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外資系半導体企業の国内進出に補助金は、経済安全保障に叶った政策か?

 先月10月上旬、以下の記事を投稿した。
半導体、産業のコメから産業と社会経済生活の心臓へ:2050年半導体自給自足国家実現へ(2021/10/4)

 その記事の最後に、当サイトが掲げる[国土・資源政策 2050年長期ビジョン及び長期重点戦略課題]における「産業資源安全保障基盤・維持開発管理」政策の目的・意義として、以下述べた。

半導体は用途が広がり、産業全体への貢献度が急拡大している。
 自動運転や分散型のエネルギー社会等の先端技術が絡む分野・視点に留まらず、教育や雇用等にも視野を広げ、半導体が産業及び国民の生活、すなわち社会経済システムの心臓部を占めているという認識で、総合的な安全保障システムを構築する時代にあるといえよう。

また、「産業資源安全保障基盤・維持開発管理政策」 の基本方針として以下を掲げている。

自然資源安全保障システムを整備確立する上で、関連する産業基盤、すなわち産業資源の一定レベル以上での自給自足を可能とする保全・開発を推進することが不可欠であり、必要な分野と品種・品目等に焦点を当て、2050年までにその目標とするレベルとシステムの実現を図る。

 そして、その具体的な個別政策課題として、以下の3項目を設定している。

6-1 各分野資源保有率・保有年数等現状調査及び中長期方針構築
6-2 半導体国内自給自足体制構築
6-3 レアメタル等希少資源の代替資源・技術開発

 こうした前提を念頭に置き、ここ数日の半導体をめぐる政府の動きに焦点を当てて、以下確認と考察を行なってみたい。


政府が国内半導体生産に補助金。第1号にTSMCが進出の熊本工場

 この2番目の「半導体」に関する政策について、冒頭の記事で述べたわけですが、そこ述べた半導体不足が深刻化する中で、先月14日に発表された、グローバルレベルで非常に力を持っているTSMC台湾積体電路製造の日本進出に対し、政府が補助金を出すべく、認定基準の設定を含む必要な法改正を行う方針を決めたことが報じられた。

 無論、その案件だけを対象とするのではなく、今後の国内半導体製造基盤の拡充を後押しする政策であり、2021年度補正予算案で数千億円の財源を確保し、NEDO新エネルギー・産業技術総合開発機構に基金を設定してこうした案件も支援するもので、改正法案は12月開会予定の臨時国会への提出をめざすとされる。
 TSMCは2022年の工場建設着工、2年後の量産体制確立により、自動車分野を主流とし家電など幅広い用途がある22~28ナノメートル品を製造する。


経済安全保障政策の一環としての半導体政府プロジェクトは外資依存?

 この方針は、岸田新政権の目玉政策の1つである「経済安全保障」の一環としてのものであり、戦略技術や物資の確保、技術流出の防止に向けた取り組みと一体化される。
 ただ、 TSMCの日本国内誘致は経産省が2019年以来誘致をめざしていた既定の路線でもあり、衆議院選に向けてのポイント稼ぎにも多少はなった。
 また、このプロジェクトには、日本からもソニー(新工場はソニーの工場に近接)やデンソーなどの参画も予定され、 総額1兆円規模の大型民間投資の半額近い政府補助が行われることになり、まさに国策というべきものになる。
 そのことから、過去にも取り組みはしたが失敗に終わった「日の丸半導体」の復活とも称されるという。

 もう一つ、米マイクロン・テクノロジーが、半導体生産拡大のグローバル展開計画において、広島工場の敷地内に8000億円を投じて、一時記憶用DRAMの新工場建設計画が予想されている。
 これも政府の補助金の対象となるのか。
 こうした外資系企業主体の国内半導体供給体制整備は、果たして望ましいものかという疑問もあって当然である。
 真の意味での自給自足、経済安全保障体制ではないのだから。

