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身近な<食と農>問題を、日常と将来の安心・安全な生活と農業経営・経済の視点から考えてみる:『日本の食と農の未来』から考える-4

2022年1月9日投稿記事
小口広太氏著「『日本の食と農の未来』から考える」シリーズ、始めます
を受けてのシリーズを進めてきました。

第1回:グローバル・フードシステムを見直すべき時代:『日本の食と農の未来』から考える-1(2022/1/13)
第2回:増える新規就農形態と広がる有機農業の課題:『日本の食と農の未来』から考える-2 (2022/1/15)
第3回: ローカル・フードシステム、オルタナティブ・フードシステム、CSA実践・実現のための課題:『日本の食と農の未来』から考える-3 (2022/1/17)

と進み、第4回目の今回が最終回になります。
今回は、最終章の<第6章 都市を耕すを取り上げた後、本書の総括を行います。

『日本の食と農の未来』から考える」シリーズ-4

第6章 都市を耕す から

 最終章第6章の構成は、以下のとおりでした。

第6章 都市を耕す
1.都市農家の新たなステージ

・「肥大化」する都市
・減少する農地と「2022年問題」
・再評価される都市農業
・「地産地消」と「市民参加」を軸にした農のあるまちづくり
2.「耕す市民」を育てる
・耕す市民という「選択肢」
・農業体験農園と市民農園
・生協と組合員がつくる農園
・神奈川県横浜市泉区・「生活クラブ・みんなの農園
・都市農業の発展を担う「援農ボランティア」
・援農ボランティアという「経営パートナー」
・神奈川県横浜市都筑区・「都筑農業ボランティアの会
・耕すことで変わる食と農へのまなざし
3.コロナ禍で見直される「農」の力
・耕し続けた人たち、耕し始めた人たち
・なぜ、耕す市民は増えたのか
・やぼ耕作団が実践した耕す市民
・「自給」と「つながり」を大切にする「住み続けられる都市」へ


 この構成から少し距離をおいて考えてみると・・・。

一つの就農、営農のかたちとしての都市農業

 総括的位置づけになる最終章のテーマが都市農業。
 やや意表を突かれる感がしたテーマでした。
 確かにサブタイトルにある「食卓」をイメージする上では効果があったかもしれません。
 内容的には、農業・農の取り組み、あるいは就農の多様性の一つとして読めるので、第Ⅱ章とセットで読むのが適切かもしれません。
⇒第2回:増える新規就農形態と広がる有機農業の課題:『日本の食と農の未来』から考える-2 (2022/1/15)


都市生協における消費者と生産者の結びつき

 次にイメージできるのは、やはり都市部を中心に強く根付いている生活協同組合の組織化・ネットワーク化。
 共同購入や組合員宅への配達は、消費者と生産者との結びつきを重視し、前提とした「食と農」の生活として定着し、現在の多種多様なローカル・フードシステムの原型の一つといえるのではないでしょうか。
⇒ 第3回: ローカル・フードシステム、オルタナティブ・フードシステム、CSA実践・実現のための課題:『日本の食と農の未来』から考える-3 (2022/1/17)  

家庭菜園、市民菜園からイメージする、自給自足、おすそ分け、文化としての食と農業

 そしてなにより、毎年猫の額のような狭い庭で、プランターを用いて行っている家庭菜園であり、車を走らせている先々で時折見かける市民菜園でのほぼ自家用の野菜栽培です。
 まさに自分のところで育てて収穫した新鮮で異色鮮やかな季節の野菜が食卓に並び、食するのは、楽しく嬉しいことです。
 ささやかな農と食の喜びを日常生活で体験し、そのサイクルが持続できる喜びは、大げさですが、掛け替えのないものでもあります。

 そして、JAの直売所や近くのスーパーで青果物を買い求め、あるいは近くの農家が手塩をかけて栽培し収穫したばかりのいちごや巨峰を毎年直売所を訪れ、自家用や離れて暮らす家族に送る日常生活も、ある意味豊かさを感じるもの。
 それらの食材を使って、健康に配慮した調理をおこなっての日々の食生活、そして多種多様な飲食業が営み提供する料理。
 まさに文化そのものとしての持続する「農と食」が存在します。

