2030年社会保障制度改革の起点とすべき社会保障制度基本方針大転換による政治改革と財政システム改革

社会政策

「政治改革と財政システム改革」シリーズとして、以下考えてきています。

◆ 菅総理「生活保護がある」、麻生財務相「定額給付金再給付なし」発言が求める政治改革と財政システム改革(2021/1/29)
◆ 「税と社会保障の一体改革」の欺瞞が求める政治改革と財政システム改革(2021/1/30)
公助・共助、公的資金・国家財政から考える政治改革と財政システム改革(2021/2/2)

この2回目で、
「税と社会保障の一体化」は欺瞞である、と述べました。
しかし実は、この欺瞞は、国、政府が規定している社会保障制度の基本方針としているもので、「この方針に固執し、管理方法を欺瞞化している」とトーンを落として主張すべきだったと反省しています。

平成24年版「厚生労働白書」に示された社会保障制度基本方針



別サイトhttp://basicpension.jp に投稿した
リフレ派原田泰氏2015年提案ベーシックインカム給付額と財源試算:月額7万円、年間総額96兆3千億円(2021/2/3)
の参考図書とした『ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか』
の中で示されたことで知った「平成24年版厚生労働白書」を確認してみました。

⇒ 平成24年版厚生労働白書 -社会保障を考える- 

今回は、そこに書かれていた「日本の社会保障の仕組み」から重要な部分を引用・転載し、「政治改革と財政システム改革」の必要性を考えてみることにします。

日本の社会保障の仕組み:平成24年版「厚生労働白書」より

以下、同白書の記述の流れに沿って、概要を見、考えるところを付け加えます。

憲法第25条における生存権が起点

日本の社会保障制度は、第二次世界大戦前より形成されてきたが、社会保障の意義について国民的に議論され、政策が本格的に発展されるようになったのは、第二次世界大戦後である。
1947(昭和 22)年に施行された日本国憲法第 25条において、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」という、いわゆる「生存権」が規定され、戦後の日本が福祉国家の建設を目指すことを内外に宣言してからである。

生存権については、ベーシック・ペンション導入の基本としての憲法に規定する「基本的人権」に包含するものとして、最も重要かつ基盤になるものと位置付け・価値付けています。

⇒ ◆ 日本独自のベーシック・インカム、ベーシック・ペンションとは(2021/1/18)
⇒ ◆ なぜ国がベーシック・ペンションを支給するのか?憲法の基本的人権を保障・実現するため:ベーシック・ペンション10のなぜ?-1(2021/1/20)

社会保障制度審議会による1950年「社会保障制度に関する勧告」


この憲法第 25条を受けて、社会保障の政策のみならず、理論的な研究にまで影響を及ぼす形で社会保障の概念を明示したのが、内閣総理大臣の諮問機関として 1949(昭和24)年に設置された社会保障制度審議会による 1950(昭和 25)年の「社会保障制度に関する勧告」である。
この勧告では、社会保障制度を次のように規定している。


「社会保障制度とは、疾病、負傷、分娩、廃疾、死亡、老齢、失業多子その他困窮の原因に対し、保険的方法又は直接公の負担において経済保障の途を講じ、生活困窮に陥った者に対しては、国家扶助によって最低限度の生活を保障するとともに、公衆衛生及び社会福祉の向上を図り、もってすべての国民が文化的社会の成員たるに値する生活を営むことができるようにすることをいうのである。」
「このような生活保障の責任は国家にある。国家はこれに対する綜合的企画をたて、これを政府及び公共団体を通じて民主的能率的に実施しなければならない。(中略)他方国民もまたこれに応じ、社会連帯の精神に立って、それぞれその能力に応じてこの制度の維持と運用に必要な社会的義務を果さなければならない。」

日本の社会保障制度の体系は、上記の考え方を基本として発展してきたが、上記勧告のような社会保障の捉え方は、ヨーロッパ諸国におけるそれよりも広く、現在の日本の社会保障制度の特徴の一端を垣間見ることができる。

