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国土・資源政策

ドイツ2023年4月15日全原発停止。日経・中日2紙取り扱いの大きな違い

歴史・記録に留めるべきドイツの脱原発完了

昨日2023年4月17日、札幌で15日から開催されていた「G7気候・エネルギー・環境相会合」が終わった。
同会議の決議内容などに関して、追って確認してみたいと考えている。
その会議開催日15日に、ドイツでは、最後に稼働していた原子炉3基の運転を終了し、国内の全原子力発電が停止。
脱原発を完了したことが同日日刊紙で報道された。
わが家では、日経と中日2紙を購読しているのだが、当日の同報道のあり方が極端に違っていたことが非常に興味深かった。
冒頭の画像にあるように、中日新聞の方は、共同通信の配信記事ではあるが、1面で大々的に報じた。
対して日経は、13面の<国際面>に、添え物的な扱いで掲載した程度。
日経は、原発継続利用派であるのが、その取り扱いに表れている気がしてならない。
無論、中日は、原発廃止支持メディア。
共同通信配信記事をほぼそのまま使用したと思われるのは残念だが。
日経の方は、翌16日には、第3面の<総合2面>に、補完記事を掲載し、少し詳しく説明した。
しかし、論調は、ドイツの電力・エネルギー事情に不安を投げかけ、問題があるようなニュアンスを含むものであることは、さもありなん、である。

(参考)
⇒ 脱原発完了も待つのはいばらの道 ドイツ、再エネ8割目標も依然不透明:中日新聞Web (chunichi.co.jp) (中日:2023/4/15)
⇒ 独、きょう全原発停止  廃炉まで15年見込み – 日本経済新聞 (nikkei.com) (日経:2023/4/15)
⇒ ドイツ、脱原発完了  世論6割が運転延長支持でも 風力増強、30年再エネ8割 – 日本経済新聞 (nikkei.com) (日経:2023/4/16)
⇒ 独、高まる産業電気代 日本の3.5倍、競争力に影響も – 日本経済新聞 (nikkei.com) (日経:2023/4/16)

こうしたメディアの違いを論じるのが本稿の目的ではない。
着目すべきは、ドイツおよびドイツ政府のここまでの経緯。
そして今後の取り組みである。
上記の2紙掲載の各記事内容を参考に、整理してみたい。(但し、上記のリンク記事は概報部分のみであり、参考にした記事のリンクはありません)

ウクライナ侵攻で「原発継続」化にも拘わらず当初方針を貫き通したドイツ政府

ロシアによるウクライナ侵攻で、グローバル社会のエネルギー事情は大きく変化し、原油・天然ガス等の価格が高騰。
それが、生活や企業活動の電力価格の高騰に直結したことから、EU各国はもちろん、ドイツ国民の間でも、原子力発電の継続利用を求める声が高まり、実際の政策にも反映されていることは知るところ。
国内の過半が継続を支持していたという。
にも拘らず、政府は、2022年末の脱原発予定を先送りにしてはいたが、今回、当初方針を変えることなく廃止を迎えた。

ドイツの原発不信の歴史と脱廃止実現までの経緯

 遡れば、ドイツの原発の初送電開始は1961年だったが、1970年代には、反原発運動が活発化。
その後、1986年発生の旧ソ連・チェルノブイリ原発事故による土壌放射能汚染がドイツでも確認され、更なる原発不信が。
そして、脱原発を党是とする環境保護政党「緑の党」が伸長し影響力を高め、2002年に緑の党を含む連立政権が、2022年頃までに全原発の運転を停止する「脱原発法」を成立。
2010年メルケル前政権が先送りを決めたが、2011年の福島事故で、原発リスクを強く認識し、再び脱原発へとかじを切る。
2022年10月ショルツ政権が、原発運転延長を2023年4月15日まで認める原子力法改正案を閣議決定し、ドイツ議会の上下両院で可決していた。
再延長には議会の承認が再び求められる見込みで、新たな核燃料棒の購入が必要になるため実現する可能性は低いという。

