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ウクライナ侵攻がもたらしたエネルギー危機、克服に必要な日本の決断とは

少しずつ、よくなる社会に・・・

日経が、2022/9/27から3日間連続で、<エネルギー危機日本の決断>というシリーズを1面で展開した。
無論、ロシアのウクライナ侵攻により、グローバルレベルで生起したエネルギー情勢の不安定化、価格高騰・生活不安拡大と脱炭素・再生可能エネルギー化への転換方針の調整・変化などを背景にしての、日本の立ち位置・今後のあり方に関する論考である。

1.再生エネ・原発総力戦で 輸入化石燃料に8割超依存
2.世界経済の9割、まだ「非グリーン」カギ握る脱炭素「移行」
3.再生エネ拡充、各国競う 世界の潮流、電力の8割
と題した各記事だが、それぞれを要約し、問題点と私なりの提案を述べてみたい。

エネルギー安全保障ファーストで軌道修正を余儀なくされたカーボンゼロ政策・環境対策

まず、1番目の、<再生エネ・原発総力戦で 輸入化石燃料に8割超依存>と題した記事のポイントを要約してみた。

ゼロカーボンを掲げている日本政府だが、ウクライナ侵攻前の状態においても、原発の再稼働なしには、目標とする再生可能エネルギーを軸とした長期エネルギー政策の実現が困難であることは明らかだった。
すなわち、現実味が薄く、実現性が危ういことを承知しながらも、欧米主導の脱炭素の看板を、ひとり外すことができないまま、時間が経過していく状況にあった。
そこに起きたウクライナ侵攻。
これにより、ロシアのガス・原油に依存するEU諸国は、やむなく、早々に、原発回帰を打ち出した。

例えば、フランスは仏電力公社(EDF)を100%国有化し、原子力事業への国の関与を強め、2050年までに6基建設、8基追加を検討するという。
英国も20年間以上、新増設がなかったが、2030年までに最大8基を建設する。

しかし、両国を含め欧米諸国の強みは、こうした現実的な方針変更はあっても、再生エネも並行して拡充することで示されている。
5月に公表の欧州委員会による「リパワーEU計画」では、2027年までに官民で2100億ユーロ(約29兆円)を再生エネなどに追加投資。
米国では、8月成立の歳出・歳入法に基づき、4300億ドル(約62兆円)の歳出部分の多くを気候変動対策に投じるなど、いずれも中長期的なエネルギー戦略に沿った微修正が行われているわけだ。

この辺りが、原発再稼働、小型原子力発電への取り組み等原発問題の先送りのスタンスは変わらず、再生可能エネへの多様な取り組み・拡大化も既に熱が冷めてしまっている感が強い日本とは大きく異なる。

日経の主張は、いつもと変わらず、
脱炭素を進めながらエネルギー安全保障を確立するには、再生可能エネルギーを大量に導入しつつ、原子力発電所を活用するなど全体像を再構築する必要がある。
とし、原発は再生エネとセットで取り組むべきという。

先般今夏8月に、初めて政府が次世代原発建設検討を指示したが、欧米諸国の方針転換の素早さ、柔軟性に比較すると、政府及び経産省のエネルギー政策の遅滞は明らかだが、こうした日和見的なスタンスは何も今に始まったことではない。
遡れば、電力自由化政策が、太陽光発電を軸とした再生可能エネルギー事業基盤の整備拡充及び電力料金の引き下げに繋がることがなく、太陽光パネルの国内生産基盤を整備することにも繋がらなかった。
こうした、政府・行政の失政と怠慢に対して適正な評価と批判が行われることがないまま、EU主導でのSDGs、ESG、カーボンニュートラル戦略等、その思想と投資の先行・拡大動向のフレームのみ追随せざるを得なかったのが、日本のエネルギー戦略の現実である。

ここに来てのロシアのウクライナ侵攻がもたらし、再度明らかにした、エネルギー政策不全の日本政府・行政について、日経は、以下指摘している。

日本は脱炭素による経済成長をめざし、政府が20兆円規模を支出する考えだが、投資先や財源はまだ検討段階にある。
ほぼすべてを輸入する化石燃料に頼る低自給率資源欠乏国日本は、資源価格の歴史的な高騰の影響を受けやすい。(略)
太陽光パネルや蓄電池など開発当初の勢いを失う国内産業をいかに活性化しエネルギー自給率を高めるか。
エネルギーの構造転換とあわせ厳しい状況を商機にかえる知恵が必要になる


