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国土・資源政策

非効率石炭火力発電段階的休廃止と脱炭素への道、表と裏:新エネルギーシステム改革-5

ウィズコロナの2020年に再定義・再構築すべき2050年エネルギー国家戦略(再掲)

先月7月21日から、以下の視点をテーマとして、<新エネルギーシステム改革>シリーズを展開している。

◆ 電力自由化行政の誤りとエネルギー産業構造
◆ 電力料金競争の中身とこれから:公平・公正な競争基盤の確立を
◆ 再生可能エネルギー事業の最近の動向
◆ グローバル社会でリーダーシップを取れない脱炭素・脱CO2
◆ 脱原発を宣言できないエネルギー国家戦略、その政治と行政
◆ EV・燃料電池車の自動車産業は新エネルギー社会を牽引できるか
◆ 企業・自治体の注目すべき新エネルギー対策・エネルギー新技術
◆ 水素社会実現計画の合意形成を何故できないか
◆ 2050年エネルギーシステム国家戦略構築:自給自足&エネルギーフリー社会の実現へ

当面の環境エネルギー問題への取り組みを、課題項目として再定義し、一つ一つ、目標・政策・方向性などとして検討・提起していくシリーズ。

第1回:ウィズコロナの2020年に再定義・再構築すべき2050年エネルギー国家戦略
第2回:不自由化と一体だった電力自由化、本来の道筋
第3回:電力料金の公正な競争基盤確立の条件
第4回:2050年再生可能エネルギー100%達成を目標に

5回目の今回は、上記リストの順を入れ替えて、少し状況に変化が出てきた<脱炭素>をめぐる状況を確認したい。

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梶山経産相、いよいよ脱炭素社会へ舵取り?

ついに、と言うか、ようやく、と言うか・・・。

先月7月3日に、突然、梶山経済産業相が、非効率石炭火力発電を、2030年度までに段階的に休廃止(フェードアウト)することを発表した。
現在ある140基の石炭火力のうち約100基が対象となる予定という。
それは当然、再生可能エネルギーの主電源化を意味する。

遅きに失した、と言えなくもないが、ないより、やらないより大いにマシだ。
経産相の独断パフォーマンスではなく、今回は、省も官僚も、そして内閣も、このエネルギー政策の見直しに関し合意形成しているらしい。
これと関連することとして、小泉環境相が、石炭火力輸出への公的支援の要件の厳格化も発表している。

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コロナ禍で温暖化ガス急減、脱炭素をめぐる状況の変化

新型コロナウイルス感染症パンデミックにより、グローバルレベルで温暖化ガスの排出が急減しているという。
さまざまな社会経済活動が停止・収縮しているためだ。
化石燃料などの使用時に伴う大気汚染物質の排出が各国各地で大幅に減少した。
SNSで、「空が青い」という投稿が相次いだと報じられている。

この機会に、脱炭素、そして再生エネルギーへの大転換の機運が高まり、実際の活動に繋がることを期待したいものだ。
しかし、コロナがいずれ収束・終息すれば、また化石燃料に戻る可能性も残る。

もう一つ、太陽光発電や風力発電など、再生エネ発電上依存する気候の大変動にも注意が必要である。
発電能力が、気候条件に左右されるために、電力料金の変動要因になりやすく、価格面での評価・優先度で、脱炭素が抑制される可能性も残るわけだ。

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脱炭素社会実現にリーダーシップを取るべき日本の役割とビヨンドゼロ目標


今年2020年1月21日に「革新的環境イノベーション戦略」が、政府が公表した。
日本主導で世界の脱炭素社会実現すべく、5分野16課題39テーマにおいて技術開発を進める。
これらの革新的技術が開発され普及すれば、世界で毎年排出されるCO2、約490億トン以上の削減が可能と言う。
これが、これまで排出したCO2の低減を意味する「ビヨンドゼロ」政策だ。

この「革新的環境イノベーション戦略」については、後日、この<新エネルギーシステム改革>シリーズの中で取り上げたい。


パリ協定その後の不安要素

日本は、政府は温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に基づき、2030年度までの温暖化ガス削減目標を国連に提出している。
2013年度比で、26%削減する従来目標を据え置いたまま、「意欲的な数値をめざす」とした。

2015年採択のパリ協定では、直後に各国が30年ごろの目標をいったん提出。
加えて2020年2月末までに野心的な目標を改めて出すことになっていた。
しかし、欧州諸国や環境関連NGOから削減目標の引き上げでリーダーシップを取ることを期待されたが、期限内提出を行なうことはなかった。

実は今年2020年は、パリ協定本格運用開始の重要な年になる予定だった。
約190カ国が、第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)に向けて温暖化ガスの削減目標を提示。
その具体策を議論するはずだったが、会合は延期になってしまった。
パリ協定の連帯が弱体化する可能性を抱えてしまっている。
そうした漠とした状況下での、今回の梶山経産相の脱炭素方針の発表であった。

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日本のメガバンクも石炭火力の新規融資停止

日本のメガバンク、みずほフィナンシャルグループが、4月15日に、新設石炭火力発電所への投融資のゼロ化、3月末約3千億円の同事業への与信残高の2030年度までの半減、2050年度までにはゼロに、と発表した。

