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逃走ではなく、迷走してしまった民主主義:成田悠輔氏著『22世紀の民主主義』から考える-4

少しずつ、よくなる社会に・・・

(「2050年の政治と民主主義-5」を兼ねて)

成田悠輔氏著の『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』( 2022/7/6刊・SB新書)を題材にしたシリーズ。
<プロローグ>:『22世紀の民主主義』実現の前にやるべきことがある:2050年の政治と民主主義-1(2022/8/4)
<第1回>: 闘争か、逃走か、構想か?どう民主主義に立ち向かうか:2050年の政治と民主主義-2(2022/8/4)
<第2回>:民主主義は、現在故障しているのか?:2050年の政治と民主主義-3(2022/8/11)
<第3回>:政治家・選挙・メディアいじりが民主主義との闘争になりうるか?:成田悠輔氏著『22世紀の民主主義』から考える-3(2022/10/13)
と時間がかかっていますが、今回その4回目。
予定を変え<第3章 逃走>のみを今回取り上げることにしました。

成田悠輔氏著『22世紀の民主主義』から考える-4:「第3章 逃走」より

第3章 逃走> 目次

第3章 逃走
  ・隠喩としてのタックス・ヘイブン
  ・デモクラシー・ヘイブンに向けて?
  ・独立国家のレシピ1:ゼロから作る
  ・独立国家のレシピ2:すでにあるものを乗っ取る
  ・独立国家:多元性と競争性の極北としての
  ・すべてを資本主義にする、または○▢主義の規制緩和
  ・資本家専制主義?
  ・逃走との闘争

この章の書き出しには、こうある。

民主主義との闘争ははじめから詰んでいるのかもしれない。選挙や政治や民主主義を内側から変えようと闘争したところで、変えるためには選挙に勝ち、政治を動かす必要がある。
しかし、選挙の勝者は今の民主主義の既得権者である。既得権者がなぜ自らの既得権の源を壊そうという気になれるだろう?
既得権者を打ち破ろうとする者は自ら既得権者に落ちぶれるしかなく、ミイラ取りがミイラになるのは避けられなさそうだ。


しかし、そう認識するからには、未だ国会議員になった経験がない若い世代が、新たなビジョン・公約を掲げ、新たな政治グループ形成し、勝てる選挙活動を計画・実践し、政治・行政を変革可能にする議席数を獲得する戦略・戦術を構想することで、可能性を見出すことができるのではないか。
いうならば、成田氏のような人物がリーダーシップを自らとり、望ましい民主主義の構想・実践をめざすことが、21世紀の半ばくらいまでには目処がつくのではないか。
そう思うのですが、そのような発想は彼にはまったくないのだろう。

で、いっそ闘争は諦めて、民主主義を内側から変えようとするのではなく民主主義を見捨てて外部へと逃げ出してしまうなどという遊びに一時逃避し、「反民主主義」「迂回民主主義」的に発想してみようというのが本章です。

タックス・ヘイブンがあるなら「デモクラシー・ヘイブン」もある?

そこで先ず、タックス・ヘイブンがあるように政治的「デモクラシー・ヘイブン」もありうるのでは、という発想が。
そこで、非効率や不合理を押し付けてくる既存の民主主義を諦める。
政治制度を一からデザインし直す独立国家・都市群が、より良い政治・行政サービスを提供すべく、起業や「国民」を誘致したり選抜したりする。
すなわち、新国家群が企業のように競争し、政治制度を資本主義化する、あるいは、資本主義と民主主義の壊れた二人三脚を超え、すべてを資本主義にする企て、というのだ。

こういう発想での試みは既にある、として、どの国も支配していない公海を漂う新国家設立運動「海上自治都市協会(The Seasteading Institute)」や「青いフロンティア(Blue Frontiers)」などを紹介。
こうした活動に、著名な起業家・投資家が投資・支援していることも。
筆者は、トランプを指示したこの人物の思いを忖度しています。

どんなバカにも貧乏人にも等しく1票が与えられる選挙民主主義は、特異な才能や経験をもった人間がフロンテアを切り拓き、価値や差異を生成するのを阻害する制度だ。
今ある民主主義は、無知で何も創造しない過半数の人々のルサンチマン(恨みの念)を発散する制度に成り下がっている。

保守主義および復古・懐古主義の思想・発想の根底にありそうな声の代弁と思えなくもないでしょうか。


独立国家の態様例

そうした発想と同次元での独立国家を創造せんとする試み・事例を筆者は続けます。
あまり本気で捉え、紹介しているようには思えませんが。
まず挙げているのが、警備や監視、保育・教育などを自前で準備する、準独立都市をイメージさせる「ゲイティド・コミュニティ」。
次に、1968年5月に Giorgio Rosa 等がイタリアの沖合ギリギリ公海になったあたりに作り上げた幻の独立国家「ローズ島」。
勝手に独立を宣言し、市民権やパスポートの発行も手掛け始め、独立国家として国連に承認をもらおうとしたが、イタリア政府が最高裁で国の主権が及ぶとして勝訴し、1969年2月にイタリア海軍に爆破されて消滅した。
いわば「微小国家(microstate,micronation」の最も極端な例として、また海上独立国家構想の例としてローズ島を引き合いに出し、これに1967年にイギリス沖合に出現し、現存する「シーランド公国(Principarlity of Sealand)」も加えて紹介している。

