介護士不足、介護離職、重い家族負担、中小介護事業倒産:介護行政システム改革の視点-2

介護制度、高齢化社会

「COVID-19」後の、2050年社会システム改革:介護行政システム改革-2

前回の
自立・人権・尊厳、労働生産性:介護行政システム改革の視点-1
に続いての「介護行政システム改革の視点」の第2回です。

介護士という職業に安心とやりがい・目標を


一般的に、集まりにくい仕事の賃金は上がるのが普通だが、そうではない職種も多々ある。
その要因は、仕事の労働生産性が低く、高い賃金を支払うだけの収益を上げられないことが第一。
いわゆる労働集約的な仕事が多い。
介護の仕事、保育の仕事が代表的だ。
どちらかというと教員の仕事もそういう性質という感がするが、公務員・教員資格・義務教育という長い歴史的背景で、安定した職業の一つになっている。
不適格者も毎年話題になるが。

介護の方は、公的な資格が必要だが、公営施設で働く場合を除けば公務員ではない。
ショートステイの機能がない通所介護サービス事業等を除けば、夜勤があり、交替勤務制ありで、労働条件・労働環境は厳しい所が多い。
そして、共通認識となっている低賃金。

公的資金が低賃金をカバーするために給付を行っているが、すべてが介護士に行き渡っているとは思えない。
事業主の裁量で、他に用いられることもあるという。
交付後の確認は行われていないだろう。
お役所・官僚のいい加減さの一つだ。

慢性的に人手不足の職種であり、資格を持っていても介護の現場に職を求めない人も多い。
いわゆる潜在保育士と同様に、潜在介護士が多い。

人手が足りないということで、専門的なスキルを持たない人もパートタイマーで採用する例が普通になりつつある。
担当する仕事の線引が、だんだん曖昧になるリスクがある。
介護サービスの質が問題になってくる。
職業適性を欠く人の採用もありうる。
介護という仕事は、忍耐力との戦いのようなものだ。
非常にヒューマンな仕事だが、時には感情を排除しなければやっていられない仕事でもあろう。

そして、社会保障・社会福祉の仕事である。
公的な仕事、公務に近い。
だから私は、保育士も含め、民間企業に務める専門職は、准公務員専門職として遇する制度を改革・導入すべきと常々考えている。

保育・介護・障害者福祉、幼稚園・小中学校教員・・・。
これらの公務員資格と専門職資格を、統合・総合して、社会保障・社会福祉職体系化し、いずれかの職務に従事しながら、他の資格の取得や異動も可能にする。

待遇も、准公務員として、新しい賃金体系・賃金制度を整備し、安心して長く就労できるシステムに改革するのだ。
このコトについては、既に当サイトの以下で提言している。
まだまだ詰められていないが。

准公務員制度導入で潜在的労働力の発掘と活躍へ:専門職体系化による行政システム改革-3

介護という仕事に安心して取り組むことができること、目標ややりがいを持って長く続けることができること。
それをも可能にする、そういう介護行政システムを導入・改革できる社会としたい。
その社会を実現する介護行政システム改革者は、国という社会単位であり、政治・行政だ。


介護離職をも招く家族の重い負担

要介護高齢者は、自宅で介護を受けることを希望する。
自宅で死にたい。自宅で最期を看取りたい。
在宅介護主義、家族介護主義を掲げる国が、その根拠とする高齢者とその家族のの希望、という。

そう思う人は確かに多いだろうが、そうではない人も多いはずだ。
在宅介護をしても、自分たち家族に掛かる負担は少ないほうがいい。
まさか仕事を辞めてまで、介護をしなければいけなくなるなんて。

送迎付きデーサービスがあることは、家族介護者には非常に助かることだ。
しかし、もし、経済的にその費用が多額であれば、家族でその費用を負担してでも継続するだろうか。
性別役割分業で、女性が家族介護の負担を一手に引き受けているケースが多い。
しかも無償で。

