
女性活躍と少子化対策を一体でとは、一体どういうことか
外野席で応援の旗を振るだけの日経が言う、女性活躍と少子化対策の一体化
「働きながら子育てしやすい環境を整える。今の日本に欠かせないテーマだ。両立しやすければこそ、職場で力を発揮できるし、子どもを持つことを諦めずにすむ。」
と始まる今日2020年9月26日日経社説。
<菅内閣に望む>というシリーズの最終回のテーマが「女性活躍と少子化対策を一体で急げ」というものだ。
女性活躍と少子化対策を看板施策に掲げた前政権の成果として、女性活躍推進法と、女性就業者の7年間の約330万人増加を挙げる。
一方で、非正規雇用増、低い管理職女性比率、ジェンダー・ギャップ指数の国際比較も指摘。
少子化対策では、待機児童問題や19年出生数過去最少86万人への落ち込みも挙げている。
「女性活躍と少子化対策は表裏一体で、実現のためには横断的で一貫した施策が必要で、より構造的な問題にまで踏み込んでこそ解決の道筋が見える。」
とする。
が、構造的な問題への踏み込みや横断的で一貫した施策が、どういうものか、例示はない。

「昭和モデル」用語などもう要らない
「鍵を握るのは「昭和モデル」からの脱却だ。」と日経氏
未だに「昭和モデル」という言葉を使うことはやめてはどうかと思う。
なぜ元号での比較をするのか。
平成と令和ではどう違うのか。平成で何が変わったのか。令和ならば変わるというのか。
「夫婦共働き世帯が普通である社会に応じた」と言えば済むこと、分かることだ。
30歳前半以下の世代の殆どが、平成生まれ平成育ちであり、その平成も過去となり、令和生まれ時代に入っているのだ。
「もっと男性の家庭進出をうながす施策が急務だ。」とも。
女性の職場進出と並行してこうあるべき、ということになる。
そして
「未婚化、晩婚化は、少子化の最大の要因だ。若い世代の結婚、出産の希望をかなえるためにも、就労支援に力を入れ、夫婦でともに家計と子育てを担える道を広げたい。」
と付け加える。
これが女性活躍推進の正体だ。
やっぱりどうしても働かせたいのだ。
産み手・働き手両輪として活躍してくれるよう背中を押すということだ。
なので、男性も家事育児を一緒になってやるべきと。
ほとんどの国会議員のおっさんたちは、その経験がないにも拘らず。

7月に児童手当6万円提起の衛藤前少子化担当相は、もう居ない
そして、
「就任直後ということもあるだろう。女性活躍と少子化対策について、首相からの踏み込んだ発言はまだ多くはない。」
と心優しい気遣いがある。
とんでもない。
閣議決定を経ている2004年を起点とする「少子化社会対策大綱」や「少子化社会対策白書」は、内閣官房が統括する少子化対策担当相の業務であった。
7年余、官房長官として指揮を取る立場にあったわけだ。
本来具体的かつ有効な手立てがその中にあり、その年数があれば、何かしらの成果があるべきで、それを先ず問うべきだ。
それが、女性の就業率が高まり、就業者数が増えたということが成果と称賛すれるのはどうかと思う。
待機児童ゼロ化は結局なし得なかったし、何より出生率は低下し、出生数も一気に86万人に減ってしまった。
そしてコロナ禍で、多くが女性で占められる非正規被用者は雇い止めや解雇に遭っている。
「不妊治療」の保険適用化という目立つ政策だけを手柄に仕立てるのも、もともと遅きに失していると言えるのだ。
加えて、第3子以降の児童手当6万円を実現したいと8月に記者クラブで述べたばかりの衛藤少子化担当相は、菅内閣では、その姿は見られなくなってしまった。
そのことを日経は指摘していない。
◆ 衛藤少子化担当相、第3子以降児童手当月6万円提起:コロナ不安で少子化加速に危機感(2020/8/22)
日経もそろそろ外野席で旗を振っているだけのスタンスはやめてはどうか。
そろそろ骨太の、納得度・説得力のある実現可能な提案をしてみてはどうか。