都市農業の特徴と諸課題

 ここまでは、本文と関係ないことをつらつら書いてしまいました。
 本題に戻って、この章で提示された、ポイントと感じた事項を概括します。

農地の「2022年問題」とその背景

 都市農業が最後に配置された要因の一つが、「2022年」問題。
 その事情と背景を以下にメモしました。

・1968年制定「新都市計画法」:「市街地区域」「市街地調整区域」設定により、市街地区域内農地が「宅地化すべきもの」に
・宅地並み課税と高額な相続税問題から反対運動が起き、1974年「生産緑地法」、1975年「相続税納税猶予制度」、1982年「長期営農継続農地制度」が創設。都市農業としての展開が可能に
・「都市農業バッシング」が起きるなか、1991年「長期営農継続農地制度」廃止・生産緑地法改正(1992年施行)で、相続税や都市計画税の優遇措置不適用化。生産緑地は30年間の営農継続、相続税納税猶予制度は20年間から終身営農へと厳格化
・「農業を継続するか、宅地にするか」を迫られるなか、多くが営農継続を選択
・市街化区域内農地:1992年4万5739ha ⇒ 2018年2万2877ha に減少。宅地化農地は3分の1に減少
・1992年生産緑地8割が指定を受け30年後2022年に営農義務が外れ、多くの農地が売却され宅地化が進む可能性がある「2022年問題」を迎える都市農業の危機・転機に。

再評価される都市農業

 こうした都市農業に対する圧力の時期を経て、低成長期に入ると「環境保全」「食の安全」「ライフスタイルの見直し」などを背景に、都市農業が再評価される時代に移行し、2010年代により顕著になってきたとも。
 2011年の東日本大震災で顕在化した都市の「脆弱性」、高齢化・人口減少社会の進行による都市の「縮退」、持続可能な社会への期待と高まりも大きく影響しているとします。
 しかし、本当に都市が縮退しているかどうか、代わって地方が見直されたかどうかは疑わしく、いささか我田引水的と思います。
 が、長引くコロナ禍の影響は、従来の範疇では捉えにくい、多様な影響を多面的に及ぼしており、一概に、結論づけることは適切ではないと考えています。

 いずれにしても、都市農業に対する基本認識は、好転しているとみて良さそうと思います。
 1999年食料・農業・農村基本法、2015年都市農業振興基本法という法制化の流れがそれに沿うものといえるでしょう。
 後者において、農地を都市に必要な土地利用と位置づけ、都市農業が農産物の供給と多様な機能を供給する役割を担うこと、農業的土地利用と都市的土地利用の共存が都市住民の豊かな生活を支えることなど「都市計画法の理念の転換を内包」している、といいます。

 そうした流れの一端を受けて

都市農地が急速に減少する中、法制度をうまく活用しながら都市農業の担い手を育てることが急務。
ひとつは、後継者や独立就農者など「農業」の担い手を育てること、もうひとつは農家ではない多様な「農」の担い手、「耕す市民」を育てること。

としています。
 しかし、そうした課題は、都市だけに望まれることではなく、地方・地域も同様と思うのですが。

地産地消と市民参加を特徴とする都市農業

一般的に農業の多面的機能とは
・農産物の供給、国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、良好な景観の形成
とされるのに対して、都市農業の「多面的機能」に、その5つに
・防災、農作業体験・学習・交流の場の提供、農業に対する理解の醸成など
を加えたものとしています。
 これも同様、都市農業だけに適用されることではないと思います。

 別の観点からは、地産地消と市民参加が特徴、ともあります。
 前者については、都市近郊の農業・農産物だけで、都市住民の食卓を満たすことは不可能であり、都市農業の産出額を考えると、ほとんど地消に回るということとでしょう。
 後者に関しては、非農業人口の圧倒的多さを考えれば、高い関心が示されるのも当然のことと思います。


都市生活者による主な耕作方式

 その参加型の農業としての、耕す都市生活者の参画方式として、以下を挙げています。

1)農業体験農園:農家が農業経営の一環とし、道具、種・苗、肥料などを準備、指導する。
2)市民農園:小区画の貸付。開設主体は地方自治体、農協、農家、企業、NPOのなど多様。利用者が自由に栽培できる。
3)援農ボランティア:農業をサポートしたい市民が農家のもとで一緒に農作業を行う。主に行政や農協が主導。
4)農業体験:種まきや収穫など単発のイベントで開催。実施主体は地方自治体、農協、NPO、農家など。

 それらの実際の活動・展開事例が、先述の構成に見るように、この章で紹介され、説明されていますが、例により省略させて頂きます。
 ご関心をお持ちでしたら、ぜひ本書で確認頂ければと思います。

