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増加・拡大する「新しい生活困難層」:宮本太郎氏『貧困・介護・育児の政治』からー2

 宮本太郎氏著『貧困・介護・育児の政治 ベーシックアセットの福祉国家へ』(2021/4/9刊) を参考に、社会保障政策視点からは、当サイトで、ベーシックインカムの観点からは、 http://basicpension.jp でシリーズ化して投稿を始めています。

 ベーシックペンションサイトでは、これまで以下の2回を。
ベーシックアセット提案の宮本太郎氏のベーシックインカム論-1(2021/8/20)
ベーシックアセットとは?:ベーシックアセット提案の宮本太郎氏のベーシックインカム論-2(2021/9/4)

 当サイトの初回として以下を。
福祉資本主義の3つの政治的対立概念を考える:宮本太郎氏『貧困・介護・育児の政治』序論から(2021/9/2)

 今回から同書本章に入り、まず<第1章 「新しい生活困難層」と福祉政治>を取り上げます。

第1章 <「新しい生活困難層」と福祉政治>から

自助の神話と平成元年1989年福祉政治変容の起点の年


 冒頭、前安倍内閣・菅内閣と自公政権のキーワードの一つであったかのような「自助」。
 新自由主義概念のスローガンの一つでもあるかのような用語ですが、その基本的な考え方は、高度成長期を含め、日本に神話的にあったように、1989年に広がった「一杯のかけそば」の話を例に示されます。
 そして、高度成長期であっても、旧来の社会保障の仕組みでは自助が困難であり、現状のように雇用の劣化が進む中、自助の神話が成り立たなくなっているのでは、という疑問に応えます。
 2019年実施の国際社会調査プログラム(ISSP)による意識調査の中で「人が貧困に陥るのは、努力がたりないから」という意見に対しての回答が「そう思う」「どちらかといえばそう思う」が22%を占め、「どちらともいえない」は46%にも及び、自助の神話は消えてはいない、と。

 1989年は平成元年。
 本書の主題である福祉政治が新たな展開に入った、起点の年と宮本氏は位置付けています。
 この年、パートの求人倍率が1985年の1.53倍に対し、3.75倍に。
 社会保障に充当する名目での3%消費税の導入、合計特殊出生率1.57ショックも。
 これらが、貧困・介護・育児の政治の新たな展開の端緒になっているとしています。



 

旧来型日本型生活保障の三重構造とそのリスクの顕在化


 1989年以前の旧来の日本型生活保障の特徴を、男性稼ぎ主の雇用保障で家族扶養を支える仕組みであり、それは、行政・会社・家族の三層がつながった「三重構造」で形成されていたとします。
 分解すると、まず行政と企業における男性稼ぎ主の雇用のつながりがあり、その男性稼ぎ主の雇用が家族扶養につながるというシンプルな仕組みです。

 賃金として家族手当の支給、賃金給与のおける配偶者控除・扶養控除などの所得控除など、現存する制度にもその仕組みは残っています。
 ただ、決してそれだけで社会保障が機能するはずはなく、1961年には実現していた国民皆保険・皆年金制度の意義の重要さは確認しておく必要があります。

 ところで、財政的に税金が投入されたことがこの三重構造を形成維持する上で大きく影響したことが、ここでの最大の特徴であったことを確認しておく必要があります。
 一方、そのことで、生活保護を受けざるを得ない人びとを含む、賃金所得がない、もしくは低所得の貧困層への生活保障への給付が抑制される矛盾が形成され、今日に至っていることも理解できます。

 因みに、2019年度当初予算ベースにおける社会保障給付の総額は123兆7千億円。
 その財源のうち資産収入等を除いた120兆3千億円の内訳は、国と地方による税負担が48兆8千億円、社会保険料71兆5千億円で、約40%が税であり、約60%が保険料。
 しかし、給付の方は、80%以上が年金・介護・医療などの社会保険給付で、社会保険加入者への税投入傾向が高いことを示しています。

 こうした三重構造で一応機能していた日本の社会保障・生活保障制度は、この後の社会構造・経済構造の変化と共に綻び、矛盾を呈し、新しい生活困難層を発生させ、増加・拡大していくことになります。

新しい生活困難層の拡大

 この後に続く社会構造・経済構造の特徴とは、非正規雇用者と低所得層の増加、少子高齢化の急速な進展による世代間負担・受益の不公平性の拡大、継続するデフレ経済による賃金抑制、消費増税等による可処分所得の減少、所得低下に伴う共働き世帯の増加と育児・介護と仕事と両立対応の困難化など、上げればきりがないくらいです。
 こうしたことから、「新しい生活困難層」が自ずと増えてきているわけですが、宮本氏は、その特徴を以下の3点で示します。

