「新しい資本主義実現会議」は機能するか:その限界とかすかな期待

国政政策

日経が仕掛ける「新しい資本主義」批判


岸田第2次内閣が始動した。
就任早々打ち出した「新しい資本主義」。
日経紙では厳しい文字が、毎日のように見られる。

11月9日には
「政府、30兆円超対策ありき 「新しい資本主義会議」提言、成長戦略乏しく」
同11日には、
「30兆円超、みえぬ政策目的 寄せ集めの経済対策 効果薄い給付金、繰り返す」
12日夕刊(十字路欄)では、なんと
「「資本主義」が軽すぎる」 というタイトル記事。
13日は、
「経済対策、乏しい成長投資 40兆円に膨張 コロナ後戦略、出遅れも」
14日には、こんな表現の記事も。
「首相の看板政策、枠組み先行 デジタルや賃上げの会議新設 問われる成長、分担あいまい」

そして今日16日・17日には小竹洋之上級論説委員による上から目線での
「新しい資本主義」論の軽さ 改革なき分配でいいのか 」と題した記事。

こんな調子である。

「新しい資本主義実現会議」と関連する多種類の組織構成

 「新しい資本主義実現会議」は、菅義偉政権下による「成長戦略会議」を廃止し、その機能を取り込んだと日経。
 確かに、岸田政権のスローガンの一つは「成長と分配」だから、成長が必須課題。
 その新しい「新しい資本主義実現会議」は、一体どう機能させるのか。

 先月新たに開設した、少し気軽な、パーソナルな視点軸のモノローグサイト http://ohnoharuo.com でこの会議について述べたのが以下の記事。 
女性が半数の「新しい資本主義会議」メンバーに、平野未来さん、米良はるかさん・・・(2021/10/18)
 新しさが、「女性メンバーが多いこと」ではまったくシャレにもならず面白くもない。
 実は、この会議、極めて重要な会議で、多種多様な会議や委員会が関連して紐付けされている。

「経済財政諮問会議」、「新しい資本主義実現会議」プラス関連組織

 もう耳慣れた政府の代表的会議である「経済財政諮問会議」と並んで重要な会議で、従来の組織の改変と新規設置により、以下で構成されている。

1.経済財政諮問会議
  従来どおり、予算編成の基本方針や経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)を策定
2.新しい資本主義実現会議
 1)デジタル臨時行政調査会(臨調):デジタル化・規制改革・行政改革を各会議と一体で検討
  ① デジタル社会推進会議
  ② 規制改革推進会議
  ③ 行政改革推進会議
  ※既存の規制改革推進会議行政改革推進会議、菅政権下のデジタル社会推進会議の3つを統括する形
 2)デジタル田園都市国家構想実現会議:デジタル活用での地方活性化推進
  ※安倍晋三政権下の「まち・ひと・しごと創生会議」に近い機能
 3)全世代型社会保障構築会議:少子化時代の社会保障改革案のとりまとめ
  ※安倍・菅両政権下の全世代型社会保障検討会議機能を継承
  ①公的価格評価検討委員会:全世代型社保構築会議下で看護師・介護士・保育士等の給与引き上げ策定。


トヨタのカンバン方式との違いは明白。政府のカンバンの上げ下げで成果が上がるはずがない

 日経では、「各会議の線引きは明確になっておらず、枠組み先行という面は否めず、各会議に担当の重複が出てくる。複数の会議により多様な有識者の意見を反映しやすくなるが、政権がめざす方向性が見えにくくなったり調整に時間がかかったりする。」と言う。
 また、これらの組織名称は宏池会の色が濃いとされる。
 例えば、「臨調」は、宏池会初代会長池田元首相が、1962年、行革に関する首相の諮問機関として設置し、
第4代会長鈴木元首相が、土光敏夫経団連名誉会長に据え第2次臨調を立ち上げ行財政改革に取り組んだことで知れ渡った。
「デジタル田園都市国家構想」は第3代会長大平元首相の「田園都市国家構想」に倣う形であり、学者ら有識者の提言を活用するスタイルは大平氏と似通うと。
 それはそうかもしれないが、どの内閣においても、外部の識者とやらを呼び込み、とりわけ安倍内閣では、やっている感満載のスローガン型政策と組織が幅を効かせ、マスコミに恰好のネタを提供していた。
 しかしその結果は、最終的には、官僚と政権政党の思惑の中でことが進められ、多くは結果・成果を残しておらず、安倍・菅政権に限らずどの政権・内閣において共通で、さほど大きな違いはないだろう。

