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国土・資源政策

リチウム等レアアース資源保有国の保護主義と持たざる国日本の経済安保政策

 

 先日、コロナ禍とウクライナ侵攻後に見られる保護主義・自国優先主義の動向について、EVと小麦等農産品、2つの産業領域における状況を、以下で取り上げた。
⇒ 米国EV税優遇、自国3社のみ。ポーランド等NATO及びEU加盟東欧国、ウクライナ農産品禁輸:共通する自国第一主義・保護主義と向かうべきその方向(2023/4/20)

 こうした国家レベルの政策は、日本のような生活上および経済上、基礎的あるいは重要資源を持たない国においては、戦争・紛争時や大規模自然災害時には、ほとんど有効な対策上の選択肢がないに等しい。
複数のサプライチェーンを構築し、常にいずれか選択可能なオプションを用意しておくことは容易ではない。
いわゆる経済安保の概念で捉えられるこの問題は、民主的国家と覇権国家との二元的な分断を前提として、それぞれのグループごとに異なるサプラーチェーンを形成すれば、ほぼ十分に機能する、という単純なものでもない。
米国政府による、前出記事におけるEV電気自動車の販売優遇措置は、その身近な例の一つである。
ゆえに、日本も、単純に、米欧のグループに属し、貿易や経済、政治等の政策を同じくする国家と認識し、安閑としているわけにはいかない。

EV製造資源リチウム生産シェア2位のチリ、国有化へ

 冒頭の記事投稿の2日後には、南米チリが、自国内のリチウム産業の国有化を発表したことが報じられた。
現状、EV製造に不可欠な資源であるリチウムの生産は、52%のシェアを占めるオーストラリアに次いで、チリが25%で2位、中国13%で3位、4位アルゼンチン6%と、4カ国で96%を占める寡占化状態にある。
以下ブラジル1%(2022年国有化)、残り3%他諸国。
(参考)
⇒ チリ、リチウム国有化へ  生産世界2位 EV供給網リスクに – 日本経済新聞 (nikkei.com) (2023/4/22夕刊)

リチウムの生産方法とは

 リチウムはレアメタル(希少金属)の一つで、1)採掘鉱石 2)塩分を含んだ水 などを原材料として生産される。

産出資源の国家財政活用と課題

 原油その他の資源産出国が、その収益を社会保障の原資として活用することは、左派政権や独裁政権が入れ替わり立ち替わり誕生する南米国家などでよく見られることだ。
しかし、その放漫財政化や利権を巡る政争等も後を絶たず、インフレや財政危機を招く例も多い。
今回のチリ政府の意図も、希少なリチウム生産の国有化で、経済的収益を国家財政に活用するためのもの。
現状自国民間会社SQMと米国企業アルベマールが、それぞれ2030年と2043年まで生産が認められており、いきなり100%国産化が実現されるわけではない。
ただ、中国リチウム大手天斉リチウム業が2018年、SQMの発行済み株式の約24%を取得済みという。
チリは早くから、中国と外交関係を結んでおり、今回の左派大統領の決定も習近平中国と歩調を合わせる一環とみることができる。
 いくつかは王政国家である中東産油国では、その豊かな国家財政を活用して、化石燃料は有限であることを一応認識し、再生可能エネルギー事業開発に膨大な投資も行っている。
国際情勢や各国の政治動向などで供給が不安定化するリスクは既に経験済みであり、今後は一層厳しさを増す。


日本のレアアースを巡る状況

 持たざる国、日本の資源政策の取り組みと進捗は遅く、歯切れが悪い。
日本では、リチウムの原料である炭酸リチウムを海外から輸入しており、2020年には75%をチリに依存しているという。そのため、何らかの影響は免れないとみられる。
また、日本でリチウム生産権益を持つのはアルゼンチンの塩湖で生産されるリチウムを輸入する豊田通商などに限られ、安定的な調達体制づくりが不可欠な状況にある。
一方、電池生産シェア世界トップの中国は、国家方針として資源政策を強力に推し進め、海外プロジェクトへの投資活動も加速している。

