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ECONOMIC POLICY

コロナ禍、多くのアジア諸国のインフレ無縁の理由と日本の特殊性


 昨日2021年12月1日付日経に、日経グループ企業でもある英国Financial Times 紙2021/11/26掲載の アジア・エディター ロビン・ハーディングによる「インフレ無風のアジア」というタイトルの記事が載った。
 短い記事だが、分かりやすく翻訳されており、興味深く読んだ。

 日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンション生活基礎年金の導入を推奨している当サイトとしても、その導入時に危惧されているインフレ発生リスクと関連させて、「インフレ」という言葉とその経済動向はそれなりに気になる。
 コロナ禍で、米国に見られる多額の給付金を要因とするインフレ動向がその象徴的なものだが、その比ではない日本のバラマキではインフレよりも、財政規律への懸念の方が問題視される。
 とはいっても、ガソリン価格の値上がりをはじめ、原材料を輸入に頼る製品・商品の値上げ報道も目につくようになっている。
 海外からの輸入用の船舶が逼迫していることも今後のインフレ要因となりうるとされる。

 しかし、世界中で物価が劇的に上昇しているなか、アジアの大半の地域では落ち着いているという書き出しで始まるこの記事。
 概要を見ていきたい。

 アジア地域の主要国の一部に関しては以下。
・中国:CPIが前年同月比1.5%上昇
・日本:インフレ率はほぼゼロ。
・オーストラリア:CPI3%上昇だが、変動が大きい品目を除いたコアインフレ率に相当する「刈り込み平均値」は2.1%で中銀インフレ目標の下限に近い。

 アジアはエネルギー資源を輸入に頼り、グローバルレベルでの現状の石油・天然ガス・石炭等の市況商品の高騰にもかかわらず、である。
 この違いの理由を知ることができれば、現在及び将来の経済政策の教訓になるというわけだ。

コロナ禍でのロックダウン対応の違いがもたらしたインフレ状況の違い


 アジアの物価上昇が緩やかでさほど深刻でない理由。
新型コロナウイルスのパンデミックへの対応が比較的うまくいったことが要因と結論づけている。

 アジア諸国は強制的なロックダウンの回避(韓国)、対象地域・期間の限定(中国・台湾)、ワクチンが入手可能になる今年までロックダウン緩和を先送り(ニュージーランド)という対応を示す。

 これを、コロナ禍における需要動向の視点から考えると、欧米諸国ではロックダウンを繰り返すことで、消費がサービスからステイホームに必要なモノにシフトしては反転する事態に。
 一方アジアでは先の対応により、自宅に閉じ込められることなく、大きな消費の振れは起きなかった。

 加えて、経済が再開した時に欧米人より慎重だったことを指摘する。
 好例として、日本の高齢者の長引くコロナ禍においても普段と変わらぬ慎重な生活姿勢を取り上げる。

 まあ、ここまでの分析・主張には、さほどインパクトは感じられない。
 日本の場合、元々デフレ傾向が続いており、インフレに繋がるような需要増が、一部の品不足による狂騒を除けば起きないのだから。

コロナ禍でも供給力のあるアジア地域ではインフレリスクが低い

 そこで筆者は、話をこう繋ぐ。

需要の増減の振れが小さいことは、供給への圧力が小さいことを意味する。だがコロナ禍は、アジアが製造業で世界的に優位にあることの影響も浮き彫りにした。アジアは世界のモノの大半を作っているため、比較的容易に供給を確保できるのだ。


 その具体的な事例として以下を用いている。
・コロナの感染急拡大により、中国から欧州へコンテナでの輸送料が5倍に高騰。アジア域内の輸送料は2倍レベル。
・工場閉鎖があっても、アジア企業は地域内におけるサプライヤーの選択肢が多く、供給の混乱は小規模。
・自動車産業では、韓国と中国は自国メーカーが供給不足の半導体を優先的に確保し、価格上昇を抑止。

 いわゆるサプライチェーン要因ということだが、これに、以下の要因を加えている。

供給力確保に重要な労働力供給におけるアジア諸国と欧米諸国との違い

 それは、労働力要因。
 米国の例をまず上げ、コロナ禍におけるレイオフや退職が増加し、労働供給の長期にわたる不足と伴っての賃金の押し上げがインフレ懸念を強めたとする。
 他方アジアでは、例えば、ロックダウン回避や雇用調整助成金や持続化給付金など先述の対応で、マイナスの影響を弱め、加速度的な賃金上昇の兆しはほとんどみられないという。

