半導体、産業のコメから産業と社会経済生活の心臓へ:2050年半導体自給自足国家実現へ

経済・経営・労働政策

半導体不足が招く社会経済リスク

 半導体不足で、トヨタ、ホンダ他世界の自動車メーカーが相次いで、減産や製造停止を余儀なくされている。
過去、東北大震災時にもそのサプライチェーン問題が発生し、同様な状況になったが、コロナ禍においては世界的な傾向となっている。
 もちろん、半導体シェアーの上位を占める中国と欧米諸国との関係悪化が直接・間接に影響を与えているが、半導体工場の事故(例えばルネサスエレクトロニクスの工場火災)や自然災害による工場停止、世界的大手台湾のTSMC(台湾積体電路製造)における製造に必要な水不足による減産等、多様な要因をも形成している。
 要するに、いつどんな理由で半導体供給体制が崩れるか、その場合どうするか、常に対応方法を考え、備えておく必要があるということだ。

 当然だが、自動車産業だけが影響を受けているわけではない。
 通信、家電、産業機械その他、電気を使うあらゆる機器に使われており、素材や機械メーカーも半導体不足で増産が不可能になるなど、サプライチェーンが揺さぶられ、長期化している。
 トヨタが従来のジャストインタイム方式を改め、半導体在庫を一定程度保有する方針に切り替えた。

半導体サプライチェーンの大きさと複合性がリクスの大きさを拡大

 ところで、半導体工場で1枚のチップを製造するのに400~600の工程を必要とし、工場だけでなく素材、装置から受託生産まで世界的な分業で成り立っている。
 まさにサプライチェーンを形成しており、事故が起きれば、そのチェーンは分断される。
 ゆえに、直接半導体を生産するメーカーだけの問題ではない。

国策としての21世紀半導体サプライチェーン構築

 過去半導体製造でトップを瞬間走っていた日本が、みじめなくらいにその地位を喪失し、輸入に頼らざるを得なくなって久しい。
 今から復活を期すにしても、遅すぎると言われている。
 しかし、もうそうは言ってはおれない状況と考えるべきだろう。
 1980年代、日本の半導体メーカーは、世界で過半のシェアを持っていたが、今では10%を割り込む。
 韓国・台湾企業に技術・生産規模で追い抜かれ、政府は経産省主導のコンソーシアムや共同出資会社などの処方で再編などを目論んだが、結果は現状が示してている。
 こうした自前主義のシェア拡大での失敗の教訓から、同省は外資に頼りつつ、製造装置や部材など競争力のある関連企業を中心に日本の生き残り策を模索する。

 単純化が過ぎるとは思うが、まず用途別・産業業種別に、ニーズの成長曲線を想定して、今後21世紀前半中の半導体の国内需要をまずどの程度見積もることができるか試算が必要だ。
 その前提として、先ず現状の産業・事業と国民の生活全領域において、一定の分類に基づいて、半導体がどの程度用いられているのか、その調達がどのように行われた結果かを調査することが必要だ。
 そして、今後のDX社会における新たな半導体ニーズを予測し、先の分類に基づいての長期の国内需要予測まとめ上げる。
 その需要を満たすために、供給体制、サプライチェーン体制をどのように構築すべきか、国内におけるサプライチェーン分断リスク対策を考慮した、地域分散化戦略も当然そこに含むことになる。
 それは供給過剰体制が招く悲劇を回避するために不可欠な取り組みである。
 軸は、国内の需要を満たすに足りるサプライチェーンの整備・構築であり、それを超える受給対応は、グローバル・サプライチェーン上でのシステム課題と位置づけられる。
 それが直結するわけではないが、人口1億人レベルの日本の社会経済を想定しての取り組みとなるだろう。

 その役割を産業界だけに任せて済む話ではあるまい。
 国策として、産官学すべての叡智と相当の資金を注いで進めるべき戦略課題である。
 既に各国政府が事の重要性・重大性を認識し、相当の規模の予算化を進めつつある。
 また、先進国間での協力・協調体制も検討が進められている。

対中国意識の半導体競争におけるグローバル・サプライチェーン

 世界の先端半導体の生産は今、92%が台湾に集中する異常ぶりだ。
 米国、日本、ドイツなど、多くの先進国がその台湾TSMCの招聘・提携に雪崩を打って向かう現実がある。
 その異常な傾斜自体が大きなリスクではあるが。
 米国5.7兆円、欧州17兆円超、中国10兆円超と巨額の補助金で半導体産業を強化する動きを見せるが、日本は数千億円規模の基金での支援という構想、にとどまる。

 世界全体の投資額は2020年の前年比9%増に対して、2021年は31%増と一気に拡大。
 投資規模の大きい案件は米・台・韓に集中するが、案件数では中国が台湾と並び最多の8件。
 中国政府は2015年に半導体の7割を自給自足する計画を打ち出し、補助金や税制優遇を手厚くしてきており、世界の半導体生産能力の中国シェアは2030年に19%と2倍近くに引き上がる見通しという。

 これに対して、日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国で形成する枠組み「Quad(クアッド」で、科学技術を権威主義体制の維持に利用する中国モデルへの警鐘の含みを持たせつつ、半導体に関する安全なサプライチェーン(供給網)づくりを進める方針を掲げる。
 中国が人工知能(AI)などを駆使した監視システムを共産党による統治に使うこと、一部の途上国で同様の仕組みを採用する動きが広がることなどがその背景にあることは知られるところだ。

