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介護制度、高齢化社会

SOMPOグループの介護事業戦略と介護業界への期待


2020年を最終年度とするSOMPOグループの中期5カ年計画、コロナ禍の影響とネクステージ

損保大手のSOMPOグループが、介護事業も主力事業の一つに位置づけ、業界の向上に貢献してくれていることは、以下の投稿で紹介してきた。

◆ 介護事業大手SOMPOケアならではの動向:介護事業規模拡大の必要性・重要性(2020/5/18)
SOMPOグループ、他分野・多分野への投資拡大、急(2020/8/31)


一般の大手企業ならば当然立案し、経営の基幹に据えるはずの中期経営計画の類は、当然、同グループも策定しており、上場企業ということもあり公開している。

ちょうど、今年2020年を最終年度とした中期5カ年経営計画なのだが、コロナ禍を受けて、<With/Afterコロナの社会構造変化・行動変容>と題した資料を加え、先に紹介したグループ基本方針の<安心・安全・健康のテーマパーク>との整合性を確認している。


菅内閣の目玉のデジタル庁ではないが、「デジタル・データ戦略」が、当然のように取り組み課題化されている。

介護・ヘルスケア事業中期5カ年計画最終年見通し

同中計5カ年計画の中の<介護・ヘルスケア等事業領域>の資料を以下に転載した。
ご多分に漏れず、同社の介護事業も、コロナで下方修正を強いられる結果となることが報告されている。

苦戦はしているが、施設への利用者の入居率は安定していることから、今後は、生産性向上を軸として、収益性を向上させるフェーズに入ることを示している。

介護業界のほとんどの事業所・経営者は、このレベルのことは話せないのが普通だ。


認知症予防プログラム提供サービスを開始

この中期計画の中に、<介護事業のキーポイント>と題した資料があった。
下の図がそれであるが、その中央にある<②健康寿命延伸へのチャレンジ>に当たる事業について、先日日経が取り上げていた。
パブリシティを十分に活かした取り組みである。

同グループの介護事業の中核であるSOMPOケアが、2020年7月から、高齢者の生活習慣改善などを通じて認知機能の低下を防ぐプログラムを用いたサービスの提供を始めた。
まず同社が運営する介護施設で、直接またはオンラインで提供する。
これは、フィンランドで実施された認知機能障害を予防する「FINGER研究」をもとに開発したもので、予防に欠かせない以下の4分野で構成する。

1)運動指導:週1回の運動や体力測定を中心に、高齢者の運動を手助けする「介護予防運動指導員」が指導
2)栄養指導:SOMPOケアフーズの管理栄養士が栄養やカロリーバランスから献立を助言
3)認知機能訓練:医療関連スタートアップのトータルブレインケアの専用ソフトで定期的にチェック調
4)社会参加:プログラムを通じての参加者間交流

その結果を活用し、2021年度からは、地方自治体と連携してのプログラム活用やオンライン提供も視野に入れているという。

実際にどの程度の効果があるか、その実証までにはまだ相当の時間を必要とするだろうが、ニーズとしては十分あるサービスだ。
続報を待ちたい。


介護事業の生産性向上への取り組みと看護師並み水準への処遇改善


実は、<介護事業のキーポイント>の中で最も注目して頂きたいのが、<①既存事業における生産性向上>である。

「ヒトとICTの融合を推進し、生産性の向上および処遇改善を通じた介護人材の需給ギャップの解消を目指し、単体収益性をさらに向上」とそこでの方針を語っている。

前回、
介護IT化による介護現場の生産性向上への疑わしい貢献度
で、介護の現場におけるIT化の効用は限定的で、人材不足の解消や生産性向上による賃金アップに結びつく可能性が低いことを指摘した。

しかし、SOMPOケアなど、大手他業種からの参入の場合は、労働生産性向上への取り組みや人材育成・能力開発やIT化、マネジメント等の経営基盤がある程度確立されている。
そのため、介護現場でのIT化は、むしろ相乗的な効果を生み出しやすいとも言える。

そして、「将来的に、看護職並みの水準を目指す」と、人材確保への自信と決意を感じさせる目標を掲げていることに注目したい。

介護業界・介護現場の人材不足と採用難については、前回以下で述べた。
エセンシャルワーカー介護職、コロナ禍でも変わらぬ人材不足

もし看護師並みの賃金を、介護職でも得ることができたら、恐らく現状ほどの人手不足・人材不足はが続くことなはないだろう。
また、より誇りを持って介護の仕事に携わってくれる人が増えるに違いない。

そういう点でも、SOMPOグループには、業界の牽引役になってもらいたいと切に願うものだ。

こうした取り組みができる理由の一つは、やはり企業・事業規模の大きさが基盤にあることだ。
人材の質量ともに他に差をつけると当時に、賃金等労働条件・労働環境も同様である。
日常における業務改善・生産性向上への取り組みの文化や態勢を構築するとともに、介護保険サービス以外の事業導入・展開で、別の収益を上げることが可能という、他にない強みを持っているわけだ。
介護現場のざまざまな情報・データ自体を提供することで収益を得られ、種々のノウハウやシステム、サービスを外販することで、また別の収益を上げる。

日常の介護サービス事業だけで汲々としている中小・零細の事業所では、到底真似のできない経営をしているわけだ。
とは言っても、他にも同様に周辺事業の拡大や他事業化・多事業化を図っている企業がゴロゴロあるわけではない。
もうSOMPOホールディングスの独壇場と言ってもよいくらいだ。

しかし、コロナで一層閉塞的な状況が拡大かつ継続する介護業界において、新しいニーズを開発し、介護現場のスタッフの待遇や労働環境、能力開発システムが整備され、向上していくことは素晴らしいことである。
ある意味、これからの介護事業の可能性を示すものであり、中小事業所においても、なんとか日常業務の改善やサービスの質の向上、そして人材の質の向上に尽力してもらいたいと願っている。


収益源の多様化と海外比率の向上

なお、介護事業ではないが、前回のブログで述べた同グループの加速化・拡大化する投資戦略の最近の例として、先日、アメリカの農業保険大手企業の買収が発表された。
SOMPOは既に南部で顧客が多い米国内農業保険シェア6位のアームテックを傘下に持つが、今回中西部に地盤を持つ同4位の穀物輸送大手CGBグループの保険部門を買収する。
その結果買収後の保険料が計2000億円を超えて17.5%のシェアを握り、1位の保険会社と並ぶという。

保険事業分野の多角化ではあるが、地球温暖化による気候変動の影響を大きく受ける農業経営に対する保険であり、今後もそのニーズが一層高まることを想定しての買収である。
同グループは欧州でも農業保険事業を手掛け、米国を足がかりに中南米やアジアにも進出を目論むなど、自動車や企業向け損害保険に加えて重点分野に位置づけるが、今回の買収で海外事業の25%を農業が占めるという。

同グループの5カ年中計は、今年2020年を最終年度としている。
従い、2021年をスタートとする次の中期5カ年計画は、来年発表される。
その内容も引き続き関心をもっていきたい。



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