そして、高齢夫婦の親の介護、高齢夫婦同士の介護に加え、単身要介護高齢者がどんどん増えている。
在宅介護自体が困難になる世帯が、今後一気に増えることが予想される。
それを何とか家族で、となると、離れて暮らしている家族が、仕事をやめて介護生活に従事するという、社会保障制度とは矛盾する、本末転倒の現実が起こってしまう。
遠距離介護には限界がある。

前回述べた、介護を担う人の人権・尊厳はどうなるのか。
介護を受ける高齢者は、それを受けるに足るだけの社会人としての責務を果たしてきたのか。
もし、介護を受けるに必要な費用を自身で負担できる預貯金・資産を持つならば、それらを負担して、望む方法で介護を受けることはなんの問題もない。
そうでないならば、権利の実行は制限を受けるべきと思うのだが。
というとやはり批判・非難を浴びそうな気がする。

だが、次世代以降の望ましい人と社会を考え、その実現を少しでも支援する責務が、先行世代にはあるはずと思うのだ。

介護離職は、絶対にあってはいけない。
してはならない。
家族介護を担う家族の人生・生活を奪ってはいけない、犠牲を強いるべきではない。
働ける人、働くべき人、働きたい人は、家族介護に優先してその生き方を選択できる、とすべきと考える。
働くことで収入を得、そこで所得税や社会保障保険料を負担し、それが社会を循環することで、個々人が社会に貢献することになる。
その貢献が、介護を受ける家族にも循環していることを意味する。
その意義・価値は大きい。
決して介護を避け、介護から逃げているわけではないのだ。
しっかり社会の構成員として貢献しているのだ。

増え続ける介護費用・介護財政支出をどうするか

介護行政における最大の課題は、介護には膨大な費用がかかること。

団塊の世代の全員が、昨年2019年に70歳代になったことから想像できるように、要介護者の数は今後急増することは間違いない。
医療財政の圧迫、年金財政の圧迫と併せて、介護財政の圧迫は、国の財政危機の大きな要因となっている。
世代間の負担と受益の不公平性の象徴であり、問題とされるところだ。

これまで、保険料を増やすことや自己負担額を増やすこと、保険を適用する範囲を狭めていくことなどを、当面の対応・対策とするしか行ってこなかった。

当初、ある意味では理想的とも思われた介護保険制度だが、少子高齢化にどう備えるかを忘れたのか、無視したのか・・・。
反省しても手遅れだが、政府や行政には反省の気持ちはもうとない。
モラトリアムを決め込むばかりだ。

その費用をだれがどう負担するのか、この先どうするのか。

もう根本的に介護保険制度だけでなく、医療保険、年金制度その他労働保険、子育て支援制度、教育制度、ひとり親世帯支援制度など、社会保障制度・社会福祉制度全体を、保険料負担、国費・公費負担、所得税制など財政収支面と合わせて改革すべき状況と考えなければいけないのだ。

国家財政全体と個人と企業を含む全国民の収入と税や保険料負担、そして各種給付・交付のバランスを中長期的に計算し、目標とする数値を設定する。
財務省主導で行うべきではない取り組みだ。
それでは、発想も固定したままで、既得権ベースでの出し入れにまた終わってしまう。

それゆえに、社会システム改革専任省の設置とその主導による取り組みとすべきだ。


介護施設不足対策と介護事業経営規模拡大

個人的には、介護事業は公営が望ましいと思っている。
この場合懸念されるのは、やはり施設建設のスピードだろう。
運営管理も不安だ。
事業経営、マネジメント能力を公務員に求めることにも。

介護保険制度というシステムは、収益を継続して上げることができる、という安心感が、民間企業参入を大きく促した。
小規模・零細事業や家業的なレベルでも、これは儲かりそうと新規参入が進んだ。
しかし、労働集約型事業ゆえ、介護士の確保と育成、その生活の安定ややる気の維持という最も困難な仕事が待ち受けていることをしっかり理解認識せずに参入・運営した事業者が多くいた。

