今月、ここまで、食料安保、食料自給問題として、別々に日刊紙に掲載された記事をもとにして、以下を投稿してきた。
◆ 注目される陸上養殖サーモン。自然・経済環境、地政学的変化による海洋漁業不振と食料自給率向上対策に寄与するか(2023/4/7)
◆ 小麦価格高騰と食料自給問題、健康志向を背景に、米粉に人気(2023/4/10)
◆ ウクライナ侵攻影響による小麦等のグローバル社会における食料不足・食料安保問題を概括する(2023/4/12)
今回は、これにもう1回付け加えたい。
すでに半月経っているが、2023/4/1付中日新聞<特報>欄で掲載された、以下の記事を参考に。
⇒ 酪農家ら悲鳴「もう限界」 緊急対策求め国に署名8万人分:中日新聞Web (chunichi.co.jp)

コロナ禍による需要減、ウクライナ侵攻および円安進行による飼料暴騰。これまでの農政の失敗がもたらした日本の酪農業の危機
牛乳の廃棄、子牛の超安価での売却を強いられる、乳業生産農家の悲劇
2023年3月29日に、「酪農・畜産危機を打開し地域農業を守るための緊急要請」を、8万人分の電子署名を添えて、農家や酪農家らでつくる「農民運動全国連合会」が、衆議院第二議員会館で農林水産省牛乳乳製品課に対して提出し、対策を求めた。
上記記事は、牛乳を生産する酪農家とその事業の厳しい実情と、ここに至った経緯・背景をレポートしている。
中央酪農会議3月実施調査では、酪農家157人中85%近くが赤字経営で、内4割以上が毎月100万円以上の赤字。
離農検討している酪農家が6割近くに上った。
経営不振の最大の理由は、ウクライナ危機や円安による影響での、トウモロコシを主原料とする配合飼料の大幅な値上がり。
2023年1月の配合飼料用トウモロコシの工場渡し価格は、前年同月比で18.7%値上りし、1トン当り9万4600円。
2年前価格は6万8500円で、4割近くも高騰している。
加えて、必要な機械作業にかかるエネルギー費も。
また、コロナ禍で、学校給食や外食などの需要減少で、牛乳は供給過剰な状態。
飲用乳価の買取価格が引き上げられると、消費低迷が待ち受けることに。
八方塞がり状況にあるわけだ。
なお近年、トウモロコシは自動車などの燃料として使うバイオエタノールの原料にもなっており、ウクライナ侵攻後の原油・天然ガス価格の高騰によるトウモロコシ需要増も、飼料価格高騰を加速する要因ともなっている。
酪農家と農水省の意識・認識の大き過ぎる違い
農民連が要望したのは、
・酪農家の廃業や倒産を避けるため搾乳牛一頭あたり10万円の支援
・乳価の引き上げ策など 5項目。
前日28日に農水省が決定したのは、搾乳牛一頭あたり1万円支給など。
あまりの認識の違いに愕然とさせられる。
一応、飼料価格高騰の対策として、予備費から965億円の支出を決め、生産コストの上昇に対する補填金を増額。
4月以降は飼料高騰が続いても負担を抑える特例措置を導入するという。
しかし、遅きに失しており、既に廃業を余儀なくされた酪農家、既に子牛をタダ同然で売り渡し、手元にない酪農家にとっては慰めにもならないだろう。
以下に、同レポートで集められ、掲載された酪農家の声からいくつかを紹介したい。
・乳牛を搾れば搾るほど赤字になり、働くことに何の意味があるのか。
・先週廃業した。地獄のように悩み、苦しみながら決断。家族の一員だった牛たちと死に別れないといけない思いがわかるか。
・身を削って何とか持ちこたえているが、もう限界。出血を止められないまま輸血している状況だ。命がもたない。
・せめて輸入を止めてくれれば、乳価は高くなり、助かる酪農家は多いだろう。農水省はどっちの味方なのか。

山下一仁氏、鈴木宣弘氏の認識
こうした現状を受けて、2人の専門家の意見を掲載しており、以下、簡略化して、紹介しておきたい。
【山下一仁キヤノングローバル戦略研究所研究主幹】
・1960年代以降の農水省による畜産振興では、牧草よりも安価な海外産トウモロコシ使用穀物飼料を与えることでの早い成長と乳量増を政策化したことで、酪農は輸入飼料依存型に。
・本来、牛は草食であり、放牧して草を飼料として肥育すれば、飼料高騰の影響を受けず、ふん尿も肥料となる。