女性識者岩田喜美枝氏の「菅内閣へ望む」こと
9月17日に日経1面で始まったこの<菅内閣に望む>シリーズ。
その初回に、識者に聞くとして、津田塾大学理事 岩田喜美枝氏へのインタビュー記事が載っていた。
「女性活躍は成長戦略である」とする安倍政権のメッセージは企業経営者に届き、ここ数年で意識を変えた。ただ、実質的な効果はまだ不十分で、国際的に見ても日本の女性活躍度はボトムラインだ。」
と先ず評価する。
そして
「菅義偉首相は手綱を緩めずに女性活躍を次のステージに進めてほしい。」
とエールを送る。
岩田氏の言う「次のステージ」とは、どういうものだろう。
全文を通して読んだが、具体的でインパクトがあるものはなかった。
どちらかというと女性活躍推進法など、現状の関連制度法令をより強める方向での提案が目についた。
先に述べた、新政権による不妊治療への保険適用策については
「大切な施策だが、少子化の根本的な解決には至らない。」
と断じている。
ワンノブゼムで、当然のことだ。
「安心して結婚して子どもを持てるように雇用の安定を図るなど経済支援が第一に必要だ。」
とし、それに、
「子育て負担が女性に偏らないように男性の家事・育児参画を進める施策にも取り組んでほしい。」と付け加えている。
そのとおりであり、その順である。
しかし、企業に責任を押し付ける育児休業支援制度等でお茶を濁し、政府・政治が自ら持続的・継続的な経済的支援策を講じることは目立ってなかった。
岩田氏は、この問題の常套である、女性管理職や国会議員の数・率、国際的なジェンダーギャップ指数の低位、ダイバーシティ論なども指摘に加えてはいるが、聞き慣れ、目慣れしていることばかりだ。。
目的が、菅政権に望むというものなので、致し方ないが。
厚労省官僚や女性活躍推進企業のモデルとされる資生堂役員、その他社外取締役などのキャリアをお持ちの方ゆえの、一般論で終わっているのはやむを得ないことだろうか。
それらの企業は、そうした政策に応えやすい企業ばかりであり、取り組みの象徴として神輿に乗ってきた側面もあるのだ。
もしそれを自覚しているならば、女性の起業支援推進政策の整備・拡充などを真っ先に挙げて欲しいのだが。
少子化対策としての経済的な支援としては、「雇用の安定」を挙げるだけで、ウェルフェアではなく、ワークフェアに偏った発言でとどまっている。
児童手当の増額などの提起もあって良いと思うのだが、残念なことだ。
インタビュー氏の総括も
「岩田氏が訴える女性活躍や少子化対策も目に見える成果を上げる段階だ。」
で終わっている。
簡単なものだ。
ずーっと変わらぬ姿勢と口調・論調が続いている。
何より、今日の社説の内容は、ほとんど岩田氏インタビュー内容のコピーに近いのだ。
残念を通り越して、こちらが恥ずかしくなるくらいだ。

女性活躍と少子化対策を一体で、とは
岩田氏の認識は、前内閣の女性活躍は成長戦略目的、と軌を一にする。
日経は、当然そうした認識でこの記事をものにしている。
その戦略に乗っかっての少子化対策との一体化。
やはり、女性を産み手と働き手として一体化する政策という意図に帰着する。
それらは、女性の日常や共働き世代の日常、すなわちリアリティに欠けているのだ。
男性も女性も、社会の成長のための駒としてしか見られていない。
そうした政策であり、人間としての安心安全の確保・実現や、幸せな世帯・生活の形成という基本的な目的や価値から視点・論点が外れてしまっているとも言える。
子どもを産み育てるのは、労働力として社会と国に子どもを差し出すためではないことは、当然のことである。
こうした根源・根幹を無視した政治に無感覚になりつつあることを時に思い返し、戒める必要があるだろう。
※時間が許せば、以下のこれまでの投稿から関心をお持ち頂けたものをチェックして頂ければ大変嬉しく思います。

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