
グローバル・フードシステムを見直すべき時代:『日本の食と農の未来』から考える-1
2022年1月9日投稿故事
◆ 小口広太氏著「『日本の食と農の未来』から考える」シリーズ、始めます
を受けてのシリーズ、第1回です。
『日本の食と農の未来』から考える」シリーズ-1
<第1章 日本の食と農のいま>から
第1章 日本の食と農のいま
1.食の海外依存というリスク
・広がる食と農の距離
・食と農のグローバル化
・脆弱化する農業構造
・すぐそこに迫る食料危機
・コロナ禍の教訓
・外国人労働者の移動規制
・気候変動が与える農業への影響
・私たちの食卓が抱える「二重の脆弱性」
2.食の海外依存が生み出す「犠牲」
・フードシステムの「工業化」と地球温暖化の促進
・「構造的暴力」への加担
・土壌の劣化
・食料の収奪
3.SDGs時代の食と農
・人類共通の目標としてのSDGs
・食と農がSDGsに大きく貢献
上記の構成からなる第1章では、筆者は
日本の食と農を取りまく現状と課題について、マクロな視点で整理。
食と農の距離の拡大、中でも食料自給率の低下やグローバル化がもたらすリスクや、食と農のつながりを再構築すべき課題の背景・意義について考える、としています。
その内容を私なりに、以下のように整理・概括し、理解することにします。

食料自給率と農業就業者構造にみる、脆弱化する日本農業
国民の生活の安心・安全を維持・構成する最も重要な条件の一つが、食料であることは明らかです。
豊かな生活の実現のための経済成長というスローガンのもとに突き進んできた社会は、産業構造と雇用構造が一体化し、グローバル化と相まって、農業の経済産業に占める位置と規模の縮小を、当然の如く強いてきました。
その結果が、食料の自給率の低下と農業人口の減少、農業従事者の高齢化として象徴的に繋がり、問題の顕在化、認識化が拡大しても、あるべき転換・改革への道筋が描かれ、歩みを進める段階には至っていないのが現実です。
この章の冒頭、食料の自給率について記述されている中から一部抜粋します。
・1960年度カロリーベースでの食料自給率79%が、1998年度以降40以下を推移し、2019年度には38%まで低下
・うち穀物自給率は、2019年度28%という低率
・家畜用輸入飼料を組み入れると、肉類の自給率は、牛肉9%、豚肉6%、鶏肉8%
・日本の穀物の自給率は、172国・地域中125番目、OECD加盟37カ国中32番目
私が最も懸念しているのが、2019年の小麦16%、大豆6%という自給率です。
米こそ97%を維持していますが、その米の消費量は低下を続けており、小麦を原材料とする食料・食品はパン・麺類など多様化し、増えているのですが、その生産量は増加傾向をみていません。
長く米の減反政策を続け、農家への個別補償を行ってきた理由・背景について理解はしますし、もちろん天候・地質地味などの要素はあるでしょう。
しかし、何もしないことへの補償ではなく、低自給率で多大なニーズがある小麦・大豆等の穀物への転作を奨励・支援するためのする補助金を支給すべきだった、また必要な品種改良の支援もあるべきと長く考えてきました。
一方、農業就労人口の減少と高齢化は、雇用社会化がもたらした必然でもありますが、そこには食と農の安全保障、国民の生活を守るための農業政策が極めて脆弱であったことがもたらす必然でもあったわけです。
その内的要因の一つが、小規模農家が大勢を占めていたことにありますが、休耕地問題を含めて、総合的・戦略的取り組みが欠落し、その問題を放置し続けてきた農政の脆弱性に、最大の要因があると思っています。
行政の問題なのですが、基本は政治であり、政党であり、政治家・国政リーダーの問題に帰結します。
農業就労者と高齢化の数字については、省略させて頂きます。
想定すべき気候・環境危機等がもたらす食料危機
地球温暖化がもたらす気候・地殻変動と農業・食糧生産への負の影響については、恒常化する異常気象と大規模自然災害被災で既に顕在化・可視化されています。
そしてコロナ禍等パンデミックによる人と物の動きの停止による食と農、そして生活自体の危機。
グローバル経済社会のプラス面が、そのまま裏返しになってマイナス要因にいとも簡単になってしまうリスクを目の当たりにしています。
そして地政学的な政治の不安定とそれがもたらす同様の危機もそこに加わります。
食料不足は、グローバル社会の格差がもたらすだけでなく、こうした気候・環境問題とも直接繋がり、今どこかにある問題であり、いつどこにでも起こりうる問題でもあります。