・輸入飼料依存では、価格変動に影響を受け、飼料価格の高騰に対して政府が補填して価格を下げる対症療法では根本的な改善・解決にならず、食料安全保障上も問題がある。根本的な対策を考えなくてはいけない。
【鈴木宣弘東京大学教授】
・飼料を海外に依存している限り、同じような事態はまた起き、酪農家にとっては危機だが、大きな転機。
・自分の命をつなぐためにも、国内の農業を大切にすることを認識しなくてはいけない。
・消費者が農家を支えるためできることはあり、消費者が国内で有機農法、循環型農法などを行う農家とつながり、ネットワークをつくる必要性は高まっている。
これまでも述べてきているが、来月から、一部で対立する意見・主張を持つこの2人の最近の書を比較参考にして、日本の農業と食料安保・食料自給のあり方について取り組む予定である。
この中日新聞記事での2人の意見においては、鈴木氏の意見は、漠然としておりかつ弱いのが気になる。
(参考)
◆ 山下一仁氏著『日本が飢える! 世界食糧危機の真実』(2022/7/25刊:幻冬舎新書 )
◆ 鈴木宣弘氏著『世界で最初に飢えるのは日本 食の安全保障をどう守るか』(2022/11/18刊:講談社+α新書)
2023年1月23日NHKクローズアップ現代で放送された「牛乳ショック」
実は、上記中日新聞の特報よりも2ヶ月以上前2023年1月23日に、この問題が、、NHKTVのクローズアップ現代で、“牛乳ショック”値上げの舞台裏で何が と題して取り上げられ、私も同番組を見た。
同番組サイトで、このテーマの基本認識は、以下のように示されている。
身近な牛乳をめぐって、いま“異変”が。
私たちが直面する牛乳・乳製品の値上げ。背景にあるのは世界的な飼料高騰だ。エサを輸入に依存してきた日本の酪農はかつてない危機に直面。(略)生産のために必要な物資の多くを海外に依存する現実、そして価格に転嫁できない実情とは。
日本の生乳の生産の半分以上を担う酪農王国・北海道では、過去最悪レベルともいわれる“牛乳ショック”に直面している。
搾りたての牛乳は一部廃棄され、手塩にかけた子牛は価格さえつかないことも。廃業を決断する若手酪農家も出始め、超巨大ファームまでも“このままでは本当に生き残れないかも”と悲鳴を上げる。一杯の牛乳が届けられるその裏側で何が起きているのか。知られざる“牛乳ショック”の実像に迫る。
最初に示されたのが、「牛乳・乳製品の値上げ」なので、聞き方・見方を誤りかねないが、基本的には日本の畜産業とこれに関わる主体である酪農家の危機を取り上げるもの。
その狙いは、当然、農政批判であるわけで、先行してこの報道があったのだが、その後の農水省の対応は上記のように、極めて近視眼的で、安易なものにしかなっていないわけだ。
同番組の報道内容は、先のサイトで確認できるため、ぜひご覧になってください。
1.“牛乳ショック”値上げの舞台裏で何が – NHK クローズアップ現代 全記録
2.朝一杯の牛乳が消える!? 酪農危機の知られざる実態 – クローズアップ現代 – NHK
3.“牛乳ショック”なぜ起きた 3人の専門家に問う“食の未来は” – クローズアップ現代 – NHK

巨大ファームの経営苦境と「一元集荷体制」のくびきからの脱却
その内容は、冒頭紹介した中日新聞の<特報>とほぼ同様、というか、実は、このクロ現放映の方が先で、中日が後追いして報じており、基本的には同主旨・同類のものである。
明確に違いが見て取れるのは、クロ現では、北海道十勝で、約3900頭の乳牛を保有し年間約4万トンの生乳を出荷する全国最大規模の牧場の一つ「ドリームヒル」の苦境を紹介していること。
小規模・零細酪農家の危機という決まりきったパターンではない。
大規模化という期待を背負い、設備投資と事業拡大を進めてきたが、トウモロコシを主原料とする配合飼料価格の高騰、円安による牧草輸入価格の値上がりで、年間エサ代が、経営コストの8割、30億円に。
去年、金融機関から多額の借り入れをして、なんとかしのいでいる状況と。
本来なら、酪農経営者が減少する中、経営膨大な乳量の生産力を保有するゆえ、価格の引き上げや牛乳や加工乳製品の販売で、経営を持続することは可能と思うのだが、それが簡単ではない。
その理由が、牛乳やバターなどの原料となる生乳の「一元集荷体制」という業界特有の構造。
生乳は、地域別に農協などが作る指定団体が集め、全国の乳業メーカーに販売。