『日本の食と農の未来 「持続可能な食卓」を考える』全体構成

第1章 日本の食と農のいま
1.食の海外依存というリスク
・広がる食と農の距離
・食と農のグローバル化
・脆弱化する農業構造
・すぐそこに迫る食料危機
・コロナ禍の教訓
・外国人労働者の移動規制
・気候変動が与える農業への影響
・私たちの食卓が抱える「二重の脆弱性」
2.食の海外依存が生み出す「犠牲」
・フードシステムの「工業化」と地球温暖化の促進
・「構造的暴力」への加担
・土壌の劣化
・食料の収奪
3.SDGs時代の食と農
・人類共通の目標としてのSDGs
・食と農がSDGsに大きく貢献

第2章 この時代に農業を仕事にするということ
1.変わる農業への「まなざし」
・「ネガティブ」に語られる農業
・農業に向けられる「ポジティブ」なまなざし
2.新しく農業を始める人たち
・農業の始め方
・非農家出身、農家出身の就農の形
・存在感を増す「雇用就農」と「新規参入」
・非農家出身の若い世代から期待される農業
3.独立就農したい若い世代の姿
・日本農業経営大学校を卒業後、有機農家へ:荒木健太郎さん
・地域おこし協力隊を経て、ぶどう農家へ:鈴木寛太さん
・「段階的」かつ「戦略的」な就農
・就農ルートの多様化
・地域おこし協力隊と就農の親和性
4.独立就農者の姿
・独立就農者の経営タイプ
・多層的に広がる独立就農サポート
・柔軟なサポートと受け皿づくりの重要性

第3章 持続可能な農業としての「有機農業」を地域に広げる
1.農業の近代化と有機農業の「誕生」
・近代農業への「対抗」としての有機農業
・生産者と消費者の「関係性」の創造
・「有機農業推進法」の成立という画期
・「自然共生型農業」としての有機農業
2.独立就農者から支持される有機農業
・ 有機農業から見える「希望」
・独立就農者が「選択」する有機農業
・有機農業を「選択」する理由
・有機農業というさらなる「障壁」
・有機農業への参入ルートの広がり
3.独立就農者がつくる有機農業の地域的広がり
・先駆者としての霜里農場
・研修生の受け入れと就農サポート
・有機農業と地域をつなぐローカル・フードシステム
・地域資源を活用した循環型の有機農業
・有機農業が地域を変える
4.農協による有機農業の組織的展開:茨城県石岡市八郷地区
・農協が設立した有機栽培部会
・若い独立就農者を育てる研修制度の開始
・独立就農を見据えた「実践的な研修」
・ 有機栽培部会の中心を担う独立就農者
5.有機農業を実践する独立就農者が育つ
・独立就農者が定着できる「仕組みづくり」
・独立就農者の広がりが 独立就農者を呼び込む

第4章 食と農のつなぎ方
1.生産者と消費者がつくるオルタナティブ・フードシステム
・市場流通と市場外流通
・都市化と産業化の中で生まれた「オルタナティブ・フードシステム 」
・多彩に広がるオルタナティブ・フードシステム
・IT化とSNSの発展
・生産者とつながり、食材にこだわる飲食店
・自給農業と贈与のネットワーク
2.ローカルな食と農
・ローカル・フードシステムの広がり
・農産物直売所の多彩な工夫
・生産者と消費者が交流できるファーマーズマーケット
・有機農業と地域をつなぐ
・「オアシス21オーガニックファーマーズ朝市村」:愛知県名古屋市
・未来世代を育てる学校給食
・行政と農協が広げる学校給食の地産地消:東京都小平市
・地域のつながりがつくる「6次産業化」
・伝統的な食文化を継承する「株式会社小川の庄」:長野県上水内郡小川村
3.ローカル・フードシステムがつくる持続可能な地域
・ 生産者と消費者の暮らしを守り、育む
・環境・経済・社会の循環をつくり、地域を再生する
・コロナ禍で私たちの食卓は変わるのか

第5章 食と農をつなぐCSAの可能性
1. CSAは食と農をつなぐ切り札になるか

・世界的に広がるCSA
・CSAの「コミュニティ」は何を指すのか
・「食べる通信」がつくる CSAの形
・「関係人口」を育てる
・ 「鳴子の米プロジェクト」がつくるCSAの形
・消費者から「食の当事者」へ
・「コミュニケーションが支える農業」としてのCSA
2.有機の里づくり:埼玉県小川町下里一区
・農業の戦後史
・有機農業への転換を促した「地域の6次産業化」ネットワーク
・集落ぐるみの有機農業
・有機農業を軸にした地域づくり
3.企業版CSA「こめまめプロジェクト」
・NPO法法人生活工房つばさ・游の概要
・こめまめプロジェクトの開始
・買い支えの仕組みづくり
・交流の仕組みづくり
・「こめまめプロジェクト」がつくるCSA
4.食と農をつなぐコーディネーターの役割
・コーディネーターの条件
・持続可能な社会に向けて、みんなでつくる CSA

