1. HOME
  2. Onologue
  3. Book
  4. 政治家不要の無意識民主主義で意識しておくべきこと:成田悠輔氏著『22世紀の民主主義』から考える-6
Book

政治家不要の無意識民主主義で意識しておくべきこと:成田悠輔氏著『22世紀の民主主義』から考える-6

少しずつ、よくなる社会に・・・

(「2050年の政治と民主主義-7」を兼ねて)

成田悠輔氏著の『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』( 2022/7/6刊・SB新書)を題材にしたシリーズ。
<プロローグ>:『22世紀の民主主義』実現の前にやるべきことがある:2050年の政治と民主主義-1(2022/8/4)
<第1回>: 闘争か、逃走か、構想か?どう民主主義に立ち向かうか:2050年の政治と民主主義-2(2022/8/4)
<第2回>:民主主義は、現在故障しているのか?:2050年の政治と民主主義-3(2022/8/11)
<第3回>:政治家・選挙・メディアいじりが民主主義との闘争になりうるか?:成田悠輔氏著『22世紀の民主主義』から考える-3(2022/10/13)
<第4回>:逃走ではなく、迷走してしまった民主主義:成田悠輔氏著『22世紀の民主主義』から考える-4(2022/11/1)
<第5回>:アルゴリズムによる無意識民主主義と万華鏡民意データ入力フェーズ:成田悠輔氏著『22世紀の民主主義』から考える-5(2022/11/2)

と続き、今回は、第6回最終回。
2回に分けた<第4章 構想>の後半に取り組み、簡単な全体総括も行います。

成田悠輔氏著『22世紀の民主主義』から考える-6:「第4章 構想」より-2

第4章 構想> 目次

1.選挙なしの民主主義に向けて
2.民主主義とはデータの変換である

 ・入力側の解像度を上げる、入射角を変える
 ・データとしての民意1:選挙の声を聞く
 ・データとしての民意2:会議室の声を聞く
 ・データとしての民意3:街角の声を聞く
 ・万華鏡としての民意
 ・歪み・ハック・そして民意データ・アンサンブル

3.アルゴリズムで民主主義を自動化する
 ・エビデンスに基づく価値判断、エビデンスに基づく政策立案
 ・データ・エビデンスの二つの顔
 ・出力側:一括代議民主主義を超えて、人間も超えて
 ・「しょせん選挙なんか、多数派のお祭りにすぎない」
 ・闘争する構想
 ・「一人一票」の新しい意味
 ・無謬主義への抵抗としての乱択アルゴリズム
 ・アルゴリズムも差別するし偏見も持つ
 ・選挙vs.民意データにズームイン
 ・ウェブ直接民主主義から遠く離れて
4.不完全な萌芽
 ・グローバル軍事意思決定OS
 ・金融政策機械
 ・マルサの女・税制アルゴリズム
 ・萌芽の限界:自動価値判断とアルゴリズム透明性
 ・無意識民主主義の来るべき開花
5.政治家不要論
 ・政治家はネコとゴキブリになる
 ・「民度」の超克、あるいは政治家も有権者も動物になる
 ・政治家はコードになる
 ・夢みがちな無意識民主主義

以下、第4章の後半に入ります。

3.アルゴリズムで民主主義を自動化する

万華鏡のように集められた個々の民意データをアルゴリズムで是正し、すべてのデータグループの集合アルゴリズム結果の総和として無意識民主主義のための出力がなされることに。
そこでの重点事項・重要ポイントを追うことにします。

意思決定アルゴリズムのデザインプロセス

一般意思が練り込まれた非構造データを取り込み、用いて意思決定を行うのが無意識民主主義アルゴリズム。
そのアルゴリズムのデザインもデータによって行うとする。
民意データに加え、GDP・失業率・学力達成度・健康寿命・ウェルビーイングその他成果指標を組み合わせた目的関数を最適化するアルゴリズム、すなわち意思決定アルゴリズムが作られる必要がある。
そのデザインは、以下の2段階で行われるという。

1)エビデンスに基づく目的発見またはエビデンスに基づく価値判断
  ⇒ 各論点・イシューごとに、まず価値判断の基準や目的関数を民意データから読み取る
2)エビデンスに基づく政策立案
  ⇒ その価値判断・目的関数に従って最適な政策的意思決定を選ぶ

