
介護IT化による介護現場の生産性向上への疑わしい貢献度
介護現場での主なIT活用業務
コロナウイルス禍における介護現場の緊張感は、未だに厳しさが続いている。
クラスター発生の象徴的な業種・事業体と見られとともに、介護職員の感染も伴い、人材不足解消の目処はまったくたたない。
コロナ以前の介護事業経営・運営の厳しさが、コロナに感染するかのように拡大しているのではないかと懸念している。
介護現場の低い生産性の向上のための武器として期待されてきたIT活用。
その初期から、
1.IT機器及びシステム活用による見守り
2.ロボット活用による作業負担の軽減
3.人型・動物型ロボットによる対人サービス利用
4.事務作業のシステム化
などが挙げられ、多分、それなりに進められてきてはいるのだろうが、革新的な成功事例として何かが取り上げられたことは、実はない(と思っている)。

IT見守りサービスの現状
「見守り」については、義母が今年4月まで5年間入所していたサ高住でも、要介護1から要介護4になった時点から、WEBカメラを部屋に設置して、リスク発生に備えるようになった。
現在入所している特養では、もちろんカメラが設置され、介護スタッフの詰める事務所でモニタリングしているだろう。
こうした入所型施設で、見守りシステムが有効なのは、特に夜間だ。
夜間の定時巡回作業が不要になり、設置された機器のセンサーやカメラ等で身体や睡眠、行動などに異常やイレギュラーが感知・確認された場合部屋に行けばよなった。
例えば、入居全室に赤外線センサーを設置することで、入居者の活動状況がモニターに映り、介護士は離れた部屋から把握。
導入した施設では、夜間に入居者の部屋を1時間に1回巡視していた頻度が大幅に減ったという。
この機器は、手のひらサイズでベッドサイドに置くだけで、入居者の動きや、部屋の温度、湿度などが分かる。
導入費用は1台1万9800円、月額利用料は980円と低価格。
現在は介護施設などで約2000台が稼働するという。
介護職員の負担を大きく軽減することになった点では、導入効果は大きい。
しかし、それで夜間勤務を無くすことができるわけではないので、コスト面での効果は期待できない。
むしろIT機器の導入コストがかかる。
そのコストは、利用者に転嫁されれば、利用者にしわ寄せがいく。
現実に、義母のサ高住入所時に、施設外への徘徊防止のためのシステム導入ちうことで、月次の管理費が数千円上げられたことがあった。

遠隔地間見守りサービスの現状
以上は、入所型施設での話だが、見守りは、むしろ、まさにリモート、遠隔利用でこそ効果を発揮する(はずだ)。
新型コロナウイルス感染拡大は、まさに、訪問介護・訪問看護における見守りシステムの導入を促進させ、その利用事例、利用モデルを拡散させる好機になるかもしれない。
ただ、もう数年前には、認知症で徘徊する高齢者の見守り・発見システムが導入され、自治体が認知症徘徊時に起きうる事故への保障をする保険に加入する住民サービスも多く紹介された。
しかし、最近では、徘徊による事故の報道も少なくなり、問題化される頻度も随分低下しているように感じられる。
この実際に遠隔での見守りサービスは、異なるサービス業種である警備会社が行なっているサービスに近い。
日常は介護できないが、遠く離れて生活している要介護高齢者の家族が、介護を必要とする親を見守るために、この機器とサービスを利用するケースが考えられる。
しかし利便性は分かるが、何かあった時に、自分たちがすぐに対応できない場合、駆けつけるために時間を要する場合など、即時対応可能な態勢を整えておくこと等準備がなければ効果の程度はさほど期待できない。
訪問介護事業所が、訪問先に設置するにしても、今度は、定期的・計画的な訪問業務ではなく、突発的な対応を必要とする。
その態勢を整えておくにもコストがかかるわけで、かと言って、利用者に負担を求めた場合、果たして同意してくれるかどうか。
費用対効果などを考えれば、経営的にはこのIT化をためらう事業者が多いのではと思う。

