
少しずつ、よくなる社会に・・・

柴田悠氏著『子育て支援は日本を救う』『子育て支援と経済成長』から考える子育て・少子化対策論-2
今月初めに、投稿したブログ
◆ 柴田悠氏著『子育て支援が日本を救う』『子育て支援と経済成長』:勝手に新書-8(2022/5/1)
で、柴田悠氏著『子育て支援が日本を救う(政策効果の統計分析)』(2016/6/25刊・勁草書房)『子育て支援と経済成長』(2017/2/28刊・朝日新書)の2冊を紹介。
この2書を参考にして「子育て支援」と「少子化対策」について考える、5回のシリーズを始めています。
前回1回目は、
◆ 社会学者が行う子育て支援政策提案への経済学アプローチの違和感:柴田悠氏「子育て支援論」から考える-1(2022/5/20)
今回は第2回。
諸提案の中で基本とすべき<保育サービス>拡充による子育て支援政策と統計データを巡る提起・提案を見ることにします。
実は、後述する構成に見るように、本書では、「保育サービス」というくくりでの章立てしての具体的な政策の説明と投下される財源についての説明はないのです。
それは、本書のテーマであるはずの「子育て」についての具体的な政策区分についても、章立てしていないことと同様です。
柴田「子育て」政策における政策区分
まず、本書において「子育て支援」というくくりで設定している政策区分は
1)保育サービス
2)産休育休
3)児童手当
の3種類だけです。
後者の<産休育休>は、労働基準法規定の産休に加え、別に規定される育児・介護休業法や雇用保険法などによる育休日取得保障と所得補償に関する財政支出が関係します。
<児童手当>は、同法に規定される「現金給付」としての財政支出で、その用語で理解可能です。
しかし、<保育サービス>は、それだけでは、何をどこまで意味するのか、どれだけの財政支出が行われているのか、理解できません。
保育サービスと子育て支援
そこで、本書で用いられている<保育サービス>に関する記述を、章立て構成に従って確認してみることにします。
各章の目的は、<保育サービス>事業に国の財政から支出される場合、子育て支援に有効に機能していると統計的に評価分析できるか否かを示すことです。
では、かなりラフなまとめになりますが、ざっと見ていくことにします。
<第4章 労働生産性を高める政策(女性就労支援・保育サービス・労働時間短縮・起業支援など)>における保育サービスの有意性
保育サービスは、
・翌年の女性労働力を高め、その女性労働力がさらに翌年の労働生産性を高める。(間接的効果)
・翌年の女性労働力を介さずに、翌々年の労働生産力を高める(直接的効果)
・これにより、親たちのワークライフバランスを改善させたり、労働を効率化させたりすることで労働生産性を高め、翌々年の社会全体の労働生産性を高める。
<第5章 女性の労働参加を促す政策(保育サービス・産休育休・公教育)>における保育サービスの有意性
保育サービスを利用することで働けるようになるのは、父親よりも母親のほうが多く、保育サービス支出が増えると、保育サービスの就労者と利用者が増えることで、労働力人口が増え、その過半数は女性である。
一方、保育所定員の増加が核家族比率を上げて、母親就業率を下げる面もある。
<第6章 出生率を高める政策 (保育サービス)>における保育サービスの有意性
・児童手当支出が増えると、翌年の出生率が上がるという傾向は見られず、産休育休が増えると、翌年の出生率が上がるという傾向も見られない。
・しかし、保育サービス支出が増えると、翌年の出生率が上がるという傾向が見られる。
<第8章 子どもの貧困を減らす政策(児童手当・保育サービス・ワークシェアリング)>における保育サービスの有意性
・保育サービスが充実すると、主に未就学児を育てている親が、安価な行政の保育サービスを利用できるようになるため、家計支出が減る。
・未就学児の預け先がなかったために働けなかった親が働けるようになるため家計収入が増える。
・それにより、子どもの相対的貧困率が下がる。