「厳しい状況を商機に変える知恵」という発想自体、民間企業の投資に期待することを意味するのだが、東日本大震災以降の電力大手には、その気概も責任感・使命感もないに等しい。
小事業規模他社への資本参加や金融・商社との合弁程度の動きをみるのが関の山である。
そもそも、日経がイメージする商機とは、どんな領域のどんな事業、どの程度の投資を必要とするものだろうか。
果たして、残る2回のシリーズで明らかにされるのか。
期待せずに、見ていくことにしよう。

言うほど簡単ではない、グリーンエネルギー化するための非グリーン経済活動の実態把握と評価基準作り、

次は、
世界経済の9割、まだ「非グリーン」カギ握る脱炭素「移行」
と題した記事内容の概要と、そこで受けた印象・感想等のメモを。

2050年の排出実質ゼロに向け製造業や建設、航空、農業といった残り9割の「非グリーン」な経済の変革の必要性を訴える。
これまではグリーン投資が拡大する一方、非グリーンへの資金提供は停滞していた。
こうしたことから、例えば、火力発電所をすぐに全てなくして再生エネにするのではなく、温暖化ガスの排出量の多い石炭からガス火力に切り替えるといった排出量を段階的に削減する「トランジション(移行)」という考え方が、ウクライナ侵攻によるエネルギー危機で、急速に広がっている。
実は、再生可能エネルギーを軸とするカーボンゼロ政策だが、現実において、温暖化ガスを排出しないグリーンな経済諸活動は8%以下に過ぎない。
すなわち、残り90%以上を、製造業や建設、航空、農業などの「非グリーン」な経済活動が占めているとされる。
これらの広範な事業活動そのものにおけるカーボンゼロへの取り組みなしで、エネルギーと環境問題を論じ、机上の空論を継続・展開しているのが現実でもある。

こう書いていても、この「トランジション」そのものへの取り組みにおいて、何をどのように基準化し、どんな取り組み・活動を展開し、どれだけ投資し、だれがどのようにその結果やプロセスを評価するのか。
どうもイメージできない。

2050年排出ゼロ達成には、2030年までに年5兆ドル(約700兆円)の気候変動対策投資がいる
記事では、世界の約500金融機関で構成の国際組織「グラスゴー金融同盟(GFANZ=ジーファンズ)」の脱炭素への移行の進め方の公表や、英非営利団体クライメートボンド・イニシアチブ(CBI)による今夏の火力発電所でアンモニアや水素を混焼するJERAの計画への異議などを例示し、投資適正の評価のために、何が移行(=トランジション)に相当するかに関する定義が必要であると主張している。

グローバルレベルで、果たしてその合意形成が可能なのか。
それも結局、SDGsやESGという概念先行で、投資案件の創出と投資情報の流通による、資本流動の高速化・収益化が、究極のあるいは見方によれば唯一の目的に過ぎないのではなかろうか。
日経自体が、その定義と評価管理まで可能にするプロセスまでデザインできるなら、こうした曖昧な課題をアドバルーンとして掲げても許されよう、
しかし、以下の結語では、とてもそんな気概も責任感もないのは、明白である。

国ごとに異なる事情への国際的な理解を得ながら、現実解となる移行を幅広く認められるようにし、資金を集めやすくする工夫が重要になる。
必要となるのは、移行段階においても目先の排出増をその後の削減とセットにする基本原則だ。
そうすれば移行の期間をずるずると先延ばしするのは得策にならない。
足元のエネルギー・電力不足に移行技術で対応しつつ、例えば50年といった脱炭素の時期は明確にする。
各国にはそんな戦略が求められる。

日経が求めるエネルギー危機に対する「日本の決断」とは、一体どんなものか:洋上風力発電、送電網整備、蓄電池

最後は、
再生エネ拡充、各国競う 世界の潮流、電力の8割
と題した記事から。
これまでの2回の記事からは、日本はこうあるべきという強くて明確な提案は読み取ることができなかった。
「欧米はこうだから、日本も(かくあるべき)」的なニュアンスの問題提起どまりではなかったかと。
そして最終回の記事テーマも、「各国競う、世界の潮流、再生エネは電力の8割」とあるように、どうやらモデルもヒントも、日本ではなく他にあるとする表現だ。

一応内容を確認すると、重要ポイントは3つ。
一つは洋上風力の強化で、もう一つは送電網の整備、残るはほんの付け足しレベルの蓄電池
洋上風力は、再生可能エネルギー比率の向上目的のために、欧州のモデルを引き合いに出し、日本の取り組みの遅れを指摘し、今後強化すべきとしたもの。
その背景として、以下を上げている。