見守る範囲と見守って行うサービスの範囲が課題
要は、「見守る」という用語が意味する範囲、見守って行なってくれるサービスの範囲、が問題なのだ。
ただ異常などを感知して知らせてくれるが、結局は、対応するのが人、介護スタッフであることは何ら変わらない。
知らせを受けた時に、スタッフがどういう状態にあるかは、感知連絡サービスには関係ないわけで、結局、生産性を高めることや、人手不足を解消するなど、ずーっと根源的に続いている介護現場の厳しさの改善への貢献度は、極めて限定的になると私は思っている。
ビジネスを目的としている人・事業者や介護行政を行なっている役所・公務員が、カッコよく言うほどのものではない。
ビジネスを目的としている人には、介護のために社会貢献を、と純粋に、志高く思っている方々も多いだろう。
しかし、営利目的であることは間違いなく、赤字でその事業を続けるわけでは決してあるまい。
そう認識しておくべきと思うのだが、厳しすぎ、きつ過ぎるだろうか。
「見守り」という用語を軽々しく用いる人を厳しく見守る必要があるというべきか。

対人ロボットは、施設に必要な介護職要員基準外のIT機器
もう一つ、一時よく取り上げられたペッパーなどの人型ロボットやペット型ロボットなど対人サービス向けIT機器。
要するに口悪く言うと、高齢者のための会話や反応をしてくれるおもちゃロボットだが、これも、介護実務・介護作業を担ってくれるまでのものはできていないので、規定の介護職定数には加えられない。
すなわち、人手不足の手助けとしても限定的であり、利用高齢者に、このロボットを好む人がいることで、一応の価値が認められるものである。
作業支援型・補助型ロボット導入の現実
介護職の必要定員の削減や人手不足の解消に役立ってこそのIT活用だが、果たしてそこまで期待できるか。
基本的にはムリで、最も期待できるのは、介護職の心身の負担の軽減にある。
これが現実と思う。
先の見守りサービスは、夜勤に最も貢献してくれるが、もう一つ現実にスタッフの心身の負担の軽減に役に立つのが、肉体的に負担がかかる作業を支援してくれるロボットだ。
これは、ロボットと呼ぶよりも、機械、マシーンと呼ぶべきと考えている。
ロボットは、かなりの程度で、人間が判断して行う作業負担を不要とするものに限定すべきだろう。
非常に誤解を招きやすい用語だ。
そのロボットだが、実際の介護現場への導入度は、以下のレベルという。
・移乗(装着型) 2%未満
・介護業務支援 〃
・入浴支援 〃
・移乗介助(非装着型) 1%未満
これで分かるように、人手はなくせないのだ。
そして当然、このロボットは、まだまだ高額だ。
導入できる企業は限られている。
因みに、先に取り上げた<見守り(施設型)>IT導入施設は、4%未満という。

介護行政の旧態依然の意識・態勢・政策は、菅内閣でも決して変わるまい
現場に必要なロボットを増やそうと、政府の規制改革推進会議は7月、介護報酬制度の見直しでロボットの普及に弾みをつけるよう提言した。
厚生労働省も8月から対応を強化。製品開発や相談対応、ロボット貸し出しなど、メーカーや介護事業者を幅広く支える策を講じた。
人の代わりとしてロボットの活躍の場を広げる狙いがある。
こうした現状をなんとか変えたいと政府や厚労省は考えているらしいが、せいぜいで補助金を出すのが、毎度のことで関の山。
これも仮にやればやったで、やりっぱなしに終わり、検証にまで至ることはあるまい。
日経なども、毎度のことで、IT活用を!と喧伝するが、その介護現場や、在宅介護の現状の不認識振りには呆れ返ってしまう。
かと言って、行政改革・規制改革・デジタル改革を重点政策に掲げる菅内閣においても、こうした現場にしっかり目を向けての政策への転換が行われることは、まったく期待できない。
これまでも介護に関する問題を種々取り上げ、提案もしてきている。
だが、もう一度、これからの5年間で、取り組むべき介護行政改革課題について、もう少し時間を頂いて、今月中には提案したいと考えている。
それを考える準備としての第1回目が今回だった。
次回も、準備のための検討を。

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