米国EV税優遇、自国3社のみ。ポーランド等NATO及びEU加盟東欧国、ウクライナ農産品禁輸:共通する自国第一主義・保護主義と向かうべきその方向

国政政策

米国EV税優遇制度改定で示された自国優先主義

従前から関心を集めていた、米国のEV(電気自動車)購入時の税優遇措置の適用範囲。
結局、想定されていた最悪の、米国企業のみを対象とし、他のすべての日欧韓メーカーは排除されると決定された。
北米で生産・調達を行う米国メーカー3社の11車種に限定されることに。

これまでは、消費者が最大7500ドル(約100万円)の税額控除を得られる販売支援策を採用。
2022年8月成立「歳出・歳入法」で支援対象を北米生産車に限定する等新たな要件を定め、段階的に適用。
4月18日からは
1)車載電池部品の一定割合を北米で製造
2)電池使用の希少金属等重要鉱物の一定割合を米国及び自由貿易協定(FTA)締結国から調達
という要件を設定。
これにより、対象車種は14から11に減少した。
18日から新たにという2つの条件を適用。新たな要件が加わるため、販売支援のハードルは高くなり、対象車種数もこれまでの14車種からテスラ2、GM6、フォード・モーター3の11車種に減った。
日産(リーフ)、韓国ヒュンダイ、独VWが税優遇適用対象から外された。
自国優先主義、言い換えれば保守主義が見え見えである。
それを批判することはあまり意味があるとは思えない。

米3社は、その保護下で、中国製が3台に1台と激化する中国EV市場における競争に今後挑むことができるということか。
(参考)
⇒ EV税優遇、米3社のみ  テスラなど11車種 日欧韓は対象外に – 日本経済新聞 (nikkei.com) ( 2023/4/18夕)

中国EV市場の激変と変化する日本のプレゼンス

それにしても、中国におけるEV車比率の高さと多さは桁違いだ。
以下の日経記事1面に取り上げられている。
⇒ 中国、3台に1台EV 販売競争激化で2割値下げも  米は税制で自国勢優遇 – 日本経済新聞 (nikkei.com)( 2023/4/19)
今年2023年の中国の見込み新車販売台数は昨年比3%増2760万台。
EVなどの新エネ車は3割増900万で新車全体の3割に達すると。

中国のEV市場は米国(22年で81万台、EVの比率は6%)や欧州主要18カ国(153万台、15%)、日本(22年度で7万7238台、2.1%)を大幅に上回り、成長スピードが際立つ。

この市場を中国市場2位のテスラを筆頭に、欧米各社は黙って指を加えているわけにはいかない。
現地での価格引き下げ・割引競争は、激しさを増しているという。
日本勢は中国では既に輝きどころか居場所を失っていると言っても過言ではないような気がする。
そして米国の先述の決定である。
同記事に、日本のトヨタ、日産とホンダの今後の計画を書き添えているが、まさに体裁程度に添えたという弱々しい感じだ。
中国の自動車産業では、基幹部品である燃料電池の自国生産・供給をはじめとするEV製造基盤が既に整備確立されているわけだ。

EV市場における日本の弱さを象徴する動向と課題:遅過ぎるトヨタ及び日本の自動車産業構造の転換

一方日本国内を見ると、過去は強みとしたトヨタの系列化基盤は、未だEV産業化への転換がすべての部品のサプライチェーンにおいて整備・拡充されていないのだろう。
またあまりにも自動車産業依存度が高い製造業構造が岩盤となっており、資本の脆弱さも含め、ダイナミックな転換・改革が迅速かつ円滑には進められなかったこともあるだろう。
海外EV市場での立ち遅れを取り戻すには、自動車産業構造の転換を急ぎ、まず国内EV市場を迅速に拡充することすなわち量産・量販を実現することで競争力基盤を形成すべきと思う。遅きに失するリスクはあるが、急がば回れではないだろうか。
先日、トヨタは、2026年までにEVの世界販売を年150万台にと目標を発表した。
しかしその数字は、まず日本国内において、同年迄に達成すべき数値ではないかと思うのだが。
自国生産・自国自給体制を確立せずして海外市場で競争に勝つというのは、どうにも説得力がないし、実現も困難ではないだろうか。
従前は、海外に受け入れられるべく現地生産基地を設けて規模の拡大を図り、成功してきた。
しかし、コロナ禍及びウクライナ侵攻を受けて、サプライチェーンのあり方は様相を大きく変化してきた。
希少資源の偏在をみると、根本的な解決策を見いだせていないが、多くの国では、自国優先の保護的な政策への転換を進めている。
見方によれば、日本の自動車産業は、四面楚歌の状態に向かっているのかもしれない。
トップを走っていたのだが、気がついてみれば、最後を・・・。
そうならないように期待したい。

ポーランド等ウクライナ支援東欧諸国のウクライナ産小麦等農産物輸入禁止

 これと本質的には共通の問題を示唆した報道が、一昨日なされた。
日経2023.4.18掲載の以下の記事から考えてみたい。
⇒ ポーランドとハンガリー、ウクライナ農産品を禁輸  国内農家を保護 EU・ウクライナは反発 – 日本経済新聞 (nikkei.com) 2023/4/18