1)直面する多様な複合的困難
2)多くの現役世代の、働く困難層化あるいはワーキングプア化
3)現役世代、高齢世代にわたる世代横断性


 先述したきりがないくらい挙げることが可能な要素・要因を簡潔にした内容と言えるかと思います。
 この後、筆者は、こうした日本の生活保障の在り方と欧米各国のそれとの違いを、1942年のベヴァリッジ報告を元にして展開していますが、そのことの重要性は、私には見いだせないので、ここでは省略します。
 その違いを確認したところで、現状の諸課題を解決する方策の参考例としてそのまま適用できるはずもないでしょうし、打つべき手立て・方策は、自ずと分かっているはずと考えるからです。

貧困・介護・育児政治に関する政治的対立構図


 この後、本章第1章の残りは、新しい生活困難層のいずれかを特定して論じることはなく、福祉政治と包括して、貧困・介護・育児政治の政治的対立軸を比較対照しつつ、それらの社会的リスクの存在やその背景などについて記述しています。
 それらは、以下の本書の構成にあるように、順次課題対象となっていますから、次回の第2章以降の記事に委ねるべく、ここでは省略します。

(参考):本書 『貧困・介護・育児の政治』の構成

第1章 「新しい生活困難層」と福祉政治
 1.転換点となった年
 2.日本型生活保障の構造
 3.何が起きているのか?
 4.政治的対立の構図
 5.貧困、介護、育児の政治をどう説明するのか
 6.三つの政治の相関
第2章 貧困政治 なぜ制度は対応できないか
 1.生活保障の揺らぎと分断の構図
 2.貧困政治の対立軸
 3.日本の貧困政治と対立軸の形成
 4.「社会保障・税一体改革」と貧困政治
第3章 介護政治 その達成と新たな試練
 1.介護保険制度という刷新
 2.分権多元型・市場志向型・家族主義型
 3.制度の現状をどう評価するか
 4.介護保険の形成をめぐる政治
 5.介護保険の実施をめぐる政治
第4章 育児政治 待機児童対策を超えて
 1.家族問題の三領域
 2.家族政策の類型
 3.児童手当をめぐる政治
 4.保育サービスをめぐる政治
第5章 ベーシックアセットの保障へ
 1.福祉政治のパターン
 2.社会民主主義の変貌とその行方
 3.ベーシックアセットという構想


 なお、本書の課題とされている貧困・介護・育児政治問題は、当サイトで既に提起している、2050年に向けての以下のわが国の<社会政策>提案・提言の各命題と一致しています。
 従い、次回の第2章以降の記事が、そうした着眼点と重ね合わせて、考察する意味を持っています。

(参考)当サイト提案:社会政策 長期ビジョン及び短中長期重点戦略課題

1.社会保障・社会福祉制度改革
1-1 社会保障制度体系改革
1)ベーシック・ペンション導入に伴う社会保障制度・福祉制度体系の再構築
2)社会保障制度改革:健康保険・介護保険制度統合、国民年金制度廃止・厚生年金制度改定、児童福祉・障害者福祉制度改正、生活保護制度対策他
3)労働政策・労働保険関連制度改革:労働基準法解雇規制改正、雇用保険法改正、非正規雇用転換制改正、最低賃金法改正、労災保険改正等
4)社会保険制度改革、世代間負担公平性対策、関連所得税改正、その他社会保障制度体系再構築に伴う関連法律の改定
1-2 ベーシックインカム導入及び関連各種制度・システム包括的改定
1)日本独自のベーシックインカム、専用デジタル通貨JBPCによるベーシック・ペンション生涯基礎年金制度導入
2)ベーシック・ペンション導入に伴う関連諸制度・法律の改正・改革
3)ベーシック・ペンション確立までのベーシックインカム段階的導入
4)ベーシック・ペンション導入のための日本銀行改正、JBPC発行・管理システムの開発・運用化
1-3 社会保障・社会福祉行政改革(公的サービス事業公営化促進、公務員化)
1)ベーシック・ペンション導入、社会保障制度体系改革に伴う行政官庁再編、組織・業務改革
2)国・公営サービス事業再編:利益追求型社会サービス事業の一部国公営事業転換、社会福祉法人等の再編
3)社会保障・福祉資格制度の拡充、キャリアプログラム開発
4)社会保障・福祉関連職公務員制度改革

