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介護制度、高齢化社会

介護規制緩和、そもそも規制改革推進会議で議論すべき課題か:日経続報から

少しずつ、よくなる社会に・・・


先日、最近の動向と介護制度・介護現場等をめぐる問題を確認する<最近の日経介護関連記事から読み解く、2022年以降の介護政策課題>シリーズを以下の4回にわたって投稿しました。

IT、DX、介護テック。呼び名が変わって介護現場の生産性は上がったか、省人化は実現したか(2022/1/27)
介護職配置基準規制緩和が介護士不足解消、賃金引上げに結びつくか(2022/1/29)
自己負担増、保険料アップ必須の介護職員処遇改善は、確実に賃上げに結びつくか(2022/2/2)
拡大する介護大手SOMPOHD・学研HDを介護事業の標準とすべきではない(2022/2/4)

その軸になっているのは、2回目に取り上げた<介護職の人員配置基準>を緩和するという政府方針への批判です。
そしてこうした動きに対して、相変わらず、介護現場の生産性向上の必要性とそのためのIT化、そこから介護職の賃金の引き上げに結びつける強引さ、そして受益者負担の強化というワンパターンな日経の、政府支援の主張スタンスへの批判も同様です。

この4回シリーズで介護以外の他のテーマに移るつもりでいましたが、ご丁寧に、今日2022/2/8付日経が、以下の記事で、この問題をフォローしていました。

⇒ 「介護の質」人員減でも維持  ITで現場負担軽く 厚労省、規制緩和へ実証」

なので、上記の記事で行った作業の繰り返しになる内容も多いのですが、同記事を要約し、若干の意見を添えます。

「「介護の質」人員減でも維持 ITで現場負担軽く 厚労省、規制緩和へ実証」から

2月7日実施の規制改革推進会議で、介護人員規制を緩和する本格的な検討に入ったというが、その主要テーマは、IT活用による実証事業の開始。

突き詰めれば、介護職の必要人員数、不足人員数を規制緩和で減らすことが目的では?

目的は、担い手不足の深刻化への対応として、ロボットやセンサーを使い、少ない介護者でも質を維持しながらサービスを提供できる仕組みを探ることという。
それが、人手頼みの政策の転換点になるという主張だ。
この考え方がその会議での意向を受けて、日経が斟酌・忖度してのものかは分からない。

しかし、「人手頼みの政策の転換点」の意図は、この規制緩和というあたかも多くの恩恵を被ることが期待できる望ましい政策かのような見せかけで、現状を含め、介護職の今後の不足予測数を数字上減らすことになる、これまた見せかけを行なうことにあるといえる。
姑息な手段だ。

厚労省は、2019年には約210万人働く介護人材を、2023年度に22万人、2040年度には69万人増やす必要性を示すが、規制緩和でこの必要人数が、計算上自動的に減ることになるわけだ。

IT化による省人化による生産性向上が賃上げと慢性的人材不足緩和に寄与するという幻想

日経氏は続ける。
省人化技術は現場の負担軽減と同時に生産性の向上につながり、賃金水準が高まり、慢性的な人手不足が和らぐと。
しかし、これまでも実施し、まもなく新たにも注ぎ込む補助金等がそこで成果を上げた、あるいは間違いなく解消するという話は聞かない。
そこで、規制改革を通じた抜本的な待遇改善をめざすというのだが、何が抜本的要素・要因になるというのか。
いい加減なことをいい続けている自覚がまったくない。

実証実験の具体的な内容を公開すべき

ITによる主な実証実験課題は、現状の、入所者3人につき少なくとも職員1人を配置という基準を、4人に1人に変更することにある。
問題は、その実証実験を、どの施設でどのように行なうかだ。
今春にモデルとなる事業者を選ぶとする厚労省の考えでは、
・夜間の見守り機器の導入による介護の負担軽減
・ロボットを使った業務の効率化
・現場の働き方の改善につながるか
・サービスの質を保てるか
などが課題となるという。

加えて、省人化以外の期待効果として、
・ロボットやセンサーのデータを集めて分析し、最適なケアプランづくりに結びつける
・見守り機器で夜間の睡眠パターンの正確な把握でトイレへ的確に誘導
・入所者はの睡眠の質がの向上
・夜勤スタッフの休憩時間の確保
などを上げるが、数年前から課題とされ、多少なりともの成果の実証は可能だろう。
但し、特定の条件による施設に限られずはずだ。
今回の規制緩和を合理化できる取り組み事例として、すでに目処がたっているはずだ。