農業適地の消失や土壌の劣化もその課題の一つひとつ。
同時に、格差社会は、食料の偏在、飢餓と対極的なムダと食品廃棄問題を持続させています。
そうした視点からの農業・農政への取り組みが、日本では、日本の政治でどこまで共通認識化され、長期的な計画が共有され、持続的な取り組みが行われようとしているか。
少々私の思い入れに傾いた記述になってきたので、本書の本題に戻しましょう。
食の海外依存についての問題認識・問題提起について、整理してみました。

食の海外依存問題
食の海外依存が、国内外で多くの犠牲を生み出しているという基本認識をベースにした第1章でもあります。
気候変動と食・農との関係も当然そのからみでの問題で、すべてが繋がっているわけです。
貿易戦争、貿易自由化に伴う経済重視、農政後退による食料自給率の低下
この章でも、初めに食料自給率の低下の要因として、貿易自由化の影響を挙げています。
この視点については、先にシリーズ化して考察した、鈴木宣弘著「 『農業消滅』から考える」で、<今だけ、カネだけ、自分だけ>の効率至上主義、一部企業利権主義による食と農の安全保障の欠落として取り上げました。
ここではそれらの記事で確認頂ければと思います。
⇒ 鈴木宣弘氏著『農業消滅』から:2021年発刊新書考察シリーズ振り返り-5(2021/12/31)
フードシステム及びグローバル・フードシステムという視点
この章で最も重視すべきは「フードシステム」をテーマとしての記述でしょう。
グローバル・フードシステムでは、生産性や効率性が重視され、食料も工業製品と同様な商品として扱われ、モノカルチャー(単一品目への依存)で農業や化学肥料の多投入、大型機械による「工業型農業」が拡大し、農業経営の「大規模化」「企業化」が進展する。
すなわち、森林伐採による農地への転用・農薬や化学肥料の製造・機械化と施設化・家畜排泄物管理・土壌劣化等と一体化した食料生産、食品製造から加工、流通、貯蔵、消費に至るすべての段階を指す「フードシステム」が温暖効果ガスを発生させ、気候変動を引き起こすというわけです。
従い、グローバル・フードシステムを前提とすることは、自ずと食と農を海外依存とからめて論じることになりますし、食料自給率が低い日本も例外なく、そこに組み込まれているわけです。
またグローバル・フードシステム視点では、斎藤幸平氏のベストセラー『人新世の「資本論」』(2020/9/17刊・集英社新書) で問題提起されている「グローバル・サウス」問題があります。
開発途上国における環境破壊強制・促進、低賃金労働と貧困格差拡大と一体化された食料収奪、住民の栄養不足・健康問題・飢餓問題などの連鎖が常態化しているわけです。
(参考)
⇒ 斎藤幸平氏著『人新世の「資本論」』紹介・考察シリーズ記事案内(2021/11/24)

フードマイレージという視点
フードシステムの課題の一つに、「フードマイレージ」というのがあることを知りました。
食料の輸入が地球環境に与える負荷を把握する指標で、輸送量に輸送距離をかけ合わせた、t・kmトン・キロメートルという単位で表すそうです。
ということは、食料の多くを輸入に依存している日本は、問題国ということ。
この点からも、食料自給率を上げていくことも必然的な制作・戦略とすべき、ということになります。
この他、食品廃棄・食品ロスによる焼却・埋立て・廃棄処分も温暖効果ガス排出に直接異なる形で結びついています。
SDGsをめぐる食と農問題への取り組み
本章の最後は、SDGs(Sustainable Development Goals 持続可能な開発目標)と食と農問題を結びつけて簡単に論じています。
SDGs視点で論じるには、あまりにも焦点とする17にも及ぶ大きくて多い課題であるため、当然、その記述も簡単にすませています。
私自身は、初めはSDGsについて真面目に?考えて記事シリーズ化すべきと思った時期・瞬間もありました。
しかし、ESGと同様、それらを進めるには、一層の投資を必要とし、一部の強欲資本主義者・投資家の投資意欲をも過剰化・加速化させ、一層の格差拡大や環境問題拡大を引き起こすであろうと考えています。
では、どうすべきか。
言うのは簡単ですが、急がず、遅れず、適切なスピードで、適切な規模で、適切な範囲で、を積み上げ、積み重ねていく方法を考え、形成し、創り上げていくべきと。

日本におけるローカル・フードシステムとグローバル・フードシステムを考える
グローバル・フードシステムも、元々は、一国一地域のフードシステムを起点・原点として考えるべきでしょう。