 コロナ禍、ウクライナ侵攻等を契機としての小麦等食料価格の高騰については、今月、以下の記事で触れてきた。
(参考)
小麦価格高騰と食料自給問題、健康志向を背景に、米粉に人気(2023/4/10)
ウクライナ侵攻影響による小麦等のグローバル社会における食料不足・食料安保問題を概括する(2023/4/12)
これらと直接・間接に関係する問題といえる。

 ウクライナからの難民保護支援、そして何より戦車供与等軍事的支援を積極的に担っているポーランド、ハンガリー。
その両国が、取り敢えず6月末までという期間限定ではあるが、ウクライナからの農産品の輸入禁止を発表した。
理由・背景は、ウクライナ侵攻の影響でウクライナから安価な農産品が陸路で欧州に大量に流入し、両国の農産品価格が高くなり、売れなくなる。その農家保護のための措置というわけだ。
当然の理屈である。
自国農家、農業・農産物を守るのは国の責務であるから。
特に、戦時や紛争、大規模自然災害などを目の当たりにし、かつ今後の発生リスクを想定すると、その行動・政策を取るのは当たり前、単純に批判はできまい。
EUやウクライナは反発し、同国への侵攻を巡るEUの結束に影響が出る可能性もあるというが、同様の動きは両国のみにとどまらないという。
ウクライナは、「欧州のパンかご」とも言われるそうだ。
戦争を継続するためにも、収入源である小麦をはじめとする穀物の輸出確保は死活的課題の一つ。
しかし、それぞれの立場に合理的な理由があり、善悪・正誤の問題ではない。
禁輸云々の前の事情として、黒海経由での穀物輸出に関するロシア、ウクライナ等関係国間の合意締結や実際の輸出状況。EUとポーランド、ハンガリー間での他の国政問題上の駆け引きとその背景。両国以外の東欧各国の同様の事情。
これらも同時事で触れられているが、本質的には、食料と農業を巡る各国レベルの安全保障問題と絞って受け止めていいだろう。

ウクライナの穀物事情から日本ができること、やるべきこと

 先述した投稿記事内で述べたことだが、日本は小麦のほとんどを輸入に頼り、輸入分に関しては政府が一括管理している。
今回の小麦高騰において、製粉業者等への斡旋価格を引き上げている。
現状のわが国の小麦輸入のほとんどはアメリカ、カナダ、オーストラリアから。
ウクライナからの輸入はないに等しい。
小麦価格の高騰でパンの価格の値上がりも厳しく、この状況を、ブレッドとインフレーションを合成した用語「ブレッドフレーション」が広がっているらしい。
しかしこのようなウクライナ産小麦・穀物の事情を考えると、価格次第ではあり、輸送費問題も当然あるが、特別枠を設定して政府間取引を行い、国内価格の抑制に活用できないかと思う。
少なくとも備蓄は可能だから、処理方法はいくらでもあるわけだ。
軍事的支援には制約があるのだから、こうした支援こそ積極的に行うべきだろう。
機動的に、迅速に行うことが肝心だ。
しかし、日本政府や農水省・経産省にそんな問題意識や柔軟な発想と行動力は期待できないだろう、と端から感じ、結論づけてしまうのが悲しい。

共通する経済安保・食料安保政策と保護主義と今後のあり方

以上2つの最近の動向・報道から共通に考えられるのが、自国第一主義。
とはいっても米国もポーランド、ハンガリー等もウクライナを軍事的に、イコール経済的に支援しているのは明らか。
決してすべてにおいて自国第一主義、保護主義ということでは決してない。
ただ、自国内の経済的社会的現状と今後の政策を、個別に見た時に、ここは守るべき、ここは支援すべきという判断を明確にすること、その際にどの産業、どの分野をその対象とするか、すべきかが問われた時に、毅然としてそれを示すことが政治であり、国家の責務であろう。
保護主義は、決して閉じこもる政策ではない。
現状、食料やエネルギーの自給力、供給力を持ち得ていない、資源に恵まれない日本が示すべきは、そのハンデを克服して、一部保護的な政策を取りながら、政策コントロールと技術開発・技術革新により、次第に自国内で適切な需要・供給バランスを形成し、自立した社会経済システムを構築することである。
そうしたノウハウを、グローバル・サウス等種々の資源に恵まれない国々に、そのノウハウの移転・移管を支援するのだ。
そのめざすところは、農業やエネルギー等の社会経済及び生活基盤を、後進国において整備することである。
そしてそれが農業振興・食糧難の解決や雇用創出支援と直結し、EU諸国で最も悩ましい問題の一つである難民の発生を抑制することに繋がるのでは、と考えている。
実は、その遠大な、夢のような構想の基盤として、提案している日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンションの日本での導入実現を位置づけ、そのモデルを後進諸国に移管・支援することも夢想している。



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