既存原発立地県福井県の水素産業化政策から考える、廃炉までの原発の水素産業化限定利用

経済政策

2週間前になるが、2023/5/2付中日新聞夕刊1面に、以下の記事が掲載された。
⇒ 「原発銀座」福井南部を水素産地に 相次ぐ廃炉、脱炭素先進地を目指す :中日新聞Web (chunichi.co.jp)

福井県による、ポスト原発としての水素エネルギー産業化とエネルギーの地産地消政策

 現在廃炉中を含めると15基の原発施設を持つという福井県南部。
将来的にはそのすべてが廃炉化されるわけだが、原発立地の対価として受けとる地域財政財源や雇用において一定レベルで依存していることを考えると、その対策を今からこうじておくべきことは自明である。
そこで、福井県がその地域において、再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」の製造・供給設備の導入を検討していることを報じたものだ。
 原発産業に代わる産業創出・開発を目的としているわけだが、別の観点からは、エネルギーの地産地消化を推し進める政策とも受け止めることができる。

グリーン水素産業創出の意義

 ただ、その方法は、従来の太陽光発電や風力発電、バイオ燃料発電などの再生可能エネルギー事業ではなく、水素エネルギー事業化を想定していることに重要な意義がある。
現状の構想は、まず太陽光発電による電力で水を電解して水素を製造し、液化して運搬・貯蔵。
燃料電池で電力として活用、燃料電池車(FCV)への供給、蓄電池での保有等を図る。
すなわち、カーボンニュートラル政策を県単位で推進する、グリーン水素事業構想である。
当面の設置場所は、小浜市にある県出先機関の嶺南振興局若狭合同庁舎など公共施設を想定。
災害など非常時電源施設として防災機能の強化にもつながるわけだ。
2025年大阪・関西万博への供給も調査研究課題としているという。

広がりつつある、グリーン水素製造地域事業

 同記事では、いくつか、同様に地域主体で取り組まれている水素製造と電力活用事例が紹介されているが、まだまだ緒についたばかり、という段階ではと感じる。
以下、抽出整理してみた。
・福島県浪江町「福島水素エネルギー研究フィールド」(2020年開設):太陽光発電利用で世界最大級水素製造装置から年間最大900tの水素を製造し、福島県近隣に据え置きの燃料電池や水素ステーションに供給。
(1日の稼働で約150世帯の1カ月消費電力量または約560台分のFCV用エネルギーを製造)
・山梨県米倉山電力貯蔵技術研究サイト(甲府市・2021年開始):太陽光発電の余剰電力活用で水素製造。
(2022年東京都とグリーン水素の活用促進の合意書締結。国家基金活用し2025年までに施設規模10倍に)
・敦賀市:①市公設地方卸売市場内設備から、公用FCV車や市場フォークリフトに水素供給 ②同市役所設備を製造・貯蔵水素の非常用電源用として届出

廃炉期限までの原発の水素製造目的限定での再利用・再稼働を

 実は、昨年終わりから今年年初に掛けて、以下の<21世紀第2四半期の安保政策シリーズ-2=エネルギー安保>と題したテーマで、記事を投稿した。
2022年12月のエネルギー動向から考える、グリーン水素エネ自給自足理想社会構築:21世紀第2四半期の安保政策シリーズ-2=エネルギー安保ー1(2022/12/7)
エネルギー自給自足国家創りの基盤として、送電網国有化を:21世紀第2四半期の安保政策シリーズー2=エネルギー安保ー2(2022/12/22)
2050年グリーン水素社会創造に向け、原発を水素生産専用電力に:21世紀第2四半期の安保政策シリーズー2=エネルギー安保ー3(2023/1/11)
グリーントランスフォーメーションより過渡的措置としての原発利用:21世紀第2四半期の安保政策シリーズ2=エネルギー安保ー4(2023/1/16)

 原発廃止は、安全性問題はもちろんのこと、後処理問題を含めて、既定の政策とすべきと考えている。
しかし、カーボンゼロ政策は簡単に実現できるものでははないことも明らかであり、太陽光発電・風力発電の構成比を短期間に引き上げることは、その適地の限界や事業拡大に要する期間とコストを考えると大きな制約があることも認めざるを得ない。
加えて、何よりも、化石燃料資源を持たないわが国のエネルギー安保政策においては、それらに頼らない、かつ安定性をもつ電源構成を考慮すれば、究極的にめざすべきは、カーボンゼロに基づくエネルギー100%自国自給システムの創造であると考える。
そこで、原発利用期限まで、水素製造事業施設建設のための電力エネルギー源および水素直接製造専用電源専用として原子力発電を活用することを提案している。
もちろん、この政策は、国民および地域住民の理解・同意を得てのものとすることは当然である。
このところ、政府方針が示されるなか、水素の重要性への認識が高まっていることは感じられますが、電源構成に水素を明確にかつ相当の高さの比率を組み入れるまでには至っていない。
むしろ、原発回帰を既定方針化を既成事実化しようという意図の方が強まっており、エネルギー安保の根幹を不安定化させるのではと懸念している。
エネルギー安保を含めた経済安保に関して、多面的・多様な議論も提案も行われず、種々の問題の改善・解決が相変わらず先送りにされ続けるモラトリアム社会がすっかり根付いてしまった根本的な原因は、野党から自民党とは異なる明確かつ中長期的に実現可能な政策が全くと言っていいほど提案されないことにあると考えている。

 なお、もちろん、水素製造および水素電源化にはコストが最大の課題であり、上記のように簡単に方針化・政策化を語ることは適切ではないことは理解している。
2021年段階の調査では、水素1kg当たり製造コストは3〜8ドルで、天然ガスからの製造の約6倍。
しかし2030年までには1.3〜3.5ドルに下がるという予想があり、各国間の技術革新競争が激化している。
2040年頃までの大規模なブレークスルーに期待できると思っているのだが・・・。

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