国土保全、カーボンニュートラル対策等多機能に不可欠な林業復興:2050年国土・資源政策と森林・林業基本計画

自然環境政策

人工林および造林未済地の現状

 日本の山林・森林において、伐採後の造林が進んでいない「造林未済地」は2017年度、約1万1400haで3年前比で3割増であり、樹齢50歳超の森林は500万ha超で、人工林全体の半分以上を占めるといいます。
 近年目立って増えている集中豪雨が引き起こす地すべり、土砂崩れによる被害は、こうした放置林など山林の荒廃と地盤の脆弱化に起因することが大半です。
 人工林の多くは第2次世界大戦後1950年代から、国土復興を目的にスギ、ヒノキを中心に進められた植林によるものですが、50~70年を経た近年は整備が行き届かず、新規の植林にも手が回らない状況にあります。

樹齢50~70年超で急速にCO2吸収量が落ちるスギ、ヒノキ

 森林の放置は、実は防災面だけの問題ではありません。
 日本の森林が吸収するCO2は2014年度の5200万トンが直近のピークで、2019年度は約2割少ない4300万トンまで減少。
 これは樹齢40年を過ぎて成長が落ち着くと、CO2を取り込む量は頭打ちになることが原因とされています。
 昨年の2050年カーボンゼロ宣言に伴い、今年4月政府は、2030年度の温暖化ガスを2013年度比46%削減を目標化。  
 このうち森林によるCO2吸収量は目標の5%分にあたる年約3800万トンを想定。
 現状のペースで森林が樹齢を重ねていく、すなわち森林が老化すると、CO2吸収、脱炭素に支障をきたすことになり、その防止には、適度な伐採と木の植え替えが必要になるのです。

 実は、手入れされて一定の日照などを確保できる森林でなければCO2吸収源として国際的に認めないというのは、日本主導でまとめた京都議定書の考え方。
 しかし、国内の人工林約1000万haのうち、既に2割程度は吸収源に算入できないというのです。
 温暖化ガスの排出ゼロイコール100%再生可能エネルギー化とイメージするが、このように森林・林業も関係する重要課題というわけです。

必要なカーボンネガティブへの取り組み

 国土の約7割を占める森林が老化し、活かしきれていない日本。
 上記の状況は日本特有の事情としてではなく、グローバルレベルでの課題とされ、温暖化ガス排出と森林などによる吸収との差し引きでマイナスにまで落とす「カーボンネガティブ」を見据えた巨大企業に拠る植林投資の流れも引き起こしている。
 日本の状況は?
 ドリームインキュベータによる「森林資源のエコシステム」構想が挙げられる。
 林業の川上にあたる森林の所有者の段階で集約を実現しつつ、木材や住宅のメーカー、ゼネコンと安定供給の流れを確立し、国産材を使った建築物の価値を高め、川下の消費者の需要を呼び覚ますとともに森林の若返りをめざす。循環システムと言えよう。
 詳しくは、別の機会に見るとして、ここでは、林野庁による「森林・林業基本計画」の提案と重なるので、後者に着目したい。
 その前に、中国の動向を。


急速に進む中国の植林事業


 温暖化ガス排出を実質ゼロにする目標と絡めた森林の吸収量が、今後、EUは大きく増え、中国は2050年にかけてほとんど変わらず、日本は減少傾向の見通し。

 これは、中国が現状猛烈な勢いで植林を進めていることを示すものです。
 国連食糧農業機関(FAO)の「世界森林資源評価」では、中国の森林面積は2010年~2020年にかけ年平均193万7千ha拡大し、2位のオーストラリア(44万6千ha)を大きく引き離し、世界一。
 以前アマゾンの熱帯林の消失が問題となったブラジルの森林の年平均149万6千ha減少に比較し、中国の増加分が大きかったことに。
 国土の砂漠化に悩む中国は、2060年までにCO2排出量ゼロを実現すべく、「緑の長城」と呼ぶその計画も加速化。  
 2021年~2025年まで年3万6千平方km(360万ha)のペースで森林を造営するという。

事業・産業としての林業の厳しさ

 林業の再生は当然一朝一夕一で叶うものではない。
 防災や脱炭素といった自然環境と社会的課題に加え、ビジネスとしての困難さが厳然としてある。
 伐採や植林はそれ自体が数十年単位での息の長い取り組みを必要とし、それと直結する林業・建設業など関連産業・事業も影響を受ける。
 既に国内林業は安価な輸入木材に押されて産業競争力が低下して久しく、それらは建築・建設産業にも大きな変化をもたらしてきた。
 2020年のスギの立木価格(丸太の売り上げから経費を引いた金額)は、1980年頃の1割程度で1㎥2900円にとどまり、間違いなく林業は衰退産業であることを示している。
 加えて、伐採や再造林が進まない負の連鎖に陥っている。
 2020年の建築木材の総需要量に占める国産の割合は半分弱。
 山がちな地形は林道整備や搬出などのコストが掛かる。
 林地の集約を試みると境界線が不明なことや所有者が分からない等の問題も多い。
 これは、山林・森林に限らず、国土全体を通しての日本の課題でもあり、後述する<国土・資源政策>に関する重要な問題となっており、国家レベルでの長期的・抜本的な改善・解決・改革が求められる所以である。