リチウム独自抽出技術で2028年リチウム生産に乗り出す住友金属鉱山

 実は、2023/4/11付日経では、住友金属鉱山が、2028年に南米アルゼンチン、チリでリチウム生産に進出する旨、以下で報じている。
⇒ 住友鉱山、リチウム生産  南米で28年にも 新技術で権益確保 – 日本経済新聞 (nikkei.com)
 同社は、リチウムイオン電池の中核部材「正極材」の世界大手という。
その正極材には、リチウムやニッケル、コバルト等のレアメタルが原料に使用されている。
これまで、ニッケルやコバルトの海外生産は手掛けていたが、リチウムはほぼ海外企業による生産に依存。
しかし、純度の低い塩分を含んだ水から高効率でリチウムを抽出できる吸着剤の独自技術を開発し、2028年にリチウム生産を始めるという。
この技術で、抽出に必要な期間を1年から1週間程度に大幅削減し、かつ抽出工程で必要な薬剤コストも約10分の1にしたことで、収益性が低く資源開発が難しい地域での採算確保のメドが。
海外資源開発大手との合弁設立や共同出資により、権益確保、吸着剤の技術供与等を図る。
想定する原料生産量は、数十万台のEV電池に必要な年2万〜3万トン規模。
アルゼンチンやチリなど南米の塩湖での生産を検討していると報じているが、ここで冒頭のチリの国有化問題が出現したわけだ。
どのような影響を受けるか、気懸かりではある。
こうした不測の事態は、コロナ禍やウクライナ侵攻等の不確実性の延長線上のことと考えるべき時代に常時あると考えるべきだろう。

※アルゼンチンの塩湖サリーナグランデス (冒頭の画像はチリの塩原)

経済安全保障推進法による「特定重要物質」確保政策と今後の懸念・課題

 日本政府も、経済安保意識を否が応でも高めつつあり、昨年来、台湾TSMCの熊本工場建設や国内合弁半導体企業ラピダス設立への補助金支出など矢継ぎ早にその気は見せている。
リチウム、レアアースなど希少資源対策としては、同じ2023/4/22付日経で、以下の報道があった。
⇒ リチウム採掘・レアアース製錬、最大5割補助  経産省、脱中国依存めざす – 日本経済新聞 (nikkei.com)

 日本政府は昨年末、経済安全保障推進法の「特定重要物資」に関し半導体やリチウムを含めた重要鉱物など11分野の指定を閣議決定。リチウム確保に官民挙げて取り組む。
こういう触れ込みだ。
 そこでの目的や方法などの重点を列記してみる。
・経産省が、日本企業の重要鉱物の鉱山開発、製錬事業を最大半額補助
・エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の基金を通じて支援
・リチウム、マンガン、ニッケル、コバルト、黒鉛、希土類金属を主な支援対象に
・リチウムやレアアースなどの原材料確保の特定国依存から供給網の多様化へ
・鉱山の採算性、品質地質調査などに補助金(5年以内の期間想定)
・採掘鉱山開発、鉱物から金属を抽出する製錬事業も対象:採掘と製錬開始から5年以上の事業継続、生産物の一定量の日本への供給、需給逼迫時の全量供給努力等を条件に
・鉱物資源の製錬工程での生産性向上、コスト低減技術開発も後押し

 先述した現状確認の一環として、重要鉱物における中国の国別製錬能力シェアを確認しておこう。
リチウムイオン電池の正極材に使用のリチウム58%およびコバルト65%、負極材に使用の黒鉛71%、とニッケルは35%他を圧倒的に凌駕し、レアアースの製錬のほぼ全量を中国が有するという。
過去2010年の尖閣諸島を巡る対立により、中国がレアアースの対日輸出を一時的に停止。
この時、供給不足により日本の産業界は価格高騰もあり混乱をきたした苦い経験がある。

 将来の電池需要の大幅な増大で、2040年のリチウム需要量は2020年の10倍超と大幅な不足も想定される。
先日日本で開催されたG7気候・エネルギー・環境相会合で、レアアースなどの重要鉱物で資源国との連携による安定供給網の構築に合意したが、その実効性は今後の課題である。
こうした取り組みは必須であるが、一方レアアースであることは、「レア」という言葉がその意味を示している。
特定重要物資の原材料資源自体が無限に、手の届くところにあるわけではない。
従い、無限とはいえなくとも、極めて低コストで必要量を確保できる代替資源、代替材料の開発への投資も、研究途上の情報収集と評価を含め、並行して進めていくべきことはいうまでもないだろう。

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