不自由化と一体だった電力自由化、本来の道筋:新エネルギーシステム改革-2

経済・経営・労働政策


ウィズコロナの2020年に再定義・再構築すべき2050年エネルギー国家戦略

前回投稿の
ウィズコロナの2020年に再定義・再構築すべき2050年エネルギー国家戦略:新エネルギーシステム改革-1
から、以下の問題意識から、<新エネルギーシステム改革>のシリーズの開始と主なテーマのリストを提示した。

「当面の環境エネルギー問題への取り組みを、以下のような課題項目として再定義し、今後、一つ一つ、目標・政策・方向性などとして検討・提起していくことにしたい。」

◆ 電力自由化行政の誤りとエネルギー産業構造
◆ 電力料金競争の中身とこれから:公平・公正な競争基盤の確立を
◆ 脱原発を宣言できないエネルギー国家戦略、その政治と行政
◆ 再生可能エネルギー事業の最近の動向
◆ グローバル社会でリーダーシップを取れない脱炭素・脱CO2
◆ 水素社会実現計画の合意形成を何故できないか
◆ 自動運転・燃料電池車の自動車産業は新エネルギー社会を牽引できるか
◆ 企業・自治体の注目すべき新エネルギー対策・エネルギー新技術
◆ 2050年エネルギーシステム国家戦略構築:自給自足&エネルギーフリー社会の実現へ

今回は、電力自由化行政の誤りとこれからの在り方について考えたい。

2016年電力自由化から4年。大手電力の送配電部門分離のまやかし


2016年4月電力小売り全面自由化から4年経過した今年2020年4月1日。
大手電力が送配電部門を分離し、政府主導の電力改革が総仕上げに入ったとされるそうだ。
とんでもない話だ。

この間の電力自由化をめぐり、利用者である個人や法人のメリット・デメリットを考えると、とてもとても自由化の恩恵を被ったとは言えないはずだ。
私は、電力行政及び環境・エネルギー行政の誤りが、この5年間と、東日本大震災・福島第一原発事故発生の2011年まで遡っての10年近くを無為に失わせたと批判してきた。

政治・行政は、再生可能エネルギー、太陽光発電への期待感を煽り、個人・法人ともにその流れに参加することの意義を強調してきた。
しかし、途中からの逆行する動きや、制度の矛盾などが露呈し始め、今は、自由化以前よりも多くの困難な問題が増幅して存在するかのようだ。

送配電部門の分離と入っても、実質的には、既存の大手電力が、その部門を別会社にしただけで、資本関係を保有し、意のままに管理できるのだ。

本来のあるべき形は、全国の送配電網を国もしくは国の委託を受けた公共的な第三者機関が統一して管理下に起き、すべての電力事業者および、独立した企業グループが大口電力利用者が、利用料を払って送配電網を公平・公正に利用する方式にすべきなのだ。

総仕上げなどとどの面を下げて臆面もなく言えることか。
仕上げどころか、自由化喧伝以前よりも、状態は硬直化・不公平化に戻った感さえするのだ。

自由化は一体どうなってしまったのか。
その象徴的な現状を概括してみよう。



価格競争で劣勢に追い込まれる新電力


国有化状態の東京電力ホールディングス。
その系列会社TEPCOライフサービスが、基本料金ゼロ円の電気プランをウリにしている。
従量料金も安くし、月々の電気料金が業界の一般的プランよりも1割ほど安い。

何のことはない。
他社でもやっている、電気とガスの抱き合わせ販売のように、金融や保険などの営業とも組み合わせてのものだ。
これを国有電力企業グループが平気でやるわけだ。
結果、家庭向け料金は自由化前よりも実質的に3~5%程度安くなった程度だ。
とてもとて自由化の成果などと誇れるものなどではない。

この不公正な価格競争は、一般家庭市場だけでなく、大口契約が見込める法人向け市場にも拡大し、大手電力価格攻勢に、新電力がそれでなくても弱い体力を奪い取られているいるのだ。

多くがベンチャー的に参入してきた後発の新電力企業は、自由化で起業したことで得られるはずの優位性が、FIT固定買取制の廃止などとも合わせて、じわじわと奪い取られていく状況が続いている。
自前での発電・調達に限界がある大手ガス会社・石油会社などバックにした新電力企業においても、同様に厳しい。