自治体単位で、政治・行政を乗っ取ることが可能

以上はゼロから作ったものだが、これとは別に、すでにある国家や自治体を再利用して独立国家化する方法も紹介している。
地方議会の奪取から始まったフランス革命を例に上げ、現代でも、どこかの自治体に大量移住して住民の過半数を握れば、その自治体の選挙を支配できるという。
これなどは、多数の移民の同一自治体への集結が、リスク・不安要因とされることをイメージすれば、ありうる話と言えるだろう。
2021年の東京都千代田区長当選得票数が9534票であることを挙げ、「1万人を移住させられれば首都の重要区の区長選ですらジャックできる」と言う。
この例を聞くと、成田氏などが画策して、若い世代の住民移動を起こし、候補者を立て、投票を集約する選挙区ジャックを広げていけば、民主主義からの逃走ではなく、新たな民主主義の構想と実現に直結可能と思うのだが。

現状の選挙制度でも、民主主義の変革は可能

彼は、そこでこう言っている。

国全体を見れば超マイノリティでしかありえない若者も、大挙して特定の自治体に押しかければ、その場所ではマジョリティになれる。


これなどは、全国区レベルでの選挙戦で若者世代を組織化すれば、現状でも実行・実現可能と思うし、民主主義からの逃走ではなく、民主主義の特性を活かす闘争方法というべきだろう。
要は、既存の政党は無視し、新たな政治グループ・入れ物と新たなポリシーを形成すれば、なにも22世紀を待たずともよいと思うのだが。

しかし、こうしたごくごく真面目な議論は面白くないのか、彼は、1980年代の先駆的事例、インドの新興宗教指導者バグワン・シュリ・ラジニーンが祖国を終われ集団移住したアメリカ、オレゴン州の田舎町を拠点とし、全国各地から大量のホームレスを移住させ、住民の過半数を握ったことを紹介し、結末としての悲劇を語る。

そして、ここから以降は、彼の得意分野の技術論に基づく独立国家構想に切り替わっていく。
第4章の民主主義の構想への助走代わりになるものと言えるだろうか。
さらっと一言添えられた「メタバース」がその端的な例か。
但し、一気にその方向に走るのではなく、逃走が逃げでしかなく、現実を具体的に望ましいあり方に変えていくものでもないこと、むしろそれが専制的な、閉鎖的なものに向かってしまうことを、示すことになる。

多元性と競争性の極北としての独立国家構想「自由私立都市(Free Private City)」がすべてを資本主義化する

固定観念として描く民主主義は、選挙という方法を用いることで帯びる競争原理と多様な民意・多元性の実現を望ましいものとしている。
それは、一国内というドメスティック性にとどまるものだが、それに対して自由私立都市概念は、まだ存在していないが、ありえる架空の国家たちの多元性、旧国家が競争を通じて新国家に脅かされる競争性、すなわち、国家・都市「間」の多元性と競争性がアイデンティティというのだ。
そこでは、すべてが資本主義になり、商品やサービスになり、つまるところ政治的成果報酬の究極形態に至ると。

ただこのあたりから、成田氏の論述は、焦点が定まらなくなってきている気がします。
観念的には、既存国家の権力を、資本家が牛耳ってしまい、自己にプラスをもたらす選挙を占拠している現在の姿のモデルチェンジでしかないような内容に近づいているからです。
面白くもなんともない・・・。
結局こう彼に言わしめているからだ。
新しい「国家」に行けるのは富裕層だけになるのでは、と。
結局誕生するのは、専制資本主義国家かとも。

それならばそこからの「離脱」を図り、「逃避」するしかないのか。
しかし簡単に離脱できるのは「富裕層」だけ。
残る富裕層以外は、どうなるのか、どうするのか、示されていない。
結局、以前の民主主義がよかったということになるのか、と・・・。
そしてこう言うのです。

旧国家を置き換えるには、新国家はいずれも平民も包み込む世界イデオロギーや世界福祉国家にならなければならない。


迷走に終わってしまった逃走

本章の最後の項は「逃走との闘争」。

逃走には落とし穴がある。
たとえ新国家の乱立による民主主義からの逃走が可能だったとしても、文字通り問題から逃げているだけだ、という問題だ。
(略)
凡人専制によって政治的税を課せられる民主主義にうんざりして選民たちのタックス・ヘイブンとデモクラシー・ヘイブンに逃げ出す資産家たちは、民主主義に内在する問題を解決しはしない。


