再生可能エネルギー化政策の切り札「曲がる太陽電池」量産・普及支援政策、その概要と目的
政府が、「曲がる太陽電池=ペロブスカイト型太陽電池」の2030年までの普及を方針とするという。
カーボンゼロ政策、電源構成の再生エネルギー比率の引き上げという既存の政策の推進という命題への取り組みなのだが、従来との違いは、計画の柱の一つに、「ペロブスカイト型太陽電池」と呼ぶ次世代パネルの2030年までの実用化を据えたこと。
その背景には、現状の太陽光パネルはほぼ中国製で占められており、国産化により、その状況からの脱却をめざすという思惑がある。
これまで開発面で企業を支えてきた政府が、量産技術の開発や生産体制の整備を支援する。
そのために、政府が新たに発行する「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」で調達する資金を充当し、GX移行債による資金支援の先行事例にする目的も。
加えて、政府は、地方自治体や企業等と共に、需要創出や供給網構築、その普及を後押しする。
例えば、国や自治体の公共施設、文科省管轄学校施設や、国交省管理空港等でも採用するという。
その夢のような、そして期待大の「曲がる太陽電池=ペロブスカイト型太陽電池」とはいったいどういうものかをレポートする。

現状の太陽電池の種類と特性
太陽の光エネルギーを直接電気に変換する太陽電池。
現在量産されているその多くは、「シリコン系太陽電池」と「化合物系太陽電池」タイプ。
壊れにくく、高変換効率(25%まで)というメリットに対して、材料や製造コストが比較的高く、シリコン系はシリコンの厚みで曲げることができず設置場所が制限されるなどのデメリットも指摘されていた。
ペロブスカイト型太陽電池とは
一方、次世代の新規太陽電池材料として期待されているのが「ペロブスカイト太陽電池」。
ペロブスカイトと呼ばれる特殊な結晶構造の材料を用いた新しいタイプの太陽電池・太陽光パネルであり、2009年に桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が発明した。
ペロブスカイト型太陽電池の期待・可能特性
その特性を以下に列記した。
1)重さが、現在主流のシリコン型の10分の1という軽量かつ柔軟で折り曲げ可能
2)壁面や自動車の天井など、シリコン系太陽電池では困難な場所への設置が可能
3)設置コスト・輸送コストを低減
4)材料を塗って乾かすだけという簡単な製造工程のため従来よりもコストの半減低価格化可能
5)現状のシリコン系や化合物系太陽電池に匹敵する20%超の高い変換効率
6)低照度の室内でも発電可能
7)プリンターで印刷した文字で発電、車に塗って車体全てを太陽電池化等全く新しい用途開拓可能に
8)但し、シリコン型の寿命の20~30年に対して、10年相当と期間は短く、大面積化の課題は残る

<ペロブスカイト構造>:(出典)ペロブスカイト型太陽電池の開発|環境エネルギー|事業成果|国立研究開発法人 科学技術振興機構 (jst.go.jp)
「ペロブスカイト型」太陽電池開発の現状と過去の苦い経験
先述したように宮坂氏がこの技術を2009年に発明したが、実用化では海外勢が先行するという。
・2021年5月ポーランドのスタートアップ、サウレ・テクノロジーズが工場を開設
・英国オックスフォード大発のスタートアップが、シリコン型と合わせた太陽電池工場を建設し、効率の良い技術の開発を推進
・2022年7月中国スタートアップ「大正微納科技」が、年間生産能力10メガワットの設備で、スマートフォンのメーカーなど向けに大型パネルの量産を開始。
同社の李CTOはかつて宮坂氏のもとで学んだ技術者で、中国に戻って研究を続け、宮坂氏も開発を支援した。
ただ海外勢の生産規模はまだ小さく、一般向けの製品はほぼない。
一方国内では、遅れて、積水化学工業や東芝が25年以降に量産を始める見込みという。
従来の太陽光パネルにおいても実は、京セラやシャープなどが日本のメーカーが開発・実用化段階で先行。
しかし普及期に入り、中国企業が大規模に低価格で生産し、現状は世界市場の8~9割を中国製が占める。
蓄電池でも同様の傾向がみられる。
この上、次世代型パネルにおいても失敗を繰り返すことになれば、多種多様かつ最重要の安全保障上の禍根を残すことになる。
積水化学等の研究開発の現状
・積水化学は、30cm幅の太陽電池の試作を始めており、2025年に事業化。
1m幅の製造法も開発を進め、2026年に量産を始める見込みという。
2023年には2億元を投じ能力を100メガワットに拡大する。
(但し、先述の大正微納科技は、縦40cm、横60cmの大型パネルを生産し、ニーズに応じて細かく切り分けて納入している。)
また、湿気に非常に弱く、耐久性を課題としてきたが、屋外で10年間に相当する耐久性を達成し、実用化と量産化にめど。
エネルギー効率向上課題も、30cm四方で同15%を達成している。
・東芝は2021年、均一に材料を塗布する製膜法を開発し、約700平方cmの試作品で15.1%のエネルギー変換効率を達成、2025年度の実用化を目指す。
・カネカはシリコン型と組み合わせる「タンデム型」を手掛け、1平方センチメートルの試作品では同29%とシリコン型と同等以上の変換効率を達成している。
この他、京大発ベンチャー・エネコートテクノロジーズが、2024年にパネル大での量産化、アイシンが2025年に自社工場での実証化に取り組む計画を持つ。

