
女性政治家になる上での困難・障壁とは:三浦まり氏著『さらば、男性政治』から考える-4
・三浦まり氏著『さらば、男性政治』(2023/1/20刊・岩波新書)
を題材にして、政治改革を女性主体政党の創設・拡大で成し遂げることができないかを考えるシリーズ【三浦まり氏著『さらば、男性政治』から考える】シリーズを進めている。
<序>:女性主体政党はジェンダー平等時代に逆行しているか:三浦まり氏著『さらば、男性政治』から考える(序)(2023/5/26)
<第1回>:「男性ばかりの政治」の実態と要因を確認する:三浦まり氏著『さらば、男性政治』から考える-1(2023/5/31)
<第2回>:ジェンダー不平等を固定化させる政治的風土と平等実現の条件:三浦まり氏著『さらば、男性政治』から考える-2(2023/8/5)
<第3回>:政治風土や選挙文化を変える手立てを具体化できるか:三浦まり氏著『さらば、男性政治』から考える-3(2023/8/7)
今回はシリーズ<第4回>で、<起承転結>の<承>の後編として、「第4章 女性に待ち受ける困難 ー 障壁を乗り越える」を取り上げる。

三浦まり氏著『さらば、男性政治』から考える-4
「第4章 女性に待ち受ける困難 ー 障壁を乗り越える」から
第4章を構成する項目は、以下のとおり。
第4章 女性に待ち受ける困難 ー 障壁を乗り越える ー
1)政治家になるための障壁
2)「応募してくださらない限りは選びようがない」
3)自ら手を挙げる男性、声をかけられる女性
4)自信の壁とインポスター症候群
5)資源のジェンダー格差 ー 家族・時間・人脈・資金
6)議員報酬と供託金
7)ステレオタイプとダブル・バインド
8)ステレオタイプは選挙に不利か?
9)女性性が資源になる時
10)女性という切り札
11)ステレオタイプの効用
12)コロナ禍は女性リーダーのイメージを変えるか?
13)優れたリーダーとジェンダー規範
前回同様、女性が政治の場から排除される種々の要因・背景を追究する流れとして、女性に待ち受ける困難を取り上げている。
上記各項目を、以下の6つの小テーマに区分して概要を整理したい。
1.女性が政治家になるための主たる「障壁」は性差、ジェンダーに起因
女性が政治家になる上での阻害要因トップ5として以下がある。
1)家族的責任
2)女性役割への期待
3)家族からの支援の欠如
4)自信のなさ
5)資金のなさ
初めの3項目は性差・ジェンダーに基づく心理的な要因であり、意外にも女性下院議員構成が低い(2022年1月、27.7%)米国においても同様の要因が調査結果として挙げられている。
そもそも日本の保守政党自民党の女性議員の少なさは、立候補する女性が少なく、それゆえに立候補者に選ばれることも少ない、選びようもない、という状況にあることを2021年衆議院選の際、同党幹部もしれっと述べている。
日本に限らず、男性の多くは自ら手を挙げ、女性は声を掛けられて立候補に至る比重が大きいわけだが、これもジェンダー規範の影響が複合的に作用しているためと。
2.女性政治家になる上で世界共通の「自信の壁」とインポスター症候群
女性自ら手を挙げない傾向の一因としてある、先述の項目の一つである「自信のなさ」「自信が持てない」こと。
それと通じる要素がある、仮に高い業績を上げても自信に結びつかず、逆に世間を欺いているという錯覚に陥る「インポスター(詐欺師)症候群」と呼ばれる心理状態も指摘されている。
自己評価が低いために、成功した女性を歓迎しない、あるいは制裁を与えたいと考えるミゾジニー(女性嫌悪)の論理も厳然としてあり、次章のテーマとされている。
3.議員報酬の低さ、供託金原資等資金のなさ
ここまでは主に心理的な側面からのジェンダー規範と政治参加の関係を見てきたが、もう一つ、活用可能な資源の性差も重要とし、家族からの支援のほか、時間・資金・情報・人脈という要素を挙げている。
立候補や政治活動に多額の資金・費用がかかり、社会における経済資源の格差が政治代表の格差に繋がる。
これをジェンダー視点でみれば男女賃金格差が大きい現状で、かつ資金源となる企業や団体との関係も薄い女性にとっては大きな障壁になっている。
特に、立候補に必要な供託金が(地方議員の例は省略するが)国政選挙区で300万円、比例区名簿掲載で一人600万円と相当の高額で、一定得票数に届かない場合、供託金は返還されず、選挙運動費用の公費負担も受けられない(受けられても使途は限定)など一目瞭然である。