森林・林業基本計画 国産木材2030年に35%増 脱炭素と直結


 政府は6月15日の閣議で森林・林業基本計画を決定しました。
 その根幹は、2030年の国産木材の供給量を19年実績比35%増の4200万㎥に増やすこと。
 伐採した跡地に再び苗木を植える再造林や建築物への木材活用拡大を通じて温暖化ガスの吸収量を増加。
 そして2050年のカーボンゼロ化につなげるというものです。

森林・林業基本計画とは

 では、その「森林・林業基本計画」とは具体的にどういうものか。
 林野庁のホームページから、要約した資料を転載し、確認したいと思います。
 細かい文字と絵等で構成されており、読みづらい、見づらいものですが、余分な説明をすると、ボリュームが増えて一層理解しにくくなると思われますので、内容・詳細はその資料で確認頂ければと思います。

1)「森林・林業基本計画」基本的方針

<森林・林業・木材産業による「グリーン成長」>
 森林を適正に管理して、 森林・林業・木材産業の持続性を高めながら成長発展させることで、2050カーボンニュートラルも見すえた豊かな社会経済を実現
(重点方針)
 1.森林資源の適正な管理・利用
 2.「新しい林業」に向けた取組の展開
 3.木材産業の国際+地場競争力の強化
 4.都市等における「第2の森林」づくり
 5.新たな山村価値の創造

2) 「森林・林業基本計画」 のポイント

1>森林の有する多面的機能の発揮に関する施策
2>林業の持続的かつ健全な発展に関する施策
3>林産物の供給及び利用の確保に関する施策
4>国有林野の管理及び経営に関する施策
5>その他横断的に推進すべき施策
 1)デジタル化の推進
 2)新型コロナウイルス感染症への対応
 3)東日本大震災からの復興・創生

3) 「森林・林業基本計画」 の施策-1:森林の有する多面的機能の発揮に関する施策

(1)適切な森林施業の確保
(2)面的なまとまりをもった森林管理
(3)再造林の推進
(4)野生鳥獣による被害への対策の推進
(5)適切な間伐等の推進
(6)路網整備の推進
(7)複層林化と天然生林の保全管理等の推進
(8)カーボンニュートラル実現への貢献
(9)国土の保全等の推進
(10)研究・技術開発及びその普及
(11)新たな山村価値の創造
(12)国民参加の森林づくり等の推進
(13)国際的な協調及び貢献

4) 「森林・林業基本計画」 の施策-2:林業の持続的かつ健全な発展に関する施策

(1)望ましい林業構造の確立
(2)担い手となる林業経営体の育成
(3)人材の育成・確保等
(4)林業従事者の労働環境の改善
(5)森林保険による損失の補塡
(6)特用林産物の生産振興

5) 「森林・林業基本計画」 の施策-3:林産物の供給及び利用の確保に関する施策

(1)原木の安定供給
(2)木材産業の競争力強化
(3)都市等における木材利用の促進
(4)生活関連分野等における木材利用の促進
(5)木質バイオマスの利用
(6)木材等の輸出促進
(7)消費者等の理解の醸成
(8)林産物の輸入に関する措置


6) 「森林・林業基本計画」 に掲げる目標

 
 ※図表のみとします。


 以上、林野庁のホームページからアクセスできた資料をそのまま転載しました。
 もちろん、丸呑みでそのすべてに賛成しているわけではなく、加えるべき課題、修正することが適切と思われる内容も多々あります。
 それらは、また別の機会に提起・提案していきたいと思います。
 次に、もう一つ、政府の動きのなかからの情報を取り上げます。

公共建築物等木材利用促進法改正法「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」の意義

⇒ 「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」


 前菅政権下での2050年温暖化ガス排出ゼロ宣言があった後、今月10月、脱炭素を狙った建築物に国産材を使いやすくする「木材利用促進法改正法」が施行されました。

 意外にも、建物や家具への木材の利用に「良い」印象を持つ率が日本では他の先進国に比べて低いという調査結果があるといいます。
 これは、低価格の輸入材の印象がもたらしている側面と、大手ハウスメーカーの長期にわたる洋風建築指向に主要因があるわけで、今回の改正法で、一般建築物での国産木材の利用を支援する方向が示されたことが、プラスに働くことを期待したいと思います。