過去の半導体政策失敗要因

 2000年代初めにも経産省主導で次世代半導体向けの要素技術開発を進めるプロジェクトを続々と立ち上げられたが、各メーカーは経産省のプロジェクトはお付き合い。
 自社の量産ラインでの自前の製造プロセスにこだわり、結局、いずれの構想も空中分解し、投じられた数百億円の国費への責任はウヤムヤのままになった。

偏った半導体事業支援策のリスク

 こうした膨大な額の補助金投資に対する懸念も付いて回るわけだ。
 別の観点からその要因をたどれば、一つに半導体の受給バランスにある。
 要するに、過剰在庫にならないか、そのため価格を維持できるか、高い生産・供給能力を満たすだけの需要があるか、とどのつまり経営を維持できるかどうかだ。
 前者2者の不安は、海外動向と強く関係し、後者は当然、国内事情と主に関係する。
 従い、基本的には、国内受給に適切に対応しうる種類・規模を常に調整しながら対応できる政策・方策が欠かせない。
 また、自然災害や不足の事故等への対応から、適切なサプライチェーンを形成する必要があり、その調整も同様である。
 従い、1社だけ、あるいは一つの分野に限定される補助はあるべきではなく、めざす半導体産業構造の意思統一を図るなど経済界・業界全体での調整・まとまりが前提となる。
 無論過去の失敗の要因でもあった、単純な「内製化」に走ることなど論外である。

 昨年発足したデジタル庁が、産業分野視点だけでなく、国民の生活視点で広範に、総合的に20年・30年スパンでの半導体需要を官民学を挙げて調査・研究し、適切な予測と状況に応じての計画・予測の見直し・調整を行える体制・システム作りが不可欠と思う。
 問題発言や接待問題もあった初代担当相が先の衆議院選で落選したことなどそれに何の影響もないが、半導体ビジネスも、当然経産省が背景に絡む利権を巡る不自然な動きをする伝統・歴史があり、デジタル庁がその変革の先鋭になるべきなのだ。
 それもいつに官邸、岸田新政権の意識と先見性にかかっているのだが、 新設・新任の経済安全保障相の早々の発言も、従来の域を脱するものではない。

経済安保視点からではなく、生活安全保障の視点からの半導体国内自給自足政策を

 世界の半導体出荷額に占める日本のシェアは1988年52%、1998年26%と半減。
 このところは10%程度という低迷ぶりである。

 今回の、過去が繰り返されるかのような動きに、国内半導体産業の復権云々という、またぞろ経産省の縦割り意識レベルの思いが漏れ聞こえてくるが、とんでもない時代錯誤である。
 その経産省の自己組織保守の思惑、利権管轄意識こそが、安全保障を危うくさせる元凶となりうる。
 まあ、専任管掌として、経済安全保障相が指名されたが、本質がそう簡単に変わるものではあるまい。
 一方、過去の失敗でも明らかなように、個々の企業の思惑に放任される半導体事業であってはならないことも当然である。
 経済合理性を考えれば、外資主導のプロジェクトに日本の民間企業が主導権を持つことなく形式的に、合弁で参画し、政府がそれに上乗せする形で補助金を出すことは、やはり道理に合わないものだろう。
 外資は外資の論理での戦略・政策があるわけで、果たして日本国内の受給を最優先で考えるか、その保障はない。
 まさに非安全経済保障のリスクが伴うからだ。

絶対に宝の持ち腐れ、補助金の溝すてにしない責任体制を明確に

 いずれ問題が生じることを想定すれば、2~3年かかってでもよいから、10年、20年スパンでの国内半導体需要と望ましい国内生産供給システムのあり方を、官民学共同で、まさに国を挙げて調査・検討すべきであろう。
 補助金政策は、そのアウトプットを踏まえて立案すべきと考える。

 TSMCが、日本の案件とは別に、最先端の5ナノ以下対応の新工場建設地を米国に決めた。
 それは、GAFAMをはじめとする製品の大口需要家の存在があるから。
 しかし、日本の現状は、最先端の半導体の設計・製造技術不足に加え、5ナノ以下の大口需要家も、前世代の20ナノ台でも一定以上の需要が見込めないというのだ。
 そう考えると、確かに過去の失敗政策を検証も大切だが、問題は、先述したように、プロジェクトの立案プロセスのあり方と、計画立ち上げ後のマネジメントにあることは明らかだ。