<試作ペロブスカイト太陽電池>:(出典)ペロブスカイト型太陽電池の開発|環境エネルギー|事業成果|国立研究開発法人 科学技術振興機構 (jst.go.jp)
ペロブスカイト型太陽電池の課題
技術開発等で、日本企業の今後の取り組みで競争に勝ち残ることは可能だが、まだいくつか大きな課題が残っている。
以下例を挙げる。
1)最大の課題は、発電する薄膜に欠陥が生じやすいため、製品の歩留まりが極めて低いこと。
積水化学では、試作品のうち製品としての品質を満たすのは数%レベル。
その製造コストはシリコン型の半分になると期待されるが、歩留まりがコスト削減の壁に。
量産化段階にある大正微納科技でも、現時点の製造コストはシリコン型の約3倍と厳しい状況。
積水化学などの研究を支援する新エネルギー・産業技術総合開発機構は、2030年までにシリコン型と同等以下の発電コストを目標としている。
2)次いで、環境負荷・健康負荷が高い鉛を使用材料としている問題。
先述のエネコートテクノロジーズはスズで代替し、鉛の使用量の半減を狙う。
安心して使えればウエアラブルコンピューターなどでの利用も可能になる。
しかし、まず代替なしで鉛を使うタイプで2024年に30cm角のパネルの量産を始める予定。
競争に勝つために不可欠なペロブスカイト型太陽電池事業投資が可能か
初めに、技術的な課題が最大の難関としてが、実はそれよりも重要なのが、この次世代型太陽電池事業に必要な投資規模を確保・投入できるか否かである。
ペロブスカイト型の世界市場規模は2022年から年平均29%前後で成長し、2027年には約2700億円以上、2035年に7200億円と、2021年の約50倍に増えるという予測がある。
既存の太陽電池やリチウムイオン電池はかつて国内企業が高い世界シェアを占めていた。
しかし、その後の投資規模に勝る中韓勢による大規模かつ継続的な事業拡大に日本勢は競争力を失い、市場からの退出を余儀なくされた。
ペロブスカイト型市場においても、同様の課題が厳として存在し、立ちはだかっている。
ここでは、冒頭にある、政府の政策と経済界との連携のあり方が、極めて大きな課題となることを再確認することになる。
その前提となる認識の中に組み入れられるべき政策課題を次に見てみることにしたい。

エネルギー安保、経済安保政策としての「ペロブスカイト型」太陽電池推進
政府による太陽電池「ペロブスカイト型」普及推進の背景の一つは、脱炭素とエネルギー安全保障の両立にある。
ウクライナ危機を大きな契機として、再生可能エネルギー比率の早期の引き上げは、一層強く求められており、当然その軸は太陽光発電である。
現状、中国製太陽光パネルへの高依存度体質を転換し、自国調達比率を高めるべきことは必然である。
また、ペロブスカイト型太陽電池の主原料であるヨウ素の生産量は、日本が世界第2位であり、供給網を自国で確保できる。
サプライチェーン上の経済安全保障の確保の意味は大きい。

太陽光パネル設置場所拡大ニーズ対策に寄与
加えて、かねてから、太陽光パネルの設置場所の適地の少なさやパネルの寿命・処理・交換などの問題も次第に大きくなる現実的課題も指摘されてきた。
太陽光パネルの設置場所の拡大は脱炭素の懸案の一つだが、山間部が多く、新たに設置できる場所には限りがある。従い、今は発電できない場所を利用可能にする発想が欠かせない。
そこでも期待されるのが、ペロブスカイト型太陽電池となる。

ここまで限りがある情報をもとに、多面的にペロブスカイト型太陽電池について整理してみた。
明日2023年4月4日に開催される関係閣僚会議において、再生エネの導入拡大に向けた実行計画を取りまとめられるという。
本稿は、それに先立って報じられた本日2023/4/3付日経記事
◆ 曲がる太陽電池の量産支援 政府、30年までに普及 駅・学校に設置 – 日本経済新聞 (nikkei.com)
を参考にした。

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