これを言い換えて、目的発見のためのデータ・エビデンスの利用と、手段最適・ムダ削減のためのエビデンスの利用とを融合するとしている。
このように、ここで用いられ始めたのが「エビデンス」、データに基づく証拠・証明。
このエビデンスを正しいもの、公正なものと断定・断言してよいものか、私は懐疑的に見ています。
エビデンス重視者は、最終的に、多数占有事項をもって正となすこと、あるいは、元来着目していた一つの結果・現象の抽出・発現をもって正となすことがほとんど。
エビデンスの利用・活用法に果たして基準は必要ないのか。
これが、私が「エビデンス主義」への疑問です。

こうした問題に筆者は向かわずに、「無意識民主主義アルゴリズムの学習・推定と自動実行のプロセスは公開されている必要がある」と主張します。
オープンソース的な開発コミュニティが検証・更新を行い、ブロックチェーンに基づく自律分散型組織で動くこと、がそれに当たるものです。

しかし、そう言われても、その類のものが公開されても、それを正しく、的確に理解・評価できる人々は、関連する技術系の業務に従事するか、その領域に対して相当の興味関心を持つ人に限定されることは明らかです。
つまり、公正性を欠き、決して民主的ではない。

そんな不安感や取り残され感はまったく無視して、あるいは、理解できない方が悪いというスタンスなのか、この無意識民主主義アルゴリズムの効果・効用のポイントを説き続けるのです。
その根拠となるのが、次の式で示す、無意識データ民主主義の拡張性です。
無意識データ民主主義 = (1)エビデンスに基づく価値判断(新たなアイディア) + (2)エビデンスに基づく政策立案(枯れたアイディア)

データエビデンスの2つの役割と新たな可能性

繰り返しになるが、2つの役割の1つは、エビデンスに基づく政策であり、それに取り組むわけだ。
2つ目が、意思や目的の発見だが、人々の意識しない暗黙の欲求や目的まで、データから見つけ出すことはできないかと疑問を述べてはいる。
しかしその不安はスルーし、「データエビデンスの2つの役割を融合すると、無意識データ民主主義が立ち現れる」とし、次の言葉も添えて、あくまでも楽観的である。

どんなセンサーでどうデータを収集し、この2つをどう計算するのか、データや計算の権限は誰が握るのか、未解決問題は山盛りだ。
だが、おぼろげなシルエットは見えている。この感覚が大事だ。

おぼろげなシルエットを見いだせない私には、成田氏が持ちうる感覚がいかなるものか、知るよしもない。

一括代議民主主義を超え、人間も超え、多数派のお祭りにすぎない選挙も変質する

この後は、シルエットも感覚も手中に納めている成田氏の未意識データ民主主義のメリット、特性礼賛論が以下のように続く。

データに委ねられ無意識のうちに自動執行される無意識民主主義は、かつてない拡張可能性(スケーラビリティ)と自由度を獲得する。
何より、人間が選択肢を意識的に咀嚼する必要がなくなり、ポスターのスペーズやテレビの尺が重要な制約ではなくなる。
無意識民主主義アルゴリズムは疲れを知らないので、無数の政策イシューや論点に同時並行に対処して意志決定していける。
選択肢はいくら複雑でも多数でも何百万個並列していてもいい。
(略)
こうして、民主主義の入力側からも出力側からも、人間の姿が消えていく。

選挙を意図的に軽視する無意識民主主義なら、当事者たる少数のかれかけた声、悲愴な表情を吸い上げることができるかもしれない。
(略)
無意識民主主義では、すべての人が場面や局面ごとに多数派であり少数派である。
「しょせん選挙なんか、多数派のお祭りに過ぎない」とすれば、無意識民主主義は多数派+少数派の日常になる。

・無意識民主主義アルゴリズムには、長期成果報酬年金が内蔵されている。
・選挙のルールを修正するというまどろっこしく間接的な対策なしに、無意識データ民主主義は、直接に未来と外部・他者に向かう。
成果指標を、政治家や有権者の寿命をも超えた超長期のものに設定することができる。

無意識(データ)民主主義において考慮すべき課題

当然ですが、まったく新しいロジックに基づく無意識民主主義、無意識データ民主主義への不安や疑問は、成田氏も一応は自覚するところで、その例を以下上げておきましょう。

一人一票の変化・進化

各イシュー・論点に対してすべての人が同じ影響力を持つ必要はなく、そこでは一人一票でなくてもいい。
そこで、イシュー・論点で平均を取った総影響力または平均的影響力は同じでなければならないという制約を課し、すべての人が同じ影響力または平均的影響力を持つような無意識民主主義アルゴリズムを実現できる(はずだ)。

