前回、
◆ 女性活躍と少子化対策を一体でとは、一体どういうことか
というテーマで、日経1面で<菅内閣に望む>というシリーズで取り上げられていた「女性活躍推進」と「少子化」に関する記事について、イチャモンを付けた。
そこで紹介した記事は男性編集氏によるものだったが、日替わりで今日9月27日に、少子化対策をテーマに、別のコラムで山内菜穂子政治部次長が「幸せ」視点の少子化対策」という小文を掲載していた。
大人気ないが、というか、老人のひがみ、否、ゆがみ根性ゆえと言うべきか、ついでにもう1回、イチャモンをつけることにした。
不妊治療保険適用は、官房長官時代になぜやらなかったのか
首相就任が決まる前に、いち早く発した、不妊治療の保険適用化。
SNSを初め、随分好感度アップに寄与したことを、先ず山内氏は取り上げた。
だが、考えて欲しい。
前回も述べたが、官房長官を務めていた安倍内閣時代の「少子化対策大綱」で述べていた課題を、さぼって先送りしていた課題だ。
本来遅きに失したと評価すべきものだ。
携帯電話料金の引き下げやこの不妊治療対策の提案を「生活者目線に立った政策の打ち出しを得意とする。」と、山内氏だけでなくマスコミの多くはそう評価する。
だが、なぜこれまで官房長官として実現しようとしなかったのか。
もし首相にならなかったら、どうしていたのだろうか、とも思う。

広げすぎた少子化対策の幅とズレの正体
「菅内閣が継承する第2次以降の安倍内閣は、少子化対策の幅を広げてきた。」
まさに幅の広げすぎだ。
それを示すのが、以下の「少子化社会対策大綱」であり「少子化社会対策白書」だ。
それらが公表された時、日経が批判したという記憶はない。
具体的に、幅の広げすぎはどんな点で、どうすべきと、日経が厳しく指摘・追及したとは思えない。
せいぜいで、総論賛成、しっかりやって! のレベルだ。

「若者や子育て世代にとって、ややずれを感じる政策もあったのではないか。」
とも山内氏。
例として示したのが、2013年に女性の批判を浴びた、安倍首相の「3年間抱っこし放題」の発言。
育休期間の延長が待機児童対策になるという官僚が考えた、二兎を狙った、心優しい、だが底の浅い政策を、さほど深く考えず、何気なく首相が話したわけだが、これが働く女性の神経を逆なでしてしまった。
育休期間の延長で解決する問題ではない。
選択肢として、育児に専念できる時期・期間があり、仕事に戻っても従来のように働くことができる環境・条件が整っていれば良い。
しかし、その基盤が企業サイドにはまだなく、女性自身にもそれに対する不安や不満があったからズレを感じたのだと思う。

長時間労働が不妊治療のニーズが高まる根底要因か
「長時間労働は晩婚化の原因の一つとも指摘されてきた。」とし、こう問う。
「これからの少子化対策は何を重視すべきか。」
その答えの一つ。
駒村康平慶応大教授の「不妊治療のニーズが高まる根底には、長時間労働や不安定な労働がある」という発言を引用し、働き方改革が必要とする。
この働き方改革も、非常に漠然とした、幅広い領域での課題を含んでいる。
長時間労働だけの問題ではない。
職種・業種毎に異なる課題を持っており、一つに括って同様の対策を打てばよいというものではない。
原因の一つであり、対策の一つには違いないかもしれないが、それ以上に重要な要因と対策があるはずだ。
加えて、それぞれがどの程度の影響力を持っているかなど、数字で示すことはできないだろう。
感覚的な話だ。
「中小企業を含めて働き方改革のレベルをもう一段上げるには、法整備などで政府の強い後押しが不可欠だ。」
結局どうしても働かせることを前提としていることに変わりはない。
もう一つ、不妊の大きな理由の一つが、晩婚化等により出産年齢が高くなっていることにもあり、山内氏もそう指摘している。
科学的にそれは証明されているはずだ。
なので、晩婚化等で高齢出産になってしまうことを女性や夫がどう認識しているかも一つの課題と感じている。
生理学的にも、リスク回避上も、高齢出産は避けた方が良しとされている。
これは人生設計、生き方に関する課題だ。
そこに、女性の就労上のさまざまな環境や条件が関わってくる。
企業サイドの人材活用・女性活用への方針や認識、社員の出産・育児に関する認識や制度、出産・育児休業休暇取得に当たっての職場や企業の風土・文化などがそうだ。
そこで働き方改革への着目が必要になる。

