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社会学者が行う子育て支援政策提案への経済学アプローチの違和感:柴田悠氏「子育て支援論」から考える-1

少しずつ、よくなる社会に・・・

柴田悠氏著『子育て支援は日本を救う』『子育て支援と経済成長』から考える子育て・少子化対策論-1

今月初めに、投稿したブログ
柴田悠氏著『子育て支援が日本を救う』『子育て支援と経済成長』:勝手に新書-8(2022/5/1)
で、柴田悠氏著『子育て支援が日本を救う(政策効果の統計分析)』(2016/6/25刊・勁草書房)『子育て支援と経済成長』(2017/2/28刊・朝日新書)の2冊を紹介。
そこで、この2書を参考にして「子育て支援」と「少子化対策」について考えるシリーズを始めるとしました。
今回から、5回シリーズで取り組みたいと思います。

まず第1回目。
イントロダクションとして、まず同書の目的と結論を、筆者の記述そのものを参考にして紹介。
加えて、2つの政策課題についての報告を紹介します。

子育て支援が日本を救う(政策効果の統計分析)』の目的と結論

本書は、「経済成長率「「労働生産性」「子どもの貧困率」「自殺率」などの重要な社会指標に対して、子育て支援等のさまざまな社会保障政策がどのように影響するかを、統計的に分析。
その結果に基づいて「子育て支援が日本を救う」と結論づけている。
すなわち、「これからの日本を救うのは、保育サービスを中心とした子育て支援である。」と。

 言っていることがよくわかりません。
「日本を救う」というが、「日本がなぜ、どうして救われなければいけないのか?」
「何から救われなければいけないのか?」
 その回答は、<あとがき>にあるので、次に転記しました。

子育て支援が、何から日本を救うのか

この疑問への回答が、あとがきにありました。

<短期>
・労働生産性の低さから救う = 労働生産性を高める
・急激な少子化から救う = 出生率を高める
・自殺率の高さから救う = 自殺率を下げる
・子どもの貧困率の高さから救う = 子どもの貧困を減らす
<長期>
・財政難から救う = 財政余裕を増やす
・格差の固定化から救う = 貧困の親子間連鎖を減らす
・社会保障の非効率性から救う= 社会保障の効率性を高める


「救う」という表現がどうもしっくりきません。
まあ、入り口でどうこう言っていても致し方ないので、前に進みましょう。
こうした、日本の未来を選択する有権者、政策決定過程に深く関わる政治家・官僚が行う政策検討を、客観的データに依拠して検討することを提案したのが、本書というわけです。

財政健全化主義による子育て支援政策の経済政策論への展開

しかし、不思議なのは、書のタイトルからは、「子育て支援」政策提案書であるようなのですが、財政難を日本社会が抱える重大な根本的課題としており、その改善のためにまず「労働生産性」の向上が必須とし、経済政策論であるかのような方針をまず明らかにしていることです。
「子育て支援」のための経済政策論ではなく、経済成長に有効な手段を広範に求めると、「子育て支援策」が最も有効と評価できた。
その根拠が、「子育て支援策」に関するデータ分析から導き出された。
そう理解すべき書である、と思わされます。

本質は社会保障・社会福祉政策課題である「子育て」支援も、財政難を理由として、望ましい政策を展開することができない。
故に、経済成長に有効な手立てをまず講じることが、最優先課題となる。
そう読み替えることも有効となります。

その理解から始めることをよしとさせたのは、以下の循環論法を掲げているからです。

日本社会が抱える重大な問題として挙げるべきは「財政難」
その財政難により、「税・社会保険料収入のほぼすべてを社会保障支出だけで使い果たしてしまい」、政府予算において、抑制を余儀なくされるのが「社会保障」。
従い、社会保障政策を議論するには、「財政健全化」が必須。
そして、こう続きます。
「財政健全化」には「労働生産性」向上が必須
「労働生産性」を高めるには、女性就労を支援し、「女性就労比率」を向上させることが必須
「女性就労比率」を高めるには、「保育サービス」向上が必須
と繋がり、
「保育サービス」を高めるには、「財政健全化」が必須
と戻ってくるわけです。

財源が不足しているから、全世代型社会保障政策の議論は、高齢者の受益分の削減すなわち負担増と現役世代の負担の抑制または削減に集約される。
そこで「財政健全化」が先行して、または並行して行われるべき。
常に堂々巡りの議論ですが、柴田氏は、真面目に、その財政健全化に取り組んだ上での社会保障政策の拡充を提起している。
統計データを用いて。

正しくはそう理解すべきでしょうが、「財政健全化」イコール「増税」主義と簡単に認めうるかどうかが問題になります。
まあ、そこは後回しにして、取り組み可能な、あるいは、いずれにしても取り組むべき課題として上記の循環で掲げられた、<労働生産性>と<女性就労比率>の向上に関する、本書の2つの章を以下に概括してみました。