規制推進会議にもある規制緩和への懸念

同会議には介護福祉士らから次のような不安や懸念の声も寄せられているという。
・サービスの低下にを招く
・逆に介護職の業務負荷が増える
・仕事のやり方を急に変えることへの抵抗や反発
懸念は、こんなレベルに留まるはずがない。
先日した記事にも縷縷書いた。

面白いことに、冗談ではなくてこんな懸念も示している。
・モデル事業者が減収になれば、新たな取り組みへの意欲をそぐおそれ
・T導入のインセンティブも必要

規制緩和実施への配慮

懸念に配慮して、人員規制の緩和を丁寧に検討するというのだが、その丁寧さとはこういうことだ。
・すべての介護現場に一律には適用せず、まずは効果が見込まれるITの導入に意欲的な事業者で「特例」として試す
・外部機関による監査で安全性などを確保する

もう筋書きは決めてあるわけだ。
但し、後者などは、規制緩和に逆行する新たな規制を意味することと感じていない鈍感力を示している。

しかし、本来実証実験は、介護保険制度における一般的な施設で行われるべきであり、既に成果を上げている施設が手を上げれば指名されるというのはおかしな話である。
合理性はない。

実証実験に適した、合理性・合目的性のある高齢者施設とは

さて、私が考える実証実験のあるべき形を簡単に述べておきたい。

1)介護保険内で提供される介護サービスが施設内で提供されるサービスの大半を占める施設
2)デイサービスなど通所型施設ではなく、入所型施設
3)デイサービス、居宅型サービス混合の中規模・大規模施設は除く
4)リハビリ目的の老健は当然除く
5)要支援から重度の要介護5まで幅広く利用できる大型民間施設は除くべき
6)収容数29人以下の地域密着型特別養護老人ホームが最も望ましい

こうした基本的な考え方を、どこまで政府・厚労省は示せるか、あるいは日経は一体どこまで考えているのか。
特に政府は、敢えて加えれば、規制改革推進会議はその選考・決定基準を公開すべきである。

真面目に考えれば、ゴロゴロ出てくる「そもそも論」

しかし、そもそも考えれば、介護人員の配置基準の在り方をめぐる議論は、規制改革推進会議ではなく、社会保障審議会内にある「介護保険部会」で検討されるべきだろう。
そしてそこに至るまでのプロセスに、介護事業者・介護職員・利用者、そしてケアマネジャーなど介護制度・介護現場に関わる人々の生の意見が反映されるべきであり、決して、多方面に関わるさまざまなテーマでの規制改革という旗印に集められた、いわゆる有識者が、政府・行政を代弁するかのような立ち位置・意識であるべきではないことも強調しておきたい。

もう一つのそもそもの話だが、この人員配置基準自体は、まず「規制」という用語を用い、その対象とすることは適切ではないと思うこと。
人の配置基準は、介護の質を考え、現場でのリスクマネジメントを配慮して検討・決定されたこと。
従い、これを改めるのは、規制緩和課題ではなくて、純粋に制度改定課題と考えるべきだろう。

そのことも含めて、もう一つ敢えて言うならば、この課題は、規制改革推進会議が言い出す形ではなく、そもそも「社会保障審議会・介護保険部会」が進めるべき課題であろう。
そうではないプロセスをとっていることは、いつに、介護不足数を配置人員基準改悪で、見かけ減らそうという政府の意図が組み込まれているため、というのがうがった見方だろうか。

ついでにもう一つそもそも。
そもそも、2月7日会議の内容が、HP上で公開される前にマスコミに公開されることがおかしい。
マスコミは、政府の示した情報に沿って受け売り情報を流すだけだ。
そこでの疑問などを提起して、記事に混じえる作業を果たして行っているのか。
まあ記事内容を見れば、情報をもらって、御用マスコミ的に掲載しているとしか思えないことは言うまでもない。

ということで、介護政治・介護行政の在り方、引き続いてしっかり観察し、あるべき介護制度・介護現場・介護利用についてシビアに考えていきたい。

少しずつ、よくなる社会に・・・

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