クリーン補助金とするために

 なお、WTO世界貿易機関は、公正な貿易維持のために各国政府による産業補助金にルールを設けている。
 すなわち、輸出支援を目的とする輸出補助金と、国産部品・材料の使用を条件に支給する国内産品補助金は「レッド補助金」として即刻協定違反とみなす。
 今回の半導体向け補助金構想は、ケース・バイ・ケースで違法性を判定する「イエロー補助金」に該当するとみなされる可能性が高く、運用次第で関係諸国から提訴されるリスクもあるという。
 こうした側面も十分考慮し、従来失敗した単純な補助金政策・行政から脱却することを考えるべきだろう。

政府・地方自治等のDX推進による半導体需要創出と全分野におけるDX推進に基づく半導体需要創出調査研究を

 それよりも、政府及び地方自治の行政改革に不可欠な種々のDXに絡む半導体需要の調査研究と予測を行い、ユーザーとして寄与することを第一の課題とすべきであろう。
 そして、すべての官庁が関係・所管する分野・領域における、「○○テック」と称されるDX政策に必要な半導体需要をまとめ上げる業務も必須課題であり、まさに戦略的かつ継続的な取り組みが、縦割り組織を超えて必要になる。
 そうした発想と行動を徹底すれば、恐らく補助金政策など不要になるに違いないと考えている。
 まったくゼロにする必要・必然性もないが、少なくとも「クリーン」な補助金の近い方になることは間違いない。


 次回は、6-3 レアメタル等希少資源の代替資源・技術開発 との関連で、最近の動向・事例等を見ておきたい。

<参考>:当サイト提起2050年の望ましい日本創造のための【総合2050年長期ビジョン】体系

【総合2050年長期ビジョン】
 国土・資源政策 2050年長期ビジョン
Ⅱ 社会政策 2050年長期ビジョン
Ⅲ 経済政策 2050年長期ビジョン
Ⅳ 国政政策 2050年長期ビジョン

[Ⅰ 国土・資源政策 2050年長期ビジョン]
<2050年長期重点政治行政戦略課題>
1.国土安全保障・維持総合管理
2.電力・エネルギー安全保障・維持開発管理
3.食料、農・畜産・水産業安全保障安全保障・維持開発管理
4.自然環境保全・持続可能性管理
5.社会的インフラ安全保障・整備維持管理
6.産業資源安全保障基盤・維持開発管理


6.産業資源安全保障基盤・維持開発管理個別重点政策
6-1 各分野資源保有率・保有年数等現状調査及び中長期方針構築
1)産業分野別・製品別自給率及び対外依存率調査・評価
2)国内産業再編方針及び新規事業開発構想立案 (~2030年)
3)国内自給自足化戦略及び長期取り組み計画立案 (~2030年) 、進捗評価管理 (2031年~)
4)グローバル・サプライチェーン長期方針・計画策定 (~2030年) 、進捗・評価管理 (2031年~)
6-2 半導体国内自給自足体制構築
1)国内・海外需要調査及び供給体制研究、長期予測とりまとめ (~2025年) ※定期的にメンテナンス
2)国内産業・企業との長期方針・長期計画策定、調整・支援計画(~2025年) ※定期的にメンテナンス
3)長期自給自足体制移行計画策定(~2025年) ※定期的にメンテナンス
4)グローバル・サプライチェーン長期方針・計画策定(~2025年) ※定期的にメンテナンス
6-3 レアメタル等希少資源の代替資源・技術開発
1)必須レアメタル等希少資源のグローバル調査及び将来予測 (~2025年)
2)国内調達可能必須レアメタル保有度評価と代替化可能性調査・評価、対策立案 (~2030年)
3)代替可能品開発支援計画及び予算策定(~2030年)
4)グローバル・サプライチェーン長期方針・計画策定(~2030年)

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