 


まやかしのFIT(固定買取価格制)の後のFIPは機能するか


電力自由化の旗印の象徴とされた、再生可能エネルギーとその固定買取価格制。
初年度1kw時40円は年々引き下げられ、20年度同12円まで下落。
これにより、太陽光関連の倒産件数は18年に95件で過去最高を記録し、翌19年も74件。

これでもだまし討ちなのだが、FITによる2019年度約2.4兆円の国民負担の軽減が目的として2月末閣議決定のFIT法改正案が、多くの新電力の息の根をとめることになるかもしれない。
入札性という競争原理を持ち込んだ「FIP」と呼ぶ改定制度。
いとも簡単にやってのけた国の方針転換で、多くの中堅・中小再生エネ関連事業者の破綻を招くと予想されている。



電力調達劣勢でVPP事業見通しにも影。新電力と外資系参入組に撤退の動き


自前の電源が不足しがちな新電力にとって、家庭の太陽光発電で余った電力の調達が鍵になる。
点在する家庭の太陽光や蓄電池などをネットワークで制御し、1つの発電所のように機能させる仮想発電所(VPP)技術が、事業化の可能性を高める。

しかし、電力調達でも、大手の壁がより高く、険しくなっている。

大手電力に発電単価が安い電力を供給させ、新電力が安定的に調達できるようにする狙いがあった電力卸売市場。
大手電力も深く関わり制度設計の欠陥が危惧されていたその市場が、やはり危惧通り機能していない。
新電力が安く電力を調達できないのだ。

また、気温の急激な上下などに必要な電力の需給調整に協力した場合、多額の協力金を得られる制度があり、新電力は毎年、入札に参加して調整量の枠を確保し、収益にしてきた。
が、20年度は落札率が前年の9割から3割に急落し、大手電力はほぼ全量を落札。

結局、自由化の目的である競争原理が働かず、大手独占の構図に戻ってきているのだ。

こうした不自由化は、外資系の参入・拡大さえも遮る、一種のエネルギー自由化鎖国状態を招いていることにもなる。



競争原理が働かない自由化は、不自由化への悪行政

電力自由化のモデル、競争の先進ともされるヨーロッパ。
しかしそこでも、電力料金は思うほど下がらず、事業者の淘汰も進められたという。

すべて理想通りのことが運ぶわけではない。
ただ、日本が大きく違うのは、その理想とする姿やシナリオ、道筋を提示することがないこと。
結局は、既存・既得権者を守ることを前提としたポーズでの政策・対策に過ぎないことだ。

少子化対策でもそうなのだが、欧州は、一定の成果は必ずといっていいほど出している。
その上での、一時停滞であり、次のステップに行くための悩みや困難に立ち向かっているのだ。

日本の政治・行政は、そういう意味で決して先進性を持たず、後進国のままということだ。
やはり、政治を変え、その後行政を変える手順を踏む必要があるのだ。



大手電力解体再編を探る新エネルギーシステム改革の必要性

そうはいってもやはり、大本の戦略や構想の議論は必要だ。
そこから個々の課題へのアプローチが始まる。

論外、方外の話だが、大手電力解体、エネルギー業界再編が、2050年社会システム改革の一つのピースになるような気もしないでもない。


電力自立化・自給化をめざす企業の出現と、そのシステム創り・販売へ


もう一つ、それよりも現実的な話として、電力会社に依存せずに、自前でエネルギー自給自足・送配電管理システムを創出する企業・企業グループが出てくることの方に期待したいと思っている。

その萌芽や、ミニモデルなどは既にある。
その成功モデルを、プロジェクトとして販売すれば、下手な政治や行政は要らなくなる。

新エネルギーシステム改革の究極的な夢・目標になるかもしれない。
面白くなりそうだ。

これまでの関連記事ラインアップ

電力行政改革によるエネルギーシステム改革-1(2020/3/25)
再生可能エネルギーと水素社会によるエネルギーシステム改革-2(2020/3/26)
アフターコロナで新常態化すべきエネルギーシステム改革-3(2020/6/12)
エネルギーハーベスティングやグリーン水素構想が水素社会創造を側面支援するエネルギーシステム改革-4(2020/6/17)
食料・水・空気・エネルギーの自給自足国家創造へ(2020/4/11)

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