4.ジェンダー・ステレオタイプと女性政治リーダー問題
立候補者や政治家は、有権者やメディアの評判を高めていく必要があり、とりわけメディアでのイメージは重要である。
しかし、典型的な政治リーダー像が男性らしさをもとに作られてることから、メディアがジェンダー・ステレオタイプに満ちていると男性よりも女性が不利な立場に立たされる。
これはメディアに限ったことではなく、一般論としてもいえることだろう。
いわゆる男らしさ、女らしさという括り方に、リーダー資質・適性という要素が加えられるわけだ。
女性リーダーには、女性らしさに加えて、男性的リーダーシップも求められるという「ダブル・バインド(二重の拘束)」も存在することになる。
しかしそうであればあったで、その反動・反作用も受けるリスクがあるわけで、「ジェンダー規範から逸脱した人に対して、社会はまだ寛容ではない」と筆者は語っている。
5.資源のジェンダー格差問題と資源としての女性性?
一人の政治家ではなく、「女性政治家」として扱われるとき、女性は男性と異なる存在であることが強調され、どちらかというと否定的な意味を持つことが多い。
しかし、女性性が政治家として資源に転化するときもあると。
それは「母親」であることというが、実際には女性政治家は男性政治家と比べて独身の割合が多く、既婚でも子どもがいないか少ない傾向が強いと。
なかなか現実は難しい。
逆に「女性カード」「ジェンダーカード」を強調することが利に働くか、不利に働くか、についても不明瞭さが残る。
一方女性政治家は「クリーン」という印象でのメリットもイメージできるが、ケア関連の政策の重要性が高まるとその存在意義・価値も高まる可能性が高い。
コロナ禍はその可能性をイメージ化できた格好の機会であったように筆者は述べてはいる。
しかし、ロシアのウクライナ侵攻と戦争の長期化などを考えると、欧米各国の女性政治リーダーの動向と同じレベルで日本の在り方をイメージできないことは現状いかんともしがたい気がする。

6.優れたリーダーとジェンダー規範
女性政治家が少ない要因を、前章では地元活動を象徴とする政治風土とそれと直結する選挙文化として取り上げ、本章では、政治家になるため、政治家であるために「障壁」となる、あるいは政治家であることを困難にする、「ジェンダー規範」という視点から、種々の調査や研究、実際の事件・事象などを用いて、多様に論じられた。
より詳しく引用紹介することが望ましいとは思ったが、概要をやや漫然と抽出するにとどまった。
前章を含め、ある意味微に入り細に入った論述なので、関心をお持ちの場合、ぜひ本書を入手して確認頂きたい。
本章の最後の項は「優れたリーダーとジェンダー規範」というテーマ。
政治家が何かしらのリーダーであることに疑問はないが、女性政治家に求めるリーダーシップとどういうものか、具体的に要件・条件を規定することが可能か、またその必要があるかどうかについては、疑問がある。
総理・首相としてのリーダーシップと、一国会議員として望ましいリーダーシップは異なるであろうし、ジェンダー規範がらみでそれを論じることも、果たして有効かどうか、疑問である。
コロナ禍やウクライナ・ロシア戦争が、女性政治家に求められるリーダーシップやジェンダー規範の確認や変容を促す可能性を述べつつ、筆者はこうまとめている。
「ステレオタイプに適合的な言動と、それと相反するような言動とが同時に現れ、ジェンダー秩序は攪乱されたり強化されたりしつつ、少しずつ変容している。女性リーダーが増え、女性性に沿った新しいリーダーシップを見せるようになれば、望ましいリーダー像も変化し、女性性がむしろ優位に働く状況が訪れるだろう。(略)その時には男性リーダーも男性性から解放され、もっと自由に共同体指向のリーダーシップを発揮することが可能になるだろう。」
「女性政治家に待ち受ける困難は、男性政治(およびその根源にある家父長制)によって生み出されており、男性政治を変革することによって取り除くことができるし、取り除かれなければならない。」

<第4章>から、まとめ
先述したようにさまざまな調査研究、事例紹介がここまで示されてきたが、上記の包括的・情緒的結論での締めくくりが、各章で繰り返されてきた。
そしてそれらのほとんどが、一元的に断定・断言できるものではなく、見方を変えれば、それも真なり、その反対の要素もあり、という側面をもつ。
従い、ジェンダー規範論もステレオタイプ論も、そしてリーダーシップ論も、究極的には、個人個人の違い・特性に至ることになるのではないか、と。
結論そのものが、それを前提・想定しての多様な政治家像を描くことになるだろうし、程度と速度の違いがあるにせよ、女性も男性もそうなっていくことを期待し、想定することになる。
ならば、現実的に日常を通じて、女性議員立候補者を増やしていく方法・方策を、従来の体制にこだわることなく議論検討し、行動していくための場や機会、組織を創造するしかあるまい。
ましてや、かっこ()付きで、いつまでも「家父長制」打破を条件にし続けるようでは、道のりが近づくことはないのではなかろうか。
女性に待ち受ける困難とその障壁を乗り越えるためには、実は、女性自身のあり方を変えることも必須であろうし、次回取り上げる「第5章 ミソジニーとどう闘うか」の方が優先すべき課題であるかもしれない。
その課題に焦点を当てることが、前回・今回の当シリーズの<起承転結>の<承>から転じての<転>の前編「第5章 ミソジニーとどう闘うか」、後編「第6章 なぜクオータが必要か」への取り組み・展開となる。