すでに三菱UFJフィナンシャル・グループが新規投融資の原則停止方針を示し、三井住友FGも追随し、3メガバンクが足並みをそろえた。

気候変動対策では欧米の金融機関が先行しており、外国人株主が3割前後を占める邦銀も脱炭素・環境配慮の姿勢を強めざるを得なくなったわけだ。


こうしたヨーロッパの動静が、ついに米国に影響を及ぼした。
米国JPモルガン・チェースが、今年2月には、石炭採掘会社への新規融資や証券発行の引き受け停止、既存の融資・債権の段階的な縮小により2024年までにゼロにすると発表している。
石炭火力発電プロジェクトの全地域での新規融資停止を意味する。


石炭火力依存の東南アジア諸国にも変化のきざし

実は、JPモルガンは、インドやフィリピン、中国などへの投融資先が多く、同社の方針転換は、アジア地域へも影響をもたらす。

石炭産出国であるインドネシアは、石炭火力が総発電能力の50%を占める。
だが、国営電力PLNは28年以降の石炭火力発電所の新設を白紙に。

また、タイの石炭生産大手バンプーは2019年12月に、日本の宮城県で大規模太陽光発電所の営業運転を開始し、米テキサス州のシェールガス田の権益を約830億円で買収。
ESG(環境・社会・企業統治)の原則に従って持続可能な事業開発を続ける方針としている。

融資団の中核を日本勢が占めるベトナム中部のブンアン2石炭火力発電所では、現在もプロジェクトは進行中だが、英スタンダードチャータード銀行など海外金融機関の離脱が相次ぎ、今後の困難が予想されている。

こうしたマネーの環境・エネルギーをめぐる動向に、常に気を配り、的確に対応していくことも非常に重要な課題となっているわけだ。
経済・政治外交両面での環境エネルギー戦略の統一性が求められている。


不評の梶山経産相の非効率石炭火力発電休廃止方針

日本の石炭火力発電量の2018年度の構成比は32%と高い。

注目先行の梶山経産相の非効率石炭火力発電の段階的休廃止方針。
実は、専門家や関連産業・企業には不評という。
イメージ先行で中身がまったく詰められていない、と関連産業界のみならず、環境団体からさえも強い異論が出ている。

非効率発電所の多くは、製造業、石油コンビナート、セメント業などが自家発電用として用いている、比較的効率も高く、複合的に貢献している設備である。
そこが狙い撃ちされていて、全140基中の100基と、あたかもこれで大きく対策が前進するかのようにイメージ化、生贄化されていると関係者が反対している。

狙い撃ちの中には、新電力も含まれ、反対に守られているのが、大型の石炭火力発電所を持つ大手電力というわけだ。
なるほどそういうことか。
素人やマスコミ紙の読者には分からない領域の話だ。

もう少し詳しく見ておこう。
実は、「非効率」とされるのは「亜臨界圧(SUB-C)」「超臨界圧(SC)」と呼ばれる合計114基の設備。
亜臨界圧、超臨界圧は石炭燃焼でつくった蒸気の圧力と温度条件を指し、ともに高い方がエネルギー効率が高くなる。
「高効率」とされるのは、「超々臨界圧(USC)」設備と、石炭をガス化してから燃す石炭ガス化複合発電(IGCC)の合計26基の設備。

全体140基の半分を保有するのが大手電力会社で、一部の古い非効率設備を除き、2000年以降建設の設備すべてが「高効率」型という。
一方、電力自由化で発電事業に参入した新電力、前述の素材産業などの設備は出力が比較的小さくて「非効率」型が多く、休廃止対象にこれら自家発が含まれるということだ。

骨抜き電力自由化で見て、分かった既得権益者である大手電力重視型、癒着型政策そのものというわけだ。
結局、当サイトでずっと問題にしてきている電力・エネルギー行政の根本的な改革が必要であることを示す一つのエピソードということになる。

環境派からは、当然のノー!


他方、CO2削減を強く求める環境団体からは、異論・反論だ。
段階的休廃止は、すべての石炭火力発電の廃止ではないのだから、脱炭素を掲げる上では、黙って認めるわけには行かない。
当然のことである。

100基というと随分思い切った政策と見えなくもないが、内実は先に述べたとおりだ。
2030年までの石炭火力全廃があるべき形だから。


表の道あれば、裏の道あり、電力行政

一方、非効率石炭火力の段階的休廃止の裏を読めば、「高効率石炭火力は、使い続ける」という意思表示ととらえる専門家がいるのだ。

現実に、つい先日、超々臨界圧で出力60万kw級の大型発電所である、Jパワーの竹原火力新1号機と鹿島パワーの鹿島火力2号機が営業運転を始めている他、高効率石炭火力の建設が進んでいるというのだ。

加えて、18年度閣議決定の現行エネルギー基本計画に、超臨界以下の非効率石炭火力のフェードアウト方針も書き込まれていて、今回の発表はこれに沿ったものというわけである。
確信犯ということだ。

狙い撃ちした大手電力以外の自社利用自家発電及び弱者勢力は、まさに「フェードアウト」せざるを得ないような隠しシナリオを、しっかり準備し、素知らぬふりして電力エネルギー行政を演出していることになる。


真面目な者が損をする社会経済。
陰湿かつ狡猾な者こそフェードアウトせざるを得ない社会に変革することを目指す必要がある。
行政を改革する政治、政治家、リーダー・・・。
志ある官僚出身者でも良い。
出現を!

次回は、脱炭素と一体の課題でもある、脱原発について考えたい。

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