電力料金の公正な競争基盤確立の条件:新エネルギーシステム改革-3 

経済政策

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ウィズコロナの2020年に再定義・再構築すべき2050年エネルギー国家戦略(再掲)

7月21日投稿の
ウィズコロナの2020年に再定義・再構築すべき2050年エネルギー国家戦略:新エネルギーシステム改革-1
で、以下のリストを示し、<新エネルギーシステム改革>シリーズを始めた。

当面の環境エネルギー問題への取り組みを、課題項目として再定義し、一つ一つ、目標・政策・方向性などとして検討・提起していくシリーズである。

◆ 電力自由化行政の誤りとエネルギー産業構造
◆ 電力料金競争の中身とこれから:公平・公正な競争基盤の確立を
◆ 脱原発を宣言できないエネルギー国家戦略、その政治と行政
◆ 再生可能エネルギー事業の最近の動向
◆ グローバル社会でリーダーシップを取れない脱炭素・脱CO2
◆ 水素社会実現計画の合意形成を何故できないか
◆ EV・燃料電池車の自動車産業は新エネルギー社会を牽引できるか
◆ 企業・自治体の注目すべき新エネルギー対策・エネルギー新技術
◆ 2050年エネルギーシステム国家戦略構築:自給自足&エネルギーフリー社会の実現へ


翌7月22日のテーマは、以下。
不自由化と一体だった電力自由化、本来の道筋:新エネルギーシステム改革-2
それに続いての今回は、その内容と一部重複するが、電力料金の公正な競争条件について再度考える。

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新電力は、格安料金で勝ち残れるか

コロナ禍で、企業などの経済活動が停滞し、エネルギー需給が緩和されている。
そのため、電力の卸市場での調達コストが下がり、イーレックス等の新電力が、格安料金で攻めの姿勢を強めているという。

新電力は、電力小売事業を手がける大手電力10社以外の企業。
2000年の電力自由化に伴い、参入が相次ぎ、現在約650社が事業登録。
多くの新電力の強みは、自前の発電所を持たず、電力の大半を市場で調達して身軽な経営を行っていることだ。
しかし、それは弱みと表裏一体のものだろう。

例えば、新電力の中での大手、イーレックス。
コロナで、電力の調達価格が低下しているのを受け、大型工場向け販売価格を日本卸電力取引所(JEPX)の取引価格に連動させるプランで、囲い込みを図る。30分ごとの調達価格に手数料を加え販売するという。
ここ数ヶ月は、スポット価格が30~40%下落している。

他社も好機と低価格で攻勢をかけるが、結局市場頼みだろう。
こうした需給バランス状態が、永遠に続く保証はない。


既存大手電力の優位性と独善性

果たして大手電力は、こうした新電力の動きを、黙って指を加えて見ているだろうか。

前回の
不自由化と一体だった電力自由化、本来の道筋:新エネルギーシステム改革-2
で、大手の動向を、<価格競争で劣勢に追い込まれる新電力>の中で取り上げた。

需給バランスが元に戻れば、当然電力を自社開発する大手が優位だ。
それでも不足する事になった場合、再生エネの調達も持っている資金力で優位に行なうことができる。
大企業や大規模工場向けでは、新電力は苦戦しており、19年度末時点で約5.7%と、2年近く前年割れが続いている現実がある。

大手電力は、送配電事業を本体から分離する前には、再生エネの買い取りや、新電力等が調達した再生エネ電力の送電を拒否することもさえあった。
送配電事業の別会社化により、そうした問題が、今後絶対に発生することはないという保証は、実はないと私は思っている。
なにしろ、傘下の関係会社なのだから、いざとなればどんな理由でも付けて、勝手にやるはずだ。


自前発送電網構築のNTTは改革を巻き起こすか

そうした本質的に不公平な競争状態にあるなか、飛び込んできたのが、NTTが、再生可能エネルギー事業に参入し、2030年までに自社の発送電網を整備するというニュース。

国内再生エネルギー発電容量の1割にあたる750万kwの発電能力を保有し、独自の発送電網も使って顧客に直販する計画だ。
資本力があるからこそできるものだ。

ふとこのことで思い出したことがある。
一昨年くらいのことだったろうか。
台風の後、家の近くの電線にポリ素材のテープが相当絡みついており、心配だったので、取り除いてもらおうと中部電力に電話。
こちらの所在地を中電が確認し、一応調べに行くが、もしかしたらNTTの(電話回)線かもしれないので、そうだったら一応NTTに知らせておく、という返事。

なるほど、電(気回)線ではなく、電話回線を張り巡らしているインフラを活用できる強みがあるわけだ。

発送電網を全国で展開できる事業者の参入はNTTが初めて。
装備や人材・技術などの自社インフラを活用し、大手の電力網の利用に加え、全国の電話局から近隣の事業所に自社配電網を利用して電力供給を行なう。
これにより、利用者の電力データを入手し、通信データとあわせて、新たなビジネスを創出することも可能になるわけだ。