日本が将来、発電量の7割を賄えるように導入を拡大するのが望ましい再生可能エネルギーだが、2021年の再生エネ比率約2割で、その半分の1割弱は従来の水力発電で、拡大分の多くは太陽光。
対して英国やドイツは既に再生エネ比率4~5割。
2050年温暖化ガス排出実質ゼロ実現シナリオでは、世界の電力の8割超を再生エネで賄う必要がある。

洋上風力が現状ほぼほぼゼロの日本にそれを推奨する根拠として、中国や欧州の導入規模を挙げ、日本の遅れを日経は強調する。
しかし、漁業や海岸線・港湾・自然環境、適地などの条件を考慮した場合の問題、エネルギー産業への国内投資主体の有無や投資環境及び投資効率、政府の他人任せ・民間依存等の問題などには、今回触れていない。

次は、「送電網も課題が多い」というもの。
電力広域的運営推進機関(広域機関)の2021年案によると、地域間を結ぶ送電線の容量を現行の1.7倍以上にするには最大4.8兆円の投資が必要で、日本では巨額費用が増強の障壁となってきた、と。
それに対して欧州では、とやはり海外のモデルを引き合いに出し、民間資金がカギであり、政府の後押しも、となる。
曰く。
「海底送電線といえば欧州では大人気の資産運用先。日本でも同様のスキームを作るべき」「それらには、日本のメガバンクや日生も投資している」と。
また、「欧州には送電網の運営会社に対する収入保障制度があり、事業化しやすく、電力会社ではなく再生エネを増やしたい事業者が運営主体となるケースが多い」と。

これに、蓄電池の必要性・重要性を御愛想程度に付け加え、こうまとめておしまい。
「再生エネの拡充は自給率を高め、エネルギー安全保障を確立していけるだけでなく、蓄電池も含めた投資拡大で経済の成長にもつながる。」

以下は、この一部を受けての私の考え。

送配電網の国有化と固定資産化、減価消却対象化とメンテナンス体制化

電力大手に依存する電力の送配電網の不足・未整備問題は、送配電網を国が保有管理する国有化・国有システム化で抜本的に改革すべきである。
こうしたインフラへの投資は、国の特別財源でまかない、その施設は、国の固定資産として計上し、減価期間と減価償却費を設定し、償却後のメンテナンスのための原資とする。
なお電力大手グループが保有管理する既存の送配電網は、国が買収する。
個人や企業の電力消費料に応じて、送配電網の使用料金を電力基本料金として徴収し、日常におけるメンテナンス、管理費用に充当する。

政治的に保守とされるグループあるいは個人こそ賛成するのが自然と思うのだが、どうもその真逆のリベラル勢力がもっぱら主張する内容かのように保守は反対する。
不思議な国、日本である。

自国エネルギー自給自足・管理運用システム及び技術開発と関連産業基盤整備政策

最後に、今回の記事シリーズを読みながら、2050年迄に実現しておきたい、日本のエネルギー環境を整理してみた。
基本は、欧米に追従するのではなく、輸入化石燃料に依存しない、国内自給自足エネルギー長期戦略を構築し、グローカルモデルを創出するもの。
今後も、こうした視点・問題意識をベースに、エネルギー問題を継続して取り上げていきたい。

1)2050年長期グリーン水素エネルギー開発技術及び管理システム開発
2)新設民間家屋、新設事業施設への太陽光発電設備の設置義務化
3)太陽光パネルの国内量産体制、リサイクル・処分システムの確立
4)洋上風力発電基地の設定と長期開発計画立案・フォロー
5)蓄電施設・蓄電地、充電・送電システム等技術開発及び国内関連産業基盤の整備
6)絶対安全次世代原発の適正開発と既存原発廃止長期計画策定
7)2050年エネルギー自国自給自足長期開発計画策定・進捗管理
8)エネルギー関連国有施設資産管理等特別事業会計システム整備・運用

エネルギー危機の根本的な要因は、化石燃料資源が日本にはないこと。
従い、このリスクは常に背中合わせにあるわけで、その克服策・対策は、継続して取り組む必要がある。
その折々の緊急時対応は必要だが、その対策は、一過性のものであり、将来に向かってのリスクを軽減・解消するものでは決してない。
故に、時間がかかっても、将来に向けて、根本的なリスクがなくなる対策を追究し、持続的な取り組みを継承していくしかない。
その取り組みは、計画・プロセス、スケジュール・予算など、マネジメントの基本を見える化し、進捗管理と評価を公開することになる。
それが当たり前になる、政治改革・行政改革の必要性がまず最初に認識されるべきなのだが・・・。


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