こうして、成田氏の論点内に、望ましい民主主義のあり方の一様が少しずつ、あちこち散見されるようになるのですが、そのほとんどは、遠慮した感覚でのひとり語りのようなものにとどまっているのが特徴です。
しかし、現状の民主主義の根源的な問題の性質は、アルゴリズム民主主義をもってしても、利害関係を受ける人間の存在は変わらないのですから、無意識民主主義による政策を、すべての人々が無条件・無感覚で受け止めるのか、甚だ疑問です。

アルゴリズム絶対化への警鐘

また成田氏はこう言っています。

もちろん、無意識の民意データを集めることに危険もある。
人の無意識に備わった差別的な考えや偏見が炙り出されて増幅する危険があるからだ。
実際、人間の思考や行動のデータから学習する際、人工知能(機械学習アルゴリズム)は偏見や差別思考・行動までも学んでしまうことがある。


無数の民意データグループにおける個別の歪みを個々に是正すれば、その総和の歪みが自ずと是正される、というロジックを先に示していたのですが、そこで私が懸念したのが、この問題です。
要は、民意データを恣意的に作り上げることは、フェイク問題がグローバル社会で大きな問題となり、抜き差しならぬ不安や分断等の問題を拡張してきていることは十分知られるところとなっています。
偏った思想や資本に物言わせての情報化は、民意データの歪みを超えて、民意の意味・意義を変質させるリスクを拡張し、従って、アルゴリズムの信頼性をも低下・消失させうることになる可能性があるわけです。

こうしたリスクを対象としての言葉ではないと思うが、「アルゴリズムも差別するし偏見も持つ」「アルゴリズムも間違いを犯すが、猛烈な速度で学習し進化しているので、むしろ間違いを歓迎してもよいのでは」とさえ成田氏が喝破していることに対しては、なんと言うべきか。
「無責任」と言ったところで、もともと「責任」を持つはずもない著作なのですから、ムダなだけ。

「選挙vs.民意データにズームイン」などという表現で、現状の政党の選挙戦に臨むにあたっての公約・方針作りのほぼほぼのプロセスを紹介。
残念ながら、そこでは民意推察が、明文化されていないブラックボックスで、関係者の楽屋でのみの作業により、圧縮された政治パッケージで提示され、かつ政党間の違いも類似性を帯びていると指摘し、こう結論づける。

現状と対比した無意識データ民主主義は、民意を読みながら政策パッケージをまとめあげる前の段階をもっとはっきり可視化し、明示化し、ルール化する試みとも言える。
ソフトウェアやアルゴリズムに体を委ねることで、パッケージ化しすぎずに無数の争点にそのまま対峙する試みとも言える。
その副産物として、政党や政治家といった20世紀臭い中間団体を削減できる。


加えて、ウェブ直接民主主義には、
1)選挙民主主義が抱える同調やハック、分断といった弱さを持ち
2)一定以上の数のイシュー・論点を扱うことがムリ
という2面の課題を示し、これを超えるのが無意識データ民衆主義と位置づけ、こうまとめる。

無意識データ民主主義は、投票(だけ)に依存せず、自動化・無意識化されている。
その結果、多数のイシュー・論点に同時並行対処できる。
意識的な投票・選挙が作り出す同調やハック、分断も緩和することができる。


ん~!?
無意識データ民主主義により出力された結果を、人々は、無意識で受け止め、無意識にその政策を執行することが果たしてできるか。
執行者のみならず、その政策に関係する当事者の人々も皆、無意識に、従順にそれに従うのだろうか。
ここでは、簡単に、単純に、疑問を書き記しておくに止め、先を急ごう。

4.不完全な萌芽


「不完全な萌芽」としているこの項。
当然、無意識データ民主主義が抱える課題について、最も強く感じ、考えているのは成田氏自身のはず。
この項の冒頭の次の言葉が、先述した私の単純な不安への回答のようなものだ。