乳価は、指定団体と乳業メーカーの交渉で決まるため、酪農家は妥結した価格を受け入れるしかない、というものだ。
先述したが、昨年11月から飲用牛乳向けの乳価は10円値上げされ、バター等加工向けは今年4月から10円値上げとなるが、赤字解消するにはほど遠い。
こうした中、同社は、「一元集荷」という業界の枠組みから一部外れる決断に踏み切り、指定団体を通さず、少しでも高く売れる販路を独自で見つけることを選択するいう。
生乳は日持ちしない。必要な量を必要な時に消費者に届けるため、指定団体に卸すことで生産流通の秩序が維持され、価格の安定が図られてきた。
しかし、「このまま何もしなければ、地域経済にも大きな影響が出る」と、本州の乳業メーカーと直接取り引きを拡大する交渉を始めたことを報じている。

生乳廃棄処分の実態。背景は農政
北海道の酪農家の一部では、生乳の生産量を減らすよう農協から求められ、廃棄処分をせざるをえない事態が起きている。
搾りたての生乳をなぜ廃棄しなければならないのか、その背景にあるのが農政。
バター不足が問題になった2014年、国は生乳の生産を増やすため、補助金をつけて大規模化を促す「畜産クラスター事業」を推進。
道内の酪農家は大型投資を進め、増産体制へと舵を切った事情を、先に大規模酪農事業会社の例で示した。
全国の生乳生産は733万トン(2014年度)から764万トン(2021年度)へと増加。
しかし、2020年新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、学校給食の減少・停止、外食・観光需要の落ち込みで一転して、生乳供給が過剰に。
乳業メーカーは保存がきく脱脂粉乳に加工することで対応したが、その在庫量は去年最高水準に達し、酪農家は生産抑制を強いられることに。
生乳生産抑制目的で、助成金をつけ牛4万頭削減に助成金の愚策
こうした状況下、農水省は、昨年11月、生乳の需給ギャップを解消のための緊急支援事業を発表。
生乳生産抑制のため、4万頭の牛の削減を目標に、早期淘汰すれば、1頭あたり15万円の助成金を国が交付するというものだ。
言うに事欠いて「早期淘汰」と。鳥インフルの殺処分ではあるまいに、それと同義であることは明らか。
高騰する飼料費用をゼロとすることで酪農経営を支援するために、牛を淘汰するなどという発想が、食料自給や食料安保を重要政策とする農水省からで出てくることは異常としか言いようがない。
暴落した牛の価値
牛そのものの価値も暴落している。
牛が継続して乳を出すためには継続的に子牛を産ませる必要があり、メスの子牛の多くは乳牛として育てられる。
一方オスや交雑種は肉牛として畜産農家に売られ、子牛は酪農家の収入の柱の一つとなっている。
子牛の販売価格は、昨年6月に1頭あたり約14万円を付けていたが、9月には5000円にまで下がり、10月には、体重が軽かった子牛についた値段はわずか1000円。
種付けから出荷までかかった経費は3万円とも語っている。
肉牛を育てるにしても大量のエサが必要で、畜産農家も、飼料高騰による経営難で、子牛の買い控えることが背景にある。
こうした状況は、先のような支援策を考え、実行する農水省にとっては、むしろ望ましいことと受け止めているのではないかと思ってしまう。

3人の専門家の意見・提言
クロ現報道における3人の専門家の見解と提言の概要まとめた。
山下氏と鈴木氏の意見は一部、先述の中日新聞特報の内容と重複し、かつ3人の間でも共通点が多いことをご了承を。
なお、吉野宣彦酪農学園大学教授の提言には、2人にはない視点・観点からのものがあり、着目すべきと感じている。
詳細は、このリンクから確認できる。
⇒ “牛乳ショック”なぜ起きた 3人の専門家に問う“食の未来は” – クローズアップ現代 – NHK
山下一仁キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
1)自国でエサを賄わず大規模化し輸入飼料漬けに。輸入依存はリスクと背中合わせ
この60年間で国内酪農家戸数は30分の1に減少した一方、生乳の生産量は4倍弱、一戸当り生産量は120倍近くに増えたが、大規模化が進む過程で、安易に輸入飼料依存型の酪農に。
