
アルゴリズムによる無意識民主主義と万華鏡民意データ入力フェーズ:成田悠輔氏著『22世紀の民主主義』から考える-5
少しずつ、よくなる社会に・・・

(「2050年の政治と民主主義-6」を兼ねて)
成田悠輔氏著の『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』( 2022/7/6刊・SB新書)を題材にしたシリーズ。
<プロローグ>:『22世紀の民主主義』実現の前にやるべきことがある:2050年の政治と民主主義-1(2022/8/4)
<第1回>: 闘争か、逃走か、構想か?どう民主主義に立ち向かうか:2050年の政治と民主主義-2(2022/8/4)
<第2回>:民主主義は、現在故障しているのか?:2050年の政治と民主主義-3(2022/8/11)
<第3回>:政治家・選挙・メディアいじりが民主主義との闘争になりうるか?:成田悠輔氏著『22世紀の民主主義』から考える-3(2022/10/13)
<第4回>:逃走ではなく、迷走してしまった民主主義:成田悠輔氏著『22世紀の民主主義』から考える-4(2022/11/1)
今回は、その5回目。
<第4章 構想>を取り上げますが、この章を2回に分け、今回はその前半です。

成田悠輔氏著『22世紀の民主主義』から考える-5:「第4章 構想」より-1
<第4章 構想> 目次
1.選挙なしの民主主義に向けて
2.民主主義とはデータの変換である
・入力側の解像度を上げる、入射角を変える
・データとしての民意1:選挙の声を聞く
・データとしての民意2:会議室の声を聞く
・データとしての民意3:街角の声を聞く
・万華鏡としての民意
・歪み・ハック・そして民意データ・アンサンブル
3.アルゴリズムで民主主義を自動化する
・エビデンスに基づく価値判断、エビデンスに基づく政策立案
・データ・エビデンスの二つの顔
・出力側:一括代議民主主義を超えて、人間も超えて
・「しょせん選挙なんか、多数派のお祭りにすぎない」
・闘争する構想
・「一人一票」の新しい意味
・無謬主義への抵抗としての乱択アルゴリズム
・アルゴリズムも差別するし偏見も持つ
・選挙vs.民意データにズームイン
・ウェブ直接民主主義から遠く離れて
4.不完全な萌芽
・グローバル軍事意思決定OS
・金融政策機械
・マルサの女・税制アルゴリズム
・萌芽の限界:自動価値判断とアルゴリズム透明性
・無意識民主主義の来るべき開花
5.政治家不要論
・政治家はネコとゴキブリになる
・「民度」の超克、あるいは政治家も有権者も動物になる
・政治家はコードになる
・夢みがちな無意識民主主義
1.選挙なしの民主主義をイメージ ⇒ 2.民主主義とはデータ変換 ⇒ 3.アルゴリズムによる民主主義の自動化
こんなステップを踏んで、民主主義と新たに向かい合い、22世紀の民主主義のあり方を先取りしようと構想する本章。
その段取りに従って、見ていくことにします。
1.選挙なしの民主主義に向けて
選挙も政治家もいない民主主義はありえないか?
民主主義を瀕死に追いやった今日の世界環境を踏まえて、民主主義の理念をより正確に、純粋に具現化する仕組み・制度を発明する。
こうして民主主義を再発明するわけだが、そのために、世界と民主主義を食い尽くすようになったアルゴリズム技術環境を逆手に取った選挙を更新するのだ。
こう書かれた内容を読んでも、「アルゴリズム」とはなんぞやと理解できないので、それが世界と民主主義を食い尽くすものであると言われても意味不明だ。
どうも端からこうでは、折角の構想も私にはムダになってしまいそうで、心もとない。
成田氏曰く。
選挙なしの民主主義は可能であり、実は望ましく、その形として「無意識民主主義」を提案する。
本章の目的は、そのあり方をめぐる考察と提案と説明と言っていいだろうか。
不安を抱えつつ、次の節に進もう。

2.民主主義とはデータの変換である
選挙結果というデータに基づき、新たな政権が確立され、政治・行政が展開されることそのものは、データ変換に基づくある種の民主主義の具体化と言えるわけだが、成田によるデータはこれとは異なる。
民主主義とはつまるところ、みんなの民意を表す何らかのデータを入力し、何らかの社会的意思決定を出力する何らかのルール・装置である。
従い
1)入力される民意データ
2)出力される社会的意思決定
3)データから意思決定を計算するルール・アルゴリズム
をデザインすることに行き着く。
すなわち、選挙は、驚くくらいざっくりと設計された単純明快なデータ処理装置と言える、と。
その選挙制度に大きな問題があるわけだ。
では今ゼロから民主主義を制度化するならば、選挙とは異なる何かが出てくるに違いなく、そこで用いるデータの質や量、データの処理方法にいくらでも改良の余地があると。
すなわち、民主主義敵意思決定というデータ変換における「入力側」と「出力側」を質量ともに大幅に押し広げることができ、その一例が「無意識データ民主主義」というわけだ。