市民がデバイスの推薦に身を委ね、瞑想アプリで自分の内面と向き合うように、政府は無意識民主主義アルゴリズムの神託に身を委ねる。
選挙や世論から部分的に隔離され、様々な民意データ源を組み合わせて論点ごとの目的関数を形成し、それを最適化する政策的意思決定が論点ごとに自動実行されていく。

現実が先行する無意識データ民主主義の萌芽とその限界

そして現状大きな問題とされている政策領域にも、無意識民主主義が関わっていく動き、その萌芽が見られると、その例を示している。
・軍事・安全保障上の問題に対するためのグローバル軍事意思決定OS
・金融政策上の課題として、既に、米国中銀の公定歩合の設定のために参考にしているマクロ経済予測アルゴリズム
・人工経済の創造で、税制を深層強化学習アルゴリズムで決定する実験
・節税対策行動呼びデータの経済統計データへの取り込みによる税務対策

そうは言いつつも、これらは、無意識民主主義のよちよち歩きの不完全な第一歩であり、以下の大きな2つの限界があると言う。
1)エビデンスに基づく価値判断が欠落
2)意志決定アルゴリズムが非公開で不透明であることが多い


だがその限界に対して、前者については、エビデンスに基づく目的発見は透明なアルゴリズムによって自動的に行われる、とカバーする。
問題は、その透明性・透明度にあるのだが。
そこで後者についてその問題への対処にもなるが、アルゴリズムが民主主義的手続きを体現するためには、アルゴリズムの公開が必要で、ガラス張りにすることを掲げる。
しかしこうも言っている。
どうすれば私企業も開発に関わるアルゴリズムを公開させられるのか。
これもまたもう一つの未解決問題だ、と。

またもや「しかし」。
この問題が解決された22世紀、民主と専制のいいとこ取りをした幸福な融合を実現するものとしての無意識民主主義を次のようにまとめ上げる。

1)民意データを無意識に提供するマスの民意による意思決定(民主主義)
2)無意識民主主義アルゴリズムを設計する少数の専門家による意思決定(科学専制・貴族専制)
3)情報・データによる意思決定(客観的最適化)
以上の融合が無意識民主主義である。


その結果がもたらすものが「政治家不要論」ということになる、らしい。

5.政治家不要論


現状の間接代議民主主義における政治家の主たる2つの役割と無意識民主主義の代替機能

はっきりとこの項の頭でこう言っている。

無意識民主主義は、生身の人間の政治家を不要にする構想でもある。

その顛末のプロセスについての説明はこうだ。

1)政治的な指針を決定し行政機構を使って実行する「調整者・実行者としての政治家」は、ソフトウェアやアルゴリズムに置き換えられる。
2)政治・立法の顔になって熱狂や非難を引き受け世論のガス抜きをする「アイドル・マスコット・サンドバッグとしての政治家」は、ネコやゴキブリ、Vtuberやバーチャル・インフルエンサーのような仮想人に置き換えられる。

この後、成田氏は、
・人間とそれ以外の動物や生命も区別するなという方向にいくと予想できる。
・政治家も有権者も動物になる。
・無意識民主主義は、民度を必要とせず、あらゆる人を含む、開かれたもう一つの意思決定の仕組みを模索する。
・「政治家 as a Service (政aaS)」のようなソフトウェアが生まれ、政治家はコードになる。
とSF小説の世界に誘う。

挙げ句はこうだ。
「ネコやアルゴリズムに責任が取れるのか?」という疑問に対して「そもそも人間の政治家は責任を取れているのだろうか?」と。
(略)
長い歴史を振り返ると、人類は民主主義のありえる様々な形を実験し続けてきた。
(略)
14世紀における選挙を通じての代議制民主主義の萌芽から700年を経て、民主主義の実験が再興しようとしており、この無意識民主主義のような思考実験や社会実験は先祖返りである。

構想作業は、迷走化で終止符が打たれる

<第3章 逃走>の紹介考察記事で例えた、逃走ならぬ「迷走」状態が、ここに至って、一層強くなってきた感があります。
最終章最後の文を転載しました。

だが、無意識データ民主主義は、反民主主義ではない。
民主主義の自戒を喝采して石を投げる独裁的強者の意識的意思ではない。
石を積んで民主主義に新たな道を与えようとする民衆の無意識の意思である。
(略)
民主主義の再生に向けた民主主義の沈没、それが無意識データ民主主義である。