こう述べていますが、現在現実には、欧州諸国の福祉制度などに比較すると、基盤とする法制や税制などの違いもあるが、多々遅れを取っていることは強く認識すべきでしょう。

社会保障の目的:同白書より

近年では、社会保障は、一般に、
「国民の生活の安定が損なわれた場合に、国民にすこやかで安心できる生活を保障することを目的として、公的責任で生活を支える給付を行うもの」
(社会保障制度審議会<社会保障将来像委員会第 1次報告>(1993(平成 5)年))とされている。
具体的には、傷病や失業、労働災害、退職などで生活が不安定になった時に、健康保険や年金、社会福祉制度など法律に基づく公的な仕組みを活用して、健やかで安心な生活を保障することである。

この文言の中で気になるのは、「公的責任」「公的な仕組み」という2つの用語およびその表現です。
そしてその行使は、「国民の生活の安定が損なわれた場合」「生活が不安定になった時」という条件が付けられています。

従い、その必要性が起きた時に、適用する基準、申込み・審査、執行時期などが、適切・的確に運用されるか否かが課題となります。
その作業・事業自体が、大きな問題を孕んでいることは、生活保護の運用や、母子世帯・父子世帯の貧困、非正規雇用者の処遇その他、多種多様で複合的な問題があり、貧困や格差拡大を招く要因ともなっていることは言うまでもないでしょう。

そして、以下の3つの機能自体が、その社会問題を増幅する要因ともなっているのです。

社会保障の3つの機能:同白書より


「平成24年版厚生労働白書」では、社会保障の主な機能として
1.生活安定・向上機能
2.所得再分配機能
3.経済安定機能

と、相互に重なり合う、この3つを挙げています。

以下、各機能ごとにその説明を紹介し、私の感じたところを加えます。


生活の安定を図り、安心をもたらす「生活安定・向上機能」

社会保障の「生活安定・向上機能」は、人生のリスクに対応し、国民生活の安定を実現するものである

例えば、
・病気や負傷の場合には、医療保険により負担可能な程度の自己負担で必要な医療を受けることができる。
・現役引退後の高齢期には、老齢年金や介護保険により安定した生活を送ることができる。
・雇用・労働政策においては、失業した場合には、雇用保険により失業等給付が受給でき、生活の安定が図られるほか、業務上の傷病等を負った場合には、労災保険により、自己負担なしで受診できる。
・職業と家庭の両立支援策等は、子育てや家族の介護が必要な人々が就業を継続することに寄与することで、その生活を保障し安心をもたらしている。

このような社会保障の機能により、私たちは社会生活を営んでいく上での危険(リスク)を恐れず、日常生活を送ることができるとともに、人それぞれの様々な目標に挑むことができ、それがひいては社会全体の活力につながっていく。
逆に言えば、社会保障が不安定となれば、将来の生活への不安感から、例えば、必要以上に貯蓄をするために消費を抑制する等の行動をとることによって経済に悪影響が及ぼされるなど、社会の活力が低下するおそれがある。


ここで気になる表現を挙げると「人それぞれの様々な目標に挑むことができ、それがひいては社会全体の活力につながっていく。」と「社会保障が不安定となれば、将来の生活への不安感から」という部分です。

前者は、「その目的を果たすための社会保障のあり方」に、方針を切り替えることが望ましい、またそうすべき、と考えたいところです。
後者は、「不安定」「不十分」「不平等」「不公平」と拡大して捉え、「不安感」「不満感」「不公平感」を加えるべきでしょう。

なぜなら、前者は、後者を現実する現役世代にとって、現状の社会保障制度の不足を補うだけにとどまらず、将来に希望を持つことができるレベルの社会保障制度を構築すべきという思いからです。
それが、心底からの、本当の意味での「安心をもたらす」ものだからです。