無意識民主主義の基礎となる民意の多様性とその入力・収集
そこでまず着手するのが、入力側の解像度を上げる、入射角を変えること。
すなわち、選挙以外の、人々の意思・価値観、欲求等日々表出され、民意が映し出されているやもしれぬ多種多様なデータとそのチャンネルを広げていくことでそれが可能になる。
その民意データ収集の代表例として挙げているのが
・選挙の声 ・会議室の声 ・街角の声 などを聞くこと。
これにより、民意や一般意思に関するデータをもっと解像度高く、色々な角度から取るという。
選挙の声とは
選挙の声とは、選挙の中で何が起き、どんな人がどんな政策を求めているかを記録したデータ。
選挙権者・投票者の家族属性や行動・思考・意思・感情・欲望や来歴情報も含むし、ニュースや政見放送に関する視聴質データなども入ってくる。
会議室の声とは
会議室の声とは一つの例えであり、選挙という伝統行事を飛び出し街中の声にも及ぶことを意味する。
コミュんケーション可視化システムの音声感情解析具を融合した装置によると会議室内の意見や声の盛り上がりを記録し可視化するという。
こうしたツールを用いれば、種々のコミュニケーション機会や場での膨大な情報も民意となるわけだ。
街角の声とは
前項で先取りした形になるが、人々の声のデータ化は会議室や家を超え、この世界のあらゆる片隅へと浸透していくと成田氏は言い、監視カメラやマイク等が捉える日常生活における会話・行動、種々の意識調査・価値観調査なども、この類のグループに入ってくる。
それらの民意データを匿名化して社会的意思決定に活用するというわけだ。
万華鏡としての民意の特徴と問題点
こうして選挙を超えて集められた万華鏡のような民意データは、まず収集・入力段階で解像度を高めるという意義を持つことは先に述べられた。
もう一つの役割・意義は、データの種類を変えることだと言う。
そしてその理由は、
「どんな選好や意思、価値観の表明も、その表明に使われるチャンネルやセンサー、インターフェイスの影響を受け、歪みを孕んでしまい、色々なチャンネルを組み合わせることでその歪みを打ち消し合える可能性がある」ためだ、と。

さまざまな民意の歪みを是正するアルゴリズムを用いる
選挙はある意味、最も歪みをもつ民意の一種であるとするのはわかる。
加えて、先の、選挙の声、会議の声、街角の声にも当然歪みは付き物のはずだ。
こうしたリスク・可能性に適切に対応するのが、アルゴリズムだという。
一般意思の規制緩和とも言える万華鏡のごとき民意のデータ化は、選挙やTwitter 、監視カメラのような個々のチャンネル・センサーへの過度の依存を避け、無数のチャンネルに少しずつ依存することで、特定の方向に歪みすぎるのを避けることに繋がるというわけだ。
すなわち、個々のチャンネル毎に生じた歪みをアルゴリズムで是正して平均化する。
同様にすべてのチャンネルで歪みをアルゴリズム化して得た平均化データをすべて集約する。
このアルゴリズムの集合を最後に平均化すれば、歪みはほとんど是正されるというロジックを用いるわけだ。
どうもそれは素晴らしい!と諸手をあげて賛同するという気分には到底なれない。
だが、その「アルゴリズム」とやらの合理性の基盤となる考え方を示すのが、この節のテーマと理解するべきなのだろう。
もともと「民主主義」は、データ変換に基づき運用されるべきものであり、それが「アルゴリズム」の本質と同一のものということなのか。
しかし、極めてシンプルに言えば、そうした思想・判断に基づき、政治・立法や行政を執行するのが民主主義思想であり、民主主義的行動であったわけだ。
だが政治家や政権政党、そして官僚がそうできないから、しないから、無意識民主主義なる新しい容器を作り出してアルゴリズムの集合に委ねようということらしい。
すなわち、次の「アルゴリズムで民主主義を自動化」しようという試みに至る。
その前に、アルゴリズムについて調べ、成田氏のアルゴリズムによる無意識民主主義の一端でも理解できるようにしておきたい。