労働生産性向上政策の仮説とデータ分析結果(第4章から)

労働生産性を高めるためには、「女性の労働を促し」「保育サービス・失業給付・高等教育支援・起業支援を拡充し」「労働時間の短縮を促し」「個人所得税・社会保険料の累進性を強化し」「高齢化を抑制する」対策が有効と、関連する統計データ分析に基づき、結論付けています。
最後の「高齢化抑制」は、出生率を高める政策が必要になります。

分析に用いたデータ類等は、「女性労働力率」「保育サービス支出」「男性失業率」「失業給付支出」「労働時間」「公的高等教育支出」「起業支援支出」「個人所得税率・社会保険料率」「老年人口比率」などで、それぞれ「労働生産性の成長率」に与えた影響を、<一階階差GMM推定>という分析手法を用いて統計的に検証した、としています。

女性就労比率向上政策の仮説とデータ分析結果(第5章から)

女性の労働参加を促すためには、「公教育・産休育休・保育サービスを拡充し」「女性の労働移民を良い多く受け入れ」る対策が有効で、それらは、「男性多数」「日本人多数」の職場・労働市場において「人材の多様化」をもたらし、その職場や労働市場全体の生産性を高めると期待できる、としています。

その結論の前提としてあるのは、後述の「人材の多様性」への対応ですが、まず先行すべきは性差の撲滅すなわち女性の労働参加と処遇の平等化にあるのは明らかです。
しかし、外国人の労働参加に関しては、すべての職種・職場の労働生産性が高いとするには無理がありますし、言うほど簡単に政策を進めることは困難ではないかと考えています。
また、これもよく引き合いに出されるのですが、「女性の人材活用が進んでいる企業・職場ほど労働生産性が高い」とされていること。
これを、ストレートに信頼するのではなく、むしろ労働生産性が高い企業・職場が女性活用を積極的に進めてきているゆえ、と私は推察します。

なお、分析に用いたデータ類等は、「第二次産業比率」「公的教育支出」「産休育支出」「保育サービス支出」「移民人口比率」などで、それぞれ「女性労働力率」に与えた影響を、同様<一階階差GMM推定>法を用いて統計的に検証した、としています。


今回は、以上とし、次回、諸提案の中で基本とすべき<保育サービス>拡充による子育て支援政策と統計データを巡る提起・提案を見ることにします。
なお、少子化対策と子どもの貧困問題は第3回の、財政健全化と直結する増税問題については、第4回の記事のテーマになります。

子育て支援が日本を救う 政策効果の統計分析』構成

はじめに
第1章 本書の問いと答え ー 子育て支援が日本を救う

 1.労働生産性を高め財政を健全化させる政策
 2.自殺を減らす政策
 3.子どもの貧困を減らす政策
 4.財源確保の方法
 5.日本の「現役世代向け社会保障」が乏しい背景
 6.「選択」は「歴史」をのりこえる
第2章 使用データと分析方法

 1.使用データの概要
 2.分析方法 ー経済成長の研究から学ぶ
 3.経済成長とは何か
 4.経済成長率の先行研究
 5.説明変数と被説明変数
 6.最小二乗法推定(OJS推定)
 7.パネルデータ分析でのOLS推定 ー動学的推定と一階層差推定
 8.「逆の因果」の除去 ー操作変数推定
 9.すべてを兼ね備えた一階層差GMM推定
10.一階層差GMM推定の手続き
11.実際上の留意点
12.使用データについての留意点
第3章 財政を健全化させる要因 ー労働生産性の向上
 1.背景 ー財政難という問題
 2.仮説
 3.データと方法
 4.結果
 5.結論
第4章 労働生産性を高める政策 ー女性就労支援・保育サービス・労働時間短縮・起業支援など

 1.背景 ー「労働生産性の向上」は財政健全化をもたらす
 2.仮説
 3.データと方法
 4.結果
 5.結論
第5章 女性の労働参加を促す政策 ー保育サービス・産休育休・公教育

 1.背景 ー「女性の労働参加」は「社会の労働生産性」を高める
 2.仮説
 3.データと方法
 4.結果
 5.結論
第6章 出生率を高める政策 ー保育サービス

 1.背景 ー「出生率の向上」は財政健全化をもたらす
 2.先行研究で残された課題
 3.仮説
 4.データと方法
 5.結果
 6.結論
第7章 自殺を減らす政策 ー職業訓練・結婚支援・女性就労支援・雇用奨励

 1.背景 ー自殺率という問題
 2.先行研究で残された課題
 3.仮説
 3.データと方法
 4.結果
 6.結論
第8章 子どもの貧困を減らす政策 ー児童手当・保育サービス・ワークシェアリング