なにやら、昔のNTTの独占であった通信市場に、新電電、KDDI等が参入した時や、スマホ市場をめぐる競争事情などを思い起こさせるのだが、果たして今後どう電力市場・電力業界の変化・変革を牽引していくだろうか。

資金力と技術を持ったNTTの電力本格参入と自社送電網整備が、電気料金の引き下げにもつながればいいのだが、莫大な投資回収も必要であり、消費者・利用者がその享受を受けるのは、まだまだ先のことになるだろう。

三菱商事がNTTの電力網に参画、傘下ローソンに供給


NTTが構築する再生可能エネルギーの独自電力網には三菱商事も参画する。

同社傘下の国内約1万4千店のローソンに、NTTが太陽光発電など再生エネ設備と蓄電池を組み合わせて構築する「ミニ発電所」の電気を供給する計画。

電力供給先開拓や蓄電池のリユースなどでも連携する。
商社の動きは、相変わらず、機敏である。
事業のスピードや業界の変革のスピードを早めるためには必要な存在とつくづく思う。

だが、それ自体が、主体的な改革を引き起こすまでにはなかなか至らない。
それも総合商社の特性と言えるだろうか。


公正な条件整備のために送配電網の国有化を


既存の送配電網は、大手電力が大型火力や原子力発電の電力を優先的に送る権利をおさえている。
送配電事業部門を本体から切り離して別会社としたにもかかわらずだ。
骨肉の、形だけの法改正で、電力自由化が進められていることをアピールする、経産省・官僚の悪知恵だ。

この結果、再生エネ電力は、東日本だけを見れば、送電線の容量の5~8割分が実質的に使えない参入障壁が残っていた。
それに対して、NTTは独自のインフラでその打破を図ろうというわけだ。

しかし、民間が大手に挑むような形にならざるを得ない状況には、非常に疑問を感じる。
送配電網の制約は、根本的な電力自由化を阻害する要素・要因と、電力行政主体ならば想定内のことであるべきだ。

そもそも、現状は、送電網の容量を超える発電量となると、再生エネ電力は、火力発電・原発などよりも先に出力を制御される。
そんなアホな!だ。
そう。
そういうアホが、電力自由化とほざいて、初めからボロボロの旗振っていたわけだ。
そして、その悪行政は、だれからも批判・非難を浴びないのだ。

電力の自由化を主導し、実現したと錯覚している経済産業省。
ようやく気がついたか、遅きに失したというべきか、再生可能エネルギーの普及に向けた送電網の利用ルール見直しなどの議論を始めたという。

それも実はおかしい。
再生エネの普及のためにではなく、本来、電力自由化のために検討し、改革すべき課題であった。

再生エネ取り引き開始(敢えて自由化とは言わない)時に、送配電網利用の自由化(あるいは新基準化)を全体システムとして整備・確立しておく必要があったのだ。

NTTの取り組みには期待したいが、古い話だが、もともとは、電電公社。
通信業界も、ある意味、国・行政の傘に守られてきている。
革新企業とラベルを貼るには、ベンチャー企業には申し訳が立たない。

で、電力料金の公正な競争を促す方策。
真の電力事業と電力料金の自由化を実現する方法。

それは、送配電網を国有化し、送配電に利用するものから利用料金を徴収する方式だ。
その利用料金は、送配電網の増強・維持のための費用に用いる。
維持や新設の工事・作業は、大手電力の子会社や他の事業者の入札により委託する。

より長期的には、その事業基盤が整い、安定的な運営管理・運用が可能になり、収益が安定的に確保できるようになれば、以下のように利用する。

1.大手電力からの送配電網買取のための起債の償還原資とする。
2.電線地中化へ投資資金とする。
3.一般世帯の電力利用料金の引き下げの原資とする。
4.自国でのエネルギー自給自足による水素社会実現のための国家プロジェクトの財源とする。


2050年までに実現したい、電力行政システム改革と社会経済システム改革の基盤の一つとも言える電力送配電網の国有化による一元管理。

民間ではなし得ない事業であることは自明である。
決して社会主義国家の国営事業ではなく、自由主義・資本主義を重視してのプロジェクトであることを、再確認しておきたい。


次回は、NTTが本格参入する再生可能エネルギー事業を中心に、最近の動向を確認したい。

これまでの関連記事ラインアップ

電力行政改革によるエネルギーシステム改革-1(2020/3/25)
再生可能エネルギーと水素社会によるエネルギーシステム改革-2(2020/3/26)
アフターコロナで新常態化すべきエネルギーシステム改革-3(2020/6/12)
エネルギーハーベスティングやグリーン水素構想が水素社会創造を側面支援するエネルギーシステム改革-4(2020/6/17)
食料・水・空気・エネルギーの自給自足国家創造へ(2020/4/11)

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