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なぜ今マルクスか、「人新世のマルクス」:『人新世の「資本論」 』が描く気候変動・環境危機と政治と経済-2

前回、『人新世の「資本論」 』(斎藤幸平氏著:2020/9/22刊)に絞ってのシリーズを始めました。

地質学的視点からの定義で、人類が地球を破壊し尽くす時代」を意味する「人新世」をタイトルに用いているように、本書の軸となるテーマは、資本主義がもたらした気象変動がもたらす地球環境の危機、敷いては地球滅亡の可能性です。
そしてもう一つは、「資本論」としているように、資本論で認識されているカール・マルクス(1818-1883)の思想の見直しを、その気候変動と結びつけて行うことです。
新マルクス論と言ってよいかと思います。
そして最後に、脱成長によるコミュニズムの実現の提案に至ります。

その提案のプロセスとロジックとその内容を辿ることを目的として始めた第1回が、以下。
帝国的生活様式、グリーン・ニューディール、気候ケインズとは:『人新世の「資本論」 』が描く気候変動・環境危機と政治と経済-1(2021/4/25)

第2回は、第4章「人新世のマルクス」だけを対象とすることに変更しました。


なぜマルクスなのか

そもそも、地球環境破壊がもたらす地球の終焉リスクを、資本主義がもたらしたものとして、その抑止・恢復を実現するためにマルクスが必要なのか。
率直なところ、読み終えた今も私にはしっくりきません。
前回の中で余談として紹介した、本書を推奨する中島岳志氏のコメントに
「本書が提起する「コモンズの復権」は、保守も同意するところだろう。マルクスをソ連からレスキューし、新たな地平を開こうとする姿に感銘を受けた。」
とありました。
「保守も同意する」点については、追って確認しますが、「マルクスをソ連からレスキュ」してどうなるの、あるいはどうするの、と感じています。
斉藤氏の『大洪水が起きる前に』がマルキシスト及びマルクス研究者の賛辞を得た。
しかし、その書では、今回の本書『人新世の「資本論」』で提起した内容には至っていなかったといいます。


マルクスがめざしていたものの変遷


紹介する順番が逆になりますが、マルクスの辿っだ道は、以下であると筆者はしています。

1.生産力至上主義    1840年代~1850年代 
2.エコ社会主義     1860年代
3.脱成長コミュニズム  1870年代~1880年代


一般的なマルキシズムとして理解されているのは、この<エコ社会主義>までのこと。
3番目の<脱成長コミュニズム>が、マルクスが考える資本主義終焉後の望ましい社会の創出を可能にする。
それが、人新世の「資本論」完結編ということですね。

果たして、マルクスが、気候変動が現在の地球危機を招くことを予想していたのか。
それこそ、無理があることと思うのですが、そう強く結びつける根拠を、晩年のマルクスの研究から見出し、マルクス理論の総仕上げを21世紀の学者が行う。

近年MEGAと呼ばれる新しい「マルクス・エンゲルス全集」の編集・刊行に、筆者斉藤氏も含む、世界各国の研究者が参加しているとのこと。

元々マルクスは、資本主義の発展が生産力の上昇と過剰生産恐慌、によって、早晩社会主義革命を準備し、実現されると楽観視していた。すなわち「生産力至上主義」である。
しかしその実現を見ることなく、恐慌を繰り返し乗り越える資本主義の強靭さに直面し、その認識を修正。
それが展開されたのが『共産党宣言』後ほぼ20年後の1867年刊行の『資本論』第1巻である。
上記の「エコ社会主義」の考え方が、そこに盛り込まれているとするが、その後、自ら第2巻の刊行に至ることがなく、マルクス、彼の遺稿をエンゲルスが編集・解釈して第2巻・第3巻を刊行。
その内容は、晩年のマルクスが残した「研究ノート」を正しく活用したものではないという。

