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養育費不払いとひとり親世帯の貧困問題:『離婚の経済学』が提起する、離婚による母子家庭貧困リスク

「COVID-19」後、2050年の社会システム改革に臨む

コロナ禍で母子家庭・父子家庭の生活が大きく脅かされている

今月こどもの日の翌日5月6日に以下を投稿した。
結婚の経済学、離婚の経済学

離婚の経済学 愛と別れの論理』と『「家族の幸せ」の経済学~データ分析でわかった結婚、出産、子育ての真実~ 』の2冊の新書も参考にしながら、結婚と離婚、そして家族の問題について考えていくことをメモしたものだった。


前書で特に取り上げているのが、離婚がもたらす母子世帯・父子世帯、いわゆるひとり親世帯の貧困問題である。
母子世帯で養育費を受け取る割合は24%。(厚労省2016年度調査)
その年間平均所得は282万円。(同2018年度調査。一般家族世帯774万円)

その貧困・困窮に追い打ちをかけるのが、コロナ禍である。
ひとり親世帯の貧困の大きな要因が、親の多くが非正規雇用等不安定な就労状態を強いられていることだ。
それは当然低賃金のみならず、非常時には働く機会を失うか、雇用自体を打ち切られるリスクを抱えていることを意味する。
加えて、別れた元配偶者からの養育費を受け取ることも一層困難になる。
貧困を招いた元配偶者自身が、非正規雇用であったり、低賃金であることが多いためだ。

いわゆる似た者婚による格差婚が引き起こす貧困問題とも言える。

しかし、子どもには何の罪もない。
が、子どもを護る社会的仕組み・制度・システムが、わが国には整っていないのだ。
離婚したひとり親世帯のほぼ8割の子どもが養育費を受け取っていないという。

産まれきた子どもは、生きる権利、保育・教育を受ける権利を社会保障として、生まれながらに持っている。
それを困難にするひとり親世帯の貧困は、その親が持つ基本的な人権と合わせて、国が社会保障システムにおいて解消する必要がある。
本来、母子世帯福祉の問題として対応するのではなく、社会保障として制度化・システム化すべきと考えるべきなのだ。



養育費不払い抑止のための法制化が不可欠

日本において、子どもを持つ者の離婚では、親権は、一方だけと定められている。
これだと、引き取る親の方だけが権利を持ち、それが子どもを養育する義務・責任と一体であるかのように感じさせてしまう。
決してそうではなく、双方が子どもの養育責任を持ち、親権がない親の方は、両者の取り決めにより、本来養育費を支払う責任を持つ。

まず、その法律が明確でないのだ。
というか、一応あるにはある。
民法の離婚時に養育費を決める規定や、母子寡婦福祉法による離婚相手の養育費支払う義務規定だ。
しかし、それが機能していない。
払わない親が多く、放置されたまま。
言うならば「ざる法」だ。

協議離婚時に養育費に関する取り決めが明確になされないこともあるし、なにより円満に協議などできない離婚も多いはずだ。
事実、離婚時に養育費に関する取り決めをしないケースが6割という。
書面による合意がないのが現実だ。
仮に決めたとしても、賃金の差し押さえなどで、それを強制する法律もない。
いずれにしても、養育費の取り決めと支払い、未払い時等についての強行法規を制定すべきである。
最低限、国が一時立て替え払いし、当人からは強制徴収するか、最悪、強制労働で履行させるかだ。

もちろん、活用するかしないかは当人同士の取り決めることだが、共同親権制を導入し、双方のこどもの養育当事者責任意識を強く持つべきことを文化にまですべきだ。

この共同親権については、『「家族の幸せ」の経済学』の第6章「離婚の経済学」で詳しく触れているので、別の機会に紹介したい。


抜本的解決策にならない、ひとり親世帯の所得税減税改正

2020年度の税制改正で、未婚のひとり親と婚姻歴のあるひとり親を同等に扱う見直しが了承された。
先日、私のところ(法人宛)に、国税庁から「源泉所得税の改正のあらまし」という冊子が送られてきた。

「未婚のひとり親に対する税制上の措置及び寡婦(寡夫)控除の見直し」についての連絡で、今年度令和2年分以降の所得税について適用、という内容だ。

従来からあった、死別・離別でひとり親となった「寡婦・寡夫」に対する所得税控除制(27万円)に、未婚だが子どもを持つ「ひとり親」にも所得控除(35万円)を設定すること改定したものだ。
大まかにイメージできそうな図を、同冊子から以下に転載した。

詳しい内容は省くが、企業などに雇用され所得税を源泉徴収される被雇用ひとり親においては、企業サイドからそのことを知らされ、実質減税される。
しかし、その状態にないひとり親については、どうなるのだろう。
関係ないこととなるケースも多いのではないか。

まあ、ないよりはマシな税制改定ではあるが、抜本的な改善・解決には程遠い、小手先の対策に過ぎない。
元々の所得レベルが低ければ低いだけ、実収入の額もそう大きくは変わらない。

この程度で、結婚しなくてもいいから自分の子どもを持ちたいと思う女性が増えるとは、とうてい思えない。
フランスなどが導入している、未婚でも安心して子どもを産み、育てることが可能な政策には、まったく及ばないレベルのものだ。
少子化対策の一項目に書き連ねること自体はばかられる、恥ずかしい内容なのだ。


社会福祉ではなく、社会保障としての母子家庭・父子家庭政策、子育て支援・少子化対策へ


コロナ禍のような非常時だけに対応できれば良いものではない、日常において、普通にひとり親世帯、母子家庭・父子家庭が安心して暮らし、子どもを育てることができる社会システム。

そのためには、母子・父子福祉、寡婦・寡夫福祉という概念から脱し、社会保障という包括的な概念に拡大すべきだ。
すべての国民にあり得ること、あり得る不安・リスクへの対応という前提での社会システムに改革することで、多くの問題の改善・解消に結びつけるのだ。

これを、何としても、2050年までには実現したい。
2030年までに実現可能なこと、2040年までに実現したいこと、そして戦後100年となる2045年には実現すべき内容を、今から検討・策定に入りたい。

その改革のための戦略・政策はどういうものか。
次回、これまで他の記事で提起してきた内容を再度確認しながら、現時点での提案を整理したい。


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