保育サービス支出とは?
柴田氏の本書の進め方は、まず命題に対して影響を与えると類推する個別の政策実施時の<仮説>を設定し、それに投じられる財政支出が有意に働き、寄与しているかを<検証>しようというものです。
ただ、上記の記述にみられるように、保育サービスが具体的にどんな事業に、どれだけの金額が投入されているかの説明はありません。
例えば、前項に「安価な行政の保育サービスを利用できるようになる」とあり、新たに開設する保育所が公立であると想定できる記述ですが、それは現実的ではありません。
但し、現状の保育行政において、保育の無償化が「保育サービス支出」増に加わることになりました。
ここで、原点に戻って、主な「保育サービス政策」(予算化)事業を、私なりに整理してみました。
1)公立保育所等管理運営事業(既存・新設)
2)民間保育所等事業支援(既存・新設)
3)公立保育所等就労者賃金・社会保障等
4)民間保育所等就労者賃金補助
5)保育費用補助・無償化
6)学童保育支援等
7)その他
一口に「保育サービス」支出を増やすべきとしても、これらの領域においてどのように配分・支出するのか、どんな方法が効果をもたらすか、そのための仮説・検証には踏み込まれていないことが、柴田論の問題の一つと考えています。
一応、本書の解説書に当たる『子育て支援と経済成長』の構成(後述)から、「保育サービス(支出)」に関する章立てを確認してみました。
以下がそれに当たります。
第2章 働きたい女性が働けば国は豊かになる
・育休より効果的な保育サービス
・保育の拡充が財政余裕を増やす?
第3章 「子どもの貧困」「自殺」に歯止めをかける
・ワークシェアリングより保育サービス
第5章 子育て支援の政策効果
・結局、待機児童はどれくらいいるのか
・子どもを持ったお母さんは一生パート?
・保育士が集まらない
・待機児童問題解消にはいくら必要か
・公立の認可保育所は縮小傾向
・子育て支援でどのくらい経済成長するのか
・待機児童解消による政策効果
・長時間労働が引き起こす「保育の質」の低下
・フランス革命と出生率
・保育ママ以外の要因は?
・フランスから学べること
・保育所で解決したスウェーデン
・「マツコ案」で保育・教育の無償化を試算してみた
当然ですが、保育サービスは、質的・量的両面からの向上が求められています。
待機児童問題の解消に不可欠な認可保育所等の増設、慢性的人材不足が問題になっている保育士の増員・補充が必要であり、この章での軸になっていることが、おおよそ読み取れます。
この書において数字で示された重要なポイントは、シリーズの終わりの方で紹介したいと思います。
保育サービス支出の性質が及ぼす財政支出比率、GDP比率への疑問
今回のテーマでは、柴田論の<政策効果の統計分析>の基本となっているのが、保育サービス領域における(他の課題領域でも共通ですが)一般政府支出と社会保障支出合計と全体比及びGDP比であり、日本の位置を知るためのOECD主要国との比較です。
その中で、一つ気になっていることがあります。
日本の保育サービス事業は、本来公的性質をもつ保育事業の民営化がどんどん進められてきた。
それにより、保育サービス財政支出が圧縮・抑制され続けて今日に至り、先進国比で低位になっている要素が強いのではないかということです。
いわゆる「大きい政府」をめざすのか「小さい政府」であるべきか、の議論の範疇に入ってくるのですが、その発想自体ナンセンスなのです。
保育サービスは、政府が直接手掛ける事業ではなく、国民・住民への行政サービスであり、草の根的な生活基盤事業です。
小中校の義務教育と同次元のものであり、同様の性質を持つ政府支出として、管理運営費用も、人的資源費用も賄うべきものです。
その財源が不足しているから、実現しない・できないというものではなく、そのための財源が整うまで改革できない・しない、というものではないのです。
社会学者が、財源をどうこう心配配慮して提案する問題でも当然ないのです。
そこから再出発して議論と考察と提案をやり直すべきなのです。
もうひとつ、敢えて申し上げるなら、こうした公的な子育て・保育事業の経済的効果の仮説・検証が必要という議論も、ある意味ナンセンスと言うべきでしょう。
小中義務教育の経済的効果をどのように評価することに、さほど意味があるようには思えません。
ほとんどが高校・大学教育を受けた政治家と官僚が、未だに望ましい社会や保育・教育制度、社会保障制度を構築できていないのですから、彼らの経済的・社会的効果の検証が不可能であり、無意味でもあることを示しているのです。

脱線しました。
保育サービスの望ましい在り方については、当サイトでこれまで種々検討・提案しています。
今回の<柴田論>シリーズとこの後の<山口論>シリーズを終えた後、それらを受けて、再度継続して取り組んでいく予定です。
次回第3回は、<少子化対策>と<子どもの貧困問題>の視点からの子育て支援政策について考えます。財政健全化と直結する増税問題が、第4回のテーマになります。