脱原発で残る不安と課題

今回の脱原発実現は、先進7ヶ国(G7)では初。
ドイツは、2030年電力消費量の8割を再生可能エネルギーにという野心的目標を掲げるが、2022年の再生エネ割合は約46%、5割弱にとどまる。(日本は、2021年度22.4%)
原発推進の日本や原発継続政策を採る諸国と一線を画してめざす再生可能エネルギー拡大だが、この数値からも、簡単に実現できるわけではない。
そのため、政府決定に対する野党・企業・国民レベルでも反発はいまだに強く、高レベル放射性廃棄物の最終処分場の選定や、数十年かかる廃炉作業等重い課題も残っている。
ただ、元々ドイツ国内の電力供給量での原発依存度がわずか6%という事情も知っておくべきだろう。
また再生可能エネルギーは安全保障に寄与するが、気候変動の影響を受けやすく、電力供給問題が残る。

エネルギー危機は長期にわたる課題。危機克服は長期的取り組みで

いずれにしても、脱炭素・地球温暖化対策という環境問題への取り組みは、エネルギーの地政学的影響でその速度が緩められることはあっても、止めることはできないし、止めるべきではないだろう。
ドイツの決意通り、後戻りはできない。
ドイツは風力発電強化のため、2032年までに国土面積の2%を充てるなど各州に用地取得も義務付ける政策を打ち出しているという。
日本は目先の、小手先の対策を繰り返すばかりでなく、日本なりの長期計画を立案し、国民との合意形成を図り、着実な取り組みを継続させていくしかない。
資源のない国の取り組み、そして成功モデルを創出し、それをグローバルサウス等に移管・移転することをめざすのが望ましいと考える。

日経の否定的論調例

輻輳する事情を指摘し、経済紙である日経は、経済界・企業寄りの論陣を張る傾向があり、原発維持を基調とした主張・提案を行っている。
一つは、原発の経済性の利点を強調する一方、停止後・廃棄後の核廃棄物処理のコストと技術的課題の大きさを指摘する。
ただ今回は、原発に不可欠なウラン濃縮が世界の稼働能力のほぼ半分をロシアが占めてきていることを指摘。
ゆえに、原発維持継続や新設が、ロシア依存の継続を意味するため、禁輸等経済措置の対象とすべきという議論もあることを紹介している。
悩ましいところではある。
まあ、日経が危惧し、警鐘を鳴らすのは、再生エネ料金の高騰で、ドイツの産業競争力が低下を招くリスク。
産業用電力コストは日本の3.5倍としているが、実はこれは、当然日本においても共通の問題と言いたいわけだ。
安定電源としての原発がコストを含め再評価されていることを繰り返し、加えて、日米欧中での次世代型小型炉の開発が進むことを必ず書き添える。
再生エネと小型炉を組み合わせで、CO2排出ゼロ、気候変動にも左右されない安定電力供給が可能と結ぶ。

わが国の原発は、グリーン水素生産のための電力源という限定で活用へ

現実的に、電源構成比での再生エネ比率は、ドイツの50%を下回るレベルに対して、未だ20%程度の日本。
再生可能エネルギー設備の設置適地にも自ずと限界があることも明らか。
やはり技術とコスト両面の課題が大きいが、長期的には、グリーン水素を主電源とすべきと考える。
従い、今から、その基盤作りを含めて、原発は水素製造のための電力と限定利用を認め、併せて水素製造設備とその立地開発を戦略的方針とすることを提案したい。
化石燃料を用いないクリーン電源で、グリーン水素を生産・製造する、ある意味で理想的な取り組みと考える。
アバウトな提案で申し訳ないが、2050年の電源構成は、太陽光・風力などの再生エネ50%、水素エネ50%が実現できないだろうか。


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