所得を個人や世帯の間で移転させることにより、国民の生活の安定を図る「所得再分配機能」

社会保障の「所得再分配機能」は、社会全体で、低所得者の生活を支えるものである。
具体的には、異なる所得階層間で、高所得層から資金を調達して、低所得層へその資金を移転したり、稼得能力のある人々から稼得能力のなくなった人々に所得を移転したりすることが挙げられる。

例えば、
生活保護制度は、税を財源にした「所得のより多い人」から「所得の少ない人」への再分配が行われている。
公的年金制度保険料を主要財源にした、現役世代から高齢世代への世代間の所得再分配とみることができる。
・所得再分配には、現金給付だけでなく、医療サービスや保育等の現物給付による方法もある。
このような現物給付による再分配は、報酬に比例した保険料額の設定など支払能力(所得水準)に応じた負担を求める一方、必要に応じた給付を行うものであり、これにより、所得の多寡にかかわらず、生活を支える基本的な社会サービスに国民が平等にアクセスできるようになっている。


ここでのキーワードは、「社会全体で」「現役世代から高齢世代への世代間の」としてみましょう。

この「社会」とは、何を意味するのか、です。
どうやら、すべての個人が集まる「社会」、所属する「社会」、すなわち日本という「国家社会」を意味するのでは、と解釈します。
個人の全集合体である「国」が、国民に対して所得再分配を、国民になり代わって行う。
そう理解します。
国政の責任を負う政党が、権力のもとに裁量的・恣意的に行うものではない、ということであり、「平等にアクセスできる」ことが条件というわけです。

また「現役世代から高齢世代への世代間」の所得再分配が、果たして公平性・公正性を維持できるのか
ここでは、現役世代が高齢になった時の社会保障の適用が、自身が支えてきた高齢世代同様に行われる保障がないことへの不安と不満が増幅している現実を考えれば、綺麗事に過ぎないかのように思われるのですが、どうでしょうか?

また一方で、高負担する富裕層の一部には、税負担を快く思わない人もやはり存在することも、考えておく必要があるでしょう。


景気変動を緩和し、経済成長を支えていく「経済安定機能」

社会保障の「経済安定機能」は、経済変動の国民生活への影響を緩和し、経済成長を支える機能である。

例えば、
雇用保険制度は、失業中の家計収入を下支えする効果に加え、マクロ経済的には個人消費の減少による景気の落ち込みを抑制する効果(スタビライザー機能)がある。
公的年金制度のように、経済不況期においても継続的に一定の額の現金が支給される制度は、高齢者等の生活を安定させるだけでなく、消費活動の下支えを通じて経済社会の安定に寄与している。
・雇用保険制度に限らず雇用・労働政策全般についても、前述の生活安定・向上の機能を有するのみならず、国民に、困った時には支援を受けられるという安心をもたらすことによって、個人消費の動向を左右する消費者マインドを過度に萎縮させないという経済安定の機能があるといえる。


確かに、社会保障制度には、その機能はあります。
しかし、それが一番の目的ではないことは明らかです。

別の視点で考えると、経済的側面を重視するがゆえに、社会保障制度を抑制させる政策を奨励させることになっている状況もあります。
例えば、非正規雇用(比率・数)の増大です。
企業には、社会保険負担を抑制する効果を持たせ、非正規雇用者には、生活の不安定さを強めることになっています。

しかし、提案しているベーシック・ペンション導入時の経済的視点での目的および効果は、自給自足可能な国内循環経済システムを構築することにもあります。
単に「安定」機能をもつものではなく、「安全保障」をも包含した政策・制度であるという違いがあることを付け加えておきたいと思います。

⇒ 日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンション生活基礎年金専門WEBサイト 
⇒ http://basicpension.jp