『子育て支援が日本を救う 政策効果の統計分析』構成
はじめに
第1章 本書の問いと答え ー 子育て支援が日本を救う
1.労働生産性を高め財政を健全化させる政策
2.自殺を減らす政策
3.子どもの貧困を減らす政策
4.財源確保の方法
5.日本の「現役世代向け社会保障」が乏しい背景
6.「選択」は「歴史」をのりこえる
第2章 使用データと分析方法
1.使用データの概要
2.分析方法 ー経済成長の研究から学ぶ
3.経済成長とは何か
4.経済成長率の先行研究
5.説明変数と被説明変数
6.最小二乗法推定(OJS推定)
7.パネルデータ分析でのOLS推定 ー動学的推定と一階層差推定
8.「逆の因果」の除去 ー操作変数推定
9.すべてを兼ね備えた一階層差GMM推定
10.一階層差GMM推定の手続き
11.実際上の留意点
12.使用データについての留意点
第3章 財政を健全化させる要因 ー労働生産性の向上
1.背景 ー財政難という問題
2.仮説
3.データと方法
4.結果
5.結論
第4章 労働生産性を高める政策 ー女性就労支援・保育サービス・労働時間短縮・起業支援など
1.背景 ー「労働生産性の向上」は財政健全化をもたらす
2.仮説
3.データと方法
4.結果
5.結論
第5章 女性の労働参加を促す政策 ー保育サービス・産休育休・公教育
1.背景 ー「女性の労働参加」は「社会の労働生産性」を高める
2.仮説
3.データと方法
4.結果
5.結論
第6章 出生率を高める政策 ー保育サービス
1.背景 ー「出生率の向上」は財政健全化をもたらす
2.先行研究で残された課題
3.仮説
4.データと方法
5.結果
6.結論
第7章 自殺を減らす政策 ー職業訓練・結婚支援・女性就労支援・雇用奨励
1.背景 ー自殺率という問題
2.先行研究で残された課題
3.仮説
3.データと方法
4.結果
6.結論
第8章 子どもの貧困を減らす政策 ー児童手当・保育サービス・ワークシェアリング
1.背景 ー子どもの貧困という問題
2.仮説
3.データと方法
4.結果
5.結論
第9章 政策効果の予測値
1.予測値の計算方法
2.OECD平均まで拡充する場合の予算規模と波及効果
3.待機児童解消に必要な予算規模
4.その場合の波及効果
5.他の目標のための予算規模
6.結論 ー現実的な目標設定と予算規模
第10章 財源はどうするのか ー税制のベストミックス
1.行政コストの削減には限界がある
2.財政方式をどうするか
3.個人所得税・社会保険料の累進化
4.年金課税の累進化
5.被扶養配偶者優遇制度の限定
6.消費税の増税
7.資産税の累進化
8.相続税の拡大
9.相続税拡大だけならベルギーの1.2倍
10.小規模ミックス財源
11.最小限の改革 ー潜在的待機児童80万人の解消
第11章 結論 ー 子育て支援が日本を救う
1.右派「保守」と左派「リベラル」の合意点
2.残された課題
あとがき

『子育て支援と経済成長』構成
はじめに
第1章 財政難からどう抜け出すか
・お金がないのが大問題
・日本政府の懐事情
・社会保障支出に食いつぶされる超高齢社会・日本
・訪れなかった第3次ベビーブーム
・先進諸国の経験から学べ ー統計分析という手法
・財政余裕に影響する三つの要素
第2章 働きたい女性が働けば国は豊かになる
・財政余裕は改善できる
・女性の心に響く商品を生み出すには
・正社員女性比率と利益率
・ラガルド発言の根拠
・「財源なし」でできる一手
・そもそも昔の女性は働きに出ていた
・女性の職場進出を後押しする
・「3年間抱っこし放題」は効果なし?
・育休より効果的な保育サービス
・保育の拡充が財政余裕を増やす?
・限られた予算を活かす政策を
第3章 「子どもの貧困」「自殺」に歯止めをかける
・高齢者より高い子どもの貧困率
・子どもの貧困がもたらす問題
・子どもの貧困を減らす政策
・ワークシェアリングより保育サービス
・家計に負担のかかる無認可保育園
・3歳以上は夕方まで保育無料のフランス
・児童手当も大事
・日本の自殺率を下げる
・自殺予防に効果的な政策
・離婚による孤独と自殺
・「一家の大黒柱」からの解放
・子育て支援が日本を救う
・それぞれが「幸せ」を感じられる社会
第4章 社会保障の歴史から見るこれからの日本
・子育て支援額は先進国平均の「半分」
・「経済成長を促す政府支出もある」
・障害者福祉サービスと「応益負担」
・「適応」って本当にいいことなの?
・適応概念の歴史
・社会保障の問題を数字で示したら
・高福祉国家・北欧とルター派の関係
・宗教改革が高福祉国家を生んだ
・17世紀に導入された救貧税
・カルヴァン派がつくった低福祉国家・アメリカ
・投資によって偶然儲かったら
・キリスト教の歴史と社会保障
・トッドの家族システム論
・日本はなぜ低福祉になったのか
・江戸時代からの新しい救貧文化
・バブル崩壊後の企業福祉
第5章 子育て支援の政策効果
・結局、待機児童はどれくらいいるのか
・子どもを持ったお母さんは一生パート?
・保育士が集まらない
・待機児童問題解消にはいくら必要か
・公立の認可保育所は縮小傾向
・子育て支援でどのくらい経済成長するのか
・待機児童解消による政策効果
・長時間労働が引き起こす「保育の質」の低下
・フランス革命と出生率
・保育ママ以外の要因は?
・フランスから学べること
・保育所で解決したスウェーデン
・「マツコ案」で保育・教育の無償化を試算してみた
第6章 財源をどうするか
・財源のミックス案
・財源案の合意形成に向けて
おわりに ー分断を超えて
・古市さん、駒崎さんとの出会い
・相手と共通の「暗黙の前提」からスタート
・子どもたちのための協力

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