『さらば、男性政治』の構成と当シリーズの進め方
<第1回>:起①
第1章 男性ばかりの政治
1)女性はどこにいるのか?
2)権力の座に女性はいない
3)ジェンダーギャップ指数121位(2020年)の衝撃
4)女性の政治参画はどこまで進んだか? ー 世界の動向
5)停滞する日本
6)世界の保守政党と自民党
7)中断された「左からの伝染」
8)なぜ女性議員は衆議院よりも参議院に多いのか?
9)地方議会における地域格差
<第2回>:起②
第2章 20年の停滞がもたらしたもの ー ジェンダー平等後進国が作り出した生きづらさ -
1)ジェンダーとは
2)世銀「女性・ビジネス・法律」レポートに見る立法の停滞
3)「賃金」と「職場」における低いスコア
4)SIGI指数とは
5)女性差別撤廃委員会からの勧告
6)女性の地位と階層、教義的装争点
7)ジェンダー平等政策の進展度を比較する
8)なぜ選択的夫婦別姓とセクシャル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツは進まないのか?
9)男性稼ぎ主モデルからの脱却?
10)ジェンダー化された共稼ぎ型へ
11)進む子育て支援策とセカンド・シフト
12)深刻化する女性の貧困
13)日本人は何を選択してきたのか?
14)社会民主主義という選択肢の不在
<第3回>:承①
第3章 女性を排除する日本の政治風土と選挙文化
1)男性政治と地元活動
2)政治家はなぜ夏祭りに来るのか?
3)選挙と対面主義
4)世界で増える政治家の地元活動
5)地元活動とジェンダーの影響
6)#飲み会を断らない女
7)男性化された政治家モデル
8)地元が政治家に求めるもの
9)ガラスの下駄を履く男性
10)議場から追い出された赤ちゃん
11)政治は男性のもの? ー 変わる意識
12)女性の政治参加は低調?
13)隠れたカリキュラム
14)女性を排除する政治はなぜ続くか?
15)地域単位の政治からの脱却
<第4回>:承②
第4章 女性に待ち受ける困難 ー 障壁を乗り越える ー
1)政治家になるための障壁
2)「応募してくださらない限りは選びようがない」
3)自ら手を挙げる男性、声をかけられる女性
4)自信の壁とインポスター症候群
5)資源のジェンダー格差 ー 家族・時間・人脈・資金
6)議員報酬と供託金
7)ステレオタイプとダブル・バインド
8)ステレオタイプは選挙に不利か?
9)女性性が資源になる時
10)女性という切り札
11)ステレオタイプの効用
12)コロナ禍は女性リーダーのイメージを変えるか?
13)優れたリーダーとジェンダー規範
<第5回>:転①
第5章 ミソジニーとどう闘うか
1)女性政治家へのハラスメント
2)政治分野における女性への暴力
3)女性を排除する動機
4)なぜ性的な形態を取るのか?
5)ミソジニー ー 女性を罰する
6)「からかい」という暴力
7)オンラインハラスメント
8)票ハラ
9)ハラスメントを法的に規制するには
10)海外のセクシュアル・ハラスメントの法理
11)政治におけるハラスメントの特殊性
12)地方議会におけるいじめ
13)バックラッシュの波
14)ジェンダーという言葉が使える時代へ
15)家族への介入
16)男性問題
17)新しい男性性に向けて
18)好意的性差別態度と悪意的性差別態度
19)現代的性差別態度
<第6回>:転②
第6章 なぜクオータが必要か
1)世界に広がるクオータ
2)クオータの効果
3)クオータ反対論への反論
4)クオータか環境整備か
5)なぜ数にこだわるのか?
6)誰がクオータを支持するのか
7)候補者均等法の意義と課題
8)政党がすべきこと① ー 数値目標
9)政党がすべきこと② ー 候補者選定過程の改善・人材育成・ハラスメント防止
10)国の責務
11)地方議会の責務① ー ハラスメント対策
12)地方議会の責務② ー 環境整備と人材育成
13)積み残された課題① ー 数値目標の義務化
14)積み残された課題② ー 地方議会
15)根本的な見直しを
<第7回/第8回>:結①②
第7章 ジェンダー平等で多様性のある政治に向けて
1)女性議員が増えることのメリット?
2)男女で異なる政策への関心
3)女性議員の増加とジェンダー平等政策の進展
4)女性議員が切り拓いた政策
5)クリティカル・アクター
6)クリティカル・マス
7)女性議員の増加と民主主義の強化
8)女性リーダーは何を変えるか?
9)ロールモデルが存在する意義
10)生活者としての女性
11)「女であること」の意味
12)「生活政治」の転換と新自由主義の台頭
13)格差社会と生活
14)リーンイン・フェミニズム批判は日本の現状に妥当するか?
15)フェモナショナリズムの批判とは
16)左右イデオロギーとジェンダー
17)声を上げ始めた女性たち ー MeeToo時代の政治参加
18)当事者という政治主体
19)声を聴くのは誰か?
20)政党政治の刷新に向けて
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