意見を聞くことに意義がある会議・委員会は必要か?その前にやるべきことがある

 多くの学者や実務家、識者を集めて意見を聞くことをムダとは思わないが、聞いて、議論するのなら、今どき、集まらなくてもオンライン・ミーティングを行うか、主旨を伝えて、書面で提案などを提出してもらえば済むだろう。
 そもそも、政権政党の内閣ならば、党総裁すなわち総理の方針を受けて、党内でそうした政策案や関連法案をまとめることを先行すべきだろう。
 それらを外部の識者などに見せ、意見などをもらう形が望ましいと思う。
 あるいは、政党案を立案するに当たって、学者や財界、関係団体等の実務家や識者等の意見や提案を受ける方法もある。
 もっと厳しいことを言うと、総理になろうと思う者、総理になり方針を掲げるに当たっては、相当の具体案・腹案をもって臨むべきであり、関係閣僚・担当相と関係官庁の官僚との突き合わせ作業を先行させるべきではないかと思う。
 民間の意見を聞くのは、政府の具体的な政策案を提示した上で行うことが、丁寧なやり方と思うのだが、いかがだろう。そこでは、野党も、マスコミも同列になる。

総理・内閣、関係閣僚の力量、マネジメント能力とガバナンス能力が問われる

 実は、上記の会議・委員会においては、 全世代型社会保障構築会議・ 公的価格評価検討委員会・規制改革推進会議を除けば、すべて岸田首相が議長・会長を務める。
 また各会議に関連する担当相を調べてみると、以下が確認できた。

山際太志郎経済財政・経済再生担当相 新しい資本主義実現会議全世代型社会保障構築会議
桐島かれんデジタル・行政改革・規制改革担当相デジタル臨時行政調査会(臨調)デジタル社会推進会議規制改革推進会議行政改革推進会議 
若宮健嗣万博(共生社会、消費者・食品安全、クールジャパン戦略、知的財産戦略)担当相デジタル田園都市国家構想実現会議

 各会議・委員会を統括するのが「新しい資本主義実現会議」なので、上記の3担当相も同会議のメンバーに名を連ねるべきなのは当然である。
 この各担当相、これだけの組織会合と実務に携わって、果たしてその責務を果たすことができるか?
 民間委員はもちろん、官僚・実務担当者とのやりとり、与党関係者との調整などもある。
 加えて、各会議で提起され、具体的に検討が必要になる課題は、財務省・経済産業省・法務省など各省の担当領域と重なり、より複雑になってくる。
 そしてその全体を統括する内閣官房および総理が全責任を持つ。

 要するに、会議や委員会は、ほんの序の口であり、いわゆる「やっている感」を感じさせる手段・方策、話のネタにはなりえても、あるいはそれらを「聞く力」を持っていても、肝心なのは、「実行・実現・実践する力」を持っていることだ。
 そのために必要なのは、個々の会議・委員会の成果物をまとめ上げるマネジメント能力、すべての会議・委員会の成果を統合し、実現するための計画案と予算案、そして必要な法律案までまとめ上げるガバナンス能力だ。
 もちろん、それは、関係官庁・官僚をマネジメントする内閣が本質とする業務を含む能力でもあり、国会における与野党との調整・対応・対峙も含む。

 そう考えると、そのための政策の議論、予算化・法制化、そして執行・実行は、1年1年の年次単位レベルで済むものではありえないことも想像・想定できよう。
 そうした次元での国会活動・与野党間協議、そして国民・住民、事業者・企業等、マスコミ等との望ましいコミュニケーション・マネジメントも、変革を遂げていく必要がある。

政治の質と政治に対する国民の意識と姿勢の質の向上を

 政権批判を行うことが目的では決してない本稿。
 それは、現状の野党の状況を見れば、政権交代など不可能であることが明らかなので言う必要がないと思うからだ。
 しかし与野党の現状をやり過ごすことが常態化しており、政治の在り方が否が応でも変革せざるを得ない状況を、まったくイメージも実感もできないことにその遠因がある。
 一応そう意識・認識しておく必要があると思っている。

 しかし、それを個々の私たち国民・市民・住民の責任として批判すれば、やはり必ずブーメラン現象が起きる。
 だから、政治変革を通じて、私たちも望ましい在り方に変わっていくことの方が少しは現実的かと思う。

 そういう意味で、リベラル色を帯びた岸田政権には、少しくは期待している部分が正直ある。

野党の質が、政治の質の低下・向上に大きく関係する

 だがやはり先行して変わるべきは野党の方だろう。
 期待はできないが。
 どこをどう変えるべきか、という発想も、議論も起きていないことは悲劇であり、喜劇でもある。

 マスコミも、もしかしたらそれ以上にひどい状況になっていると言える。
 内閣支持率調査や国会議員選当選確実報道など、まったくもって不確定情報創造発信商品化無責任ビジネスに堕してしまったマスコミ。
 数少ない「リアル」が、文春砲や個人のSNS発信での偶発的なバズリが偶々起き起こす「国民の声」的現象に委ねざるを得ない社会に加担しているのは、紛れもなく、慣用語にもなっているのだろう「マスゴミ」のような気がする。

 

「新しい資本主義」は岸田政権で発芽するか、一応注視していきたい

 本題の「新しい資本主義実現会議」がらみでの動向は、さまざまな形、機会を通じて広がっていくことは間違いない。
 当サイトの方針である「2050年の望ましい日本社会の創造」を目標として設定した<国土・資源政策><社会政策>・<経済政策><国政政策>の4つの長期ビジョンと個別政策と突き合わせしながら、注視・注目してまいります。


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