マルクスは、1868年以降、続編を完成すべく苦闘する中で、資本主義批判を深め、理論的な大転換を遂げた。
その結果を「脱成長コミュニズム」と結論づけているのです。

これで終わって、さてこれからどうなるか、と話を直線的に進めるのではなく、そう解釈するに至る要素・要因を、本章でもう少し確認することにします。

マルクス再解釈の鍵、「コモン」「共」


まず、マルクスの再解釈の鍵の一つとなるのは「コモン」。

「コモン」とは、「共」とも呼ばれる考えで、社会的に人々に共有され、管理されるべき富。
アントニオ・ネグリとマイケル・ハートの2人のマルクス主義者が提起した概念。
アメリカ型新自由主義とソ連型国有化の両方に対峙する「第三の道」を切り拓く鍵
市場原理主義のように、あらゆるものを商品化するのでもなく、ソ連型社会主義のようにあらゆるものの国有化をめざすものでもない。
第3の道として「コモン」は、水や電力、住宅、医療、教育などを公共財として、自分たちで民主主義的に管理することをめざす、とします。

余計なことですが、国、公とは何かを私は以下で考察してきています。
国家、公「おおやけ」「こう」、公共の意味とその正体:憲法から考える国政と主権(2021/3/16)
公共、公的なるものの正体:公費、公的資金から考える国家財政と経済-1(2021/3/17)
国費、公共費の再定義と財政改革を:公費、公的資金から考える国家財政と経済-2(2021/3/18)


このコモンの対象を地球まで広げて管理しよう、管理すべき、というのがマルクス再解釈で提起される考えになります。
マルクスの「コミュニズム」は、生産者が生産手段をコモンとして共同で管理・運営する社会のこと。
先の公共財も含め、かつ地球までそうしようとしたと解釈するのです。
実際に『資本論』のなかに、否定の否定として、「協業と、地球と労働によって生産された生産手段をコモンとして占有することを基礎とする個人的所有をつくりだす」という一文を引用して。

ん~~!?


社会保障をうみだしたアソシエーション

ちょっと視点が変わると思いますが、もう一つ、興味深く読んだ個所を紹介します。

ジジェクに拠るところの、文化(知識)、外的自然(自然環境)、内的自然(人権)、人間(社会)そのもの。
この資本主義で解体された4つのコモンズが再建された社会を、マルクスは「アソシエーション」と呼び、将来社会を描くにあたって「共産主義」や「社会主義」という表現を殆ど使っていない。
労働者の自発的なこの相互扶助(アソシエーション)がコモンを実現する、とするのです。

すなわち、コモンは21世紀に入ってからの新しい要求ではなく、現在、国家が担っている社会保障なども、元々人々がアソシエーションを通じて、形成してきたコモンにその源があると言います。
それが20世紀に福祉国家のもとで制度化されたに過ぎないと。

文化人類学者デヴィッド・グレーバーの言を借りて「アソシエーション」から生まれたコモンを、資本主義のもとで制度化する方法の1つが、福祉国家だった」と。

ここでも私は、ん~~!? です。
否定もできないかもしれないが、積極的に肯定、あるいは断定などできはしない、のです。
解釈と言えば解釈、深読みといえば深読み、こじつけと言えばこじつけ。
自由です。

脱成長コミュニズム提案までの展開

さてここまでの殆どが、第4章の序盤。
筆者を始めとするさまざまな学者の研究や、現実事例などを用いて先述の3つ目の段階、脱成長コミュニズムに至るまでを確認することが大切ですが、それでは、長くなりすぎます。