結果、事業の持続・継続はムリで、倒産・廃業も多発。
それでも、それらが中堅企業や大手企業に買収・合併されればそれなりに意味・意義があった。
将来に不安を感じてその事業所に働いていた介護スタッフが、事業規模が大きい企業に雇用されることで、多くは安心感や少しは将来の目標や能力開発の機会を得ることができただろうから。

昨年あたりから目立った介護業界でのM&Aは減ったが、この5年間くらいの間、損保大手のM&Aによる急拡大などもあって、介護業界のイメージの向上もあった。
これは非常に望ましいことだったと評価している。
介護士の処遇、労働環境・労働条件は恐らく向上・改善され、教育の機会、昇進昇格のチャンスも増えたはずだ。

しかし、要介護者の増加は、介護事業所数の増加も促す。
介護士不足が解消される見込みはなく、むしろ拍車をかけている。
介護士不足は、介護サービスの質を落とすだけでなく、事故・事件などのトラブルを発生させる要因になりうる。
そして施設の運営に留まらず、事業経営自体のリスクを高める。
事業規模が小さければ小さいほど、介護スタッフ不足は致命的になる。

もちろん事業主・経営者の経営能力に依る部分が大きいが、介護事業においては、一般的に事業規模・企業規模が大きいほど、人材や物件、資金・資本の確保と活用にノウハウを持っている。
それは介護サービスの質の向上、介護スタッフの能力・意欲の向上、介護業界のイメージと質の向上に結びつく。
経営効率の向上、労働生産性の向上も、マネジメント課題として日常業務に組み込まれる。

ただ、それらの介護業務が、要介護者の自宅への訪問介護や、送迎付きの通所介護サービス(デイサービス)事業ばかりであれば、規模の強みは発揮できなくなる。
それらの介護サービスは、受ける方は当たり前と思っているかもしれないが、とてつもなくコストがかかること、かかっていることなのだ。

個別に自宅を訪問する、自宅と施設間を送迎する。
その介護サービスを減らす方法を考えることも、介護行政システム改革課題の中に組み入れる必要がある。
もちろん、そのコスト・費用の負担について改革していくことを含めて。

しかし、社会福祉や社会への貢献など、誠実な想いを抱いて介護事業に取り組むことを考え、実行する、実行してきた方々の気持ちも報われるものでありたい。
家業・仲間との起業・事業にも、継続・継承を考えた運営が必要だ。
そのためには、想い・理念を共有・継承していける組織・仲間・グループ作りが不可欠で、それが事業規模を成長・発展させていくことに繋がるだろう。
その時やはり、事業経営技術が欠かせない。
その努力も日々重ねて頂きたいと思う。
(この思いは、30年以上の経営コンサルタントとしての経験からのものです。)

介護施設の増設は、やはり企業規模が大きい事業者の力をあてにせざるを得ない。
しかし、本来は、国・自治体の仕事である。
遊休の土地建物の取得・収容・転用・活用の権限を、国・公営農地化や国・公営各種施設化のために整備・法制化する必要がある。
別の社会システム改革課題であり、それらとの連繋・統合が不可欠である。

やはり、10年、20年、30年がかりでの社会システム改革として、介護行政システム改革も進められる必要がある。

個別課題の検討、提起を2回行った。
次にそのまとめを行いたい。

なお、5年前に義母がサ高住に入居するに至った際の体験記を綴ったことがある。
以下ですので、お時間があればチェックしてみてください。

義母の骨折・入院から始まった老々介護を考える日々:義母介護体験記-1
地域包括ケア、地域連携診療という仕組みを知る:義母介護体験記-2
リハビリテーション病院への転院により回復期医療へ:義母介護体験記-3
自宅介護準備と介護施設検討の矛盾を抱えて:義母介護体験記-4
介護施設検索から資料取り寄せと見学体験:義母介護体験記-5
介護保険被保険者になり、老老介護有資格者に!?:義母介護体験記-6
要介護認定と老人介護被保険者証の交付を受ける:義母介護体験記-7
介護拒絶する要介護家族と介護者のすれ違い:義母介護体験記-8
介護支援専門員さんのサポートと介護施設入居日決定:義母介護体験記-9
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