第6章 都市を耕す
1.都市農家の新たなステージ

・「肥大化」する都市
・減少する農地と「2022年問題」
・再評価される都市農業
・「地産地消」と「市民参加」を軸にした農のあるまちづくり
2.「耕す市民」を育てる
・耕す市民という「選択肢」
・農業体験農園と市民農園
・生協と組合員がつくる農園
・神奈川県横浜市泉区・「生活クラブ・みんなの農園」
・都市農業の発展を担う「援農ボランティア」
・援農ボランティアという「経営パートナー」
・神奈川県横浜市都筑区・「都筑農業ボランティアの会」
・耕すことで変わる食と農へのまなざし
3.コロナ禍で見直される「農」の力
・耕し続けた人たち、耕し始めた人たち
・なぜ、耕す市民は増えたのか
・やぼ耕作団が実践した耕す市民
・「自給」と「つながり」を大切にする「住み続けられる都市」へ


『日本の食と農の未来 「持続可能な食卓」を考える』から

 初めは、「持続可能な食卓」を瞬間的に、具体的にイメージすることは簡単ではなかったのですが。
 先述のイメージ化を繰り返すうち、あまり本書にこだわることなく、受け止めうるようになってきました。

過疎化・人口減少問題とつながる地方再生や環境保護・観光事業とつながる農業テーマ書も

 有機農業やCSA(Community Supported Agriculture)などの実践事例が数多く紹介されていますが、それらを記事中で具体的に紹介することは行いませんでした。
 食と農に関する問題認識とおおまかな動静等を理解把握することを目的としていたからです。
 こうした具体的な事例は、細かく取り上げればキリがありません。
 また同類の、あるいは別の視点からの農業への取り組み事例は、過疎化や人口減少問題と絡む地方再生・創生、自然環境保全問題と農業との結びつき、地方の農業と観光との結びつきなどをテーマとした書も参考になると思います。
 過去数年に入手した関連新書の一部を画像で紹介しました。
 一番のオススメは、やはり、ベストセラーになった、藻谷啓介氏・NHK広島取材班著『里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く』(2013/7/10刊)です。

 そして、ほんのりとした本書と、昨年12月に読み終え、当サイトで先行してシリーズ化した、少し過激な?書、鈴木宣弘氏著『農業消滅 農政の失敗が招く国家存亡の危機』 (2021/7/15刊・平凡社新書) とをセットで読み、考える機会を持ったことが良かったと感じています。

 そのシリーズは、以下で紹介しました。
鈴木宣弘氏著『農業消滅』から:2021年発刊新書考察シリーズ振り返り-5(2021/12/31)

 その4回の記事も以下にリンクしてあります。

第1回:現在食料自給率38%、2035年の衝撃的予測と必要対策 :鈴木宣弘氏著『農業消滅』から-1(2021/12/11)
第2回:亡国危機をもたらす農業の「種の起源」喪失:鈴木宣弘氏著『農業消滅』から-2(2021/12/26)
第3回:食料自給率、食の安全から守るべき農家・農業・農産物・農協:鈴木宣弘氏著『農業消滅』から-3(2021/12/28)
第4回: 「食料・農業・農村基本計画」「みどりの食料システム戦略」に農業政策転換の兆し:鈴木宣弘氏著『農業消滅』から-4 (2021/12/28)

 この他、過去数年にわたり、農業関連の新書等を入手し、別のブログで取り上げたものや、取り上げようと思いつつ、その機会を失しているものも何冊かあります。
 それらの多くは、この国の農業を非常にポジティブに捉えており、心強く感じる書です。

筆者あとがきより

最後に、以下のあとがきを添えて、本シリーズを終えることにします。

本書では、食と農を「つながりの再構築」という観点から多面的に捉え直し、持続可能な食卓の姿について考えてきました。
その中で重視した点が、実感を伴った自給、すなわち「等身大の自給」です。
「私だけが国産を選択しても自給率は上がらない」と考えるのではなく、日々の暮らしの中で、食卓の自由を考えると実感がわくと思います。
「食べもの」の自給を積み上げることが地域の自給に広がり、その結果が国レベルでの「食料」の自給につながっていくのではないでしょうか。
食料自給率の向上は、結果でしかなく、日々の食卓を豊かにしていくことが大切なのです。
こうした手の届く範囲の自給は、とりもなおさず、都市から農村まで広がる日本農業の多様性を支えることになります。
つまり、本書で使用する再構築という言葉には、食と農のつながりを「ローカルに埋め戻す」という意味合いを強く込めています。
(略)
もうひとつ、「生産者」「消費者」という言葉、そしてその関係性を「解きほぐす」という意味合いも再構築という言葉に込めています。
生産者はつくるひと、消費者は食べる人という自明ともいえるこの認識について、改めて考え直してみたいというのも本書の狙いでした。