構想か、迷走か、瞑想か。だれも責任を取る必要がないのが無意識民主主義なのか

しかし、ネコだ、ゴキブリだ、なんだかんだと人間である必要がないようなことを言っているが、彼と同年代の人たちや彼よりも後の世代・年齢の人たちも、そうした揶揄した人間と変わらないことを前提として未来物語を創作したのだろうか。
同世代、後続する世代にも、政治や行政を志す人間は不要として。

責任云々という言葉が出てきたが、実際のところ、「責任」は誰が、どういう場合に取るのか。
そんな21世紀みたいな、野暮なことは言わないでくれ、という彼の意識らしく、「アルゴリズムの不完全性もご愛嬌」的な言い回しも先に出てきた。
だれも責任を取ることがなく、取る必要もないのが無意識民主主義ならば、それで最も利益を享受できるのは、「無意識民主主義アルゴリズムを設計する少数の専門家」だけになりそうだ。
すなわち成田氏のような人材・人物だけだ。

公共政策に有効なアルゴリズムの具体的な例を公開すべき

最後のまとめにも、肩透かしを食わされた気がする。
ならば、サブタイトルに「異常を普通に」と加えられた<あとがき>「おわりに」ではどうか?

彼の専門は、データやソフトウェア、アルゴリズムなどのデジタル技術と社会制度・政策の共進化だとし、「意思決定や資源配分に使われるアルゴリズムをデータ駆動にデザインする手法」を作って学術論文やソフトウェア、オープンデータ等にしている、そうだ。
そして、作った技術の実用もしていて、数十の企業・自治体・非営利団体と連携してきた、とある。
こうしたアルゴリズムや技術が公共政策領域に流れ込み始めているそうだ。
是非ともその成功モデルを紹介してほしいものだ。

『22世紀の民主主義』全体総括

テレビ等での露出度が高まっている成田氏。
その先駆的な存在として、古市憲一氏がいますが、彼のように、成田氏もなにものにも責任を取らずに済むマスコミ世界のタレントと化していくのだろううか。

『22世紀の民主主義』。
22世紀までは80年弱。
成田氏自身も恐らく、この世にはいない年。
それまでに、民主主義はどうなっているか、日本がどうなっているか、グローバル社会はどうなっているか。
コロナやロシアのウクライナ侵攻がどう決着するのかさえ見えない中、想像すること、イメージすること、そして構想することそのものが、現実感から乖離させるばかりだ。
私は、https://2050society.com と http://basicpension.jp 2つのWEBサイトで、21世紀の折り返し点、後半に入る年の日本や社会の望ましいあり方と、その時点で日本の社会経済システムの軸として日本独自のベーシック・インカム、ベーシック・ペンション生活基礎年金制度の確立を目標として、種々考察・提案しています。
その時点では、私が生きていれば100歳、妻は101歳。
3人の息子たちはすべて70歳代であり、彼らの子どもたち=8人の孫たちは、一番上の双子は40歳代で、後の6人は皆30歳代になっています。
すなわち、ある程度はイメージできます。

22世紀の民主主義をテーマとした本書は、成田氏の私的考察の遊びと言えるでしょう。
斎藤幸平氏のマルクス還りとは正反対に、新奇性を軸にした、未来の政治と行政を語る寓話的、SF的なもののように感じさせられるのですが、AIの時代にある彼にとっては、ごくごくあり得ること、想定できることなのでしょう。

この無意識データ民主主義の社会と政治・行政組織構造がどうなっているのか、国の財政システムはどうなっているのか、法体系は?等、22世紀の民主主義を想像・想定する上では、そうした領域に関してのデザイン及びアルゴリズムも示して欲しいと思うのですが、専門外のこととされておしまい、なのでしょうね。

期待すべきではなテーマであったはずだが、最後にもう一つ、気が抜けてしまう彼の言を紹介して、このシリーズを終えたい。

 歴史を振り返っても、ルソーの『社会契約論』からマルクスの『資本論』まで、結果として最も影響力を持った構想や思想は最も実践が伴っていないものだという経験則がある。
自室や図書館で鬱々と妄言を綴る無力で口だけの想像者たちだ。
この本はその悪しき伝統に倣ってみたい。
口だけの私が実践者に見下され、嘲笑され現実に追い越されるのを楽しみにしている。

 瀕死の民主主義を追い詰める「黒船」を自分たち自身で作り出せるのかが問われている。
突っ込みだらけの惨めなこの本が、そんな黒船のトイレの部品くらいにはなれることを願う。