本来、大規模化時にはエサを国内で生産する飼料基盤も拡充すべきだった。
1961年農業基本法に基づき行った畜産振興を、手っ取り早く安い海外産のトウモロコシ輸入で畜産農家の所得増が可能とした結果、輸入飼料漬けになった。
2014年から2020年までは価格は低位安定し、酪農家の平均所得は1000万円を超えていたが、穀物価格が上昇すれば所得が減少することは自明。
2007年08年の穀物価格高騰の折にも同様の経験はしている。
単に飼料価格高騰での政府による補てんでの価格引き下げや、加工原料乳の補給金を引き上げ等の対処療法ではなく、輸入飼料依存型の酪農を続けることには食料安全保障上の問題もあり、抜本的な対策・政策で対処すべき。
2)「山地酪農」など「循環型酪農」への転換を
山間地で放牧する「山地酪農」では、草だけを飼料として肥育していて、飼料高騰の影響を受けない。
牛のふん尿も大地に還元し、草の肥料になるし、草(野シバ)が根を張るため山崩れも防止できる。
本来草を食べてきた反芻動物である牛に、トウモロコシを主体とする配合飼料を牛に食べさせるのが本当の酪農なのか、考え直すべき。
酪農大国ニュージーランドは、ほとんど草だけで牛を飼っている。
ほ場を何区画かにわけてローテーションで回しており、牛のふんが肥料になり、草がまた生育。
区画1周後には、再び草が青々と生え、また牛が草を食べるという循環を利用しており、日本も循環型の酪農を考えるべき。
3)余剰生乳は中国輸出で解消
日本の農政や農業団体は守る一方で、いかにして輸入を止めるかしか考えておらず、輸出をまったく考えていない。
日本は巨大な中国市場に近いという恵まれた立地条件にある。
中国では遠隔地にも拘わらずヨーロッパからのLL牛乳(飲用のロングライフ牛乳=長期保存できる牛乳)の輸入量が爆発的に増加。
日本国内でも釧路港から茨城県日立港に大量に生乳を輸送しており、中国上海に生乳や牛乳の輸出ができる。
風味が良く鮮度の高い日本の牛乳の方がヨーロッパ産よりも売れるはずだ。
高いコストをかけてバター等乳製品の製造は行わず、北海道産生乳を飲用牛乳用として本州に輸送・販売。余った牛乳は九州から中国に輸出してはどうか。
乳製品向けよりも高い乳価で売れる可能性がある。
鈴木宣弘東京大学大学院教授
1)場当たり的な政策で酪農家にしわ寄せ
問題の発端は、2014年のバター不足問題発生時、国が増産を求めたこと。
増産を促すためにクラスター事業を打ち出して補助金を出して増産体制を組み、その成果が出たときに新型コロナウイルスによる生乳需要の緩和が起きた。
“供給が増えすぎたから生乳を搾るな”となり、生乳の廃棄も行われ、酪農家に大きくしわ寄せ。
酪農家の責任ではなくて、政策的に誘導してきた政府が対応すべき問題。
加えて国は需給バランスをとるため、乳量が少ない牛を早めに淘汰する事業に助成金を交付する政策を決定。
牛が種付けして牛乳が搾れるようになるまでには3年近くかかるので、またバターが足りないという事態になりかねない。
過剰と不足の繰り返しで、足りなくなって「増産だ」では対応不可能。
目先の付焼刃的な政策ではなく、長期的に持続できるような政策を考えるべき。
2)国内で減産求める一方 4割輸入の現状は大きな矛盾
国内の生乳生産量は令和3年度で765万トン、一方生乳換算で469万トン全体の4割を輸入。
生乳換算13万7000トンのバターや脱脂粉乳を輸入し続けるカレントアクセスを取る政府説明には大きな矛盾が。
カレントアクセスは、「その部分は低い関税を適用すべき輸入枠」としており、必ずしもそれを全量輸入しないといけないという国際約束ではない。
国内では“乳を搾るな、牛を殺せ”と言い、大量の乳製品を輸入するのは大きな矛盾。
3)酪農家どうしが経営データ・情報公開し切磋琢磨を
規模が小さくても所得が高い酪農を地域で育てて行くには、経営情報の共有が重要になる。
北海道内でも一部の酪農家たちが自分たちの経営データを公開し、毎月のように集まってディスカッションしながら切磋琢磨する交流会を1990年代から行っている。
一般に多くの酪農家では「乳量をいかに上げるか」は議論しているが、「いかに所得率(収益性)を高めるか」は議論していないように私は思う。
プライバシーに関わる難しい取り組みだが、同じ頭数でも大きな所得格差があり、増産が難しい今の状況では、経営を改善する近道と言える。