真面目に議論すればするほど身動きが取れなくなる現状の社会保障制度。世代間抗争は、より激烈に


なぜ、平成24年版「厚生労働白書」に書き記された「日本の社会保障」の目的・機能を持ち出したか。

その理由は、言うまでもなく、その基本方針に則り、目標とした社会保障制度が、その理念通りに機能していないこと、そのままでは、一層問題が拡大し、多様化・多層化・複合化するばかりで、安定も安心も、望ましい経済も実現できないからです。

その手法である「所得再分配」方式では、社会保障のための支出はゼロサム・ゲームであり、しかも、少子化・人口減少社会の進行で、保険料や税の収入も減少を余儀なくされるからです。
唯一、税収増、保険料収入増を実現するために有効なのは、経済成長に基づく所得増が持続的にある場合です。

しかし、今日の日経1面にあったように、社会保険料の負担が増え続け(一定のところでストップする法律はありますが)、それでなくても賃金が上がっていない状況ですから、先述したように、負担感・不公平感も拡大するばかりです。

一方高齢者は、より長く働くことを要請(強制?)され、年金受給開始年齢を引き上げられ、健康保険・介護保険の自己負担比率も高くされ、受け取る年金額も少しずつ減っていきます。

全世代型社会保障制度というカンバンの実態は、あちらを立てればこちらが立たず、のトレードオフの関係。
言い換えると、世代間抗争の拡大・激化でもあります。

社会保障制度の目的・機能のイノベーションを

もうそろそろ、限界が見えている、限界の中で小手先の対策でやりくりしている社会保障制度の目的・機能を、新しいものに変革しましょう。

その方法については、前回の以下の記事で提起しています。
公助・共助、公的資金・国家財政から考える政治改革と財政システム改革(2021/2/2)

その実現のためには、その変革政策を実現可能なものと認識できる内容にまとめること。
その政策を掲げる政党があること。
その政策実現を公約として衆議院議員選挙で多数の候補者を出し、当選させること。
自ら政権を担当するか、政権政党の政策に強い影響を与えることができる勢力となること。
一言でいうと、政治改革が必要です。

そこでようやく、社会保障制度・政策の改革が可能になるわけです。

なぜ2030年の社会保障制度改革なのか


冒頭の見出しに「2030年社会保障制度改革」と書きました。

その理由は、先述した、社会保障制度改革の提案・合意形成と政治改革には、時間がかかるからです。

特に、所得再分配、国民の税金や保険料負担に頼らない、国が発行するベーシック・ペンション独自通貨の発行・管理システムの理解を得ることが難関です。

そして、これを政策とする信頼できる政党が形成されることにもかなりの時間・日数・年数を要するでしょう。
10年間の長期スケジュールを立てる環境にするだけでも数年掛かるでしょう。

ベーシック・ペンション導入は、社会システムのイノベーションです。
そしてまた、経済視点を組み入れれば、社会経済システムのイノベーションを実現することも意味します。

コロナ対策としての支援策としてベーシックインカムを、と主張する気持ちも十分理解できますが、コロナを一過性のことという前提で考えると、ベーシックインカムの有効性は低下し、いずれ消滅します。
ここは、持続性のある社会保障制度改革を前提として、時間をかけて合意形成と実現をめざすべきと考えます。

ベーシック・ペンションの導入が、社会保障制度改革の軸になり、財政システム改革の起点になるからです。

真面目に議論し続けた結果が、世代間抗争の激化と将来への不安の増幅しかもたらしていない。
その真面目さは、例えば『社会保障亡国論 』(鈴木亘氏著・講談社現代新書・2014/3/20刊)や『人口減少と社会保障 – 孤立と縮小を乗り越える』(山崎史郎氏著・中公新書・2017/9/25刊)に十二分に展開されています。
この真面目さをもってしても、明るい未来は遠のくばかり。
その真面目な提言と告白を、私たちは政治家ではないですが、真摯に受け止めて発想と行動の転換に進むために、敬意を払って、次回確認することにしたいと思います。

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