 特に木造建築の良さの再確認に留まらず、自然環境の保護・保全、地球温暖化対策・カーボンゼロ対策、グリーントランスフォーメーションといった多様な意義・目的・機能を新たに認識することで、10年、20年、そしてそれ以上のスパンでの森林・林業への取り組みに対する理解が深まることが最も重要なことと考えます。
 
 本法についての記述は、以上でとどめます。

[国土・資源政策2050年長期ビジョン]と「森林・林業基本計画」及び本稿との関係

 当サイトの目的・方針である2050年の望ましい日本の社会の創造のために、今月10月「国土・資源政策」「社会政策」「経済政策」「国政政策」の4つの区分毎に2050年長期ビジョンを設定しました。
 その中の「国土・資源政策」で、以下の6項目の長期重点政治行政戦略課題を設定。

<2050年国土・資源政策長期重点政治行政戦略課題>
1.国土安全保障・維持総合管理
2.電力・エネルギー安全保障・維持開発管理
3.食料、農・畜産・水産業安全保障安全保障・維持開発管理
4.自然環境保全・持続可能性管理
5.社会的インフラ安全保障・整備維持管理
6.産業資源安全保障基盤・維持開発管理


 その1番目の政策課題として<国土安全保障・維持総合管理>を設定し、以下の基本方針と個別重点政策項目を設定しています。
 今回の記事は、主に、その(1-2)の事項に関する課題となるものです。

1.国土安全保障・維持総合管理
(基本方針)
 有限な土地及び国土自然環境資源の安全を保障し、国民の日常生活の安心・安全を維持・確保するための基本的な政策を円滑に進め、2050年までに、望ましい日本の持続可能な国土の在り方と維持管理システムを創造・構築する。
(個別重点政策)
1-1 国土総合管理、有限土地活用のための規制・利用システム整備確立
1)国土保有者及び利用状況現状調査及び分析(~2030年)
2)上記調査分析結果に基づく、土地利用総合及び都道府県別長期方針整備( ~2030年 )
3)同方針に基づく長期ビジョン、長期整備開発計画策定及び予算見積(~2035年)
4)上記長期計画及び予算に基づく実行・進捗・評価管理(1次~2040年、2次~2045年、3次~2050年)
1-2 国土安全防災・減災・復興長期計画・総合管理および林業復興計画・総合管理
1)危険地域等現状調査 (~2025年)
2)復興取組中地域現状調査及び再計画立案 (~2025年) 、予算策定、進捗・評価管理 (2031年~)
3)治水・山林等危険地域防災・減災対策立案及び予算策定 (~2030年) 、進捗・評価管理 (2031年~)
4)「森林・林業基本計画」等林業他関連産業・事業復興計画及び予算策定 (~2030年) 、進捗・評価管理 (2031年~)
1-3 外国資本による土地・建物不動産等取得禁止総合管理
1)海外資本及び外国人保有土地及び建物実態調査及び分析(~2025年)
2)海外資本及び外国人保有土地・建物対策検討、立案(含む予算化)(~2030年)
3)外国資本及び日本人以外の土地及び建物取得規制方針及び同法整備(~2030年)
4)上記法律施行(2)対策実行含む)(2031年~)

 幸い、今回取り上げた事項は、農林水産省管轄下の林野庁主導で策定された「森林・林業基本計画」をほぼそのまま活用できるものであることが確認できました。
 従い、重複を認識した上で再度課題を整理すると、「森林・林業基本計画」を活用・展開・拡充することを基本として、以下を提示できるかと思います。

1)国内産木材等産品利用補助金制度拡充、 木材利用促進法改正法等による内需喚起、木材自給率向上・目標達成、2050年以降21世紀中自給率目標策定
2)防災・減災対策・治水対策、環境保護・持続可能化対策としての山林保護・保全21世紀計画及び予算策定と実行・運営管理(国公有林・私有林別)
3)林業等多目的事業システム開発、林業・山間地産業サプライチェーンシステム開発等産業振興推進
4)地方自治体別山林・林業組織管理開発システム整備、林業従事者・事業者養成


 特に、全体方針は国主体で形成・策定されますが、実際の取組みは、都道府県・地方自治体が主体となって行うべきものであり、その予算も国家予算を自治体に配分する方式が、公平性の観点からも望ましいと考えます。
 この整理した事項も、再度検討・考察を加え、 「森林・林業基本計画」の修正・追加事項なども加え、<1.国土安全保障・維持総合管理>において、修正や一段詳細計画への落とし込みなどを引き続き行っていきます。

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