アルゴリズムとは
ところで、アルゴリズムとは何か。
コトバンク検索結果から以下抜粋しました。
関係があると思われたAIについても触れていたので、それも加えて。
計算や問題解決の手順のこと。
定められた手続に従って計算していけばいつかは答えが得られ、それが正解であることが保証されている手続。
ただし計算量や記憶容量の問題を考えたときに、それが現実的に実行可能であることは意味しない。
アルゴリズムは正解が求められるというだけでは不足で、その計算量が問題とされる。
人工知能(AI)などでは、ヒューリスティクスとよばれる擬似アルゴリズムが使われることが多い。
しかし、平均的には効率よく解を求められるが、場合によっては間違っていたり、最適の解ではなかったりすることがあるが、日常生活を送るうえではこれで十分なことが多い。
要するに、正解であることが保証されているわけではない。
が、成田氏によると、計算量が問題なので、万華鏡のような多種多様のチャンネルからの膨大な民意データを収集し、アルゴリズムの集合により、最大限歪みを是正することで、無意識民主主義で公正さを実現しようというのだろうか。
民意とは、会話や活字等で目視できる情報以外の、見えない情報をもカバーできるのか。
いわゆる声なき声や、表出・表現しない声や情報さえもデータ化できるのか。
膨大な情報といえども、資本力に物言わせて一定・一傾向を持つ情報量を極大化することで、アルゴリズムは的確に機能することができるのか。
そんな不安が覗く。
「公正」という用語を仮に用いたが、成田氏は、アルゴリズムに基づく無意識民主主義に基づき形成される社会のあり方はどういうものなのだろうか。
そのモデルや目標とするあり方は、まだ示されていないので、なんとも評価し難いのだ。
それとも、集合アルゴリズムで導き出された結果・結論こそ、理想的な政治・行政的判断・決定であり、人間は、黙ってそれを受け入れ、執行・実行すればよいとするのだろうか。
ここまでは、民意の入力フェーズで、問題は、出力、すなわち無意識民主主義がもたらすもの、あり方。
アルゴリズムの消化不良に加え、無意識民主主義とは一体どういう理想やポリシーを持つものなのか示されていない不安もあり、今回は、入力フェーズで一旦区切り、次回に出力フェーズ及び残りを見ていくことにします。
次節のテーマは、なんと、その回答であろう<アルゴリズムで民主主義を自動化する>。
22世紀のことなので、雲をつかむような話と割り切るわけにもいかず、心を落ち着ける時間を持った後、穏やかに、次回最終回に臨みたいと思います。

『22世紀の民主主義』構成
A. はじめに断言したいこと
B. 要約
C. はじめに言い訳しておきたいこと
第1章 故障
・○▢主義と▢○主義
・もつれる二人三脚:民主主義というお荷物
・ギャッツビーの困惑、またはもう一つの失われた20年
・感染したのは民主主義:人命も経済も
・衆愚論の誘惑を超えて
・21世紀の追憶
・「劣化」の解剖学:扇動・憎悪・分断・閉鎖
・失敗の本質
・速度と政治21:ソーシャルメディアによる変奏
・「小選挙区は仕事をすると票減りますよ」
・デマゴーグ、ナチス・SNS
・偽善的リベラリズムと露悪的ポピュリズムのジェットコースター
・そして資本主義が独走する
第2章 闘争
・闘争・逃走・構想
・シルバー民主主義の絶望と妄想の間で
政治家をいじる
・政治家への長期成果報酬年金
・ガバメント・ガバナンス(政府統治)
メディアをいじる
・情報成分表示・コミュニケーション税
・量への規制
・質への規制
選挙をいじる
・政治家への定年や年齢上限
・有権者への定年や年齢制限
・未来の声を聞く選挙
・「選挙で決めれば、多数派が勝つに決まっているじゃないか」
・「一括間接代議民主主義」の呪い
・政治家・政党から争点・イシューへ
UI/UXをいじる
・電子投票が子どもの健康を救う?
・ネット投票の希望と絶望
・表現(不)可能性の壁、そして選挙の病を選挙で直そうとする矛盾
第3章 逃走
・隠喩としてのタックス・ヘイブン
・デモクラシー・ヘイブンに向けて?
・独立国家のレシピ1:ゼロから作る
・独立国家のレシピ2:すでにあるものを乗っ取る
・独立国家:多元性と競争性の極北としての
・すべてを資本主義にする、または○▢主義の規制緩和
・資本家専制主義?
・逃走との闘争
第4章 構想
選挙なしの民主主義に向けて
民主主義とはデータの変換である
・入力側の解像度を上げる、入射角を変える
・データとしての民意1:選挙の声を聞く
・データとしての民意2:会議室の声を聞く
・データとしての民意3:街角の声を聞く
・万華鏡としての民意
・歪み・ハック・そして民意データ・アンサンブル
アルゴリズムで民主主義を自動化する
・エビデンスに基づく価値判断、エビデンスに基づく政策立案
・データ・エビデンスの二つの顔
・出力側:一括代議民主主義を超えて、人間も超えて
・「しょせん選挙なんか、多数派のお祭りにすぎない」
・闘争する構想
・「一人一票」の新しい意味
・無謬主義への抵抗としての乱択アルゴリズム
・アルゴリズムも差別するし偏見も持つ
・選挙vs.民意データにズームイン
・ウェブ直接民主主義から遠く離れて
不完全な萌芽
・グローバル軍事意思決定OS
・金融政策機械
・マルサの女・税制アルゴリズム
・萌芽の限界:自動価値判断とアルゴリズム透明性
・無意識民主主義の来るべき開花
政治家不要論
・政治家はネコとゴキブリになる
・「民度」の超克、あるいは政治家も有権者も動物になる
・政治家はコードになる
・夢みがちな無意識民主主義
おわりに:異常を普通に

少しずつ、よくなる社会に・・・
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