農林水産省の統計や農協などが持つ多くのデータを活用し、地域ごとにデータベース化することで経営改善を図ることができるかもしれない。

吉野宣彦酪農学園大学教授
同氏は、北海道の最大700農場の経営情報をデータベース化し経営分析。
農村人口を減らさないための酪農経営のモデルを研究し、改善のための課題を提案しているという。
こうした活動を通じての内容と理解できる。
1)「収益性を上げるには大規模化」は誤り
酪農危機が深刻化した理由の1つは、国が大規模化などで増産を推進し、資材を海外に依存する体質が強まったこと。
農水省のデータを分析すると、大規模化して増産すれば、収益性が上がるわけではない。
大規模化で所得は増加するが、現状の世界情勢などに直面すると、飼料等のコストは一層増加し、結果的に収益性は下がる。
収益性の高い酪農を実現するには、収入を上げるのではなく、支出を下げることが重要だ。
北海道で平均的な乳牛80頭程度を飼育する牧場の例では、農業所得が高い人と低い人の間で最大8倍の差がある。
そこで生じる格差の理由は、支出の中で大きな割合を占めるエサ代で外国依存をいかに減らすかが重要。
2)小さくても収益性の高い酪農、を新たなモデルに
これからは“規模をどこまで小さくできるのか”ということを考える時代。
どこまで規模を小さくしても生活が成り立ち、いかに農村人口を維持できるのかを考えることが重要。
そのために、頭数規模ごとに高い所得をあげている地域のモデルとなる経営者を見つけだし、その経験や工夫を参考にしながら質的な向上をはかっていくべき。
その方法の中に、「牧草地1ヘクタールに対して牛1頭に制限している」という例がある。
エサの高騰の影響は小さくて済み、エサを自給しつつ、ふん尿も草地に還元することができる。
かつてこうした酪農が主流だったが、1980年代後半の円高で輸入飼料が安価になり、輸入依存に。
外部依存ができなかった伝統的なやり方や、地域に根差したやり方に立ち返ることが大切な時代になっている。
3)危機の本質は「安さ」の追求。消費者も国産選択を
安いエサの輸入でみるように「お金を出して買えばいい」「輸入すればいい」と安さを追求した結果が、「いざというときに食料を確保して命を守ることができるのか」というコスト度外視に。
このまま酪農家の赤字の累積を放置すると、牛乳の生産が相当減る可能性が高く、消費者も「牛乳が飲めない」「子供に牛乳を飲ませられない」という事態が現実味を帯びてくる。
「酪農家さん大変だよね」ではすまず、「自分たちの命と健康にかかわる問題なんだ」と認識すべき。
より消費者が国産の乳製品を食べれば、酪農家を支えることができ、酪農を守ることは、自分たちの命、健康を守ることにつながると考えるべき。

食料安保・食料自給体制、食料サプライチェーンシステムの構築農政とベーシック・ペンション構築政策とのつながり
牛乳をただ捨ててしまう。
フードロス問題を考えるまでもないし、いくらでも必要な人々、施設、機会があるにも拘わらず、栄養源でもある飲料や乳製品の原料である生乳を廃棄する。
こんなバカげたことを平気でやってしまう政治・行政が日本に厳としてあることに、愕然とさせられることをまず添えて置きたい。
さて上記3人の意見・主張は共通点がほとんどだが、見る視点、主張する相手などには異なる点がある。
そうした意見・提案をどのように的確に、短期的視点に留めず、中長期的視点で、生産者・消費者すべての望ましいz政策に集約し、置き換えていくか。
すべからく農政、国策にかかっている。
食料の安心・安全・安定的保有・保持・確保の安保、そのための食料の適切な自給体制と価格システムの整備・拡充。
そのデザインと構築は、いわゆるサプライチェーン・システム創りという、総合的・体系的な取り組みを必須としており、政治と行政が担うべき国家的課題である。
そしてそれは、自ずと、国民一人一人の生活安全保障と直結するものであり、その基本として提案し、実現を目指している日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンション生活基礎年金の構築と並行して進められるべき課題であることも、確認しておきたい。

コメント