半導体価格変動リスクへの対応は、需要供給バランス対策

 そして世界的に供給不足に陥り半導体価格は2020年末から上昇しているなか、世界の半導体受託生産市場でシェアの過半を占める台湾積体電路製造(TSMC)がこの10年で最大の値上げを準備しているという。
 実際、基礎材料から半導体が基板に実装される前の最終工程のパッケージング、検査に輸送費用をも加え、半導体サプライチェーン(供給網)のほぼすべての段階で上昇しており、業界関係者とアナリストは、半導体需要の逼迫と価格の上昇は22年に向けて続くとみている。
 こうした価格上昇による影響を弱めるため、スマホメーカー各社は低・中級品よりも高級品の発売に向かうなど、最先端技術の開発競争が、半導体価格を長期的に高いまま維持する可能性もあるとされる。
 しかし、価格を決める最も重要な要素が「需要」であることは変わらないという。
 半導体工場は固定費負担が大きく、需要が鈍化すれば、操業率を維持するため値下げせざるを得ない苦しさがつきまとう。
 ゆえに、需要予測は非常に重要であり、長期的な予測も、常に短期・中期での修正をそのシステムの中に組み入れておくことが不可欠である。

ベーシック・ペンション実現との関係での半導体ニーズ

 例えばだが、当サイトでも推奨・提案している日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンション生活基礎年金の導入においての半導体ニーズについての簡単なイメージを。
 この給付は、特別の専用デジタル通貨で行うこととしており、そのシステムの運用管理は、ソフト、ハードを含め相当の半導体が必要となる。
 個人ごとに日銀に専用口座を開設するので、国民の数だけの口座数となり、そのデジタル通貨を利用する事業所への端末設置(配布または貸与)、口座管理なども必要で、相当のサーバーが必要となる。
 個人ごとに管理するために個人専用の端末を、マイナカードを時に用いて利用することから、いずれ全ての公的な手続きも行うことができる専用デバイスを全国民に配布することが望ましい。
 単純に考えれば、これだけでも、半導体ニーズは予測・試算が可能となるのです。

国土・資源政策 2050年長期ビジョン及び長期重点戦略課題]における「産業資源安全保障基盤・維持開発管理」政策に位置付ける


 半導体は用途が広がり、産業全体への貢献度が急拡大している。
 自動運転や分散型のエネルギー社会等の先端技術が絡む分野・視点に留まらず、教育や雇用等にも視野を広げ、半導体が産業及び国民の生活、すなわち社会経済システムの心臓部を占めているという認識で、総合的な安全保障システムを構築する時代にあるといえよう。

 そのため、当サイトが目指す2050年の望ましい日本の創造のための【総合2050年長期ビジョン】の4大区分の一つ として以下の[国土・資源政策 2050年長期ビジョン]において<2050年長期重点政治行政戦略課題> を設定。

<2050年長期重点政治行政戦略課題>
1.国土安全保障・維持総合管理
2.電力・エネルギー安全保障・維持開発管理
3.食料、農・畜産・水産業安全保障安全保障・維持開発管理
4.自然環境保全・持続可能性管理
5.社会的インフラ安全保障・整備維持管理
6.産業資源安全保障基盤・維持開発管理


 その6番目の項目 <産業資源安全保障基盤・維持開発管理>を以下のとおり設定し、その中の個別政策課題とした「半導体国内自給自足体制構築」が、本稿に当たるものです。

6.産業資源安全保障基盤・維持開発管理

(基本方針)
自然資源安全保障システムを整備確立する上で、関連する産業基盤、すなわち産業資源の一定レベル以上での自給自足を可能とする保全・開発を推進することが不可欠であり、必要な分野と品種・品目等に焦点を当て、2050年までにその目標とするレベルとシステムの実現を図る。
(個別重点政策)
6-1 各分野資源保有率・保有年数等現状調査及び中長期方針構築
1)産業分野別・製品別自給率及び対外依存率調査・評価 (~2030年)
2)国内産業再編方針及び新規事業開発構想立案 (~2030年)
3)国内自給自足化戦略及び長期取り組み計画立案 (~2030年) 、進捗評価管理 (2031年~)
4)グローバル・サプライチェーン長期方針・計画策定 (~2030年) 、進捗・評価管理 (2031年~)
6-2 半導体国内自給自足体制構築
1)国内・海外需要調査及び供給体制研究、長期予測とりまとめ (~2025年) ※定期的にメンテナンス
2)国内産業・企業との長期方針・長期計画策定、調整・支援計画(~2025年) ※定期的にメンテナンス
3)長期自給自足体制移行計画策定(~2025年) ※定期的にメンテナンス
4)グローバル・サプライチェーン長期方針・計画策定(~2025年) ※定期的にメンテナンス
6-3 レアメタル等希少資源の代替資源・技術開発
1)必須レアメタル等希少資源のグローバル調査及び将来予測 (~2025年)
2)国内調達可能必須レアメタル保有度評価と代替化可能性調査・評価、対策立案 (~2030年)
3)代替可能品開発支援計画及び予算策定(~2030年)
4)グローバル・サプライチェーン長期方針・計画策定(~2030年)

6-2 半導体国内自給自足体制構築
1)国内・海外需要調査及び供給体制研究、長期予測とりまとめ (~2025年) ※定期的にメンテナンス
2)国内産業・企業との長期方針・長期計画策定、調整・支援計画(~2025年) ※定期的にメンテナンス
3)長期自給自足体制移行計画策定(~2025年) ※定期的にメンテナンス
4)グローバル・サプライチェーン長期方針・計画策定(~2025年) ※定期的にメンテナンス


 なお、今後も最新情報を交えながら、当政策のあり方について、継続して検討を重ねていく予定です。
 もちろん、当[国土・資源政策] の他の政策課題についても適宜、投稿してまいります。

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