 1.背景 ー子どもの貧困という問題
 2.仮説
 3.データと方法
 4.結果
 5.結論
第9章 政策効果の予測値

 1.予測値の計算方法
 2.OECD平均まで拡充する場合の予算規模と波及効果
 3.待機児童解消に必要な予算規模
 4.その場合の波及効果
 5.他の目標のための予算規模
 6.結論 ー現実的な目標設定と予算規模
第10章 財源はどうするのか ー税制のベストミックス

 1.行政コストの削減には限界がある
 2.財政方式をどうするか
 3.個人所得税・社会保険料の累進化
 4.年金課税の累進化
 5.被扶養配偶者優遇制度の限定
 6.消費税の増税
 7.資産税の累進化
 8.相続税の拡大
 9.相続税拡大だけならベルギーの1.2倍
10.小規模ミックス財源
11.最小限の改革 ー潜在的待機児童80万人の解消
第11章 結論 ー子育て支援が日本を救う

 1.右派「保守」と左派「リベラル」の合意点
 2.残された課題
あとがき

子育て支援と経済成長』構成

はじめに
第1章 財政難からどう抜け出すか

 ・お金がないのが大問題
 ・日本政府の懐事情
 ・社会保障支出に食いつぶされる超高齢社会・日本
 ・訪れなかった第3次ベビーブーム
 ・先進諸国の経験から学べ ー統計分析という手法
 ・財政余裕に影響する三つの要素
第2章 働きたい女性が働けば国は豊かになる

 ・財政余裕は改善できる
 ・女性の心に響く商品を生み出すには
 ・正社員女性比率と利益率
 ・ラガルド発言の根拠
 ・「財源なし」でできる一手
 ・そもそも昔の女性は働きに出ていた
 ・女性の職場進出を後押しする
 ・「3年間抱っこし放題」は効果なし?
 ・育休より効果的な保育サービス
 ・保育の拡充が財政余裕を増やす?
 ・限られた予算を活かす政策を
第3章 「子どもの貧困」「自殺」に歯止めをかける

 ・高齢者より高い子どもの貧困率
 ・子どもの貧困がもたらす問題
 ・子どもの貧困を減らす政策
 ・ワークシェアリングより保育サービス
 ・家計に負担のかかる無認可保育園
 ・3歳以上は夕方まで保育無料のフランス
 ・児童手当も大事
 ・日本の自殺率を下げる
 ・自殺予防に効果的な政策
 ・離婚による孤独と自殺
 ・「一家の大黒柱」からの解放
 ・子育て支援が日本を救う
 ・それぞれが「幸せ」を感じられる社会
第4章 社会保障の歴史から見るこれからの日本

 ・子育て支援額は先進国平均の「半分」
 ・「経済成長を促す政府支出もある」
 ・障害者福祉サービスと「応益負担」
 ・「適応」って本当にいいことなの?
 ・適応概念の歴史
 ・社会保障の問題を数字で示したら
 ・高福祉国家・北欧とルター派の関係
 ・宗教改革が高福祉国家を生んだ
 ・17世紀に導入された救貧税
 ・カルヴァン派がつくった低福祉国家・アメリカ
 ・投資によって偶然儲かったら
 ・キリスト教の歴史と社会保障
 ・トッドの家族システム論
 ・日本はなぜ低福祉になったのか
 ・江戸時代からの新しい救貧文化
 ・バブル崩壊後の企業福祉
第5章 子育て支援の政策効果

 ・結局、待機児童はどれくらいいるのか
 ・子どもを持ったお母さんは一生パート?
 ・保育士が集まらない
 ・待機児童問題解消にはいくら必要か
 ・公立の認可保育所は縮小傾向
 ・子育て支援でどのくらい経済成長するのか
 ・待機児童解消による政策効果
 ・長時間労働が引き起こす「保育の質」の低下
 ・フランス革命と出生率
 ・保育ママ以外の要因は?
 ・フランスから学べること
 ・保育所で解決したスウェーデン
 ・「マツコ案」で保育・教育の無償化を試算してみた
第6章 財源をどうするか

 ・財源のミックス案
 ・財源案の合意形成に向けて
おわりに ー分断を超えて

 ・古市さん、駒崎さんとの出会い
 ・相手と共通の「暗黙の前提」からスタート
 ・子どもたちのための協力


なお、この2書と同じ領域に属する書について、柴田氏著の紹介に先駆けて、
山口慎太郎氏著『子育て支援の経済学』:勝手に新書-7(2022/3/26)
で紹介。
そこで紹介した、山口慎太郎氏『子育て支援の経済学』(2021/1/20刊・日本評論社)『「家族の幸せ」の経済学 データ分析でわかった結婚、出産、子育ての真実』(2019/7/30刊・光文社新書)
の2書も、柴田氏論のシリーズが終わった後、同様その「子育て支援」と「少子化対策」論を考えるシリーズに取り組む予定です。

                       少しずつ、よくなる社会に・・・

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