横着して、小見出しを順に列記することで、おおよそのこの章のこの後の展開をイメージ化し、確認する作業に替えたいと思います。

・物質代謝論の誕生 ー 『資本論』でのエコロジカルな理論的転換
・資本主義が引き起こす物質代謝の撹乱
・修復不可能な亀裂
・『資本論』以降のエコロジー研究の深化
・生産力至上主義からの完全な決別
持続可能な経済発展を目指す「エコ社会主義」へ
・進歩史観の揺らぎ
・『資本論』におけるヨーロッパ中心主義
・サイードによる批判 ー 若きマルクスのオリエンタリズム
・非西欧・前資本主義社会へのまなざし
・「ザスーリチ宛の手紙」 ー ヨーロッパ中心主義からの決別
・『共産党宣言』ロシア語版という証拠
マルクスのコミュニズムが変貌した?
・なぜ『資本論』の執筆は遅れたのか
・崩壊した文明と生き残った共同体
・共同体の中の平等に出会う
新しいコミュニズムの基礎 ー 「持続可能性」と「社会的平等」
・「ザスーリチ宛の手紙」再考 ー エコロジカルな視点で
・資本主義とエコロジストの闘争
・「新しい合理性」 ー 大地の持続可能な管理のために
真の理論的大転換 ー コミュニズムの変化
・脱成長へ向かうマルクス
「脱成長コミュニズム」という到達点

かなり回りくどく感じるプロセスですが、マルクスの「研究ノート」の研究や彼自身の活動などを紹介しながらようやく、先程紹介した<マルクスがめざしていたものの変遷>のでの「脱成長コミュニズム」という到達点に辿りついたわけです。

そして

・脱成長コミュニズムという新たな武器

を手に入れ、それにより可能となった

・『ゴータ綱領批判』に新しい読み方

から
コミュニズムにおける社会的共同体は、ゲルマン民族のマルク協同体的な富の管理方法をモデルにして、西欧において再構築されるべきこと。
そしてこの定常的経済原理こそが、湧き出てくるような富の潤沢さを実現すること。
コモンがもたらす「ラディカルな潤沢さ」をもたらすことで、マルクスが最晩年に成し遂げた理論的大転換をもたらした。
こうして、ついに

マルクスの遺言を引き受ける

ことを宣言するのです。

以上が、マルキシズムとは縁遠い私の、第4章<人新世のマルクス>の苦渋・苦肉の総括でした。


※なお、赤字は、すべて第4章中の小見出しです。

なぜ自らの名で、脱成長論、資本主義滅亡論を提示しないのか

まあ、マルクスをソ連からレスキュできれば、マルクスの歴史的評価を変えることができる、それが変わることになるのですが、それが本人にとって名誉なことなのか、名誉回復になるのか、故人には関係のないことと思います。
意地の悪い言い方をすれば、研究者のための研究、研究者としての評価を高めるための研究みたいなもの。
研究の目的、本質の一端はそこにもあるのではと思うのです。

それよりも、地球環境・天候変動の現実を直視し、追及すれば、マルクスを持ちいずとも、マルクスに頼らなくとも、現代とそしてこれからの社会に不可避・不可避の取り組みを求めるものとして、自分たちの名前で主張・提案すればよいと思うのですが。
それとも過去名を成した著名学者の主張とすれば、現代人がより真剣・真摯に受け止め、脱成長のコミュニズム実現をめざす活動に迅速に取り掛りかかると思ったのでしょうか。
やっぱり意味不明、動機不明です。

まあ、こんなコトを言うことに価値があるはずもないのでやめにし、脱成長論の根拠と真髄を探るべく、次回、第5章<加速主義という現実逃避>、第6章<欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム>に進むことにします。

最近読んだ以下の3冊の新刊新書を参考にしての、これからの日本の政治と経済について考えるシリーズを始めています。
本稿もそのシリーズに組み込まれるものです。
序論としての初めの2回の投稿は以下です。
資本主義、資本論、社会主義から考えるコロナ後の日本の政治・経済・社会(2021/4/19)
経済重視の左翼対脱経済のコミュニズム:資本主義をめぐるこれからの政治と経済(2021/4/20)

・『資本主義から脱却せよ~貨幣を人びとの手に取り戻す~』(松尾匡・井上智洋・高橋真矢氏共著::2021/3/30刊)
・『人新世の「資本論」 』(斉藤幸平氏著:2020/9/22刊)
・『いまこそ「社会主義」 混迷する世界を読み解く補助線 』(池上彰・的場昭弘氏共著:2020/12/30刊)

次、第3回は、こちらになります。
⇒ 資本主義と左派加速主義批判の後に来る脱成長コミュニズム:『人新世の「資本論」 』が描く気候変動・環境危機と政治と経済-3(2021/4/29)

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