 そうでしょうが、しかし、です。
 個々の積み上げが全体の再構築につながる、と考えるのは、限られた地域内でのローカル・フードシステムを課題とするものならば可能でしょう。
 しかし、国というレベルでのローカル・フードシステムの構築となると、そうはいきません。
 日本の食と農をめぐる諸問題は、単一の地域限定の課題に収まるものではなく、多重・多層・多様に関係しておおり、国家レベルでの農政のビジョン化・計画化・マネジメントが不可欠です。
 また、グローバル・フードシステムをどうするか、どうそれに関わるかも考える必要があります。
 下から上への行動も重要ですが、全体を統合・融合する政策と機能化する組織構築も欠かせません。
 その調整のためのコミュニケーションは、生産者と消費者に二元的な関係性のみで完結するものでも決してありません。
 小口氏の心温まる、善意の人の諸提案も大切なことは言うまでもありません。
 しかし、やはり、先にシリーズとして取り上げた、鈴木宣弘氏著『農業消滅』にあるように、とても善意に基づくものとは思えない「今だけ、カネだけ、自分だけ」の行動基準に基づく食と農への取り組みをなす者もいることを想定しての取り組みも欠かせないのです。

 これはいつに農と食をめぐる課題にとどまらない、すべての社会的経済的課題において共通の課題といえます。
 そのことを再確認させてくれる書でもあったことを敢えて付け加えておくことにしました。

2050年の望ましい日本社会創造における、最もベーシックで重要な食料と農業に関する政策の実行・実現へ


 今回の年末年始と続けた2冊の新書紹介シリーズは以上で終わりますが、これからも、その都度、その折々の関連スポット情報も用いながら、農業と食料をテーマとして検討・考察を続け、投稿していきたいと考えています。
 その目的・目標は、やはり何度も申し上げてきているように、当サイトで提起している2050年の望ましい日本社会創造のための<国土・資源政策2050年ビジョン>における、以下の<3.食料、農・畜産・水産業安全保障安全保障・維持開発管理>にある「個別重点政策」をより深堀りし、具体化し、その実現・実行に結びつけることにあります。
 ご意見、ご助言を頂ければ幸いです。

Ⅰ 国土・資源政策2050年ビジョン
3.食料、農・畜産・水産業安全保障・維持開発管理 (2021/12/28、2022/1/13、一部修正)

基本方針)
 さまざまなリスクに対応できる食料自給自足国家とその持続可能な社会システムを2050年までに構築し、その基盤の下にグローバル社会に貢献できる食料のサプライチェーンモデル、フードシステム・モデルを構築する。
(個別重点政策)
3-1 食料自給自足国家社会の拡充:農地実態調査、未耕作地集約、自治体別強化農産品目決定
1)食料品種別自給率調査及び長期自給率目標策定 (~2025年)
2)農地生産地実態調査、未耕作地等未利用地実態調査 (~2025年)
3)目標自給率実現品種・生産地域計画立案 (~2030年) 、都道府県別農産政策立案 (~2030年)、
  取り組み進捗・評価管理、食料品危機管理システム整備構築(2031年~)
  ※最重点品目:小麦
4)農家・農村・農業従事者・農業法人、地域農業等保護・育成・開発計画策定、運用管理(~2030年)
3-2 農・畜産・水産業の長期総合政策策定と持続的取り組み
1)畜産部門自給自足長期計画、振興支援計画策定、都道府県別計画、危機管理システム策定 (~2030年) 、各進捗・評価管理
2)水産部門、遠洋・近海漁業保全計画策定、養殖分野長期計画、危機管理システム策定 (~2030年)
3)食の安全性確保・持続性総合管理政策策定と運用管理(5年サイクルでの取り組み)
 ※種苗法・種子法等改定、遺伝子組み換え・ゲノム編集・農薬等問題
4)ローカル&グローバル・フードシステム、グローバルサプライチェーン長期方針及び計画立案 (~2030年)
3-3 食品・飲料製造産業の水平・垂直統合
1)食品・飲料製造産業原材料調達・内外依存度等実態調査及び長期方針 (~2030年)
2)基礎食品・飲料指定化と自給自足可能度評価、対策立案 (~2030年)
3)都道府県別受給可能度調査及び緊急時国内サプライチェーン構築計画 (~2030年)
4)グローバルサプライチェーン長期方針及び計画立案(~2030年)

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