
欧米各国の農業補助金・農業保護政策を知るべき:日本の農業、3つの嘘・虚構・誤解(3)
20年、30年後の社会を生きるあなたへ
日本の食料安保を考える上で、極めて重要な内容が盛りだくさんの、鈴木宣弘氏著『世界で最初に飢えるのは日本 食の安全保障をどう守るか』(2022/11/18刊:講談社+α新書)
同書にある「第5章 農業再興戦略」で指摘されている<日本の農業の「三つの虚構」>とは何か、どういうことか?
<第1回>:高関税で守られた閉鎖市場か、日本農業:日本の農業、3つの嘘・虚構・誤解(1)(2023/1/3)
<第2回>:日本は代表的農業保護国か、農業自由化モデル国か?:日本の農業、3つの嘘・虚構・誤解(2)(2023/1/5)
「日本の農業は高関税で守られた閉鎖市場だ」
「日本は世界から遅れた農業保護国であり、政府が農産物の価格を決めて買い取っている」
この二つの虚構に対してのリアルを、上記2回の記事で取り上げました。
今回、最後の三つ目の虚構とは「農家は補助金付け」というもの
「農家は補助金付け」は、リアルかフェイクか?
補助金をめぐるリアルの実態はどういうものか。
これは、これまでの二つの虚構が、日本の農業が種々の保護政策で守られており、国民には、農家・農業がそのことから利益を得ている、有利な産業であると受け止められている原因としていたわけです。
その誤解の極めつけが、農家・農業が「補助金」を得て、比較的恵まれた生活を送っているという先入観を多くの国民が抱いているという現実です。
鈴木氏は、他の欧米諸国の補助金政策の実態を示すことで、日本のこの虚構を炙り出します。
先進国中最も低い、日本の農家の所得に占める補助金の割合
補助金はゼロではない。
しかし、実は日本の農家の所得のうち、補助金が占めるのは3割程度だが、対してイギリスもフランスもその割合はなんと9割以上、スイスに至ってはほぼ100%というから驚きである。
EUでは、国民に理解されやすいように、環境への配慮や地域振興の「名目」へ理由付けを変更し、農業補助金の総額を可能な限り維持するとともに、前回の課題であった、介入価格による「価格支持」策も堅持しているという。
また、アメリカ、カナダ、欧州は、穀物や乳製品を支持価格で買い入れての国際援助・輸出転用、輸出信用による代金焦げ付き時の政府負担、実質的輸出補助金である輸出穀物の差額補填等、手を変え品を変えての農業・酪農保護政策を、いわば惜しげもなく採っているのだ。
一方、日本は、食料自給率が37%という異常に低い国でありながら、米の減反政策を強行し、小規模・零細規模農家を見捨て、農家の高齢化を見て見ぬふりをして放置する、衰退推進策を取り続けてきたわけだ。
補助金政策・保護政策でしっかり守られた先進諸国から穀物等を輸入することとの引き換えで日本の農業が衰退し、自給率を低下させてきたというのが事実。
この自国農業衰退推進策は、同書において、多様多角的に論じられており、食料安保問題の抜本政策を考える上で、理解し、今後総合的・長期的にその方針転換と改革に取り組む必要があるわけだ。
小麦の自国生産強化・補助金政策による自給率向上を
小規模耕作地・未耕作地が点在する日本では難しいことではあるが、私は、日本人の食生活において大きな比重を占める小麦の自国生産による自給率向上に国を挙げて取り組むべきと考えている。
しかし、フランスやイギリスの小麦経営は、ほとんど200~300ヘクタール規模の大規模穀物経営であっても、所得に占める補助金は100%超が常態化しているという。
市場での販売収入では肥料代・農薬代も払えず、補助金で経費の一部をまかない、残りが所得という。
あるいは、野菜・果物の補助金率が極めて低い日本に対して、フランスは約30~50%も受け取ってる。
国と国民の食料安保政策として、日本の農業政策大転換・大改革を
今回は、鈴木宣弘氏著『世界で最初に飢えるのは日本 食の安全保障をどう守るか』「第5章 農業再興戦略」で指摘の<日本の農業の「三つの虚構」>を、食料の<安心安全安定・保有保持確保>を実現するための<食料安保>政策を考察するためのプロローグとして紹介しました。
昨年12月に以下の記事を当サイトに投稿しています。
◆ 体系的課題別「安心安全安定・保有保持確保」の安保政策の長期的政策合意形成と取り組みを:21世紀第2四半期の安保政策シリーズ-1(2022/12/2)
この記事で設定した<21世紀第2四半期の安保政策シリーズ>の中の一つの課題として、同書その他を参考にし、食と農業をめぐる実態、厳しい実情などにアプローチし、当サイトで取り上げてまいります。

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