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国土・資源政策

小麦価格高騰と食料自給問題、健康志向を背景に、米粉に人気

最近、国産米粉使用をうたったパンや麺類が増えてきている。
わが家でも、そのもちもち感が良いということで、米粉入りパンを食べる機会が増えている。
先日、2023/4/4付日経夕刊に
(値札の経済学)米粉に値ごろ感、小麦と逆転も  おいしさ向上や健康志向も後押し – 日本経済新聞 (nikkei.com)
という記事が掲載された。


その書き出しには「米粉製品はパン、うどん、菓子などの小麦粉製品の大半を代替できる。」とある。
もともと米菓はコメを原料としているのだが、価格面から多くに輸入米が使われているという。
100%国産米を使用しているお菓子メーカーを、先日「カンブリア宮殿」で取り上げていた。
はじめから余談だが、せんべいとおかき(かきもち)の違いは、前者が普通のコメを使い、後者は餅米を使うことにあることもその時確認。
これを機に、わが家でも妻がその会社(岩塚製菓)の、歯に優しいおかき、きなこ餅を買い求めるようになった。
米粉で小麦粉製品の大半が代替できるなら、当たり前に、米粉を用いた麺類やパンがスーパーの棚割りを占めてよいと思うのだが、ご想像のように、そうならない理由は、米粉の価格が高いから。
その話を聞けば、長くコメの減反政策を続けてきているわが国の農政が、ちょっとおかしいのではないかと思うのが自然だろう。
この問題に深く、鋭く切り込んだ主張を、数人の著名な農業専門家が長きにわたり展開している。
山下一仁氏、鈴木宣弘氏、窪田新太郎氏などであり、各氏の著書を参考にして、食料問題・農業問題に関するシリーズを、と以前から思い、かつお伝えもしてきている。
しかし、その専門家間での主義主張が異なる点があることを今年に入って知ったため、シリーズへの着手が遅れている。
という言い訳をしつつ、外堀を埋める作業の一端をということでの本稿である。
なお、ウクライナ侵攻が小麦輸出入減少と価格高騰をもたらしていることは周知のことだ。
(小麦のグローバル社会における供給等の実態は、次回のテーマとする予定)

小麦価格と米粉価格との逆転現象

今回は、米粉の元であるコメと小麦の価格と日本における市場と流通に関する事情をまず確認しておきたい。
冒頭の日経記事によると、米粉の価格に関する公式統計がないとのこと。
その理由は、なんと、市場が小さすぎるためと。
国内で流通する小麦は、2020年までの5年間平均で、輸入488万トン(約85%)、国産82万トン、計570万トン。
すべてが国産の米粉の生産量は2021年度で約4万トンだから、1%にも満たず、確かに少ない。
そしてほとんどが地場産業レベルだ。
そのため、「地域で値段がまちまちなので定点観測が難しい」と農水省スタッフ。
このあたりの説明は、減反政策批判をかわすことも含め、どこか、なにか、言い訳めいている。
そうした状況下、「高騰化する輸入小麦に対して米粉の価格優位性が出始め、一部地域で価格の逆転現象が起きている」らしい。
こうした発言も、輸入小麦の価格、国内への製粉業への流通とその価格等すべてを国が管理統制していることを背景としていることを知っておきたい。
なお、ここではやはり余談だが、国産小麦も同じように地場産がほとんどと言えるのか、国産小麦が使用されているパンや麺類の包装には、「○○産の☓☓小麦」と地名と小麦のブランド名が書かれている。

米粉の価格優位化に加え、味・健康志向からの選考も

しかし、小麦のグルテンを避ける健康志向や、米粉の品質改良と商品開発による味・品質向上も人気化の背景にあり、需要増をもたらしている。
価格の逆転現象が進むとともに、米粉製粉コストの低減・製品価格の低下という好循環がさらなる需要増に繋がることが一層期待できるというわけだ。
実は米粉には、白玉粉、上新粉などがあり、以前から羊羹・和菓子・おかき・せんべいなどに用いられてきている。これに加えて、最近では、最新技術を用いて微細な粉を製造し、パン・クッキー・ケーキ・パスタ、天ぷら粉など用途が広がり、消費も増えてきているという背景がある。

グルテンフリー、ノングルテン表示の米粉が支持される理由

グルテンとは、小麦や大麦・ライ麦などに含まれるたんぱく質の一種。
小麦は、グルテニンとグリアジンの2種類のたんぱく質が絡み合ってできたもの。
グルテンフリーとは、元々は、セリアック病患者のための食事療法。
セリアック病とは、遺伝性の自己免疫疾患で「グルテン」に異常反応を起こし、自己免疫系が小腸の組織を攻撃することで炎症が起き、小腸の細胞が破壊されてしまう病気。
それが原因で、栄養素の吸収の低下や、腹痛・下痢、倦怠感その他の症状がでるとされている。
また小麦でアレルギーを起こす人もおり、こうした情報の広がりから、健康面から、小麦ではなくグルテンフリーの米粉を支持する人とその食のスタイルの広がりもあるとされている。
日本米粉協会は小麦粉などを含まずグルテンが1PPM以下の米粉製品を「ノングルテン」と表示する厳しい認定制度を導入しているという。
欧米ではグルテンフリーを実践する人が多く、米粉の注目度・人気の高まりを期待する向きもあるわけだ。

コメで進む用途別ブランド化

ところで、主食用米や、日本酒用の酒米などではブランド化が当たり前になっており、今回テーマとした米粉用米に加え、家畜の餌用の飼料用米もある。
先述した米粉使用のパンでは、もちもち感が出る「ミズホチカラ」や「笑みたわわ」、麺への加工に向く「ふくのこ」など用途別のブランド化も進んでいる。

米の減反政策をはじめとする農政・農業問題の根本は、食の安全保障・自給率問題

こうなると、米の減反政策は、一層合理性や意義を失うように思われ、日本の農業の失われた20年、30年を問題視する必要を強く感じるところとなる。
もちろん、その視点の根本的な要素・要因は、食料の自給率、食の安全保障の問題とその観点での日本の農業・畜産業、そして前回取り上げた水産業の戦略的なあり方・政策に帰着することは言うまでもない。
(参考)
⇒ 注目される陸上養殖サーモン。自然・経済環境、地政学的変化による海洋漁業不振と食料自給率向上対策に寄与するか(2023/4/9)
冒頭、外堀を埋める作業といったが、その作業用のテーマが今回を含めいくつか溜まってきているので、今月はそのテーマで投稿し、農政・食料安全保障問題シリーズは、5月に入ってからとしたい。
次回は、遡って、ウクライナ侵攻によるグローバル社会における小麦の価格高騰とサプライチェーン問題の昨年終わりの記事を参考にして確認作業を行いたい。

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