2.保育政策・子育て支援政策、少子化対策・こども貧困対策
2-1 少子化対策、人口減少社会対策

1)経済的支援ベーシック・ペンション導入による婚姻率・出生率向上(児童手当制度廃止拡充転換を伴う)
2)保育制度・保育行政改革、子育て支援システム拡充による総合的少子化政策推進
3)地域別(都道府県別)少子化対策取り組み策定と国による支援
4)長期人口減少社会計画策定(国家及び地方自治体)と取り組み・進捗評価管理(人口構成、外国人構成等)
2-2 保育制度・保育行政
1)5歳児・4歳児保育の義務化
2)保育施設再編及び同行政組織再編
3)学童保育システム確立、待機児童問題解消
4)保育士職の待遇、労働環境・条件など改善
2-3 子育て支援システム
1)地域包括子育て支援センター組織・業務機能拡充
2)子どもの貧困解消総合政策(ベーシック・ペンション児童基礎年金導入他)
3)孤育、ひとり親世帯、孤立世帯支援行政システム・体制整備拡充
4)関連NGO等民間地域ネットワーク拡充支援

3.教育制度改革
3-1 義務教育改革
1)5歳児・4歳児義務保育制導入
2)教育格差改善・解消対策、学童保育問題、いじめ・自死対策
3)新教育基本法改正、教科・教育方法改訂
4)教員支援改革
3-2 高等学校教育改革
1)高等教育改革(高校専門教育課程・専門高校多様化拡充)
2)起業・経営専門スキル、IT、AIスキル教育課程拡充
3)学生交流・交換留学等教育国際化推進
4)ベーシック・ペンション学生等基礎年金、特別供与奨学金制度による経済的支援
3-3 大学・大学院教育改革、留学・社会人教育、生涯教育基盤拡充
1)大学・大学院教育改革、大学・大学院組織改革、研究者支援システム改革
2)(無償供与)特別奨学金制度
3)留学制度拡充支援、グローバル大学育成
4)社会人キャリア開発、高度専門スキル開発教育支援、生涯学習基盤整備拡充

4.ジェンダー問題政策
4-1 ジェンダーギャップ改善政策 
1)総合的ジェンダー政策策定
2)ジェンダー多様性個別政策(LGBTQ、関連分野別)
3)公的個別課題目標値設定及び達成計画立案 、進捗・評価管理
4)民間個別課題目標値設定及び達成計画立案 、進捗・評価管理
4-2 男女雇用・労働格差対策
1)育児・介護支援制度、同休業制度拡充等労働政策改善・拡充
2)男女雇用・賃金処遇差別対策(採用、非正規雇用、正規雇用転換、同一労働同一賃金等)
3)労働基本法関連格差是正対策
4)職場ハラスメント等企業行動規範問題等対策
4-3 家族・夫婦間ジェンダーギャップ社会問題政策
1)夫婦別姓問題、同性婚問題対策・改善
2)共同親権問題、養育義務不履行問題、DV問題対策・改善
3)家庭内性別役割分業問題改善
4)その他ジェンダー問題改善(性行動、性転換他)

5.高齢化社会政策・介護政策
5-1 高齢者年金制度
1)ベーシック・ペンション導入に伴う高齢者年金制度改革:国民年金制度廃止、生活基礎年金支給、厚生年金制度改正
2)厚生年金保険制度の賦課方式から積立方式への転換
3)全給与所得者の厚生年金保険加入制度化
4)遺族年金制度改定
5-2 健康保険制度・介護保険制度改革、介護行政改革
1)後期高齢者医療保険・介護保険制度統合による高齢者医療介護制度改革
2)介護保険制度改正
3)老人施設事業運営改革
4)全給与職者の健康保険加入制へ
5-3 高齢者生活、高齢者就労支援政策
1)地域包括高齢者支援センター拡充(高齢者夫婦世帯支援、単身高齢者世帯支援、高齢者施設等入所支援)
2)高齢者生涯設計支援制度拡充(公的後見人制度、相続問題支援等)
3)健康寿命、認知症対策等支援
4)高齢者就労支援システム拡充

6.各種社会問題克服政策
6-1 貧困・格差対策
1)総合貧困・格差問題対策調査・策定(ベーシック・ペンションを基盤として追加必要政策検討)
2)個別貧困・格差問題取り組み方針・計画立案、進捗・評価管理( 同上 )
3)個別貧困・格差指標及び目標値設定、進捗・評価管理
4)生活保護制度政策、障害者福祉・児童福祉制度政策 (ベーシック・ペンションを基盤として検討)
6-2 いじめ、ハラスメント、孤立問題、自殺問題対策
1)いじめ他各種ハラスメント撲滅対策
2)孤立・引きこもり、孤独社会対策(自殺問題含む)
3)誹謗中傷対策、フェイク情報問題
4)各種人権問題
6-3 刑事・民事犯罪抑止対策
1)特殊詐欺対策
2)サイバー、インターネット犯罪対策
3)個人情報対策
4)緊急時・非常時権利制限政策、凶悪犯罪対策