こうして問題の原点に戻ってしまった逃走方法探索は、(意図的な)迷走でしかなかったといってもよいだろう。
先述した闘争への助走としての逃走論の試みは、迷走に終わったわけだが、そこから本章のまとめが、このように導き出されている。

民主主義からの逃走と闘争し、大衆を仮想敵にするのではなく、友としてふたたび民主主義に組み込むことはできないだろうか?
そんな民主主義の構想こそ、私たちが真に考えるべき課題になる。
来るべき独立国家という箱の中身を詰める構想だ。


最終章、「民主主義の構想」化作業へのエールとして「友としての大衆」を持ち出したことには、これまでの論述からは、違和感、なんともいえぬギャップを感じてしまうのです。

当サイトでの当シリーズ展開も、少々回り道し、11月に入ってしまいました。
次回、最終章<第4章 構想>は少々ボリュームがあり、1回でコンパクトに整理することが難しいのですが、欲張って総括も添えて取り組みます。


『22世紀の民主主義』構成

A. はじめに断言したいこと
B. 要約
C. はじめに言い訳しておきたいこと

第1章 故障
  ・○▢主義と▢○主義
  ・もつれる二人三脚:民主主義というお荷物
  ・ギャッツビーの困惑、またはもう一つの失われた20年
  ・感染したのは民主主義:人命も経済も
  ・衆愚論の誘惑を超えて
  ・21世紀の追憶
  ・「劣化」の解剖学:扇動・憎悪・分断・閉鎖
  ・失敗の本質
  ・速度と政治21:ソーシャルメディアによる変奏
  ・「小選挙区は仕事をすると票減りますよ」
  ・デマゴーグ、ナチス・SNS
  ・偽善的リベラリズムと露悪的ポピュリズムのジェットコースター
  ・そして資本主義が独走する
第2章 闘争
  ・闘争・逃走・構想
  ・シルバー民主主義の絶望と妄想の間で
 政治家をいじる
  ・政治家への長期成果報酬年金
  ・ガバメント・ガバナンス(政府統治)
 メディアをいじる
  ・情報成分表示・コミュニケーション税
  ・量への規制
  ・質への規制
 選挙をいじる
  ・政治家への定年や年齢上限
  ・有権者への定年や年齢制限
   ・未来の声を聞く選挙
  ・「選挙で決めれば、多数派が勝つに決まっているじゃないか」
  ・「一括間接代議民主主義」の呪い
  ・政治家・政党から争点・イシューへ
 UI/UXをいじる
  ・電子投票が子どもの健康を救う?
  ・ネット投票の希望と絶望
  ・表現(不)可能性の壁、そして選挙の病を選挙で直そうとする矛盾

第3章 逃走
  ・隠喩としてのタックス・ヘイブン
  ・デモクラシー・ヘイブンに向けて?
  ・独立国家のレシピ1:ゼロから作る
  ・独立国家のレシピ2:すでにあるものを乗っ取る
  ・独立国家:多元性と競争性の極北としての
  ・すべてを資本主義にする、または○▢主義の規制緩和
  ・資本家専制主義?
  ・逃走との闘争

第4章 構想
 選挙なしの民主主義に向けて
 民主主義とはデータの変換である

  ・入力側の解像度を上げる、入射角を変える
  ・データとしての民意1:選挙の声を聞く
  ・データとしての民意2:会議室の声を聞く
  ・データとしての民意3:街角の声を聞く
  ・万華鏡としての民意
  ・歪み・ハック・そして民意データ・アンサンブル
 アルゴリズムで民主主義を自動化する
  ・エビデンスに基づく価値判断、エビデンスに基づく政策立案
  ・データ・エビデンスの二つの顔
  ・出力側:一括代議民主主義を超えて、人間も超えて
  ・「しょせん選挙なんか、多数派のお祭りにすぎない」
  ・闘争する構想
  ・「一人一票」の新しい意味
  ・無謬主義への抵抗としての乱択アルゴリズム
  ・アルゴリズムも差別するし偏見も持つ
  ・選挙vs.民意データにズームイン
  ・ウェブ直接民主主義から遠く離れて
 不完全な萌芽
  ・グローバル軍事意思決定OS
  ・金融政策機械
  ・マルサの女・税制アルゴリズム
  ・萌芽の限界:自動価値判断とアルゴリズム透明性
  ・無意識民主主義の来るべき開花
 政治家不要論
  ・政治家はネコとゴキブリになる
  ・「民度」の超克、あるいは政治家も有権者も動物になる
  ・政治家はコードになる
  ・夢みがちな無意識民主主義
おわりに:異常を普通に

少しずつ、よくなる社会に・・・

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