのか。
それは主流派経済学者の主張と一致する政策だったはずではなかったのか。
政府債務が増大すれば、民間投資に向かう資金はおのずと減少する。」
としているが、債務増大が向かった一部が経済成長のための民間投資ではなかったのか。

巨額政府債務に対して不足する危機感の要因

巨額な政府債務を抱えるが、危機感が希薄な日本。
それを示すのが、国債残高の増加が長期化する中での国債利回りの低下。
その要因をとして以下の2つを挙げている。
1)日本の貯蓄と投資のバランスが大幅な貯蓄超過にあり、民間部門の余剰資金が国債購入に向かい、低利回りで推移。政府部門の赤字を補ってきた
2)日銀の異次元の金融緩和政策下で実施してきた、長期国債を買い入れる長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)。国債利回りを0%近傍に押し下げてきた。

日銀の国債保有率の異常な高さ

前項で、2つの要因を挙げたが、1)と2)が同時に機能したわけでもない。
日本の国債・財投債の保有者の内訳をみると、
1)国内の資金余剰を反映し、従前は銀行、保険・年金基金等の保有残高のシェアが大
2)近年は日銀保有率が高まり、2010年の8%未満から50%超
日銀への依存体質が、国債の利回りを押し下げてきたことは自明である。

出典:「日銀資金循環」統計より

マクロ環境の大きな転機と国債リスクの高まり

異次元の金融緩和にもいよいよ転機が、と思わせることになったのは、インフレターゲットが話題にならなくなった折に発生したコロナ・パンデミックとウクライナ戦争を契機・要因としての急速・急激な物価高、インフレ。
筆者は、これをマクロ環境の一大転機と位置付け、特に注意を払うべきは、物価と賃金の動向、と。
即ち、物価と賃金の上昇が続けば、
・日銀による異次元の金融緩和政策は見直され
・伴なって、国債の利回りも上昇へ
現状急騰する可能性は低いが、一旦利回りが急上昇すれば、日本経済に次のような副作用の懸念、と。
・国債大量保有金融機関に、大きな含み損が発生し、金融市場が不安定化
・国債の利払いコスト増で、巨額な政府債務が更なる拡大
そして、過去の諸外国の経験から、財政危機が突然訪れるリスクに警鐘を鳴らす。

これも、特段に事新しい指摘、問題提起ではない。
過去の諸外国の財政破綻の具体例は示されていない。

有効な政策に必要とする政策の有効性の検証は可能か?

では、筆者が考える国債リスク回避策とはどういうものか?
曰く、「支出を一律に削減する緊縮財政は望ましいとはいえない」。
そして、長くデフレ下にあったゆえに
民間の投資を誘発する政府支出を拡大することが停滞からの脱却につながる
・少子高齢化社会を見据え、コロナ禍で加速した少子化の流れに歯止めをかける対策も不可欠。
やはり、財政出動を否定せず、むしろ必要というわけだ。
では、実際のところどうするのか?

ここからの提案が面白い、というか、冗談がきついとでもいうべきか・・・。

支出決定に際しては政策目標を明確にし、その有効性を常に検証することが肝要」と。
例えて挙げたのがこういうことだ。
1)「少子化対策に関しては、結果的にこれまで出生率を引き上げられなかった。
データを適切に分析して効果が確認された支出のみを実施することが、ケインズが言う賢い財政支出、ワイズスペンディングの実現につながる。」

少子化対策の効果を示せと。
一体、個別のぶつ切りの政策を少子化対策とする財政支出が、どれほどの効果を産み出すと、本気で考えてのことだったかどうかまず疑わしいが、では筆者自身が、それを分析できるというのかどうか。
少子化対策予算に限らず、保育や介護、障がい者福祉行政などは、社会保障行政に充てる予算の効果を、公正に分析などできる領域ではあるまい。
ケインズが言う賢い財政支出を言う前に、賢い予算化の方法や、賢い政策立案、遡って賢い政治を実現する方法を論じる方が先と思うのだが。

繋いで筆者はこう言う。
2)財源に関して、まずは費用対効果が小さい歳出の削減により確保することが望まれる。
歳出の32%強を占める社会保障関係費についても、メスを入れることは避けられない。
思い切った行財政改革を断行し、無駄な歳出を削減する姿勢を国民にわかりやすい形で示す必要がある。

ならば、こうした効果がでない、分析不能な政治・行政を行ってきた内閣や国政自体が、適切な、望ましい費用対効果を生み出しているかの検証・分析が先だろう。
そう考えると、思い切った行財政改革の真っ先に向かうべきは、国会議員報酬の削減や国会議員定数の削減、関係官僚の報酬削減だろう。
加えて、そうした政治や行政に間接的に加担してきた、学者や各種政府の諮問機関への支出も評価の対象とすべきだろう。
これが最も国民に分かりやすい形である。

最後の手立ては、平時の財政健全化、とするケインズ学派の限界

「ただ、日本の政府債務は、それだけでは到底解消できない水準に達しているという危機感を持つことも必要だ。」で、小論のまとめが始まる。
危機感を持てば事が改善に向かうのなら誰も苦労はしない。
「今後起きうる危機に備えて、平時のうちに財政をできるだけ健全化しておくことが必要」であり、「
増税や社会保険料引き上げの道筋を示すことは危機を未然に防ぐと同時に、将来世代の負担を軽減するためにも避けて通れない。」と紋切り型の、したり顔の発言が続く。
現役世代・高齢者世代間抗争を煽る議論というパターン化からいつ脱却するのか。
どうしても、「将来世代負担」論に結びつけ、再考を促したいわけだが、一体全体誰に向かっての発言なのか、いつもこの表現を見るたびに不思議に思う。
もうそろそろ、マシな提案をすべきと思うのだが、十年、二十年、いや、よりはるかな年数も一日の論にとどまったままだ。

そしてこんな言い訳、逃げ道もずる賢く用意するのだ。
経済政策には、短期的に望ましいと思われる政策が中長期的には望ましいものでなくなる動学的不整合性がある。政府が足元の経済状況のみに注目し、その場しのぎのバラマキ政策を繰り返せば、結果的に経済の新陳代謝は遅れ、非効率な経済状況が実現する。ゆえに、財政政策も先を見据えて運営することが必要だ。場合によっては痛みを伴う改革が避けられないが、望ましい経済社会を実現するうえで有用だ。」

これを主流派マクロ経済学者の見識・慧眼と見るべきか、常に第三者的立場に身を置く無責任な論者の戯言と聞くか。
財政・金融政策に万能の策が、長い経済学の歴史において存在も、実現もしなかったことを棚に上げての専門研究者の論述。
その効果の評価のものさし・基準がどういうものか知るよしもないが、どうやら、批判評価される財政・金融当局当事者と批判評価する学者は、同じムラで禄を食む同類の人々のような気がしてしようがない。

新進気鋭の経済学者、リーダーの出現を!

新進気鋭の、と一時期は呼ばれた多くの学者も、みな高齢化が進み、いつの間にか後期高齢者グループに属している人々も。
従来とはまったく異なる、新進気鋭の、リーダーシップをもった若手研究者や政治家の出現を心から願っているのだが・・・。
しかし、こういう一般的な学派経済学者が多くを占め、多くの学生を教える大学が大半であれば、期待すること自体がムリなのであろうか・・・。

次回、「財政政策と国債増発の行方」からシリーズ、第2回。
鎮目雅人早稲田大学教授による「経済力こそ国防の基盤」と題した小論を取り上げます。

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