各国中銀の最近の対応

 「労働保蔵により、日本企業は経済活動の再開に伴う需要の増加に対しても供給を素早く増やす能力を維持している」と日銀黒田総裁の言も用いる。
 「労働保蔵」という言葉は初めて知った。
 しかし、同氏の表現は言い得て妙、というか、解釈の仕方次第というか。
 元々停滞する経済下、需要も停滞しているわけで、人材不足は一部の業種・職種に偏っており、それも賃上げに直結するレベル・状況には至っていないことを言っているわけだ。
 要するに、手前勝手な、これまでの金融政策がまったく機能していないことを棚に上げての発言であり、その指摘は見られない。

 そしてこう繋いでいる。
 目先のインフレを心配する必要がないため、以下の対応によりアジア諸国の中銀は景気回復に注力できると。
・ニュージーランドや韓国などは、経済が完全雇用状態にあり、景気過熱対策、及び金融の安定性懸念を理由として金利を引上げ。
・オーストラリア中銀は、2022年の利上げ見通しはないと断言。
・日銀は(当然)利上げ見込みなし。

欧州と米州の中銀からみれば、欧米などのインフレがパンデミックからの混乱によって起きたとの見方はアジアの経験を加味するとさらに説得力が増す。
現在起きている混乱はそのうち治まるはずだが、米欧中銀はアジアの中銀ほど安穏とはしていられない。
賃金上昇が加速すれば、インフレ圧力は一時的なものから持続的なものになる。
コロナ禍での各国の決断は、異なる結果をもたらしたが、物価への影響が今、明白になりつつある。


 マクロ的に見ればそういう側面があるのだろうが、最後の結論には、さほどインパクトは感じられないし、とりわけ目新しさも、深い考察と呼べる内容とも思えない。
 特に、日本の経済と雇用をめぐる特殊事情が、特殊なものという認識なしに、アジアの強みと一緒くたにされていることにはむしろ違和感を感じてしまう。
 日本の、供給基地としての実態と評価をその記事で述べることが目的ではないので、そこも無視してコロナ禍に強いアジアの一員に加えられても面映い点がある。

ウィズコロナを前提・想定した社会経済システムを構築すべき日本

 その日本の特殊事情だが、日本の長期化している経済の停滞の大きな要因の一つとして、雇用者の賃金が上がっていないことが上げられている。
 当然、それは他の諸国の賃金レベルの向上と対比させられ、日本の経済の弱さの指摘になる。
 しかし、本論によると、コロナ禍での労働力供給不足が、賃金の上昇を招き、それがインフレ不安とそれを現実化する大きな要因となっているとする。
 供給力を維持・向上するために生じる労働力不足が、賃金上昇をもたらし、経済成長に寄与する。
 こういう(一応)オーソドックスな経済を望ましい在り方とすると、コロナ禍はそれを一部否定していることになる。
 しかし、果たして日本は、その供給力を、生活と経済の安全保障の観点から備えていると言えるのか。
 現状の経済停滞は賃金の低下・所得の低下を要因とする需要不足にあるという、反緊縮派や一部ベーシックインカム導入論者、そして政権政党もなだれ込んでいるバラマキ政策推進政策が進められたときに、日本はそれに対応できる供給力を持っているのか。
 その供給力保持のために、高い輸入依存率が障害となることは自明であり、それが極めて困難であることは、現状の石油価格の高騰や、食品メーカー等を中心とする製造業などの値上げ傾向の高まりが示している。

 需要不足を懸念させるレベルの経済対策も講じず、3%の賃上げ要請と、賃上げ企業の法人減税を打ち出す程度の政府の経済対策では、首相が描く成長と分配、双方が望ましいレベル・内容で実施・実現できるとは思えない。
 そうした方針・政策の基盤に、「財政規律」を据えている限り、永遠に新しい資本主義も、全世代型社会保障改革も実現することは不可能であると思う。

 首相の思いとしては、エセンシャル・ワーカーの賃上げ補助や、財界に求める賃上げ実現で、経済を浮揚させ、望ましい分配に結びつけたいところだろう。
 それは、フィナンシャル・タイムズ記者が示したアジアの強みとは無関係の、遠い過去の経済成長経験にすがる日本の限界を示す一端である。
 
 そこで必要なのは、国内における需要と供給をバランスさせる経済社会機能の整備・拡充を、進む人口減少社会に応じて、長期的に取り組む政策立案と合意形成である。
 
 2050年の望ましい日本社会創造を考える当サイトでは、その視点・方針を基本として、1)国土・資源政策 2)社会政策 3)経済政策 4)国政政策 の4つのカテゴリーを関連させて、マクロ、ミクロ両面からの政策考察と問題提起、諸提案に取り組んでいる。


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