少子化対策と繋がる働き方改革の正体
そもそも、働き方改革は、企業サイドからは、「働かせ方改革」となり、働く人本人からは、「働き方改革」となる。
同じ土俵、基盤で課題とすることは、意外に難しいことも含みおくべきと考えている。
そして長時間働かなければいけない理由がある被雇用者が多いということを再確認すべきだろう。
不安定な労働は、雇用形態に不安がある非正規被用者の問題だ。
コロナで一層そのリスクがあぶり出された。
ここでは、働く側が主導権を持って働き方改革を行うことは不可能なわけだ。
働き方改革の一環としての課題でもある「同一労働同一賃金」政策でも改善・解決できない問題だ。
不妊治療保険適用と長時間労働を結びつける試みは、反対に、長時間労働が根源的・直接的に、経済的側面から少子化に影響を与えていることを、再認識すべきことを示してくれたと言える。

少子化をもたらす社会のゆがみとは、格差・貧困の拡大
「少子化は社会のゆがみの結果であることを直視すべきだ。」
とも言う。
確かにそういう面もあるだろう。
だが、筆者が指摘する、少子化要因が「子どもを持つことを希望している夫婦が、不妊であること」である理由は、どの程度だろう。
社会の歪みの原因や状況の主なものを、長時間労働や不安定な労働とするにはかなりの違和感がある。
結局、女性を働き手であり続けることを強制する、そうあるべきとプレッシャーをかけ続けることに、歪みの原因があるのではないだろうか。
それよりも何よりも重要・重大なのは、社会の歪みの最たるものは拡大し続ける格差・貧困化だろう。

「幸せ」視点の危うさ
出生率の低下、出生数の減少、子どもの貧困、児童虐待等など。
毎度数字を上げての問題の指摘が繰り今回も繰り返されている。
そこで今回、多少観点を替えて掲げたのが
池本美香日本総合研究所上席主任研究員が「出生数ではなくどんな家庭環境の子どもでも幸せにするという目標が要る」として提起している「子どもへの視点」である。
それが、「幸せ」視点だ。
「余裕をもって子どもと向き合える働き方を目指し、親の経済状況にかかわらず子どもがチャンスをつかみ取れるように支援する。」
「経済状況にかかわらず余裕を持って子どもと向き合える働き方」。
それはどういう状態か。
どういう状態ならば、経済状況が満たされていなくても可能になるのか。
貧しくとも愛情に溢れた両親、家庭・家族であれば、子どもは「幸せ」を感じるはず。
という昭和モデル的な感覚を、「幸せ」視点で押し付けることになりそうだ。
経済的状況に不安も不満もない女性の感覚、感性はそんなところなのか。
恐らく、抱っこし放題的な、深く考えない、何気ない、優しい感覚での悪気のない発言に違いない。
やはり残念なことだ。
家庭での望ましい親子関係や生活環境や、平等であるはずの教育を受ける機会を確保できないことも、多くは経済的な要因にあることは疑いのない現実だろう。
イクメンを当たり前にする制度・政策だけでは改善・解決できない課題だ。
子どもの育つ環境の格差は、根本的に、親の経済的貧困・格差に起因する面が大きい。
そこは、マスコミも十分認識しているはずだから、その現実を直視し、そのための具体策の必要性を主張するか、対策を提案をすべきだろう。
でなければ、御用マスコミの誹りを免れることはできまい。

日常の暮らしの安心感・幸福感の基盤は、経済的な不安のない暮らし
結びは、昨日の内容同様、こんな感じになっていた。
「首相には、安心して新しい家族をつくることができる社会へ政策を着実に実行してほしい。それは結果的に少子化対策となるはずだ。」
やはり、想定通り、口当たりの良い、抽象的・情緒的エールを送って、結んでいる。
折角の女性政治部次長の記事だが、やはり、日常的にリアルに困っている女性や夫婦と同様の視点では考えられないようだ。
残念なことだ。
経済紙ゆえに、経済的な不安が少子化の最大の要因と理解を示し、経済的な支援が必須と断言すべきだろう。
「幸せ」観という情緒・情感を目標に据えさせるようでは、一層、労働時間を短縮し、育児休業・イクメン育成による家事・育児時間に、夫婦揃って引き戻させる政策しか提起できないことになってしまう。
また、休まず、長時間働くことでなんとか生計を成り立たせている母子世帯・父子世帯や非正規社員世帯が多く存在することを、理解しているだろうか。
まあ、一応
「コロナ禍を機に、子どもの貧困や格差の問題にもっと目を向ける必要があるだろう。」
とは言っているのだから、そこをもっと掘り下げ、具体的な対策提案に持ち込んで頂きたかった。
「少子化は社会を映す鏡といわれる。」
これも情緒的な、感覚的な表現だ。
昨日の男性編集氏の言う所の「昭和モデル」と同次元で、菅内閣へのエールを繰り返して送っている内容に今回も終わってしまったわけだ。
決して、女性活躍を画に描いたような内容ではなかったことが返す返すも残念でならない。
かの安倍前首相べったりで知られていたNHKの岩田明子氏を見るのと同じような感覚を持ってしまったのだから。
もっと切れ味鋭い記事を期待したいものだ。

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