新しい生活困難層、旧来からの生活困難層、どちらにも有効な対策としてのベーシック・ペンション


 また、「新しい生活困難層」の発生・拡大・増加への社会保障対策の基軸として、当サイトは、日本型ベーシックインカム、ベーシック・ペンション生活基礎年金の導入を、関連サイト http://basicpension.jp と共に提案しています。
 宮本氏が指摘している先述の 1)多様な複合的困難 2)多くの現役世代の、働く困難層化あるいはワーキングプア化 3)現役世代、高齢世代にわたる世代横断性 を特徴とする生活困難層。
 そのセーフティ・ネットとして機能するベーシック・ペンション生活基礎年金制度の導入の背景と目的として、その法律案の前文に以下の事項を挙げています。
 その多くの項目が、新しい、そして古くからもある生活困難層としての共通性を持つことと、その対策としてベーシック・ペンションが有効であることの一端をご理解いただけるのではと思います。
 そうした観点から確認いただける、投稿済み記事リンクのリストも挙げています。

(参考): ベーシック・ペンション生活基礎年金制度の背景と目的(同法前文より)

1)憲法に規定する基本的人権及び生存権等の実現
2)生活保護の運用と実態
3)少子化社会の要因としての結婚・出産・育児等における経済的不安
4)子どもの貧困と幸福度を巡る評価と課題
5)母子世帯・父子世帯の困窮支援の必要性
6)非正規労働者の増加と雇用及び経済的不安の拡大及び格差拡大
7)保育職・介護職等社会保障分野の労働条件等を要因とする慢性的人材不足
8)共働き夫婦世帯の増加と仕事と育児・介護等両立のための生活基盤への不安
9)国民年金受給高齢者の生活基盤の不安・脆弱性及び世代間年金制度問題
10)高齢単身世帯、高齢夫婦世帯、中高齢家族世帯の増加と生活基盤への不安
11)コロナウイルス禍による就労・所得機会の減少・喪失による生活基盤の脆弱化
12)自然災害被災リスクと生活基盤の脆弱化・喪失対策
13)日常における不測・不慮の事故、ケガ、失業等による就労不能、所得減少・喪失リスク
14)IT社会・AI社会進展による雇用・職業職種構造の変化と所得格差拡大と脱労働社会への対応
15)能力・適性・希望に応じた多様な生き方選択による就労・事業機会、自己実現・社会貢献機会創出と付加価値創造
16)貧富の格差をもたらす雇用・結婚・教育格差等の抑制・解消のための社会保障制度改革、所得再分配政策再考
17)世代間負担の不公平対策と全世代型社会保障制度改革の必要性
18)コロナ禍で深刻さ・必要度を増した、安心安全な生活を送るための安全弁としての経済的社会保障制度
19)基本的人権に基づく全世代型・生涯型・全国民社会保障制度としての、生活基礎年金制(ベーシック・ペンション制)導入へ
20)副次的に経済政策として機能する、社会経済システムとしてのベーシック・ペンション
21)生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)導入に必要な種々の課題への取り組み

憲法の基本的人権に基づくベーシック・ペンション:BP法の意義・背景を法前文から読む-1(2021/6/12)
生活保護制度を超克するベーシック・ペンション:BP法の意義・背景を法前文から読む-2(2021/6/15)
少子化対策に必須のベーシック・ペンションと地方自治体の取り組み拡充:BP法の意義・背景を法前文から読む-3(2021/6/20)
子どもの貧困解消と幸福度の向上に寄与するベーシック・ペンション児童基礎年金:BP法の意義・背景を法前文から読む-4(2021/6/22)
母子・父子世帯の貧困と子育て家庭環境の改善をもたらすベーシック・ペンション:BP法の意義・背景を法前文から読む-5(2021/6/24)
非正規雇用者2千万人の不安・不安定を解消するベーシック・ペンション:BP法の意義・背景を法前文から読む-6 (2021/7/23)

(参考):ベーシック・ペンション基礎知識としてお奨め5記事

日本独自のベーシック・インカム、ベーシック・ペンションとは(2021/1/17)
諸説入り乱れるBI論の「財源の罠」から解き放つベーシック・ペンション:ベーシック・ペンション10のなぜ?-4、5(2021/1/23)
生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)前文(案)(2021/5/20)
生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)2021年第一次法案・試案(2021/3/2)
ベーシック・ペンションの年間給付額203兆1200億円:インフレリスク対策検討へ(2021/4/11)

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