すなわち、日本ならば、日本という一つのローカルな国・地域としてのフードシステムの創造・構築を初めの課題とすべきと考えます。
そこでは当然、食と農の安心・安全性を保持・維持し、自給率を高め、農林水産の産業としての新たな社会経済システムを構築することが目標・目的となります。
但し、先述したように小規模・零細農業は、品種ごとに、一定基準以上の規模に高め、集約する必要があります。
従い、農業法人化を進めることで、農と食の分野での新たな雇用創出し、就農者・食品産業就労者の全世代展開を実現することになります。
無論そこでは、先述した鈴木宣弘氏著シリーズにおける食の安全問題、種の保障問題などの克服も含み、この後本書で展開される「有機農業」の拡大や、ローカル・フードシステムの一つであるCSA(Community Supported Agriculture)も検討・考察・実現する課題が含まれることになります。
そしてこうした日本におけるローカル・フードシステムへの取り組みモデルを、グローバル・フードシステムに移管し、貢献できることが自然にSDGsの取り組みと重なり合うことになると考えています。

次回は、 <第2章 この時代に農業を仕事にするということ>と< 第3章 持続可能な農業としての「有機農業」を地域に広げる >を取り上げます。
『日本の食と農の未来 「持続可能な食卓」を考える』構成
第1章 日本の食と農のいま
1.食の海外依存というリスク
・広がる食と農の距離
・食と農のグローバル化
・脆弱化する農業構造
・すぐそこに迫る食料危機
・コロナ禍の教訓
・外国人労働者の移動規制
・気候変動が与える農業への影響
・私たちの食卓が抱える「二重の脆弱性」
2.食の海外依存が生み出す「犠牲」
・フードシステムの「工業化」と地球温暖化の促進
・「構造的暴力」への加担
・土壌の劣化
・食料の収奪
3.SDGs時代の食と農
・人類共通の目標としてのSDGs
・食と農がSDGsに大きく貢献
第2章 この時代に農業を仕事にするということ
1.変わる農業への「まなざし」
・「ネガティブ」に語られる農業
・農業に向けられる「ポジティブ」なまなざし
2.新しく農業を始める人たち
・農業の始め方
・非農家出身、農家出身の就農の形
・存在感を増す「雇用就農」と「新規参入」
・非農家出身の若い世代から期待される農業
3.独立就農したい若い世代の姿
・日本農業経営大学校を卒業後、有機農家へ:荒木健太郎さん
・地域おこし協力隊を経て、ぶどう農家へ:鈴木寛太さん
・「段階的」かつ「戦略的」な就農
・就農ルートの多様化
・地域おこし協力隊と就農の親和性
4.独立就農者の姿
・独立就農者の経営タイプ
・多層的に広がる独立就農サポート
・柔軟なサポートと受け皿づくりの重要性
第3章 持続可能な農業としての「有機農業」を地域に広げる
1.農業の近代化と有機農業の「誕生」
・近代農業への「対抗」としての有機農業
・生産者と消費者の「関係性」の創造
・「有機農業推進法」の成立という画期
・「自然共生型農業」としての有機農業
2.独立就農者から支持される有機農業
・ 有機農業から見える「希望」
・独立就農者が「選択」する有機農業
・有機農業を「選択」する理由
・有機農業というさらなる「障壁」
・有機農業への参入ルートの広がり
3.独立就農者がつくる有機農業の地域的広がり
・先駆者としての霜里農場
・研修生の受け入れと就農サポート
・有機農業と地域をつなぐローカル・フードシステム
・地域資源を活用した循環型の有機農業
・有機農業が地域を変える
4.農協による有機農業の組織的展開:茨城県石岡市八郷地区
・農協が設立した有機栽培部会
・若い独立就農者を育てる研修制度の開始
・独立就農を見据えた「実践的な研修」
・ 有機栽培部会の中心を担う独立就農者
5.有機農業を実践する独立就農者が育つ
・独立就農者が定着できる「仕組みづくり」
・独立就農者の広がりが 独立就農者を呼び込む
第4章 食と農のつなぎ方
1.生産者と消費者がつくるオルタナティブ・フードシステム
・市場流通と市場外流通
・都市化と産業化の中で生まれた「オルタナティブ・フードシステム 」
・多彩に広がるオルタナティブ・フードシステム
・IT化とSNSの発展
・生産者とつながり、食材にこだわる飲食店
・自給農業と贈与のネットワーク
2.ローカルな食と農
・ローカル・フードシステムの広がり
・農産物直売所の多彩な工夫
・生産者と消費者が交流できるファーマーズマーケット
・有機農業と地域をつなぐ