なんというか、なんと・・・。
ルソーやマルクスと同次元の者と自身をなぞらえているかのようにも読むことができるのだが・・・。

そもそも22世紀のあり方をテーマとする本書に期待することにムリがあったんですね。
結局望ましい民主主義を追究し、実現するためには、政治改革が不可欠。
そこで、今年初めに読んだ、政治改革をテーマとした川上高志氏著『検証 政治改革 なぜ劣化を招いたのか』(2022/2/18刊・岩波新書)を取り出して、同氏の政治改革提言をみてみようと思っています。

『22世紀の民主主義』構成

A. はじめに断言したいこと
B. 要約
C. はじめに言い訳しておきたいこと

第1章 故障
  ・○▢主義と▢○主義
  ・もつれる二人三脚:民主主義というお荷物
  ・ギャッツビーの困惑、またはもう一つの失われた20年
  ・感染したのは民主主義:人命も経済も
  ・衆愚論の誘惑を超えて
  ・21世紀の追憶
  ・「劣化」の解剖学:扇動・憎悪・分断・閉鎖
  ・失敗の本質
  ・速度と政治21:ソーシャルメディアによる変奏
  ・「小選挙区は仕事をすると票減りますよ」
  ・デマゴーグ、ナチス・SNS
  ・偽善的リベラリズムと露悪的ポピュリズムのジェットコースター
  ・そして資本主義が独走する
第2章 闘争
  ・闘争・逃走・構想
  ・シルバー民主主義の絶望と妄想の間で
 政治家をいじる
  ・政治家への長期成果報酬年金
  ・ガバメント・ガバナンス(政府統治)
 メディアをいじる
  ・情報成分表示・コミュニケーション税
  ・量への規制
  ・質への規制
 選挙をいじる
  ・政治家への定年や年齢上限
  ・有権者への定年や年齢制限
   ・未来の声を聞く選挙
  ・「選挙で決めれば、多数派が勝つに決まっているじゃないか」
  ・「一括間接代議民主主義」の呪い
  ・政治家・政党から争点・イシューへ
 UI/UXをいじる
  ・電子投票が子どもの健康を救う?
  ・ネット投票の希望と絶望
  ・表現(不)可能性の壁、そして選挙の病を選挙で直そうとする矛盾
第3章 逃走
  ・隠喩としてのタックス・ヘイブン
  ・デモクラシー・ヘイブンに向けて?
  ・独立国家のレシピ1:ゼロから作る
  ・独立国家のレシピ2:すでにあるものを乗っ取る
  ・独立国家:多元性と競争性の極北としての
  ・すべてを資本主義にする、または○▢主義の規制緩和
  ・資本家専制主義?
  ・逃走との闘争
第4章 構想
 選挙なしの民主主義に向けて
 民主主義とはデータの変換である

  ・入力側の解像度を上げる、入射角を変える
  ・データとしての民意1:選挙の声を聞く
  ・データとしての民意2:会議室の声を聞く
  ・データとしての民意3:街角の声を聞く
  ・万華鏡としての民意
  ・歪み・ハック・そして民意データ・アンサンブル
 アルゴリズムで民主主義を自動化する
  ・エビデンスに基づく価値判断、エビデンスに基づく政策立案
  ・データ・エビデンスの二つの顔
  ・出力側:一括代議民主主義を超えて、人間も超えて
  ・「しょせん選挙なんか、多数派のお祭りにすぎない」
  ・闘争する構想
  ・「一人一票」の新しい意味
  ・無謬主義への抵抗としての乱択アルゴリズム
  ・アルゴリズムも差別するし偏見も持つ
  ・選挙vs.民意データにズームイン
  ・ウェブ直接民主主義から遠く離れて
 不完全な萌芽
  ・グローバル軍事意思決定OS
  ・金融政策機械
  ・マルサの女・税制アルゴリズム
  ・萌芽の限界:自動価値判断とアルゴリズム透明性
  ・無意識民主主義の来るべき開花
 政治家不要論
  ・政治家はネコとゴキブリになる
  ・「民度」の超克、あるいは政治家も有権者も動物になる
  ・政治家はコードになる
  ・夢みがちな無意識民主主義
おわりに:異常を普通に

少しずつ、よくなる社会に・・・

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


2023年9月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

記事アーカイブ