・「オアシス21オーガニックファーマーズ朝市村」:愛知県名古屋市
・未来世代を育てる学校給食
・行政と農協が広げる学校給食の地産地消:東京都小平市
・地域のつながりがつくる「6次産業化」
・伝統的な食文化を継承する「株式会社小川の庄」:長野県上水内郡小川村
3.ローカル・フードシステムがつくる持続可能な地域
・ 生産者と消費者の暮らしを守り、育む
・環境・経済・社会の循環をつくり、地域を再生する
・コロナ禍で私たちの食卓は変わるのか
第5章 食と農をつなぐCSAの可能性
1. CSAは食と農をつなぐ切り札になるか
・世界的に広がるCSA
・CSAの「コミュニティ」は何を指すのか
・「食べる通信」がつくる CSAの形
・「関係人口」を育てる
・ 「鳴子の米プロジェクト」がつくるCSAの形
・消費者から「食の当事者」へ
・「コミュニケーションが支える農業」としてのCSA
2.有機の里づくり:埼玉県小川町下里一区
・農業の戦後史
・有機農業への転換を促した「地域の6次産業化」ネットワーク
・集落ぐるみの有機農業
・有機農業を軸にした地域づくり
3.企業版CSA「こめまめプロジェクト」
・NPO法法人生活工房つばさ・游の概要
・こめまめプロジェクトの開始
・買い支えの仕組みづくり
・交流の仕組みづくり
・「こめまめプロジェクト」がつくるCSA
4.食と農をつなぐコーディネーターの役割
・コーディネーターの条件
・持続可能な社会に向けて、みんなでつくる CSA
第6章 都市を耕す
1.都市農家の新たなステージ
・「肥大化」する都市
・減少する農地と「2022年問題」
・再評価される都市農業
・「地産地消」と「市民参加」を軸にした農のあるまちづくり
2.「耕す市民」を育てる
・耕す市民という「選択肢」
・農業体験農園と市民農園
・生協と組合員がつくる農園
・神奈川県横浜市泉区・「生活クラブ・みんなの農園」
・都市農業の発展を担う「援農ボランティア」
・援農ボランティアという「経営パートナー」
・神奈川県横浜市都筑区・「都筑農業ボランティアの会」
・耕すことで変わる食と農へのまなざし
3.コロナ禍で見直される「農」の力
・耕し続けた人たち、耕し始めた人たち
・なぜ、耕す市民は増えたのか
・やぼ耕作団が実践した耕す市民
・「自給」と「つながり」を大切にする「住み続けられる都市」へ
(参考)
3.食料、農・畜産・水産業安全保障・維持開発管理 (2021/12/28、2022/1/13、一部修正)
(基本方針)
さまざまなリスクに対応できる食料自給自足国家とその持続可能な社会システムを2050年までに構築し、その基盤の下にグローバル社会に貢献できる食料のサプライチェーンモデル、フードシステム・モデルを構築する。
(個別重点政策)
3-1 食料自給自足国家社会の拡充:農地実態調査、未耕作地集約、自治体別強化農産品目決定
1)食料品種別自給率調査及び長期自給率目標策定 (~2025年)
2)農地生産地実態調査、未耕作地等未利用地実態調査 (~2025年)
3)目標自給率実現品種・生産地域計画立案 (~2030年) 、都道府県別農産政策立案 (~2030年)、
取り組み進捗・評価管理、食料品危機管理システム整備構築(2031年~)
※最重点品目:小麦
4)農家・農村・農業従事者・農業法人、地域農業等保護・育成・開発計画策定、運用管理(~2030年)
3-2 農・畜産・水産業の長期総合政策策定と持続的取り組み
1)畜産部門自給自足長期計画、振興支援計画策定、都道府県別計画、危機管理システム策定 (~2030年) 、各進捗・評価管理
2)水産部門、遠洋・近海漁業保全計画策定、養殖分野長期計画、危機管理システム策定 (~2030年)
3)食の安全性確保・持続性総合管理政策策定と運用管理(5年サイクルでの取り組み)
※種苗法・種子法等改定、遺伝子組み換え・ゲノム編集・農薬等問題
4)ローカル&グローバル・フードシステム、グローバルサプライチェーン長期方針及び計画立案 (~2030年)
3-3 食品・飲料製造産業の水平・垂直統合
1)食品・飲料製造産業原材料調達・内外依存度等実態調査及び長期方針 (~2030年)
2)基礎食品・飲料指定化と自給自足可能度評価、対策立案 (~2030年)
3)都道府県別受給可能度調査及び緊急時国内サプライチェーン構築計画 (~2030年)
4)グローバルサプライチェーン長期方針及び計画立案(~2030年)
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